Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-05

「よし」

 ストーム・ボーダーの格納庫。

 その床に、カドックが、自身の血液をわずかに混ぜた水性塗料で、召喚陣を描いていた。

「うまく行けばいいが……」

 険しい表情で呟く。

 マシュに立香から魔力が送られてきていない現状、円卓の盾を使ったカルデア式召喚術は使えない可能性が高い。

 土壇場になって召喚できません、では話にならないので、今、サーヴァントを召喚しておこう、と判断した。

「媒介がないから、誰が来るかわからないが……」

 不安材料を、あえて自分で声に出して、その上での覚悟を決める。

開始(set)

 

 召喚陣に手をかざす。

 

 素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

「あら?」

 

 ──── 告げる

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

「これ、あの子がこっちの世界に来てるのね……でも、その召喚式じゃ誰も(こた)えないわよ、ここじゃ……」

 

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ ────!

 

「いいや、せっかくだし、私が行っちゃお」

 

 召喚陣の光が増し、中から光の塊が溢れてくる。

 その光の中心に、人影が立っていて ────

「何…………?」

 カドックには見覚えがあるどころではない、銀の髪を持つ、儚げな少女。

 そして、その先入観をこれでもかとぶち壊しにする装い。

 手にはAKらしきアサルトライフル。

 つま先立ちを常に強いられる高さのヒールの、銅色の金属製のブーツと、そのかかと同士をつなぐ長い鎖。

 防具を着けつつも、その下に濃灰色のワイシャツに白いネクタイ、セクシーさはあまりない黒のショートパンツ。そして、その更に上から着るトレンチコート。

 そして、頭には赤い星と、鎌を握る手のマークをあしらった小さな冠。

 これが亡国の悲運のお姫様でござい、とは、少なくとも見た目だけではそうは見えない。

「サーヴァント・アーチャー、元・ソ連人民皇帝アナスタシア・ニコラエヴナ・ソヴィエツカヤ、召喚に応じ参上したわ。そうね、アナスタシア・オルタとでも呼んで」

「…………」

 カドックは、目は点に、口は顎が外れたように開きっぱなしに、相手を指差してしまいながら、10分弱ほど固まった。

 

「つまり……君はこの世界のアナスタシアだが、汎人類史の記憶も持っていると」

 この世界のサーヴァントに起こる事象、そもそも英霊の座の差異についての説明を聞かされて、カドックはまだ頭を抱えるような仕種をしつつ、そう言った。

「ええ、どちらの、というより、どちらでもある、と判断してもらって構わないわ」

 アナスタシア・オルタは、穏やかな笑顔でそう言うが、それすらも汎人類史アナスタシアの儚げな雰囲気がなく、常に自身に裏付けされているかのような雰囲気を漂わせている。

「そもそも、この世界であんな()び方するから。私がいなかったら、誰も応えなかったわよ」

「そのあたりは確かに、考えが浅はかだったと思うよ」

 アナスタシア・オルタに指摘されて、カドックは苦虫を潰したような顔になる。

 はーっ、とカドックは、疲労と力を抜くように深くため息を吐き出した。

「それにしたって……なんなんだよソ連人民皇帝って。社会主義国が君主戴いてたとかなんの冗談なんだか……」

「うん、それは、私も、()()()()()歪だなとは思ってはいたんだけど」

 カドックの呆れた言葉に、アナスタシア・オルタも冗談めかした苦笑になる。

「いや、待てよ」

 カドックが真顔になって、アナスタシア・オルタを見る。

「そうってことは、君はあの、ロマノフ家の運命の日に、殺されなかったってことか?」

「いいえ。そのあたりは、汎人類史と変わらないわ」

 アナスタシア・オルタも、笑みを消して答えた。

「じゃあ、どうして……」

「この世界では、人の集合意識が高まったときにも、 “整然たる混沌の渦” が反応して、サーヴァントを作り上げたり召喚したりしてしまうことがあるんだけど……」

「具現化人格軍艦と似たようなものか」

「ええ。大きな違いは、求められて作り上げられるか、自然発生的に作り上げられるか、といったところかしらね」

 アナスタシアの答えを訊いて、カドックはまた、ため息を吐く。

「それで……その事が、君の話とどうつながるんだ?」

「1930年代の初頭に、人民が飢餓に晒された時期があったわ」

 ソ連5ヶ年計画は、日本の教育現場においては成功とだけ評されていることがほとんどだが、その実、国内総生産を高めるために重工業にリソースを過剰に集中した結果、誤った新農法の導入と相まって、食料生産量が激減。このため高価値の機械類の生産量が上がったために表面上は飛躍的と言っていい経済成長を成し遂げながら、地方では食料の飢餓輸出も加わって度々深刻な飢餓が発生し、都市部においても市民の生活様式は1920年代に置き去りにされていた。

「それは知ってるが……」

「その時、人民が願ったのよ。『こんなことなら、皇帝(ツァーリ)の時代のほうが良かった』って」

 どちらかというと、災害慣れしすぎている結果、現状の失敗に対しては「しゃーない、次行こ、次!」が基本の日本人が特殊で、多くの場合は、新体制がうまく行かなくなった時に旧体制への回帰願望が発生する。

