Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-11、カルデアスの名称を訂正しました


Chapter-03

 東京帝国大学魔術研究局、第一会館。

 旅館『お宿茶々』同様、カゴのふわふわ感がない整備状態の良い、昭和末期型のエレベーターで5階に上がる。

 降霊部。

 資料だの部材だのモノが雑然と積み上げられ、体裁に無頓着な研究者の集まりである様相の中を、積み上げられた物で狭まった通路を、支那麺を先頭に縫うように歩く。

「悪いね、歩きにくいだろ?」

 支那麺が振り返り、後ろにいたマシュに向かって言う。

「研究だけが生きがいの人間が集まっちゃってるところだから、どうにも無頓着で」

「いえ、こういう光景は、よく見たことがありますので」

 愛想笑いをしつつ、マシュはそう答える。

 ここまで酷くはないものの、人理焼却以前のカルデアの研究セクションにも漂っていた雰囲気ではある。ロマニ・アーキマンも割とズボラを隠さない人物だったし。

「よいしょ、と」

 通路として確保されている最低限のスペースを通り抜けていくと、昭和の質実剛健な鉄筋建築の中で、明らかに質の違う、プレハブ後付の壁に突き当たる。支那麺が通路に面しているアルミのドアを開けて、

「どうぞ、入って」

 と、後ろにいる、マシュ、朔を一度振り返って言いつつ、入室する。

「おおっ」

 室内に入って、その光景に、マシュはまるで立香みたいなリアクションの声を出した。

 外の雑然とした光景とは対称的に、小洒落た室内は、パソコンの並んだ机があることを除けば、美容室かブティックを思わせる内装になっていた。

 若干雑然として感じられるのは、並んだFM TOWNS本体に対し、複数のディスプレイが接続されているために、ディスプレイケーブルが隠しきれていない点か。

 1台だけPC-9800シリーズの上位機種であるPC-H98mk2が置かれている。横に広い拡張スロットに挿さったグラフィックボードから、32インチと大型のスクエア型ディスプレイに繋がれている。

「あれ……? マシュ……?」

 そんな声が聞こえてきた。

 マシュがその声のした方を向くと、

「エンジンさん?」

 と、その視線の先に、ネモ・エンジンの姿を見て、マシュは驚いたように声を出した。

「なんでこんなところにいるんだ」

「それはこっちが聞きたいですよ」

 唖然としたように立ち尽くして言うネモ・エンジンに対し、マシュも驚ききった表情で聞き返す。

「ストーム・ボーダーはどうしたんですか?」

「え? あ、そうか。このあたしはマシュと出会っているネモとは別に、こっちの世界で召喚された存在だから」

 ネモ・エンジンはそう答えるものの、

「それなら、なぜ、私のことを知ってるんですか!?」

 と、マシュは更に驚いた声を出してしまう。

「ああ……そこか、それから説明しなきゃならないのか」

 ネモ・エンジンは、少し面倒くさそうな様子を出しつつ、言う。

「えーっと、この世界は、情報が乗った状態の魔力みたいな幻想のエネルギーが流れ込んでくる坩堝みたいな世界なんだけど、そのあたりは?」

「あ! そう言えば、ゆうだちさんに似たような説明をされた気がします」

 ネモ・エンジンの問いかけるような語尾に、マシュが思い出して答える。

「ああ、具現化人格軍艦に会ったことがあるのか。じゃあ後は簡単だ。この世界の可視世界の外側にある “本質の層” である『整然たる混沌の渦』に存在する英霊の座に、その情報が流れ込んでくるから、この世界のサーヴァントは召喚された時の記憶を持ち越せるんだよ。別の並行世界の経験も含めてね」

「は、はぁ……」

 ネモ・エンジンの説明に、マシュは理解したのか曖昧な感じで声を返してから、

「じゃあ、今のエンジンさんは?」

 と、問いかける。

「うん、キャスター霊基で召喚されてる。キャスターだから、魔術装置の専門であるあたしが主人格(フラッグシップ)

