Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
──── ストーム・ボーダー、管制室。
「キリエライトが活動不可能?」
報告されて、ゴルドルフは、最初は驚いたと言うか、唖然とした表情をした。
「異常はどこにもない。にもかかわらず、サーヴァントとしての霊基を活動状態にすることができないんだ」
困惑しきった表情で、ダ・ヴィンチが言う。マシュ本人は、その隣で、愕然とした様子を伴いながら、俯いてしまっている。
「そうか……」
普段なら、取り乱しながら文句を出しそうなゴルドルフが、この時に限って、ただ、それ以上言う言葉がないという様子で、静かにそう言った。
「なに、今回に限ってそんな態度なんだ、ゴルドルフ新所長」
焦れた様子で、ダ・ヴィンチが声を上げる。
「…………そう言う自分こそ、理由に想像がつくから、そんなに焦っているんじゃないのかね?」
「それは……」
ダ・ヴィンチが言い澱むと、ゴルドルフが真剣な表情を2人に向ける。
「私は専門外だが、サーヴァントが活動不可能になる、ということは、一番単純に考えれば、マスターから魔力が送られてきていない、ということなんじゃないのかね?」
それを聞いて、マシュがはっと、顔を上げ、憔悴しきった表情になる。
「先輩に……先輩が何かあったって……」
恐慌状態になりつつ、声を上げかけたマシュだったが、
「そんなはずはありません、レイラインは、パス自体は通ってるんです!」
と、否定する。
「……そこまで解っているなら、残りの可能性は、ひとつしかないんじゃないのかね、技術顧問」
「それは……」
ゴルドルフに言われて、ダ・ヴィンチに狼狽の色が走る。
「まだ、仮説の域を出ない、し…………」
「!? なにか解っているんですか!? 教えて下さい!」
立香になにかあった、その可能性を示唆されたマシュは、ダ・ヴィンチの歯切れの悪い言葉に食って掛かるかのように声を上げる。
「キリエライト君」
重々しい声で、ゴルドルフが言う。
「これは、エキスパートではない私の、確証のない私見だと思って聞いてくれ」
「え……はい……」
マシュは、ゴルドルフの放つ、柔らかい緊張に呑まれ、小さく肯定の声だけを出す。
「私の仮説は、こうだ。『人類最後のマスターは、汎人類史奪還を断念した』」
「…………!!」
マシュは、まず目を見開いて絶句する。
「立香君が、つまり、我々の、汎人類史の人理から離れて、この世界に乗り直した。だから、 “藤丸立香をマスターとする
「絶対違います!」
マシュは、即座に否定の言葉を出した。
「先輩が、先輩が諦めるなんて、そんな事、そんな事絶対ありません! 絶対にです!!」
感情が昂りすぎて、涙をボロボロと
「先輩になにもないんだから、こっちになにか原因があるはずなんです!」
そう言って、ダ・ヴィンチの方を向く。
「そうでしょう? ダ・ヴィンチちゃん。早く、原因を特定しないと……」
「あ、ああ、うん、そうだね……」
ダ・ヴィンチは、歯切れ悪く言いながら、マシュに促されるまま、一緒に管制室から出ていこうと、ゴルドルフに対して踵を返す。
「…………キリエライトは大して変わらん境遇だし、これを言うのは酷だと解ってはいる」
やたらはっきりと響くゴルドルフの声に、2人の足が止まる。
「ただ、 ──── 以前からのスタッフには、彼女は英雄のような存在に見えているのかも知れないが、 ──── 僅かに悪意が入ることを認めつつ、より客観的に、彼女のこれまでの経過、立場を言わせてもらうなら」
マシュが振り返ると、ゴルドルフの鋭い視線が見えた。
「“戦わざるを得なかった少年兵” だ」
「……………………!!」
ゴルドルフの端的な指摘に、マシュは息を呑み、絶句する。
「ゴルドルフ君! それは!」
それまで力ない様子だったダ・ヴィンチが、跳ねるように身を起こすと、マシュを振りほどくかのような勢いで、ゴルドルフを振り返る。
「その表現はいくらなんでも言いすぎだ!」
「そうかも知れん、だがそうさせた張本人の1人が言うな!」
横暴さの発露ではない、ゴルドルフの一喝。
マシュも振り返る。
「今までの異聞帯だって、本心ではハイそうですかと消せていたわけじゃない。大義名分があって、ようやく自身を言い聞かせて、なんとか進んできた。だが ────」
そこまで言って、ゴルドルフは、視線でそれを示すかのように、管制室の窓から、不夜の都の輝きを見る。
「── この世界は、少なくともその大義名分が立つほどには劣ってはいない」
「でも、先輩が、それで、諦める、なんて……」
泣き声でしゃくりあげながら、マシュが言う。
