Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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序節 ~世に不朽の剣在らず
Chapter-01


『お待たせしました。18番線に18時10分発、寝台特急「ゆうづる」1号、函館行が入線いたします。黄色い線の内側まで下がってお待ち下さい』

 夕刻の雑踏の音が、あたりに広がる中、響く放送の後に、頭端式ホームの櫛の先から、青い車体の列車が入ってくる。

「はぁ……」

 上野駅。地平ホームの様子を中二階から見下ろしながら、独特なデザインを持った白い服の少女 ──── 藤丸立香が、声を絡めたため息を()く。

 その視界の先では、何人かの、詩人、歌人に詠われながら、すでに過去のものになったはずの光景が、()()に繰り広げられている。

 それも、ありえないかたちで。

『13番線、寝台特急「カシオペア」まもなく発車となります。ご乗車になってお待ち下さい』

 同時に本線上に存在したことがないはずの、初代ブルートレイン20系と『カシオペア』のE26系が、間に24系をはさみ、並んで背中を向けてきている。

 立香は、そこまで造詣が深いわけではなかったが、2015年までに過去のものになったはずの光景が、ここでは現存している、ということは理解できた。

「おかーさん! はやく! はやく!」

 立香の視界の下側から、逸る様子の少女が姿を表し、地平ホームを走り、一定のところで立ち止まって、背後へ向かって声を上げる。

「解ったから。ほら、慌てていると転ぶわよ」

 続いて現れた、後ろ姿の女性が、少女を嗜めるように言う。

 ブルートレインの乗車に興奮しているのだろうか。 ──── だったら男児だろうと思うところだが、逆にそれが()()()()()()()()()()()()()()()()ことを、立香に感じさせてくる。

 一瞬、胸が締め付けられるように感じ、反射的に、右手で胸元を押さえた。

「やっぱり……駄目だ……」

 汎人類史において、存在し得ない光景。

 異聞帯。

 否、すでに空想樹は存在していない。ただ、 “観測者” を待っていた、異聞世界(レイヤー)

 だが、この世界が存在していては、汎人類史を取り戻すことはできない。

 消すしかない。今までの異聞帯と同じ様に。

 ────……駄目だった。

 この世界は、駄目だった。

 死やそれ以外の理不尽があまりに近い部屋というわけでもなければ、()()()明日をより良くしたいと考えることが、少なくとも全否定される世界でもない。

 だから、 ──── 駄目だった。

「この後どうするー? 食事でも行く?」

「どうですか、ちょっと一杯」

 背後で行き交う人々から聞こえてくる声は、自分が取り戻したかった物、そのもの。

「はぁ……」

 再度、短くも重くため息を吐きながら、視線を、地平ホームの方から、自分の足元へと移す。

「これから、どうしよう」

 小さなトランク状の物 ──── 霊基グラフのケースを見て、誰にともなく小さく呟く。

 脱走だけでも重大な裏切りだと理解していたが、それだけではなく、これの管理ができていないと組織として困窮するだろうと解っていて、どうしても置いていくことができずに、持ち出してきてしまっていた。

「あれっ?」

 人混みの中から、声が聞こえてくる。

 それはどこかで聞いたことがあるような ────

「えーっと……あ、そうだ! 立香!」

 自分の名前を呼ばれて、聞いたことがある声だと確信する。

 視線を上げて、声のする方を見る。

「こんなトコで、何やってんのさ」

 緊張感に欠けた表情で問いかけてくる、女性と見紛うかのような童顔の青年。

「アストルフォ……?」

 立香は、手に持っている霊基グラフのケースと、アストルフォの顔を交互に見る。

 彼女が戸惑っていると、アストルフォの肩を後ろから掴むようにして、

「ちょっとアストルフォ、何やってるのよ……」

 と、クセのある髪を長く伸ばした女性が困惑したような、少しだけ憤怒したかのような表情で、そう言いつつ、アストルフォのすぐ背後に立ち、視線を立香に向けてくる。

「──── っ」

 ──────── この異聞世界(レイヤー)に来て、何度目の、この、空虚な胸を鷲掴みにされる想いだろう。

 立香は、少しの間、呆然と立ち尽くして、(まる)く広げた眼で、女性を凝視し、そして、

「ちょっと? あなた!?」

 と、その様子を見て驚く女性の前で、嗚咽を漏らしながら、涙をボロボロと零し始めた。

「うぅぅ……うぅぅぅぅぅ……!!!!」

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 

 ──────── ここに至る経緯は、およそ66時間前に遡る。

「うん、いま判明したことはカルデアスの状態と、我々の地球は無事である、ということだけだ」

 南米から南極へ、カルデア基地へと向かうストーム・ボーダーの管制室で、トラオムで採取された “被検体:E” の解析情報を交えた話し合いは、ダ・ヴィンチ ──── ダ・ヴィンチちゃん、によってそう纏められた。

