Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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第1節 Restart
Chapter-01


 本体左側横のメカニカルスイッチを押し込み、電源を入れる。

『FMR 3200 シリーズ』

『メモリ サイズ=12288MB』

 画面中央にロゴが表示されつつ、その左下でメモリ計算が表示された後、OSの起動が ──── 休止状態、だったため、OSの復帰が始まる。富士通が『カードパソコン』と呼ぶ薄型ノートパソコンだが、補助記憶装置はハードディスクで、僅かなシーク音をたてる。OSのオープニング画面は出ず、そのままオペレート画面になる。

 WindowsやmacOSのようにログイン画面がある形態ではなく、オペレート画面の中央にログインボックスが出て、認証しないと他の入力を受け付けないという構成になっていた。

 予め伝えられていたユーザー名とパスワードを入力して、ログインを完了させる。

『ASAHI FM TOWNS system』

 画面の左端に並ぶ “ピクトボタン” のうち、 “My TOWNS” と表示されているものをマウスでクリックする。ウィンドウが表示された中から、 “GINZA ブラウザ” を起動させる。

 WDNのポータルサイトが表示される。

 WDNはサービサーが利用するホストコンピューター同士間で、統一されたプロトコルでデータ転送を可能とし、ホストコンピューターを利用しているクライアントがWDN上のどのホストコンピューターのサービスも使えるようにする、と、大雑把に説明するとこうなる。つまり、Aというホストコンピューターからネットワークサービスを利用しているクライアントから、Bというホストコンピューターが提供しているサービスを利用できる、というものだ。

 そしてそれが世界規模で拡がっている今日、厳に秘匿されたものでない限り、あらゆる情報が1台のクライアント、パソコンやMC(Micro Computer)フォンから検索・参照できる、と言って過言ではない時代だった。

 世界最大の情報テクノロジー企業、日本電気(NEC)傘下で運営されるポータルサイト “MANGROVE” の検索ボックスにカーソルを表示させ、入力する。

『カルデア』

 そう入力すると、入力予測候補がプルダウン表示される。

『万国カルデア天文台』

『カルデア やばい』

『カルデア 宇宙人』

『カルデア 所長 かわいい』

 ── この世界では、カルデアの存在を隠していない……

 そう思いつつ、明らかにノイズになりそうな予測候補を無視して、シンプルに『万国カルデア天文台』を選択する。

 その検索結果の最上位に、そのままその、()()()()()()()()()のWDNサイトが表示されたので、そのままリンクをクリックする。

 果たして、青と白を主体にした清涼感のあるデザインの、WDNサイトのトップページが表示された。

 それぞれの項目を閲覧する。疑似環境モデルを使って近未来の地球を観察していること、地球を害しうる小天体の接近など、破滅的な事象を()()している、と書かれている。

 これは別に虚偽ではない。汎人類史でも、未来を観測できるという点に限って言えば、あくまでカルデアスは地球のシミュレートモデルに過ぎないのだから、その内容に100%の保証はない。

 組織案内の項目を表示させる。

 ひときわ大きく、女性 ──── 少女、と言ってもいい見た目の人物の写真が表示された。

『所長 セレスタ・II(2)型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア』

 そう文字で案内されている人物を凝視する。

 クセがありつつもキメの細かい特徴的な髪を短くしていること、それに、特徴的なオッドアイを除けば、その姿は ────

「オルガマリー所長、そっくり」

 マシュ・キリエライトは、思わずそう呟いていた。

 

 ──── “体験機” であるFM TOWNSは、CPUロジックはPC-9800シリーズと共有 ──── NECに性能や出荷台数を推測されないように過半は請負製造企業のものを使っていたが ──── していながら、その性能を極限まで引き出した高い表現能力を持たされている。が、その為に、各世代のFM TOWNS標準の能力をノートパソコンサイズまでには小さく(し、なおかつ常識的な価格に)することが極端に困難なため、最高級クラスのものを除き、性能を一部オミットして厳密にはTOWNSの母体でもあるFM Rシリーズに分類し、愛称として “TOWNS NOTE” “TOWNS CARD” を名乗らせている。

