Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-10

 筑波高速度電気鉄道。

 東京・上野と茨城の筑波山の麓近くまでを結ぶ鉄道路線として計画され、事業体が設立された鉄道会社。 ──── とは言うものの、実際には国に鉄道敷設計画を認可させ、その免許を売却することを目的とした投機会社だった。

 運命が異なる、あるいは人類の想いが過熱しているこの世界においては ──── 既存の鉄道会社のK社とT社の牽制合戦に挟まれつつ、茨城側の出資者が予想外に集まってしまって工事着工、鉄道事業者として運行を始めざるを得なくなってしまい ──── その後、関東私鉄の再編期に、漁夫の利で西武鉄道が傘下に収め、 “東へ行く西武線” となった。

 ──── その、西武上野駅。

『4番線に停車中の電車は、16時30分発快速急行つくば行きです。まもなく扉開きます』

 肉声の放送が、コンコースまで響いてきている。

「はい、買ってきたよー」

 改札脇の柱のところにいた、和装袴姿のオルガマリー・アニムスフィアと、そのオルガマリーの服の背中を掴んで離さない立香のところに、券売機、ではなく窓口で指定席券と、立香の分の乗車券を買ってきたアストルフォが、いつもの空気読まない笑顔で戻ってきた。

 まず、オルガマリーの分のJTカードを渡し、

「はい。立香の分。紙の切符」

 と、アストルフォが立香に差し出す。

「ほら、服に掴まってていいから、自分のきっぷぐらい持って」

 右手でオルガマリーの服を掴み、左手に、途中の100均ならぬ2円均一の “二均館” で買った白タオルが握られていた。

 オルガマリーとアストルフォは、一度は喫茶店に入って立香を落ち着かせようとしたのだが、泣きながらしゃくり上げるばかりで要領を得ないままだった。

 2人は、 ──── この世界におけるオルガマリーの、日本の自宅に戻る途上の出来事だったので、17時を過ぎて電車が混み出す前にと、とりあえずオルガマリーになんかしらの縁があるのだろうという事で、立香を連れて移動を開始したところだった。

 自動改札を通る間も、立香は俯き、オルガマリーの服を掴んだままだった。オルガマリーは眉を寄せた苦笑いで改札を通るが、立香が改札機にきっぷを通すのに、一度立ち止まらされる。

『業務連絡、4番線作業終了、交代終わりましたら扉扱い願います』

 駅員の肉声で放送が入った後、その4番線の列車の扉が開く。

『お待たせしました、4番線に停車中の電車は、快速急行つくば行きです。9両編成での運転、うち、後ろ2両は指定席となります。指定席車御乗車の際には指定席券が必要となります』

