Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-04

「ありゃ」

 作業用のFM TOWNSのメインディスプレイを見ながら、支那麺が声を発した。眉間に皺が寄っている。

「これは……思っていた以上に厄介かもしれないな」

「なにか……解ったんですか?」

 険しい表情で呟くように言う支那麺に、マシュが支那麺の座っているOAチェアの隣に立って覗き込むように訊ねる。

「いや……マスターが世界を乗り換えたせいで、前の世界で召喚されたサーヴァントが、マスターからの魔力を受け取れていない、と推測していただろう?」

 支那麺はディスプレイの方を見たまま、逆に問い返す。

「はい。…………えっと、違うんですか?」

 マシュは、支那麺の言葉に答えつつ、少し戸惑ったように訊き返す。

「それ自体は間違っていないんだが……ええと……少しマシュちゃんには失礼な言い方をすると、マシュちゃんの霊基が特殊すぎて解析できないんだ」

「えっ……?」

 支那麺の言葉に、マシュはわずかにギョッとしたような態度を取る。

「そうだ……クラスは何だったっけ?」

 支那麺が思い出したように言い、椅子に腰掛けたまま、マシュを振り返る。

「あ、はい。シールダーです」

「シールダー……エクストラクラスか……それにしても聞いたことがないな……マシュちゃんだけの存在だと、お手上げに近いかも」

 支那麺は、そう言って額、一部をバックにした前髪の生え際を抑える仕種をした。

「あっ、えっと、私以外に、そう、ギャラハッドさんがいます」

「ギャラハッド?」

 支那麺は手を離し、鸚鵡返しにする。

「円卓の騎士の?」

「はい。元々私も、デミ・サーヴァントとしてギャラハッドさんと融合していた時の能力と霊基が元になっていて……」

 それを聞いて、支那麺は目元を覆った。

「それかぁ~……それだとすると、是正のしようがないなぁ……」

「えっ、どうしてです!?」

 まいった、という様子で言う支那麺の言葉に、マシュは、身を乗り出すようにして問い質すように言う。

「ギャラハッドは、この世界では英霊になれない」

「えっ?」

 支那麺の答えに、マシュは、驚きのあまり、キョトン、としてしまう。

「召喚詠唱の……この世界のサーヴァントの召喚詠唱の最後の一節はこうなんだ。『整然たる混沌より来たれ、灯籠の守り手よ』」

「汎人類史とは異なる……さっきエンジンさんが言っていた、可視世界の外側にある “本質の層” に呼びかけているわけですね?」

 マシュはマスター、それも本来、クリプター達と同じAチームに入るよう教育されていた。召喚詠唱はソラで言えるように丸暗記していた。

「そう。でも今重要なのはその後。『灯籠』、つまり文明の火の守護者を呼んでいる」

「それがどういう……」

 支那麺の言葉に、反射的に訊き返しかけたマシュだが、途中で自身でもなんとなく解ってきて、言葉がだんだんと小さくなっていった。

「ギャラハッドは国の繁栄より倫理を選んだ。つまり、文明の守護者としての立場になかった。だから、この世界の英霊の座は英霊として扱わない。だからといって悪行でもないから、反英霊にもなれない。つまり、英霊の座が関知しない存在。だから、マシュちゃんをそのままこの世界の理に適合させるってことはできない。時間をかければ可能かも知れないけど、年単位の時間がかかるよ」

「そ、そんな……それじゃ困ります!」

 支那麺の説明に、マシュは、落胆、絶望といった感情を交えてしまいつつ、荒い、まではいかないものの、大声を上げる。

「困ると言われても……」

 支那麺が、自分こそ困り果てている、といった様子で言い、言葉尻を澱ませた。

「あー……ちょっと乱暴な方法でいいならなんとかならなくもないと思うけど」

 それまで何も言わずに2人のやり取りを見ていたネモ・キャスターが、言いにくそうな口調で言った。

「え?」

 支那麺が、間の抜けたような短い声を出した。

「ど、どんな方法ですか!?」

 マシュの方は、切羽詰まったかの様子で、興奮気味に問い質す。

「あるけど、ただ、これやっちゃうと、マシュ、元に戻れないよ?」

 やや引きつったような笑顔を浮かべながら、ネモ・キャスターは言う。

「構いません! 私は、先輩の……マスターの役に立ちたいんです!! どんな事があっても!!」

「…………じゃー、言うだけ言うけど……」

「お願いします!」

 ネモ・キャスターは、そこで一拍おいて、マシュが迫ってくる位置から一歩下がり、人差し指を立てて、言う。

「マシュをこの世界の英霊の座に解釈させちゃえばいい。ギャラハッドの霊基利用じゃなくてね」

「それは……」

 まず、マシュが、理解の範囲を僅かに超えたかのように、キョトン、して、ネモ・キャスターを見る。

「待て! それをやっちまったら完全に不可逆だぞ!」

「だから最初からそう言ってるじゃん!」

 支那麺がやや乱暴な声を上げ、ネモ・キャスターが即座に言い返す。

「マシュが、()()()()()()()()サーヴァントになるやり方だ。ギャラハッドの霊基に頼らず……────」

 乗り気ではないというように、マシュに視線を合わせず、支那麺は言う。

「けれどそれってことはつまり、生きながらにして完全にサーヴァントになるってことだ。即身仏みたいなものだが…………それでも、この世界に根を降ろすつもりなら問題ない。この世界ではサーヴァントは安定して現界する存在だからな……ただ、もとの世界の方が恋しいとなっても、元には戻せない」