だが、ゴルドルフは、普段の彼とは異なる、醒めた口調で言う。
「今までは諦めなかったんじゃない。諦めた後が保証されていなかった。帰る場所がここしかなかった。それだけだ」
茨城県つくば市。アニムスフィア邸。
敷地内の、ガレージの前の舗装部分に、セレスタのジャスティと、もう1台保有しているスズキ SX4が並べられている。
その、クルマが出されているガレージの中。整理されてはいるが、同時に雑然なともしている、多少物置の役割もしている、屋根付き複数台のガレージと考えれば、自然な光景だった。
今、出したクルマの排気ガスに含まれるベンゼン臭の他、潤滑油の匂いも漂っている。
「流石に工房をそのまま貸すのはね」
オルガマリーがそう言って苦笑している。
「一応、汎用性の高い召喚式のはずだけど、扱える?」
ガレージの床に、紙に描かれた召喚陣が広げられている。
「えっと」
立香はそれを見る。
一見は、汎人類史において使われているものと同じ ──── に、見える。
立香は普段、召喚に “円卓の盾” を召喚陣の代わりに使うカルデア式召喚術を使っている。本来の様式を使って召喚をしたことは、数えるほどしかなかった。
「多分、大丈夫だと思うんですけど……」
立香は、そう言って身を起こし、視線をオルガマリー達の方に向ける。
「これ」
オルガマリーが差し出したそれを、立香は受け取り、目を通す。
「この世界での召喚詠唱よ。ただ、カンペ読みながらってわけにはいかないから、違う部分を記憶して」
「はい」
視線をメモ書きの方に向けたまま、立香は返事をした。
「媒介は用意してないけど、狙った英霊を召喚することができるの?」
「それなら大丈夫」
オルガマリーが少し心配気になって、立香に声をかけるが、本人より前に、アストルフォが言った。
「立香が持ってきてるトランク、あの中には霊基グラフって言って、彼女が今まで召喚したことのあるサーヴァントの霊基情報を記録してるものなんだ」
「え、このトランクに収めるほどの数を!?」
オルガマリーは逆に、そのことに
「この世界の設備で直接これを使うことはできないけど、立香が呼び出したいと思うサーヴァントの媒介としては機能すると思うよ」
「それならいいけど……」
オルガマリーがそう言って、アストルフォと2人揃って、視線を立香の方に戻す。
「ただ、この世界では
「え」
アストルフォに言われて、立香は驚き、短い声とともに、彼を凝視する。
「ちょっと、早く説明しておきなさいよね」
「あははは、ごめんごめん」
オルガマリーにツッコまれ、アストルフォは、決まり悪そうにしつつも、あんまり悪びれてもいない様子で苦笑する。
「そっか、ずっと私服着てたから気付いてなかったんだ。今のボクはセイバー霊基、デオンはアサシン霊基なんだよね」
「……と、言うことは、基本的に適正のないクラスで呼び出してしまうって事はないわけね」
アストルフォが立香に説明すると、それを聞いたオルガマリーが納得したように言う。
「まぁ、それは滅多に無いと思う」
アストルフォは頭の後ろで手を組む姿勢になりながら、そう言った。
「じゃあ、出ていましょうか。変な干渉をしてしまうかも知れないし」
「ん、そだね」
そう言って、オルガマリーとアストルフォはガレージを出ていった。
「…………」
立香は、召喚陣の正面に、軽く脚を開いて立つ。
「
召喚陣が鈍く光りだす。ここからして違った。返って慣れている汎人類史の魔術師だったら戸惑っていたかも知れない。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の太閤
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、
── 誰を喚ぶ?
召喚術式そのものに気を取られ、僅かな興奮があって、術式の起動を始めてしまってから、その事に考えが及んだ。
──── 告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
幻想の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
── お母さん、みたいな人がいいかなぁ。
アニムスフィア姉妹とその従者2人との会話で、表面的にはだいぶ回復していたが、まだ、心には軋みが残っている。
甘やかしてくれる相手が欲しかった。
真っ先に浮かんだ
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者
── そう言えば、折田さん、大丈夫だったかな?