「すべては南極で明らかになる。 ……ネモ、南極まであとどのくらいだい?」

 ダ・ヴィンチは、目前に迫った “ゴール” に、口元で笑みながら、ネモ・キャプテンに問いかけるように言った。

「いいタイミングだ。当艦はこれより南極圏に入る。進行を妨害する要素は見られない。このままカルデア基地に向けて進行する」

 ネモがそこまで言った時だった。

 突然、管制室の窓から見える光景が、淡く灰色がかった白に包まれる。

「こ、これは!?」

 操縦席のジングル・アベル・ムニエルが、困惑した声を上げた。

「速度落とせ、艦首は無闇に振るな、推進器(スラスター)釣合! 前方に障害物の反応はない、惰性で前進」

 ストーム・ボーダーの推進器が停止するが、ネモが指示したとおり、惰性でそのまま前進を続ける。

 窓の外は、すぐに、先程までの晴天の空に戻ってきた。

「何だったんだ、今のは!」

 何事もなかったかのように空中を進むストーム・ボーダーの管制室で、真っ先に声を上げたのは、珍しいと言うべきか最近はそうでもないのか、ゴルドルフ・ムジーク新所長だった。

「現状を確認しろ! 何か、()()()()()ぞ!」

 攻撃や妨害といった類のもののようには感じられなかった。だが、確かに、晴天の中を進んでいるはずが、突然、霧のようものに包まれ、それを突っ切った。

「現在座標、想定の移動線上に存在します。異常なし」

 オペレーター達は、そう返してくる。

「ええ……そんなバカな……」

 一方、シオンが、困惑したような声を漏らした。

「何があったのか解ったのかね、シオン君」

 焦れた様子を見せながら、ゴルドルフが問いかける。

「はい、その……ここは異聞帯、です。私達は今、異聞帯の中にいます」

「え…………」

 シオンの答えに対して、誰かが小さく声を漏らした。

 それから、僅かな沈黙。

「ハッハッハ何を言っているのかね、観測された異聞帯はすべて切除されている。それにもう管理するクリプターもおらんだろう。 …………………………………………って思ってると大体事実なんですよねー! 知ってましたー!!」

 途中まで妙に余裕のある態度で笑い飛ばすように言っていたゴルドルフだったが、急に顔面を蒼白にして驚愕したような表情になり、白目まで剥きかけながら大きな声を出した。

「それに……これは間違いない、カルデア基地から電波が出されています」

「電波?」

 ダ・ヴィンチが聞き返す。

「それもこれは……通信ですね」

「そんなバカな」

 ダ・ヴィンチは、理不尽を感じたかのように眉を(ひそ)めつつ、呆れたかのような声を出した。

「何が問題なのかね」

 ゴルドルフが問いかける。

「どこと通信してるっていうんだい? 地球は白紙化されているし、クリプター達ももういない。電波で通信する相手なんて……」

 ダ・ヴィンチが、困惑気な表情で言う。

「通信の内容はわからないんですか?」

 立香が、そう訊ねた。

「内容までは……えぇっと……」

 シオンが、後頭部を掻く仕種をしながら、言う。

「周波数は15.75MHz。ただ、変調方式が……デジタル通信だとは思うんですが、既知のものではなくて……」

「暗号がわからない、ってこと?」

 立香が聞き返す。

「いえ、それより表層的な段階……変調、つまり電波で情報を送出するために、電波を加工するわけですが、その段階でどのような方法を使っているのかがわからない……ということです」