 カードパソコン、は富士通が “ノートパソコンより更に軽量薄型” の機種として当初はFMRシリーズとして発売し、TOWNSが主役になった現在に続いていた。

 ゆうだちがマシュに貸したそれは、数世代遅れだったが、メモリが増設してあって、最新のゲームソフトやクリエイターツールを動かすのはきついが、Webサーフならぬ “WDN巡り” をするにはストレスがなかった。

 ──── マシュのサーヴァント霊基は、ついに有効なレベルにまで励起する事ができなかった。失意のマシュは、ゆうだちから借りたTOWNS CARDと、通信用の携帯電話を自室に持ち込み、半ば無気力でWDN巡りをしていた。

 自分でも、現状が逃避行動であることを理解はしていた。自分らしくないことも。

 ただ、単純な失意とも違う、初めての感情、体験で、参ってしまっていることは、マシュ自身も抽象的になんとなくではあるが、理解していた。

 一昨日からつい数時間前まで、オルテナウスの不具合、 …………実際にはオルテナウスと自分の不具合ではないのだが、それを解消しようと、仮眠をはさみつつも、実験や検査を続けていた。

 そして、それが(ことごと)く徒労に終わったことで、拒んでいた仮説が真なのだと思い知ってしまった。

 ── 先輩は、汎人類史を奪還することに挫折した。この世界でいいと、決めた。

 緊張の糸が、一気に緩んだのを感じた。

 同時に、悲しかった。

 ── そうだとしても、せめて、私は……

 脱力し、画面から顔を離し、椅子の背ズリにもたれかかる。

「先輩、私は……」

 声に出して呟いた、その直後。

 ちゃっちゃらっちゃーちゃっちゃらっちゃーちゃらー♪

「!?」

 USBのように1本にまとまっておらず、制御用のシリアルインターフェイスとEthernetに相当するMusubitalkインターフェイスの2本でパソコンに接続されている携帯電話が、突然、着信音を鳴らし始めた。

「わっ、えっと」

 不意打ちで慌てるあまり、マシュは携帯電話を手にすると、それ自体は直感的にわかる通話ボタンを押してしまっていた。

「えっと……」

 一瞬、周囲を見回してしまってから、携帯電話を耳に当てる。

「あの、もしもし」

『もしもし、こちら支那蕎麦の上海亭ですが、出前の天津丼とチャーハンを注文されたムカワさんの携帯電話でしょうか?』

 その若い女性の声自体はどこかで聞いた覚えがあるものの、明らかに間違い電話としか思えないような内容が届いてくる。

「いえ、あの、失礼ですが、間違い電話ではないでしょうか?」

『あれー、すみません、ちょっとまってくださいねー……ムカワアカリさん……と……』

 あんまりに想定外な事態に、マシュはこちら側から電話を切るのも忘れて、呆然としてしまう。

 すると、────

『マシュ、私』

「先輩!?」

 相手の声が代わり、マシュが、間違いようのないそれが聞こえてきた。

「どこにいるんですか!? どうしてるんですか?」

『えっと、先に、今、周りにみんなはいる?』

 息せき切ったマシュの問いかけに、立香は逆に問いを返した。

「いえ、今、ボーダーの私の部屋なので」

『そっか、うん……ごめん。まず、マシュに相談もなくこんな事になったこと、謝る』

「それは……そんなことより、先輩はどうしてるんですか? どうするんですか?」

『うん、謝らなきゃいけない本番はこれ……ごめん、私は、今のそこ(ノウム・カルデア)には戻れない』

「…………」

 マシュは、その言葉で理解して、小さくため息を吐いた。

「先輩、諦めたんですね?」

『うん。ごめん』

 マシュの端的な問いに、立香もただ肯定する。

『私には、この世界は消せない』

「私は、私は、先輩が諦めるなんて、思いたくなかった、信じたく、なかった」

『ごめん。私は、マシュが思うほど強くなかった』

「でも、先輩、私は……せめて、私には言ってほしかった、です」

『…………ごめん、それも私の弱いところだ。マシュと一緒だと、諦める決断はできなかった。でも、そのままこの世界を消そうとすれば、私が壊れてしまいそうだった、だから』