 オルガマリー達は、コンコースからホームへエスカレーターで下りる途中に、その放送を聞く。

 パンタグラフ周りの物々しい、9両編成の交直流電車がホームに横たえている。うち7両はステンレス車体で3扉、最後尾の2両が、アルミ車体の白い2扉車になっていた。

 池袋線・新宿線のレッドアローほど乗車時間が長くないので、この形態になっている。もっとも、距離ではそれほど差がなかったりするが。

 向かい方の3番線には、守谷までの各駅停車として西武101系が停車している。

 最後尾の ──── 番号的には1号車に乗り込む。

「ほいっと」

 車内整備ですべてつくば方を向けられていた回転クロスシート座席の内、隣り合って確保してあった2席を、アストルフォが向きを変えて、もう1席と向かい合わせにした。

「アストルフォ、アンタそっち」

「えー」

 その向きを変えた窓側に腰掛けたアストルフォに、オルガマリーがそう言うと、アストルフォは不満げに声を上げて口を尖らせた。

「しょうがないでしょ、そもそもこの娘のためにわざわざ指定席とったんだから」

「そっか」

 アストルフォは苦笑しつつ、跳ねるように座席を移った。

 その後ろ向きにした座席に、窓際に立香を座らせ、その通路側にオルガマリー自身が腰掛けた。

 ホームで、発車メロディが鳴り始めた。

「ホントなら警察に任せた方がいいんでしょうけどね……」

 一端立香から視線を離し、オルガマリーは天井を見上げつつ、言う。

 すると、立香の身体がビクッ、と動いた。

「ああ、大丈夫大丈夫」

 その立香の向かいに座る形になったアストルフォが、軽く慌てたかのように、立香に対して手を振りながら言う。

『4番線、発車します。ドアが閉まります、ご注意ください。駆け込み乗車は危険ですのでおやめください。ドア閉めます……』

 扉が閉まる。一泊おいて、ブレーキ緩めの空気音に合わせたかのように、オルガマリーが、フーッ、とため息を()く。

「ああ、別に、この娘に恋とか愛とかそう言うわけじゃないから」

 そのため息を見て、今度はあからさまに狼狽えながら、アストルフォは弁明するかのように言った。

「しーっ、声が大きい」

 オルガマリーは、口の前に人差し指を立てる仕種をしつつ、咎める。

 何事かと言った様子で、周囲の注目を集めてしまっていた。

「ああ、すみません、お騒がせしました。大丈夫なので……」

 アストルフォがその人々に向かって言う。オルガマリーは目元を手で覆う。

 アストルフォが愛想笑いをしつつ、座席に座り直す。

『本日は西武筑波線ご利用いただきありがとうございます。この電車は快速急行のつくば行です。次は、日暮里、日暮里に停車いたします。日暮里を出ますと、北千住、流山、守谷、谷田部、終点つくばの順に停車してまいります……』

「マジで異世界人ってことでしょ、この娘……」

 VVVFインバータの励磁音を僅かに伴いつつ、滑り出すように走り出す車内で、オルガマリーは、一度立香の顔を見た後、軽く身を乗り出すようにしつつ、潜めた声で訊ねるように言う。

「う……証明しろって言われると難しいんだけど……」

「疑ってはないわよ」

 僅かに気まずそうな表情をしたアストルフォに、オルガマリーはまず短く返した。

「この娘が、私を “所長” って呼んだのも気になるし」

「そう言えば……」

 オルガマリーの言葉に、アストルフォは、言いつつ自分のこめかみを、手の手首の付け根あたりでコンコンと叩く仕種をするが、

「ごめん、そこまではわかんないや」

「所長は……」

 立香が、ポツリ、と声を漏らした。オルガマリーとアストルフォが、視線を立香の顔に向ける。

 ステンレス車ながら新401系・新501系・601系・701系・801系の発生品流用で界磁添加励磁制御の901・951系7両にVVVFインバータの11000系2両が続き、隅田川の鉄橋を渡っていく。