 そう言いながら、ネモ・エンジン ──── ネモ・キャスターは、帽子に着けている、青いグラデーション模様の羽飾りを指差した。ライダー霊基で召喚されているノウム・カルデアのネモでは、キャプテンのターバンの留め具についているものだ。

「じゃあ、キャプテンさんは?」

「霊基の内側にはいるけど、サボっt……休眠してる」

 マシュの問いかけに、ネモ・キャスターは少し呆れたような口調でそう言った。

「は、はぁ……」

 マシュは、どう反応していいのかわからない、と言う様子で、生返事をする。

「じゃあ、ここの誰かに召喚された存在って事ですか?」

「いや、バイトしてんだ。バイト」

 マシュの方から問いかけると、ネモ・キャスターはそう答える。

「バイト?」

「あたしの今のマスターはまだ生活に誰かを頼らなきゃならない存在だからさ、ちょっとお金稼いでるってわけ」

 不思議そうに言葉をオウム返しにするマシュに、ネモ・キャスターは僅かに眉を顰ませつつ、そう答えた。

「そ、そうなんですね」

「はいはーい、とりあえずおしゃべりはそこまででいいかな?」

 四方山話が延々と続きそうな雰囲気を、支那麺が遮って、割って入ってきた。

「とりあえず、マシュちゃんの現状の霊基の情報を読み取りたいんだけど、いいかな?」

「あ、はい」

 支那麺の言葉に、マシュは、若干焦ったような表情をしつつも、従う返事をする。

「お願いします」

「じゃあ、設備は奥にあるから、ちょっと来てくれる?」

「あ、はい」

 支那麺に連れられて、マシュは区分された霊装研究室の室内の奥へと向かっていく。

「あ、ネモちゃん手伝って」

「はーい」

 一旦、おいていかれたかのようになったネモ・キャスターだったが、支那麺の声が彼女を呼ぶと、返事をし、小走りで追いかけていった。

 

 

「ノウム・カルデア ──── 汎人類史のカルデアのメンバーが、『ストーム・ボーダー』から退避するための拠点が欲しい……と」

 永田町。

 内閣部局庁舎、小会議室。

 ゴルドルフの提案というか要求を受けて、翔鶴が確認するようにそれを声に出した。

「理由をお伺いしても?」

「…………」

 この場で弱みをあからさまにしていいのか、と、ゴルドルフは悩む。ゴルドルフがこの状態だから、隣にいるムニエルは更に困惑し、思考が正常に巡っていないような、緊張した表情をしている。

 出迎えのときは、ゴルドルフ達を賓客と扱う、と、たおやかな女性として優しげに振る舞っていた翔鶴だが、その実、大和以上に平時の態度と公人としての態度に落差がある。

 例えばかつて、冬木市で第三次聖杯戦争が起こりかけた時 ────

 

「……ではまず、 “人死を出すな”」

「っ……!」

 ゴンッ

「次。 “一般人を巻き込むな”」

「む、無茶を申すなこの――――」

 ゴンッ

「最後。 “これを戦争と呼ぶな”」

「我らは千年以上この形式で――――」

 ゴンッ

「よろしい。以上だ。そなたらがしているのは “魔術儀式の公開実験” であって、 “国際情勢における実戦” ではない。戦争とは、同時に千隻動いて海図が塗り替わることだ。 “7人が市街で斬り結んだら山が吹き飛びました” など、ただの下手な事故である。神州の市民に被害を出すな。魔力炉を損なうな。 ――それができぬのなら、冬木の管理を海軍に移す」

 …………と、遠坂、マキリ、アインツベルンの当主を拳骨と理詰めで抑えた。

「…………」

 御三家は不満たらたらだったが、下手に逆らうと聖杯ごと吹き飛ばしかねない。

 そんな当主達に、翔鶴は理知的な女性の顔になってから、

「……魔力炉としてはたいへん優秀だ。だからこそ保全したいのです。先端技術の試験に使えるし、海軍や政府のバックアップ炉にもなる。そのうえで “あなたたちの古い儀式も残したい” と言っているわけです。妥協点くらい出せるでしょう?」