「先輩……先輩、だから……っ」

 立香の言いたいことは理解できた。それに返したい思いもたくさんあった。けれど、うまく言語化できない。

『マシュ、これからすごく卑怯な事を言うよ』

 マシュが言葉に詰まっていると、立香は、声を少し低くして、そう言ってきた。

「はい?」

『今からでも、私の共犯者になってくれる?』

「!」

 意味など簡単だ。立香はマシュに、「お前も汎人類史を裏切れ」と言っている。

『無理にとは言わない』

「…………」

 マシュは、逡巡のために言葉が止まってしまう。

 いや、立香の問いに対する答えそのものは、決まっていた。

 ただ ────

『マシュ、本当に……私はマシュを恨んだりしないから……────』

「いえ、そうじゃないんです」

 立香の気遣ったような言葉に、マシュは慌てて声を打す。

『え?』

「先輩」

『うん』

「私はもう、先輩の最優先(ファースト)サーヴァントではなくなっている……んですよね?」

『…………私ははっきりとは自覚できてないけど、マシュが感じているんなら、多分』

「そうだとしても」

『うん?』

「私は、先輩のサーヴァント(騎士/従者)です」

『えっと、つまり…………?』

「少しの間だけ、待っていてください。必ず合流します」

『うん……マシュにも事情があるよね。解った』

 マシュの言葉に、立香はそれまでの緊張を緩めた

「先輩、今はどこに?」

 マシュは緊張した声のまま、問いかける。

『ごめん、居場所そのものはちょっと……マシュがこっちに来る時に、どこか出会うようにしたい』

「そうですね……」

 他のノウム・カルデアメンバーには、その滞在場所を知られたくないだろう。マシュの本心ではなくても、なにかの弾みで漏れるかも知れない。

『ただ、マシュも信用できそうな人と一緒にいるから、安心して』

「私が、信用できそうな人、ですか?」

 日本政府の関係者とでも一緒にいるだろうか、と、マシュが考えていると、立香は、少し悪戯ッぽい口調になる。

『この世界の、オルガマリー所長。所長じゃないんだけど』

「! じゃあ、さっきの声は!」

 マシュは、電話をとった直後の、最初の声を思い出して、訊く。

『ああ、さっきのはその妹さん』

「妹……この世界ではオルガマリー所長に妹さんが居られるんですね」

『そう。セレスタって人』

「えっ?」

 マシュは、軽く驚き、まだ表示したままの “万国カルデア天文台” の、組織紹介ページに視線を向けた。

 セレスタの紹介文の、 “アニムスフィア” の姓を確認してから、通話に戻る。

「“この世界のカルデア”の所長が、 オルガマリー所長の妹さんなんですか」

『そーいうこと』

「それなら、私の方から先輩に連絡が取りたいときは」

『私達に関わっている政府の人に。お願いしてあるから』

「解りました」

『マシュ』

 いくらか軽い口調になっていた立香の口調が、再び固く、重いものになる。

『私の心は折れた。それは認める。でも、折れただけじゃ終われない』

「先輩……」

『ここで良いと決めて、ただそれだけで、放り出したままにはしたくない』

「はい!」

『それじゃあ、連絡待ってる。じゃなきゃ、こっちから連絡する』

「はい! 連絡します!」

 そう言って、立香との通話は終わった。

 続けざま、マシュは電話をかけようとするが、どこにかけていいのか、解らない。

「…………あ、そうか」

 携帯電話のディスプレイの内容が『データ通信中』に戻るのを見て、マシュはパソコンのマウスを手に取る。

 思いつくキーワードで検索しているうちに、ここだろう、という電話番号をみつけた。

「よし」

 緊張しつつ、電話をかけようとして……────

「あれ、えっと」

 ダイヤル式携帯電話のダイヤル周りを指でいじった後、今度はパソコンで『電話の使い方』と、検索をかけた。

 

 

 東京都、永田町。

 内閣部局、総務部。

「閣下、お電話です」

 いかにもサラリーマン公務員といった感じの男性職員が、受話器を持ったまま、そう告げてくる。

「誰から?」

 部署長の席に座っていたゆうだちが、問い返す。

「は、 “ノウム・カルデア” のキリエライトさんからです」

「了解。何番?」

 ゆうだちは机の上に置かれているビジネスホンの受話器を上げながら外線の番号を訊ねる。外線・内線選択ボタンの上に、小さめの液晶ディスプレイが付いている他、青色LEDの着信知らせ灯が、その横のダイヤルと同居している。

