Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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【はじめに】
 書いてるやつも茨城県民です


Chapter-11

 この世界で、(かのじょ)が幸せになればいい。

 汎人類史(あんなせかい)なんて、なくなってしまっていい。

 

 

 昭和の時代に新興住宅街として拓かれた、重々しい瓦よりも所謂 “新建材” で建てられた家の集まる住宅街。

 その一角、周囲の平均的な戸建てよりは、建物も、庭も含めた敷地全体も、かなり大きいものの、建設様式的には特別に違和感があるわけでもない、和洋折衷様式の現代日本の住宅。

 その、シンプルだが広い引戸門の前に、スパシオタクシーが到着した。

「よいしょ……」

 立香が最初に、続いてオルガマリーが降りる。

「あら……?」

 タクシーのドアのすぐ横を車体の後ろの方に少し避けたところで立ち、門の内側を覗き込んで、オルガマリーは軽く声を出した。

 敷地内の、ガレージ前のスペースに、1台の、旧いコンパクトカーが駐車している。初代KA型 スバル ジャスティの5ドア。車体の横に “TWIN VISCO FULL TIME 4WD” と描かれている。

 タクシーから降りたアストルフォが、身体を解す仕種をしている。

「ねぇ」

「え、何」

 そのアストルフォに、オルガマリーが声をかけると、アストルフォは、一旦オルガマリーに視線を向けてから、その視線を家の敷地内に向けて、

「あれ、セレスタのクルマ?」

 と、やや大袈裟なリアクションをしながらそちらを凝視するようにして、そう言った。

「でも、出かけるときは……」

「ガレージの中に入ってたわよ、当然じゃない」

「だよねぇ」

 アストルフォの確認する言葉に、オルガマリーは即答する。アストルフォはカクン、と首を横に傾けた。

「えっと……」

 立香が、少し困ったように声を漏らす。

「ああ、ごめんなさい」

 オルガマリーは、はっと我に返ったかのように、立香にそう言う。

「とりあえず、家に入ってから……」

「えーと、鍵、鍵、と……」

 アストルフォが、ズボンのポケットの中を探る。

「あ、やっぱり帰ってきてるんじゃない?」

 そのアストルフォがふと気付いて言った。玄関灯が点いている。

 玄関ドアを解錠し、扉を開ける。

 玄関やそこから続く廊下は暗かったが、おそらくは居間だろう部屋につながる、スリガラス部分のある扉の向こうでは、照明が点いている。それに、明らかに人の生活の気配が感じられた。

「ほい」

 アストルフォがさっと玄関を上がって、玄関の照明を点けた。小さめのシャンデリアと言っていい照明だったが、電球色ではない白色のLED電球の光から、僅かなチグハグさを感じられた。

 ── うわぁ……

 靴を脱いで上がる、現代日本式の家屋。立香はしばらくぶりのその構造に妙な安堵感を感じつつ、

 ── 似合わない……

 と、そこに日本人離れしたオルガマリーとアストルフォがいる光景を見て、そんな事を思いながら、靴を脱ぎ始める。

「あ、お邪魔します」

 すでに玄関の戸をくぐってしまっていて、言い遅れたように感じながら、玄関を上がる時に、立香は改めて挨拶をした。

「いらっしゃい」

 一応、といった感じで、オルガマリーがそう言った。

 カチャッ

「やっと帰ってきた」

 照明が灯っていた部屋の扉が開き、その声とともに出てきたのは ────

「小さい……所長?」

 凝視しつつ、立香は思わず、そう言っていた。

「ああ」

 その、オルガマリーを幼くしつつ、髪の毛も短くした姿の少女(?)も、立香に気がつく。

「久しぶり」

「えっ?」

 少女の言葉に対して、立香だけではなく、オルガマリーとアストルフォも驚いた表情になる。

 それを見て、少女は慌てたような様子で、はっと自分の口を押さえた。それから、わたわたと手を動かした後、

「あ、いや、久しぶりにお客さんだなと思っただけ」

 と、言い訳じみた様子で、誤魔化すように言う。

「そうかも知れないけど……────」

 オルガマリーが、どこかキョトン、とした様子でそこまで言った後、

「──── って、アンタいつ帰ってきたのよ?」

 と、少女に問いかける。

「ウチに着いたのはお昼過ぎぐらい」

 少女はそう答える。

「改めまして。私はセレスタ・II型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア。以降よろしくお願いするわね。藤丸立香さん」