 と、優しげな口調がかえって有無を言わせない様子で、提案するように言った。

「…… “参加マスターの実戦行動を市外に誘導する” “市内での攻撃魔術は禁止” ……くらいなら……」

 遠坂の当主が言い、

「許可された結界内でのみ戦う、ぐらいなら……」

 と、マキリの当主が言い、

「勝者決定後の “願いの実行” だけは、冬木の炉に触れさせていただきたい」

 そう、アインツベルンの名代が言った。

「それでよろしい。技術的な安全策は帝都の魔術工廠から出します。以後この街は、政府も関与して魔術研究機関が配置された学園都市としましょう。 ──── 今後、 “下手な聖杯戦争で死にました” とは言わないように。以上」

 

 ──────── と、まぁ、自ら冬木へ乗り込んでいって、これらを確約させてきたわけである。周囲からも、恐れられていると同時に、「わざわざ現場に乗り込んでくる煩型(うるさがた)」と認識されていた。

「まぁ、すんなりとは答えられない事情があるのは解ります。ただ、私達としては、ただ、 “敵に塩を送る” ということが、できると思いますか?」

 ジロッ、と視線を向けられて、ゴルドルフは硬直し、ムニエルはもっと端的にビクッと怯んだ様子を見せた。

「──── と、言いたいところなんですが」

 翔鶴が、表情から険を消し、言う。

「“マリスビリー・アニムスフィアの策謀に対抗しているムジーク家の人間” となると、私達も少し無碍にはできない部分もありまして」

「は…………?」

 翔鶴の言葉に、2人の顔色が変わり、ムニエルが声を漏らした。

「もしかして、立香のやつが喋ったのか? あんた達に」

 ムニエルが、不満そうな表情になって、問い質すように言う。

「彼女の居場所は把握しています。いくらかの情報を得ていることも否定はしません」

 翔鶴はそう言ったが、立香が “どこまで話したのか” については、言わない。

「私達の世界にも、魔術研究の中枢と言える場所はあります、と言うと、我々としては若干傲慢な表現になってしまうかも知れませんが、東京帝国大学魔術研究局、という組織があります」

「魔術協会、時計塔が、国の機関として公に存在しているってことか?」

 メガネを直す仕種をしながら、ムニエルが呟くように言った。

「ニュアンスがどこまで異なるのかは、私達には説明できないのですが。 ──── 各部門の長は、ただ研究機関の部門長という地位を超えて影響力があり、その地位は “藩王位” と呼ばれています」

「なるほど」

 翔鶴の説明に、いくらか冷静になった体裁を整えたゴルドルフが声を出した。

「日本で神秘を取り扱う神事の長は、天皇(エンペラー)だからな。その下に仕える、という(てい)か」

「そういうことになります」

「しかし、それが我々とどう関係があるっていうんです?」

 若干緊張が(ほど)けてきた空気の中、ムニエルが訊ねる。

「そのうちの部門のひとつ、天文部は、伝統的に西洋の占星術師の大家を迎えていまして、つい最近までは、()()()()()マリスビリー・アニムスフィアがその地位にあったのですが……────」

「!?」

 この世界にもマリスビリーがいる、という情報に、先程までの翔鶴からのプレッシャーによるものとはまた別種の緊張が、ゴルドルフとムニエルの表情に出る。

「── この世界の『摩尼曼陀羅式天令観測疑似惑星カルデアス』を建造する際、予算の不正流用のスキャンダルが発覚しまして。それで失脚しました。もっとも、肝心のカルデアスの運用はアニムスフィア家の技術が不可欠で、娘2人は影響力を残してるんですが」

「娘2人」

 ムニエルが鸚鵡返しに言う。

「つまり、この世界じゃオルガマリー所長に、姉か妹がいるってことか?」

「ええ、オルガマリー嬢。それに妹のセレスタさんが、この世界の『万国カルデア天文台』の長です。 ──── それで、マリスビリーの後任の天文部藩王位としては、このあたりもあってまず調停役になれる家ということで、ムジーク家をお迎えしたわけです」