「立香ちゃんもAMとFM、って略語は聞いたことがあるだろう?」

 シオンが頭を抱えるようにして言い、ダ・ヴィンチがそれに続いた。

「午前と午後、ですか?」

「先輩、それはAMとPM、です」

 立香が素の表情で言うと、傍らにいたマシュ・キリエライトが、立香の傍らを軽く手で(はた)きながらツッコんだ。

振幅変調(Amplitude Modulation)周波数変調(Frequency Modulation)。まぁアナログ時代の代表的な変調方式、というか、アナログの変調方式は大きく分けてこの2つかその亜種に属している。と、アナログの場合は単純でわかりやすかったんだけど……」

ダ・ヴィンチは、そこまで説明すると、そこから眉を顰めた苦笑になって、続ける。

「デジタルだと一口に変調方式を言っても、色々なパターンがあるから、規格がわからないと本当に復調のしようがないんだよね」

「地球上で運用されている変調方式のパターンは、あらゆるものがトリスメギストスII(2)のデータベースに存在しているはずなんですが……そのどれとも一致しない。暗号の方ならともかく、変調方式すら特定できないなんて、まずないはずなんですが……」

 シオンが、腕組みをし、難しい表情をしながら、そう言った。

「このまま、カルデアに、いや……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、向かうのか?」

 立香の傍らに立っていたカドック・ゼムルプスが、訊ねる、というより、()()()()()

「…………」

「…………」

 シオンとダ・ヴィンチは、考え込んでしまう。

「僕はおすすめしないな……」

 ネモが言った。

「うむ。これまでの経験からすると、友好的な勢力の施設とは限らん。何らかの確証を得るまでは、迂闊に近づくべきではないという意見には賛成だ」

 ゴルドルフが、ネモの意見に同意する。

「そうですね、2・3時間くれますか? まずはこの世界がどういう性質のものか、それを調査しないと、どんな評価も担保できません」

「そうだな、まずは情報の取得と分析が必要だ」

 シオンがゴルドルフに向かってそう言うと、カドックがそれを支持した。

「うむ、私もそうすべきだと思っていた」

 ゴルドルフも、何故か妙に得意そうな表情で言い、

「その間、マスター達は待機。緊張を(ほぐ)しておくように」

「はい!」

 

 

「ここで異聞帯とはね」

 立香とマシュが、食堂で甘味をとっていると、同じく一服しに来たカドックが、自分で食べるドライケーキの盛り合わせを持って、そばまで来て、まずは呟くように言った。

「確かに、なんか高揚感と緊張感が高まっていたところへ、いきなりそれをへし折られた感じで……」

 立香は、苦笑しながら、そう答えた。

「それはそうだろうな……僕もそう言う気持ちではあるし」

 カドックは同意の言葉を出す。

「ですが、今回の異聞帯は、これまでと随分違いすぎませんか?」

 マシュが、少しだけ緊張したような表情で、言う。

「キリエライトの言いたいことは解るよ」

 カドックが言う。

「そもそも、異聞帯の外周は嵐の壁で仕切られているはずだ。だが、今回はそれらしいものが……あるにはあったが、とても障壁とは呼べないものだった」

「霧だか雲だかを通過しただけだからね……」

 立香も言う。

 これまでの異聞帯は、そこへの進入に際して、虚数潜航(ゼロセイル)や次元穿孔などで、空間、次元の断層を突破する必要があった。

 しかし、今回は “気づいたら進入していた”。

「本当に、まるで吸い込まれたみたい」

 その立香のつぶやきを聞いたカドックが、一瞬、ハッとしたように眉を上げた。

 

 