「っ……」

 一瞬だけ、唇を噛んだマシュだが、

「構いません! 私は、ここで、今! 先輩の役に立ちたいんです! 支えてあげたいんです! 他のサーヴァントがいたとしても、私も! そばで!」

 と、胸に手を載せて、支那麺に訴える。

「もうひとつ制約があるよ」

 ネモ・キャスターが、腕組みをして言う。

「この世界の英霊の座は、シールダーというクラスを持っていない。今のままマシュを解釈させようとすると、結局不安定になって、調整に年単位かかることになる」

「そんな、それじゃあどうすれば……」

 マシュが、悲壮感さえ見せながら言う。

騎位(クラス)変移(シフト)か……」

「うん。手っ取り早さを狙うんならそういう事になる」

 まだどこか消極的そうな支那麺の呟きに、ネモ・キャスターが肯定の返事をした。

「今のあたしがそうだろ? この世界じゃ結構頻繁に起きる。と言っても、あくまで適正のある範囲でだけどね」

 ネモ・キャスターは、視線をマシュに移して、自分を見せるような仕種をしながら、そう言った。

「私が……シールダー以外……」

 マシュが困惑気な顔をする。ただ、逆に言うとその面だけだ。それ以外については、自分の中ですべてGOサインが出ていた。

「その気があるんならもう簡単だよ。マシュはずっと立香の盾、立香の騎士として戦ってきたんだろ」

「つまり、引かれやすいのは基本三騎士ってことだな」

 ネモ・キャスターのマシュに向かっての言葉に対し、支那麺が呟くように言うと、ネモ・キャスターはそれに対して頷いた。

「戦闘スタイルは武器を使った近接固定。とくれば、バーサーカー狙わないんなら決まったようなもんだ」

 ネモ・キャスターは、口元で笑いながら言う。

「どうする? マシュちゃん」

 支那麺が椅子から立ち上がり、言う。

 マシュは振り返ると、支那麺の目を見据える。

「はい────」

 少しだけ胸が締め付けられるような感覚があったが、それは、踏みとどまれというものなのか、それとも、前へ進むのを急かせるものなのか、判別はつかなかった。

「──お願い、します」

「解った」

 ゆらり、と、支那麺がどこか()()()()様子で言ったかと思うと、直後。

「全員招集! 久々の大仕事だ! 終わるまで帰れると思うなよ!」

「えーっ、あたしも?」

「ったりまえだろーがっ」

 抗議の声を上げるネモ・キャスターに言いつつ、何故か妙に楽しそうな支那麺は、机の上のビジネスホンの受話器を上げ、空き回線を選んでダイヤルを回し始める。

「うちのマスターほっとくわけにはいかないしっ!?」

「じゃあ一度帰って連れてきちまえ。面倒見る手間ぐらい誰かにゃ空くだろ」

「えー……いいのかなぁ?」

「いいんだ! 無駄口叩いてる暇があったら電話しろ電話!」

「はーい」

 妙にハイテンションの支那麺に対して、ネモ・キャスターは不貞腐れた声を出しつつ、別のビジネスホンの受話器を上げた。空き回線を選択して、まず電話番号をダイヤルしてから、

「超勤分はちゃんと出るんでしょーねー」

 と、呼び出し中に支那麺に向かって言う。

「一部現物支給でもいいか?」

 支那麺がそう言うと、ネモ・キャスターは盛大に溜息を()いた。

「ああ、渕山ちゃん? 支那麺だけど。 ──── そう文部省に頼まれてた仕事。急ぎでかかるから、すぐ来てちょーだい!」

「もしもし、斯波さんのお宅ですか? (わたくし)魔研局のネモと申しますが、繁雄さんはご在宅でしょーか?」

 ノリで回す2人の様子に、マシュはただ、しばらく呆気にとられて立ち尽くすことになった。

「ああ、中央電算室? 魔研局降霊霊装の支那麺だけどホスコン使うから13時から、時間あたりでいいから毎時65万トランザクション使えるように空けといてねー!」

『ちょっ……いくらなんでも無理ですよ!! せめて昼間の間は半分に……────』

「聞こえなーい言い訳聞かなーい! じゃよろしく」

 ガチャッ☆

 

 

「紹介します」

 会議室を出たところで、若い和装袴姿の女性が1人立って待っていた。マグダレーナはその女性に歩み寄ると、ゴルドルフとムニエルの方を向いて、その女性を示した。

「私の護衛のサーヴァントのセイバーです」

「セイバーをやらせてもらっています、足利氏姫です」

 マグダレーナの言葉を受けて、女性はそう名乗り、軽く会釈した。

「あ、これは、ご丁寧に」

 ムニエルが、少し慌てたようにしつつ、畏まったような声を出す。

「アシカガ……失礼、日本史にはさほど詳しくないのですが、アシカガというのは確か将軍を務められた一族ではありませんでしたかな?」

 ゴルドルフがそう問いかける。

「ええ、はい。…………と言いましても、私の代の頃にはだいぶ落ちぶれておりましたが。私の名も、公方(くぼう)家を纏めて存続を果たしたという事で知られているものなのですが」