「え?」

 少女が自己紹介で言った言葉に、再び立香が目を(まる)くする。

「やっぱり知ってるんじゃないの!」

 オルガマリーがそう言って問いただす。

「対面はこれが初めてだけど、情報は来てるのよ。空中戦艦ストーム・ボーダーの乗組員で、現在脱走中」

「なんでそんな情報が……」

「だって、あの空中戦艦のこと、最初に政府に報告(チク)ったのあたしだもん」

「は?」

 オルガマリーの重ねての問、というか呟きに、あっけらかんとセレスタがそう答えると、立香とオルガマリー、それにアストルフォも、口を開いて唖然とする。

「南極で……カルデアの施設のすぐ近くまで来たわよね?」

「あ…………」

 その存在が確認できるところまでは接近していたのだ。逆にストーム・ボーダーの方が向こうに見つかっていてもおかしくはないのかも知れない。

「……はい。そうです」

 いろいろと、どこか咎められたように感じながら、立香はそう答えた。

「帰ってきたのもそれと関係があるわけ?」

「まぁ、そりゃいろいろと報告したり逆に報告受けたりしなきゃならないし」

 オルガマリーの問いに、セレスタはまずそう答える。

「脱走騒ぎはついさっき知ったところだけど」

「皆さん」

 3人が玄関に上がったところのまま話し込んでいると、セレスタの背後から、また別の端正な顔立ちの人物が現れて、声をかけてくる。

「玄関先で立ち話もなんですから、奥に入っていただいてはどうでしょうか?」

 その人物…………を見て、立香はまた、目を円くした。

「デオン?」

「え、立香さん?」

 相手、シュヴァリエ・デオンもまた、立香の姿を見て、驚いた表情をする。

「気になっていましたが……オルガマリーさんと一緒だったんですか」

 デオンの方は、そう言って、僅かに安心したかのように息を吐く。

「ま、待って待って」

 立香の方は、慌てて身を乗り出すようにしながら声を上げる。

「なんで? どうして2人がここにいるの? そしてなんで私のことを知ってるの? そもそも、なんでサーヴァントがホイホイ街中にいるの?」

「そう……まずその説明からしなきゃだよねー……」

 疑問で軽く混乱している立香の言葉に、アストルフォが苦笑しながら頬を掻く仕種をした。

「とりあえず部屋に入って。デオンはなにか飲み物でも」

「はい」

 セレスタが、戸口で腕組みをしながらそう言うと、デオンは一度、室内の奥に消えていった

「えっと」

 立香は、オルガマリーを振り返る。

「いいわよ、早く中に入って」

「お、お邪魔します」

 

「さてと」

 居間も明色系の壁紙が張られ、質は良いのだろうが、特段見た目に特別さを感じるわけでもない調度類が置かれている。小物類や雑誌類の入れられた棚、薄型テレビに、そのテレビ台に入っているビデオデッキ。

 その薄型テレビのサイズが50インチと大型のものだが、庶民的な贅沢の範囲を越えない気がする。

 立香は、勧められて、穏やかな薄緑色のファブリックのソファに腰掛ける。安心感と緊張感が、同時に湧き上がってきた。

「…………なんだか、普通、ですね」

 つい、そんな事を言ってしまう。

「普通?」

 オルガマリーが反射的に訊き返すと、立香は誤魔化すように苦笑しながら、言う。

「えっと、家が。広い家だな、とは思うけど、雰囲気が……ヨーロッパの魔術師の家系だから、もっとこう、そう言う洋館とか、そんなところのイメージだったので」

 それを聞いて、オルガマリーとセレスタが顔を見合わせ、一拍おいて、2人揃ってわざとらしく大きなため息を()いた。

「ここはロンドンでもモスクワでもなければ赤坂や高輪でもないのよ。つくばよつくば。茨城県。見ようと思えばちょっと歩けば田んぼがあるような場所で、そんな建物建てたって浮いてしょうがないでしょうが」