「3です」

 職員の答えた外線を選択する。

「はい、もしもし。何かありましたか?」

 ゆうだちは最初、なにがあったのかな、と、多少気遣うぐらいの感じで通話を始めたのだが、

「は?」

 と、途中、怪訝そうに言って、そこから表情と口調が険しくなる。

「それは、我々になにかメリットがありますか?」

『それは……』

 ゆうだちに聞き返されて、電話口のマシュは言葉が詰まってしまう。

『先輩がカルデアに……私達のカルデアに戻らないということは、メリットになると思うんですが……』

 それは、消極的なものではあるが、確かにそうではある。一見すると目立つストーム・ボーダーは対処可能だが、逆に人間として入り込んでサーヴァントを簡易召喚してくる立香の存在は、敵に回したとなると厄介ではある。

 ── 連中は知らないんだろうけど……

 立香の居場所についての報告は、彼女が脱走してアニムスフィア家に辿り着いたその日の深夜に受けている。

 彼女は、この世界は消せない、と、戦意を喪失しているとは言う。

 だが、現段階ではまだ、それを完全に担保できているわけでもなかった。

 ── とは言え、メリットとしては少し薄いな……

 ゆうだちはそう考えつつ、

「そのあやふやなものだけでは、政府機関として取引ができる内容とは言えないです」

 と、あえて毅然とした口調をつくって言った。

『で、では、これはどうでしょう!?』

 マシュが、慌てた声をだす。

『ノウム・カルデアにはもうひとつ、強力な武器があります』

「!」

 ゆうだちの顔色が変わる。

『これは、相手の「天寿」、つまりその相手の終焉の時をその場で迎えさせるというものです。相手がどのように強大でも、強力な防御を持っていようとも、破壊することが可能なものです』

 ── なんつーモノを持っているんだ!

 マシュから説明を聞いて、ゆうだちは心の中で毒吐く。

『現在その運用は、私の霊基外骨格に組み込んで用いる、というかたちになっています。なので、当面の間は使えない、ということではあるのですが……』

「それを持ち出していただける、と?」

『…………はい』

 マシュは、まだ若干の葛藤を感じさせる答え方をした。

「解りました。それと引き換えというのであれば、こちらも取引に応じましょう」

『あ、ありがとうございます!』

 ──現段階で、期待されすぎても困るんだけどなー……

 マシュの口調が突然弾んだものになったのを聞いて、ゆうだちはそう思った。

「詳細は専門の部署から、ええ、その電話にかけますので。はい。よろしくおねがいします」

 ゆうだちはそう伝えて、マシュとの通話を終える。

 そのまま、指で電話機のフックを押すと、使用していない外線のボタンを押してから、発呼のためにダイヤルを回し始める。

「減俸ぐらいは覚悟のうちかな……」

 最後の番号のダイヤルが戻り、呼出が始まる間、小さく呟いた。

『はい。東京帝国大学魔術研究所です』

「ゆうだちですが、魔術霊装の専門分野ってどこでしょうか?」

『ええと……対象は人間ですか?』

 ゆうだちが問うと、電話口の相手は困ったような口調で訊き返してくる。

「サーヴァント……でいいと思うのだけど」

『了解です。降霊部にお繋ぎします』

 

 





WDNなんですが、Webとの違いは、基本的にWeb(インターネット)は、「接続されているコンピュータは原則として全て対等」であるのに対して、WDNは集約されたホストコンピューター同士が繋がっていて、どのホストが提供しているサービスをどのホストコンピューター経由でも利用できる、という構造になっています。エンドユーザーからはWebとの差異は感じられないのですが、この構造差から、この世界ではホストコンピューターの構築に必要な中~大規模集約機、オフコン(メインフレーム)の積極的な発展が続いています。
一方でリクツの上では監視がしやすいんですが……実際にそんな事しようとしたら記憶装置の容量がいくらあっても足りません。

ダイヤル式ビジネスホン
https://x.com/kaonohito2/status/2005954576067829960

ムカワアカリ
・ム→霧
・カワ→江(旧い読み方)
・アカリ→灯
 あとは分かるな?(何)

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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