 苦笑交じりに、氏姫は謙遜して言う。

「それなのに、セイバー?」

 ムニエルが、不躾に呟いてしまう。

「ええ、刀術は自信がある方ではないんですけど……とは言え」

 霊体化されていた、鞘に収められた刀が出現し、氏姫の左手に握られる。その柄を、右手が掴んだ。

「女だてらに武家の家主をやりました身、ひと揃えの武術の心得はないと言ったらそれもまた嘘になります」

「日本人のサーヴァントは、元々古さが基準にならないからなぁ……」

 たじろぐように苦笑しながら、ムニエルが誤魔化すように言った。

「しかし……ボディーガードの為にサーヴァントを召喚しているような世界だとなると、俺達もサーヴァント抜きはちょっと不安だな」

 ムニエルが、少し眉毛を顰ませてそう言った。

「そうですね……この世界でも珍しいのかそうでないのかと言われれば、決してありふれてはいないのですが、魔術で要職についている者は護衛として召喚している者が多いです」

 マグダレーナが言う。氏姫は、再び刀を霊体化させた。

「カドックが召喚できると言っても、ストーム・ボーダーの維持が怪しいとなると何人も常に喚び出しておくってわけにはいかないだろうしな……不安だぜ」

「ううむ……」

 ムニエルの不安さが混じったボヤキに、ゴルドルフも呻くような声を漏らす。

「まぁ、日本国内では、ましてや帝都では狼藉者の跳梁は許しませんので、安心していただいてよいかと」

 翔鶴がそう言うものの、2人の顔は晴れない。

 ── そもそも、アンタ達に襲われる可能性が最大の懸念なんだよ。

 ムニエルもゴルドルフも、声には出さずに胸中で翔鶴に向かって言った。表情では本心が隠しきれていなかったが。

「どうでしょう、とりあえずお食事でも。御馳走しますよ」

 しばらく廊下を歩いたところで、マグダレーナがゴルドルフとムニエルに対して提案した。

「いいですな。この世界の日本は文化の中心のようだ。ムジーク家当主が通うような食事処ともなれば、さぞかし美食の粋を尽くしたところでしょうからな」

 ゴルドルフが、妙に得意そうに、口ひげを弄りながら言う。

「なんでオッサンが得意気なんだよ」

 ムニエルが、苦笑しながらツッコむ。

「そういうことですので、帰りの桟橋へは私がお送りいたします」

「了解です」

 マグダレーナに言われ、翔鶴が返事をする。

「帰還の際には、現地を立つ前に私かゆうだちに連絡を。兵士もずっと小舟の上で待機させておくわけには行きませんので」

「解りました」

 翔鶴がそう言うと、今度はマグダレーナの方が承諾の返事をした。

 マグダレーナと氏姫、ゴルドルフとムニエルが、内閣部局庁舎の玄関を出ると、1台のリムジンがほとんど音もなく走ってきて、4人の前にピタリと停車する。

 GZG50系トヨタ センチュリーの車体を延長したストレッチリムジン。氏姫がそのドアを開ける。

「お2人がゲストですので、どうぞ後部座席に」

 マグダレーナが言う。

 車内の延長部分には、ゲストとの移動に備えて、キャビネット類ではなく対座式のセカンドシートが設けられている。が、元々の後部座席に比べると、補助席という感じが否めない。標準装備のものよりやや小さい温冷庫がそのセンターコンソールに装備されている。

 ゴルドルフが最初に乗り込むと、座席は、なめらかな手触りで高級感はあるものの、布張り(ファブリック)になっている。

「失礼、このクルマの座席は……」

 運転席に背を向けている対座シートに、腰を下ろす氏姫とマグダレーナに、ゴルドルフがそう声をかける。

「ええ、座席の方は発注時に交換してもらったもので」

「私が、あまり革の製品は得意ではないものですから……」

 マグダレーナはあっさりと言い、氏姫が少し恥ずかしそうに言った。

 このクラスの高級車は、本革シートが標準装備だ。それをわざわざ、ファブリックのシートに交換しているのである。

「あれだろ、この世界で日本の最高級車って事は、そのまま世界で最高級クラスってことだろ……」

 ムニエルが、緊張しきって余裕のない声で言う。

「どれだけ成功してるのこの世界の我が家……」

 ゴルドルフも、ショックを受けたように、血の気の引きかけた表情でそう言った。

「大したことじゃありませんよ。ただ、まぁ、そうですね。大学は魔研局だけではなく、運営の法務関係にも少し、知り合いが多いだけです」

 マグダレーナは、本気で謙遜しているのか若干のからかいがあるのか、わからないような笑顔で、そう言った。

 





セイバー 足利氏姫
https://x.com/kaonohito2/status/2007543863066689896

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