「ま、まぁそうかも知れないけど……」

 逆に日本人の立場でそう言われて、立香は困ったように苦笑するしかできなくなってしまう。

 そこへ、トレイに飲み物のカップを載せたデオンが、手伝っていたアストルフォとともに、台所から居間に戻ってきた。

「お待たせしました」

 そう言って、各々の前にカップを差し出していく。

「あ」

 その間に、セレスタが思い出したようにオルガマリーを見た。

「お姉ちゃん、私がいない間、私のクルマ乗った?」

「乗ってないわよ」

 オルガマリーが、苦笑して返す。

 だが、それを聞いたセレスタは、逆に眉を吊り上げた。

「たまにエンジンかけて走らせてって言ってるじゃない! 旧車ってたまに動かさないと動かなくなっちゃうんだから。車格はコンパクトなんだし別に買い物とかに使ってもいいから。スーチャー着けてるったって油食う方でもないんだし。何ならガソリン代精算してもいいから」

「そう言われても、ぶつけたりしてアンタに怒られるのは嫌よ」

「元々修復歴あるし最悪廃車にしなきゃいいわよ」

「立香?」

 どこかぽかん、としたように、姉妹のやり取りを見ていた立香に、アストルフォが声をかける。

「あ、えっと……クルマ運転されるんですか?」

 その事が気になって会話を傍観していた立香は、セレスタに向かってそう質問する。

 ── ただ呆気にとられてたわけでもないんだ。

 アストルフォはそう気付いたが、彼にしては珍しく、声に出さずに胸中でつぶやいた。

「そりゃこの辺ないと不便だsh……」

 セレスタは苦笑しながら言いかけて、そこで止まる。

「……もしかして、『免許持ってんのかこのロリっ子』とか失礼なこと考えてないでしょうね?」

 急に睨んだような視線を立香に向けて、セレスタは、怒気をはらんだ口調で問い質すように言う。

「え、あ、えっと……そう言う悪し様に言うつもりはないんですが……」

「私これでも23だから。まぁドライバー歴が長いとは言えないけど」

 慌てる立香に対し、セレスタは怒気をはらんだままの低い声でそう言った。

「ま、恨むんなら自分の発展途上を恨んだら? この娘に怒りを向けてもしょうがないんじゃない」

「なんですって!?」

 オルガマリーが挑発するような口調で言い、セレスタが反射的に声を上げる。

 ── ああ、そういうことか……

 それを見ていて、立香は妙に納得を覚える。

 

『だってまだ褒められてない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!』

『誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!』

『だってまだ何もしていない!』

『生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに ─── !』

 

 立香の知っているオルガマリーの断末魔、それから推察できる家庭環境。

 それが少し違う、妹がいると言うだけで、その多くがパラメータとして変わってくる。この世界のオルガマリーがどこか穏やかで余裕があるように見えるのも、それのおかげなのだと。

「まぁ、まぁ2人とも」

 デオンが苦笑しながら、2人を宥めようとする。セレスタはなおも不満げな表情を(オルガマリー)に向けているが、オルガマリーは、それはどこ吹く風と言った様子でカップを持ち上げ、口に運ぼうとする。

「あら、ココア?」

 オルガマリーは、カップの中を見て、そう声を出す。

「うん、立香が落ち着けるようになるのに、そっちの方が良いかと思って」

 アストルフォが言った。

「お2人は、コーヒーか紅茶をお淹れした方が良かったですか?」

 デオンが、気が利かなかったか、という様子で、問いかける。

「いいわよ別に。ちょっと意外だと思っただけ」

 オルガマリーがそう言ってから、アストルフォとデオンも、それぞれオルガマリー、セレスタの隣に腰を下ろした。

「ええと、それで、何から説明したらいいのかしら……」

 困ったような表情で、セレスタが言う。

「じゃあ、あの、この世界のカルデアについて、聞かせてもらっていいですか?」

 立香が、自分からそう言った。

「えっと、そう言う事なら……コホン」

 セレスタが、わざとらしい咳払いをしてから、済ました表情で言う。

「地球人類とその文明の継続を確認するべく造られた、摩尼曼陀羅式天令観測疑似惑星カルデアス。これを用いて、近い将来、常時は100年後に設定されているけど、つまりそれを観測することで、人類文明に対する脅威の接近に備える。その観測施設が、万国カルデア天文台」