「その頃、私、生存説あったから。 “帰還” を望む人がいたんでしょうね」

「つまり、サーヴァントとして皇帝やっていた、と」

 事態を理解して、カドックはなんとも言えない ──── どちらかと言えば呆れ混じりの表情で、言った。

「ええ。他の2大国の力は借りてしまったけれど、人民を飢えさせないという国造りには成功したつもり。でも、自由主義を求める声も強くなってきて、私一代でソ連人民皇帝は廃位、大統領制に移行した…………んだけど」

 そこまで言って、アナスタシアの表情が、決まりの悪そうな苦笑になり、頬を掻く仕種をする。

「3人目の大統領が、クリミアのデモに装甲部隊つっこんじゃって、収集つかなくなっちゃって、今度はソ連自由皇帝を建てて落ち着かせることになって。私の重祚って話もあったけど、そればっかりじゃ発展がないから、娘に任せたわ」

 そう言って、アナスタシア・オルタは、小さくため息を吐いた。

「そりゃ、また……」

 他の異聞帯とは異なる生々しい情勢変化の話をされて、カドックもなんと言ったらいいのか解らなくなりかけたが、あることに気づく。

「待て。今、娘って言ったか?」

「ええ」

「それは、養子とかって意味か?」

「ちゃんと実子よ」

「君はサーヴァントとして皇帝をやっていたんだろう?」

「ええ。…………あ、この世界、サーヴァントは普通に子供残せるわよ」

 それを聞いて、カドックは愕然とする。

「なん……だと……」

 

 

 東京都台東区、金杉通り

「さすが、この私も唸らざるを得ない味だ」

 ゴルドルフが言う。

 マグダレーナに連れられてきたのは、高級洋食屋 ──── 絢爛豪華さを誇るレストランではないが、料理の格ではなく質を追求した感じの店だ。

「お口にあったようで何よりです」

 マグダレーナが、微笑みながら言う。

「日本の家庭料理にありそうなメニューでも、突き詰めるとこんな雰囲気になるもんなんだな……」

 緊張を完全には(ほぐ)せない様子で、ムニエルはそう言いつつ、芳醇さが色に出ているデミグラスソースののったハンバーグステーキにナイフを入れている。

 コース料理に相当する “御定食” が、ディナータイムだと1人前200円弱、汎人類史換算なら1万円が飛ぶ、それを頼んでいることは、実は彼は知らない。

「ところで、なんでここまで、俺達に良くしてくれるんですか? 今ンところ、異世界のムジーク家同士、っていう以上のつながりが見えないんですけど。占星装置が答えた、とは聞きましたが……それにしたって」

 ムニエルが、マグダレーナに訊ねる。

「それは……」

 マグダレーナは、チラリと周囲に視線を走らせた後、

「そちらの世界のマリスビリーの計画が進行している、可能性があるからでしょうか」

 と、言った。

「あっ!?」

 それを言われて、ムニエルが驚いた声を出す。

「つまりそれっ…………」

「しーっ!」

 大声を出しかけたムニエルに、ゴルドルフとマグダレーナが揃って、口の前に人差し指を立てた。

「失礼」

 そう言って、氏姫が席から立ち上がった。

「少し、お花を摘みに行ってまいります」

「ああ、はい」

 軽く会釈しながら、3人にそう言って、氏姫は席から外れた。

 トイレに ──── 確かに洗面所に向かった。だが、そこで氏姫は、トイレの扉の中には入らず、洗面台から僅かに離れたところで、そちらを向いて立ち止まった。

 左手に、霊体化していた刀が実体化される。

「何者か知りませんが、私達を見張っていたのは気付いています。姿を表しなさい」

 氏姫がそう言うと、それまで、視覚的には誰もいなかった洗面台の前に、人の姿が現れる。

 銀髪に、黒のスーツ、赤いネクタイという、この時代に突飛ではない服装をしているが、鈍く輝いている赤と緑のオッドアイと言い、強烈な、違和感、異質感を放っていた。

「ふふふふふ……完璧に擬態していたつもりでしたが、こうも簡単に見破られるとは」

「ほざきなさい。ここまで面妖な雰囲気を放っていながら、隠れていたつもりなど、本気で言っているわけではないでしょう?」

「さて、どうやら……」

 氏姫は、それだけで並以下の武芸者なら、場合によっては卒倒しそうな眼光で相手を睨んでいるが、相手は飄々と返してくる。

「貴殿も…… “異星の使徒” ですか?」

「やはりお見破りでしたか、ええ、ええ、そうですとも! “伯爵” とお呼びくだされば恐悦至極」

 相手は、そう名乗った。

「“汎人類史のカルデアス” にある汎人類史の情報は、白紙化地球へのこの世界の定着で本来の意味を失うわけですが、んんーそのまま破棄するのは実に勿体ない! この私めが、有効に利用させていただこうかと」