「所長は……カルデアの所長で……」

「まぁ、アンタが並行世界みたいなとこから来たってんなら、そういう可能性もあるんでしょうね」

 立香の言葉を聞いて、オルガマリーはそう言いながら、座席に深く座り直した。

 すると、それまでどこを見ているのか、ボケたようになっていた立香の視線が、急に焦点を合わせだしたかのようになる。

「カルデアが……カルデアを知っている……?」

「あるよ」

 立香が、まだうわ言のようなな口調ながらもそう言うと、アストルフォが答える。

「万国カルデア天文台。南極にある」

「……そう、だ……」

 アストルフォに言われて、立香の思考が少し、戻ってくる。

 南極に施設はあった。あれは、すでにこの世界に入ってから認識したものだ。電波を発信していると言っていた。つまり、世界のどこかと、この世界の他の組織と通信していた。

「カルデアは……あったんだ……」

 呟いて、立香はオルガマリーの顔を見る。

「残念ながら、私は所長じゃないけれど」

 オルガマリーは、そう言ってから、小さく苦笑した。

「この世界で、カルデアの所長をやってるのはマリー……オルガマリーの妹だよ」

 悪気なしに、アストルフォが言う。

「妹……さん……?」

 初耳、といった様子で、立香が、キョトン、とした表情のまま、言葉で訊き返す。

「そ。セレスタ・II(2)型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア」

「セレスタ……にがた? ??」

 アストルフォの言葉で聞いただけだが、なんだか、人名としては不適当なフレーズが入っているように、立香には感じられた。

「まぁ、…………その話をするんだったら、ウチに着いてからの方がいいわね」

「ウチ? 自宅!?」

 オルガマリーの言葉に、立香は軽く驚いて訊き返す。

「そうよー。元々は日本での別宅だったけど、うちのバカおy……お父様が失脚したものだから、身動き取れなくなって今じゃ本宅」

 自嘲に、親に対する嫌味をわずかに混ぜた苦笑を浮かべながら、オルガマリーは悪戯ッぽく言った。

「マリスビリー前所長が……失脚?」

「前所長?」

 立香が鸚鵡返しに訊き返すと、その言い方に対して、オルガマリーが更に鸚鵡返しにした。

「ま、まぁさっき言ったとおり、詳しいことは家に帰ってから教えてあげるから……」

「あ、はい」

 オルガマリーが言うと、立香は素直に返事をした。

「でも、立香が普通に戻ったみたいで、良かった」

 アストルフォが、笑いながら言う。

 電車は千葉県内北端の柏・田中駅を通過し、利根川の鉄橋を渡り始めた。

 

 

 都内、日の出桟橋。

「先輩、一体どこへ……」

 マシュが、不安そうな表情をしている一方で、

「これから我々は、立香君の捜索拠点として、一度ストーム・ボーダーに戻るが……────」

 わざわざやってきたのか、大和に対して、ゴルドルフが説明している。

「── これは、あなた方に対する敵対行為が目的ではない事を理解していただきたい」

 そのゴルドルフの表情も、いつにも増してというか、いつもとは異質にと言うべきか、とにかく深刻そうだった。

「その発言を信用しよう」

 大和も険しい顔で、初邂逅や内閣部局庁舎での階段の時と同じように、硬い男性的な口調で言う。

「──── が、それはそれが裏切られたときに、相応の措置を取るという意味だとも思ってもらいたい」

「それは……────」

「解った」

 ゴルドルフが難しい顔で言い澱みかけたが、その脇から、ダ・ヴィンチが答えた。

「どのみち今の我々には、あなた方に対抗する術がない。立香ちゃんがいないとなっては絶望的にね……だから、それはないと約束する」

 大和に対してそこまで言ってから、ダ・ヴィンチはゴルドルフの方を向く。

「そうだろう? 新所長」

「うむ……まぁ……そうだな……」

 ゴルドルフも、渋々とながらそれを認めた。

「キリエライトさん、これを」

「これは……」

 まだゴルドルフやダ・ヴィンチと大和が話している脇で、ゆうだちが、マシュに、薄いノートパソコンと、それに、ケーブルのつながった小さななにかを渡される。

 小さな何か、は、電話のダイヤルを少し小ぶりにしたものが付いている。中央の部分に、「+」と「-」のボタン、それに、緑と赤のボタンと、3行程度が表示できるディスプレイが付いている。

「もしかして、この世界の携帯電話?」

 カドックが、マシュが受け取ったそれを覗き込みながら、そう言った。

「ええ、私の昔のやつに回線ROM入れ直したものですが。ノートパソコンともども……」

 ゆうだちが言う。

「つまり、汎人類史の日本で言うところのガラケーってワケですね」

 同じように覗き込んでいたシオンが、メガネを直す仕種をわざとしながら、口元で笑いつつ言った。

「過剰サービスかと思いますが、立香さんを探すのには、WDNで調べ物ができる環境が必要でしょう?」

「ええ、あると大変助かりますが……」

 ゆうだちの言葉に、マシュは戸惑った声を出す。

「私達としても、立香さん個人が目覚めの悪い結末になることは望んでいませんから……」

「ありがとうございます。必ずお返しします」

 マシュはそう言って、パソコンと、データ通信ケーブルのつながった携帯電話を抱くようにした。

「お願いですから、ホスコン(Host Computer)攻撃なんかしないでくださいね。特にそっちの眼鏡のお嬢さん」

「…………」

 シオンが微妙な沈黙を返しているのを余所に、

「我々も、彼女の行方は追っている」

 と、大和が、ゴルドルフやダ・ヴィンチに告げている。

「ただ、我々が彼女を保護した場合、我々は()()()()()()()()()()()()()()()()()。その立場ははっきりと伝えておく」

「それは……」

 ダ・ヴィンチは、困惑しつつ眉を寄せた表情で言ってから、チラリ、とゴルドルフの方を見た。

「……解った。当方としては承服し難いが、そちらの方針に異を唱えられる立場でないことは理解している」

 ゴルドルフは、苦い顔でそう言った。

「それでは、申し訳ない、また船を借りる」

「それに感謝はしていただかなくて結構、元々こちらがあなた方を連れてきたのだから」

 ゴルドルフの謝意に、大和はニュートラルな態度でそう返す。

「行くよ、マシュ、みんな」

「あ、はい……」

 上陸時と同様に、六四式運貨船に乗り込む。焼玉エンジンにしては少し早めのトットットットッという音とともに、離岸した。

 