「なんと!」

 ゴルドルフが声を出す。自分達の責務なども忘れて、ニッコニコの笑顔になった。

「魔術部門の権威ある地位が、我がムジーク家に! いやぁ~ 人はやはり見るものだな!」

「この世界のムジーク家であって、オッサンに関係あるわけじゃねーだろ……」

 ゴルドルフの気の好くしように、ムニエルが小声でツッコむ。

「ん……でも待てよ、新所長の名前が出るたびに少し驚いたような態度になるやつがいたのは、そういうことか……」

 ムニエルは、その事を思い出して、口に出して呟いた。

「どうぞ、お入りください」

 翔鶴が、会議室の出入り口の方に向かって言うと、その扉が開いて、 ──── 1人の女性、が入ってきた。

「え?」

「は?」

 背はさほど高くないが、スラリとしていて、前髪を長くしているものの、全体的には短髪 ──── 胸に星のエムブレムのバッジを着けたその女性は、ゴルドルフの顔を見るなり、軽く仰け反るリアクションをして、固まった。

「…………え、えーと……」

 フリーズ状態から復帰したその女性は、表情を引きつらせながら、ゴルドルフを指差してしまう。

「あなたが、ゴルドルフ…………? 汎人類史、の?」

「そ、そうだが?」

 女性の態度の意味が解らず、ゴルドルフは服を直す仕種をしながら、言う。

「あの、この方は?」

 ムニエルが、翔鶴に訊ねる。翔鶴も、なにがあったのか、という表情をしていたが、

「ムジーク家当主、天文部藩王位、マグダレーナ・フォン・ムジークさんです」

「えっ?」

 と、翔鶴の言葉を聞いて、今度はゴルドルフが硬直する。

「なるほど、ムジーク家つってもオッサンがいるってわけじゃないんだ」

 ムニエルが、意地悪そうな苦笑をしながら、そう言った。

「いえ……ゴルドルフは私の従兄なんですが……魔術師家系の当主より、自動車競技の道を選びまして……」

「おっ、確かにそっちの才能あるからな、新所長」

 マグダレーナの説明に、ムニエルは納得したような声を出す。マグダレーナはポケットから取り出した、スライド式キーボードのMCフォンを操作する。

「こちらです」

 写真を表示させたMCフォンの画面を、ゴルドルフとムニエルに見せる。

「……………………」

「…………痩せてるな」

 写真には、準ワークス体制のラリー仕様の軽自動車の前で、ポーズをとっている男性がいる。その顔は、ゴルドルフによく似ているのだが、痩躯、とは言えないものの、筋肉質で、腹の出た肥満体とは程遠い体型をしていた。

「…………」

「…………プッ」

 ゴルドルフは呆然としながら顔色を失くし、ムニエルは吹き出した。

「とりあえず」

 翔鶴の隣に移動し、立ったマグダレーナは、改めて挨拶をする。

「改めて。紹介に預かりました、マグダレーナ・フォン・ムジークです」

 天文部藩王位の星のバッジを胸に着けたマグダレーナは、2人を安心させるような笑顔で、説明する。

「今回の事件、我が家の占星装置は『ムジーク家の人間を見捨てるべきではない』と示しました。ですので、今回のあなた方の件、我が家で支援させていただきます」

「無論、あなた方が敵対しない、という条件付きですがね」

 マグダレーナの言葉に、翔鶴が念を押すように付け加えた。

「ただ、あなた方はその意志を失いつつある、そうではありませんか?」

「まぁ図星だよなぁ……マスターの立香は脱走して、そちらさん寄りになってるみたいだし。この上ストーム・ボーダーも使えなくなったら、敵対したって……というか、敵対しようがない。どんなに崇高な目的(かた)ったって、()()()特攻(カミカゼ)は勘弁だぜ」

 ムニエルがそう言った。

「済まない。おそらく世話になることになるだろう」

「はい、安心してください」

 苦渋の表情をしているゴルドルフの言葉に、マグダレーナは冷静な表情からの笑顔で、言う。

「ただ、この際、滞在中にダイエットしましょうね」

 





ネモ(caster)
https://x.com/kaonohito2/status/2007344660705120616

マグダレーナ
https://x.com/kaonohito2/status/2007346148105957726

痩せてるゴッフと競技車
https://x.com/kaonohito2/status/2007347340882129390

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