 セレスタは、胸に手を当てつつ、堂々とした様子で言ったが、

「まぁ、 “万国” とは付いてるし建前はそう言う事になってるけど、実際には日本が仕切ってるんだけどね。東京帝大魔研局に人員も予算も握られているし……」

「東京帝大魔研局」

 聞き慣れない、まぁこの世界の日本の機関の名前なんだろうなとは思いつつ、立香はそれを反芻した。

「ああそっか……ごめんセレスタ、まずそれを説明させて」

 アストルフォが言った。立香と、アニムスフィア姉妹の視線がそちらを向く。

「えっと……この世界では魔術って、国家が公に管理していて……特にその中枢とされているのが、東京帝国大学魔術研究局、ってトコなワケ」

「西洋魔術を日本式の管理方法で扱うから、嫌っている魔術師も多いけど……とにかく研究に注ぎ込むリソースが半端ないから逆らうに逆らえない。いや、逆らおうとすればできないわけでもないのだけど、モグリになるしかないし、そうなるとますます勝ち目がない」

 アストルフォが大雑把に説明し、オルガマリーがそれに続いた。

「日本が……」

「純粋に魔術の分野だけじゃない。宇宙開発も日本がトップ。イギリスはこの分野はからっきしだし、ソ連も本当のところでは子供の背伸びみたいなもの。人工都市衛星 “斑竹宮(はんちくぐう)” だって、日本の技術がなければ完成していないし、維持もできない。そして、宇宙での権利を握っているのは、魔術的にも大きな意味があるの」

 立香が小さく呟くと、オルガマリーがさらにそう言った。

「終身内閣総理大臣閣下には会ってるんでしょう?」

 セレスタが、口元で悪戯ッぽく笑いながら、立香に問いかける。

「あ、はい。……あ」

『なにせ、ヤマトと言えば、宇宙の14万光年彼方まで行って戦ってきた事もある、ということになるのだろうからな』

 セレスタに言われて、ゴルドルフの言葉を思い出した。

「そう言うこと。彼女には宇宙開発の()()()()()が刻まれている。それを応用できれば現段階の宇宙開発なんか造作もないってワケ」

 ── あれ、でも、私に対してそう言うってことは……?

「ただ、カルデアスの製作は、我がアニムスフィアの秘術なくして完成しなかった。それで、お父様、マリスビリー・アニムスフィアを東京帝大魔研局天文部に迎え入れた……まぁ、お父様の方から売り込んだ話なんだけど」

「でも、確か失脚したって……」

「え、もうそんな話したの?」

 立香が反射的に言葉に出すと、セレスタが軽く眉を顰めながら驚いたように訊き返す。

「はい、さっき、電車の中で」

 立香が答えると、セレスタとオルガマリーが視線を向けあって、一瞬、お互い睨んだような表情になってから、これまたほぼ同時に、ため息を吐く。

「そ、カルデアス計画でちょーっと黙って予算を目的外に使ったのがバレてね。放逐されたってわけ」

「笑って言う話じゃ、ないと思うんですけど……」

 しょーもない身内の恥だとばかりに笑い飛ばす雰囲気のアニムスフィア姉妹に対して、立香は強い緊張感を覚え、言う。

「それで、今マリスビリー前所長……あ、マリスビリーさんはどこに?」

「箱根で隠居してる」

 セレスタの答えに、立香はソファから飛び上がらんばかりのリアクションをしかけた。

 この世界でも、マリスビリーはカルデアスを使ってなにか、だいそれた事を企んでいるのか、と、戦慄しながら聞いた答えがこれでは、落差のあまりにズッコケもする。

「もう温泉でのんびり三昧」

「は、はぁ……」

 妙なやりにくさを一方的に感じつつ、立香はぎこちなく苦笑しながら、曖昧な声を出すしかできなかった。

「それでも」

 そこで、セレスタは、軽く立ち上がりつつ、胸を手に当てながら、誇らしげに言う。

「カルデアスはアニムスフィア以外の者には完成させられない。星の複製を造るということは、それに込める魂が必要だということ。その魂が私」

「えっ?」

 立香が驚いた声を出すが、それを受けて、セレスタは続ける。

「そう、私とカルデアスは()()()()。人が造りだした惑星(ほし)の心、それが私。セレスタ・II型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア ────」

 





※ちなみに、汎人類史において初代ジャスティにはフルタイム4WDはありませんでした。
(ツインビスコ4WDは3代目レックスが採用していたもの)

セレスタ(とオルガマリー)
https://x.com/kaonohito2/status/2005050190257119650

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
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