「させるか!」

 シュバッ

 伯爵が言い終えた次の瞬間には、氏姫が抜刀、白銀のきらめきが伯爵を上下に両断し、振り抜いた刀を次のアクションに備えて構える。

「おやおや……思ったより血の気の多い方ですね。ですが残念!」

 伯爵の口はまだ声を出していたが、その身体は、斬られた部分から塵のように崩れていっている。力を失ったサーヴァントの退去の際のものとはまた違う。

「あの2人に関しては、こうして一応の監視をつけたまで……いわば影に過ぎません。斬り捨てられたところで、痛くも痒くもない」

「くっ」

 伯爵の言い種に、氏姫が小さく呻き声を漏らす。

「それでは…………まぁ、貴女と貴女のマスターにその機会があるのかはわかりませんが、もしその時が来たら、お目にかかりましょう」

 それだけ言って、伯爵は、声も姿も気配も、完全に消えた。

 

 

 茨城県つくば市。アニムスフィア邸。

「久しぶりの日本だから、テレビも面白く感じられるかと思ったけど、なんかこう、ますます質の落ちたバラエティばっかりねー」

 リビングで、ソファに腰掛けつつテレビのリモコンを手にしたセレスタが、チャンネルジッピングをしながら、そんなことを呟く。

「アンタこんなにのんびりしてていいの?」

 オルガマリーがそう訊ねるが、その自分自身もソファでぐでんぐでんしているようにしか見えなかった。

「顔を見せるのは明日以降で大丈夫。データでのやり取りはちゃんとこなしてる。それに南極の方だって、この身体の私がここにいても、ちゃんとあっちの職務もカルデアス越しにやってるんだから」

 セレスタはそう言ってから、テーブルの上に置いてあった350mlスクリューキャップ・ガラスボトルのドクターペッパーを手に取り、キャップを開けて煽った。

「できましたよー」

 リビングとダイニングの間をつなぐ扉が開き、立香とブーディカがダイニングの方から顔を見せながら、そう言った。

 アニムスフィア姉妹がダイニングに行くと ────

「おおーっ、コッテージパイ。それも美味しそう」

 セレスタが声を上げる。

 テーブルの上には、上面に線の入った、見た目に食欲をそそるこんがりとした黄色のコッテージパイが、各々の分大きめのグラタン皿で作られて並べられている。添え物として、小さめのボウル皿にコーンスープが用意されていた。

「食べていいかしら?」

 デオンに椅子を引いてもらって腰掛けながら、セレスタが訊く。同じように、アストルフォが椅子を引き、オルガマリーが腰掛ける。デオンとアストルフォは、各々の隣の席に着いた。

「どうぞ、召し上がれ」

 セレスタが訊くと、ブーディカが自分の席に着きながらそう言った。

「いただきまーす」

 そう言いながら、オルガマリーもセレスタもスプーンを差し込む。

 パイとは言うが、所謂パイ生地は使っていない。マッシュポテトの上層がさくりと切れ、挽き肉の層に到達する。それを掬って、口に運ぶ。

「美味しい~」

「ホント、美味しいわ」

 セレスタとオルガマリーが、次々に声を上げた。

「それなら何より」

 ブーディカが、笑顔になって言う。

「……でも」

 オルガマリーは、気付いて言葉を続ける。

「イギリス料理って言っても、ブーディカ(貴女)の時代のものではないでしょう?」

「ああ、うん。えっと……別のサーヴァントに色々と教えてもらって」

 ブーディカは、苦笑しながら答えた。

「ああ、エミヤさんですか」

 ビクッ

「うん、そう言うこと」

 デオンが言うと、ブーディカはそれを肯定するが、その笑顔がわずかにひきつった。

「聞いたことのない英霊だけど……名前の語感からして、日本人?」

「出身はそうだったかと。人理修復の頃、カルデアで一緒でしたから」

 オルガマリーの問いかけに、デオンが答える。

「それで、味付けが日本の洋食になっちゃってるのね。美味しいからいいけど」

 オルガマリーがそう言ったところで、

「ごめん立香、話の流れで……大丈夫?」

 と、手が止まった状態の立香に、ブーディカが心配そうに声をかける。

「……あっ、す、すみません! 私が考えに至りませんでした!」

 デオンが、自分が失言していたことに気が付き、慌てた声を出した。

「あ、ううん。大丈夫。ただ辛いとかそう言うんじゃないから……」

 立香は、一瞬固まっていた状況から、再起動したかのように、笑顔になりながらそう言った。

「それに、多分これ、長続きしないと思うから。今はただ、方向が決まりきってないからちょっと不安になる部分が大きい……んだと思う」

「…………下手に腫れ物扱いしないほうがいいんじゃない? アンタ達」

 オルガマリーが、軽く息を吐く仕種をしてそう言うと、立香は更に笑い飛ばすように言う。

「大丈夫。ちゃんと立たなきゃダメだって解ってるから」

 ── だって、まだ、終わってはいない物語だから。

 言外に、そう付け加えた。

 





アナスタシア・オルタ(archer)
(アナスタシア・ニコラエヴナ・ソヴィエツカヤ)
https://x.com/kaonohito2/status/2008071735044870376

ちなみにファッションは渡米時のフルシチョフがモデルとか秘密だ。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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