 

『つくば、つくば、終点です』

 つくば駅のホームに降りる。地上の高架ホームだった。所在地も汎人類史のつくば駅とは異なったが、立香にはそれは判断できなかった。

 西武鉄道式の駅名標には、『つくば』という現役名とともに『旧 葛城 かつらぎ』と書き添えられていた。

『筑波山口方面、関東鉄道筑波線直通岩瀬行、向かい側のホーム1番線から17時35分発となります』

 綺麗にはしているが、昭和様式丸出しの、ダークブルーの国鉄型気動車の2両編成が、カラカラとエンジンのアイドリング音を立てて停車している。此処から先は電化されていないようだった。

 駅構内は、 ──── そもそも高架になっていることからして、線路ごと建て直されたものなのだろう。綺麗で現代的だった。

 駅前に出ると、大きなバスロータリーが存在している。大半が関鉄バス、それに少数の西武バス、JRバスが混ざっていた。ディーゼルのバスだけではなく、ご丁寧にトロリーバスまである。さらに、路面電車まであった。

 そのトロリーバスの乗り場にむかって、アストルフォが歩き出そうとしたが、

「タクシーで行くわよ」

 と、立香に寄り添って歩いているオルガマリーに呼び止められて、振り返る。

 アストルフォは立香に一回視線を向けてから、

「うん、解った」

 と、答えて、タクシープールの方へ向かった。

「あの、バスでも大丈夫です、けど……」

 立香は、申し訳無さそうに言うが、オルガマリーは呆れたように返す。

「いいから、今は甘えてなさい。だいぶ消耗しているんでしょう?」

「…………はい」

 ── なるほど、 “この世界のオルガマリー所長” なんだ……

 記憶の中のオルガマリーと比べると、多少ではあるが、行動に余裕があるように感じる。

 ── でも。

 それを断言できるほど、立香はオルガマリーについて詳しくなかったが、それでも、

 ── 本質(どだい)は同じな感じがする。

 そう、感じた。

「3人だけど、いい? 桜まで」

 タクシーの待機列は、先頭が3列シートタクシーだったので、運転手が自動ドアを開けたところで、アストルフォは車内を覗き込み、問いかける。

「いいですよ」

「おっけ」

 運転手の答えると、アストルフォは歩いてくる2人を振り返ってから、車内に乗り込んだ。

 4代目 トヨタ スパシオ。2代目カローラスパシオの後継という体で、トヨタの関連会社になった他社が設計した、そのさらに後継である。どこが設計したのかは、ボンネットに収まっているのが1,600cc水平対向エンジンということでお察しである。

 3列シートと言っても3列目はオマケみたいなベンチシートなのだが、アストルフォはそのサードシートに1人で収まり、セカンドシートにオルガマリーと立香が収まる。運転手が自動扉を閉めた。

「桜一丁目までお願いします」

「了解」

 運転手はメーターを “賃走” に入れると、ギアを一速に入れて、出発させる。

 ロータリーの出口で、一度信号待ちになった。隣の路面電車の併用軌道に、レトロ感漂う連接車が停車する。

 道路の信号は赤のまま、黄色の矢印信号が点いて、電車は出ていく。

「…………」

 名古屋からやってきたお下がりの路面電車は、車体更新で据え付けたLED表示器に『土浦駅東口』と表示していた。

「出しますよ」

 道路の信号が青になる。運転手はわざわざ断ってから、発車させた。

 





西武筑波線 11000系+901・951系
https://x.com/kaonohito2/status/2004243323482153291

つくば市内を走る路面電車
https://x.com/kaonohito2/status/2004243985758670858

4代目 トヨタ スパシオ
https://x.com/kaonohito2/status/2004245720514331073

ダイヤル式携帯電話(汎人類史で言うところのガラケー)
https://x.com/kaonohito2/status/2004244453012505062

マシュが借りてたPC。「FM R 3200 “TOWNS CARD”」
https://x.com/kaonohito2/status/2004250435453063541

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
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