「観測結果と、それに基づくトリスメギストスIIの分析結果が出ました」

 2時間50分をいくらか過ぎた頃、電算室から管制室に戻ってきたシオンが、告げる。

「まず、端的に言ってしまえば、現在私達がいる南極圏は、異聞帯の “飛び地” だそうです」

「飛び地!?」

 立香とマシュとカドック、それにゴルドルフがやや大げさに、その言葉を鸚鵡返しにした。

「断定はできないけど……異聞帯の中枢部と、あるいは魔術的に繋がりの強い場所があって、その結果、飛び地が形成された、と説明できる」

 ダ・ヴィンチが、少し自信なさ気な表情で、そう説明した。

「それで、なら、異聞帯の中心……空想樹の場所はどこだというのかね?」

 ゴルドルフが、唖然とした様子を消しきれないまま、そう問いかける。

「それなんですが」

 やはり難しい顔をしたまま、シオンが言う。

「まず、結論を言います。空想樹があったとされる場所は、ここです」

 シオンが言うと、通信にも使われる立体画像ディスプレイが点灯し、そこに白い地球儀の立体映像が写し出される。

 その地球儀全体には、何かの流体の動きを表示していると思しき、赤い線が何本も流れている。

 そして、その線が集まり、渦を巻いている場所があった。

 その、渦の中心部に、マーカーだろう青い光が点灯している。

「これは……日本……!?」

 立香が呟くように言う。

「広島か、岡山のあたりでしょうか……」

 マシュもそれに続いた。

「いや、待て」

 カドックが、制止するような声を出した。

魔力(マナとオド)の流れをシミュレートして、その中心部を算出した、というのは解る。だけど、これじゃ異聞帯がある日本と南極以外にも、地表が存在しているみたいじゃないか」

 普通、異聞帯は、広かろうと地球全体から見れば限定的な面積にのみ存在していた。異聞帯の外から進入する場合同様、異聞帯の中から見ても、その境界線は嵐の壁となっていて、通常の方法ではその外側を知ることができなかった。

「それに、今の言い方……『空想樹があったとされる』って、まるで空想樹がすでにないみたいじゃないか」

「…………はい、その通り。トリスメギストスIIの想定状況は、『すでに空想樹は数十年単位の過去に消失している。世界はすでに異聞帯(ロストベルト)から異聞世界(レイヤー)に移行し、現在は安定化がゆっくりと進んでいる状態である』」

 カドックが問い質すと、シオンは、眉を下げた表情でそう、答えた

「待て」

 ゴルドルフが声を上げる。

「ブリテン異聞帯にも空想樹はすでに存在しなかった。あの異聞帯も異聞世界に遷移しつつはあったが、それでも、外世界との間には未だ、障壁が存在していたではないか!?」

「いや……そうか……」

 ゴルドルフの声に、カドックが反応する。

「空想樹による “繋ぎ留め” が外れて、異聞世界への遷移が進んだから、世界全体が存在している()()()()()()のか……」

「で、ですが、こういう現象が起こるのであれば、ブリテン異聞帯はより進んでいるはずでは……?」

 マシュが、戸惑った声を出す。

 ブリテン異聞帯、妖精國にあった空想樹は、その内の魔力を、大災厄から逃れるための力としてモルガンが使い果たし、2000年も前に枯れてしまっていた、はずだ。

「いや、ブリテン異聞帯から空想樹セイファートの “繋ぎ留め” が外れたのはつい最近なんだ」

「えっ?」

 カドックの説明に、立香とマシュが反応する。

「ベリルが、セイファートを経由してオリュンポスのマゼランを焼いただろう。あの時までは “繋がって” いたんだ」

「あっ」

 立香とマシュに、ゴルドルフまでもが、声を上げた。

「つまり、おそらくこの異聞世界(レイヤー)は、もっと古くに空想樹が切除されていながら、異聞世界として存在を続けてたってことか。でもカドック、君たちクリプターはそれを()ることはなかったのかい?」

 ダ・ヴィンチが、理解したように言いつつ、自身が抱いた疑問をカドックに問いかける。

「元々空想樹自体は7本しかないというわけじゃないんだ。空想樹の切除が10年以上のスパンで過去のものだとしたら、僕達には根を下ろしきることができなかった空想樹、と捉えられていたんじゃないかと……現状では推測でしかないけどな」

 カドックはそう答えてから、

「しかし、そうだとするとまずいぞ」

 と、険しい表情で続ける。

「すでに世界全体を構築できているほどの異聞世界(レイヤー)が、今地球上に存在していると、汎人類史が存在しない白紙の上に定着してしまう可能性が考えられる」

「…………つまり? 本当に、世界が ──── 汎人類史が、異聞世界の歴史で上書きされてしまう、と?」

 ゴルドルフが、顔面蒼白になりながら、信じられない、いや、それが事実であってほしくない、といった様子で、言う。

「…………その可能性は、低いとは言えないでしょうねぇ……」

 シオンが、難しい顔をしたまま、言った。

「どうやら、どうしても一度、日本に行かなければならないみたいだけど……」

 ダ・ヴィンチが言い、シオン、ゴルドルフが、視線を立香に向けた。

「はい! 行きましょう! 日本へ!!」

 立香は、力強くそう言った。

 ────────……このときは、何が待ち構えているかも知らずに。

 





具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
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