この期に及んで、場違いな思考が、不意にちらっと、頭をよぎった。
整然たる混沌より来たれ、灯籠の守り手よ ──── !
光が強くなり、召喚陣の中から溢れ出してくる。
視界を焼いた光が晴れてきたところに、その姿を確認した。
「サーヴァント、ランサー。この世界において、あなた一人を守る女王として召喚に応じたわ」
聞き覚えのある声。
「── て、あれ!?」
「う、うう……」
簡易召喚以外で ──── 言葉を交わせるかたちでは、久しぶりの相手。
「ブーディカぁ……」
「えっ、ちょ、ちょっと!? どうしちゃったの!? いきなり!?」
立香に用意された、和室。
「そっか、この世界を見て、ね……」
2人とも、敷かれた布団の上に座っている。立香は膝を抱えて、ブーディカは片側へ脚を崩して。
「だから、逃げ出しちゃった」
自分の膝に顔をうずめながら、立香は言う。
「ごめん。勝利の女王なんて喚び出すべきじゃなかったよね」
「そう、かな?」
立香の低調な言葉に、ブーディカは疑問形で返す。
「うん ──── 逃げてもいいと思うよ」
「え……」
立香は顔を上げ、視線をブーディカに向ける。
「私らしくなく感じる?」
「うん……少し」
明るく穏やかな笑顔をみせているブーディカの言葉に、立香は頷く。
「そっか、だからこそ、かな」
「え?」
ブーディカの笑顔が、少し苦いものになる。
「あたしは逃げなかった、勇敢、そう言われるのはいいよ。自負もある。でも、逆に逃げる事を忘れた、そうも言える。逃げることを忘れて、止まることを忘れて、ただ突進して、より大きなものを失った ──── あたしの生き様ってね、こう表現することもできるんだよ」
「…………」
ブーディカの言葉を聞いて、立香は、目を広げつつ、言葉を忘れたかのようにただ見つめる。
「マスターが……うん、もう、立香、って呼んでいいかな?」
「うん」
「立香にとって一番大事なのは、立香の明日でしょ? 他の誰でもない」
「そうだよ……でも、私は……」
その明日を捨てようとしている、立香は言外にそう言ったつもりだった。
「その、立香の明日って、元の世界を取り戻さないと来ないもの?」
「それ……は……」
今まで見ていた情景が、アングルを変えた途端、別な景色に見える。そんな感覚が、立香の思考に生まれた。
「この世界でも、明日は来るでしょ?」
「そうだ……けど……」
立香は、一瞬納得しかけるが、それを一度、振り払う。
「でも、私は、ここまで来るのに、他の異聞帯を、いくつも、消して」
「それは、その世界が、立香のいるべき理想と釣り合わなかったから」
「…………!」
再度ハッとして、立香はブーディカ顔に視線を向け直す。
「この世界は釣り合っちゃった」
「うん」
「それはもう、この世界に立香の守りたいものができた。そう言うことじゃないの?」
「……うん……」
「だから、判断できない。なら、逃げていい。立ち止まっていい……ううん、立ち止まらなきゃダメ。一度、自分の心の中の優先順位を整理しないと、良い結果にならない」
「うぅ……ブーディカ……」
立香は、膝を抱えていた腕をほどき、ブーディカにしなだれかかるように接近する。
「お願い……今だけは甘えさせて。また、きちんと、立ち上がる、から……」
倒れるように寄ってくる立香の頭を、ブーディカは自身の膝の上に誘導する。
「別に甘えたいなら、それぐらいはいつでも。私も母親だったんだし。それぐらいは」
照れたように苦笑しながら、ブーディカは、肩口ごと自分の脚に載った立香の頭を撫でる。
「ありがとう……疲れた……今日はとても……疲れたよ……」
「いいよ、あたしはずっとそばにいるから、大丈夫。今はお休み」
ブーディカの言葉が終わるより早く、立香は、力尽きるように眠りに誘われていた。
警告、警告。
定義 ガ 二重化 シテイマス。
存在 ガ 二重化 シテイマス。
情報衝突 ヲ 回避 シテクダサイ。
ライダーとランサーの誤記ではないです(汗
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Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
カドックとのカップリングは……
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アナスタシア以外考えられない
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譲っても立香♀まで
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既存の型月キャラなら、まぁ……
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別に型月キャラでもオリキャラでも
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逆にやるならいっそオリキャラの方が良い