Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
ストーム・ボーダー、管制室。
照明は落とされ、最低限のスタッフが待機しつつも、座席に深く座って仮眠している。ネモ・マリーン達も、最低限しか活動していないようだ。
「みんな休んでいるか……」
「まぁ、ちょっと遅くなりましたからね」
帰還したゴルドルフが呟き、ムニエルが苦笑交じりに言った。
2人が音を立てないようにしていると、突然、
カッ
「!?」
と、天井灯が
「遅かったね」
2人が声のした方を見ると、そこにダ・ヴィンチが、憤りの感情を隠さない表情で立っていた。
「立香ちゃんやマシュだけじゃなくて、あなた達も懐柔されに行ってたのかい?」
「懐柔とは、人聞きが悪いな。技術顧問」
ゴルドルフは、そう言って、ハッハッと笑い飛ばすようにして、誤魔化そうとする。
「そ、そうだよ……ハハ……」
ムニエルも、ゴルドルフに合わせるかのように、引きつりながらも笑顔を作る。
「隠しても無駄だよ」
ダ・ヴィンチは言う。
「ストーム・ボーダーを捨てる算段をしてるんだろ。解ってるんだ」
「捨てる、というのは些かの語弊があるが……────」
ゴルドルフは、クールに体裁を整えつつ、うまく誤魔化すかのように言う。
「── 何を根拠に?」
「隠しても無駄だって言ったじゃないか」
ゴルドルフの言葉をバッサリと斬り落とすかのように、ダ・ヴィンチは、ゴルドルフを睨みながら言う。
「マスターである上、シオンは名うての霊子ハッカーだ。ネモ自身が隠そうとしたって、全部筒抜けなのさ。さらに言うなら、艦内の出来事のほとんどが、ネモを通して、ね」
「ま、待て!」
ゴルドルフが言葉を紡ごうとした時、それより先に、ムニエルが素っ頓狂な声を出した。
「マシュもって……つまり、マシュも!?」
言葉がゲシュタルト崩壊を起こしかけていたが、意味は伝わった。
「ああ。私達に隠れて、立香ちゃんと連絡をとっていたよ。それに、この世界の日本政府ともね」
憤りの中に、哀しげな気配をわずかに混ぜて一度目を閉じ、ダ・ヴィンチはそう答えた。
「一体どうやって……?」
そんな方法があったんだ、と、ムニエルが言う。
「具現化人格軍艦のゆうだち、彼女から携帯電話とノートパソコンを借りていたんだ」
ダ・ヴィンチは、そこまで言って軽くため息を
ムニエルが手で顔を覆った。
「電話は立香ちゃんの方からかかってきていた。あの携帯電話の番号を知っているってことは、立香ちゃんは少なくとも日本政府の誰かと接触したってことになる」
そう言って、ダ・ヴィンチは再び2人を睨んだ。
「マシュはまだ戻ってきていない。多分戻ることはないんだろう。少なくとも味方としてはね」
ダ・ヴィンチは、声を低くして言った。
「…………俺達、だってさ」
ムニエルが声を出す。
「俺達だって、もうギリギリなんだよ! そりゃ、人理修復の時はカルデアの南極施設でぬくぬく後方からやってた人間が、この程度で、って言われたら立香やマシュには悪いと思う。けど、南極を脱出してからこっち、ずっと、本心から休まることなんてなくてさ! そこへ持ってきて、この世界だ。立香がどれだけ葛藤して脱走したのか、そりゃ俺達には解かんねぇよ! だって、俺達は、少なくともあいつ程汎人類史に思い入れがあるわけじゃないんだから!」
堰を切ったかのように、ムニエルは一気にまくし立てた。
ダ・ヴィンチ、それにゴルドルフも目を大きく広げて、ムニエルを凝視している。
「今日、この世界で時計塔の
ムニエルの言葉を聞いて、ダ・ヴィンチは、一瞬だけチラリとゴルドルフに視線を向けた。ゴルドルフが気まずそうにしているのを確認してから、視線をムニエルに戻す。
「国家が魔術を独占的にしているなんて、現代社会じゃろくなもんじゃない!」
「ああ、そりゃ、
「…………日本人の考え方に基づけば」
ムニエルの言葉を、ゴルドルフが引き継ぐ。
「神秘は広く知られているほど強さを増す、からな。この世界でもあくまで科学が “主” で魔術は “従” だが、神性と科学技術が並立できる価値観に支配された世界で、魔術が
「消せねぇよ、この世界は消せねぇよ。俺達には眩しすぎて……消したら、俺達がただの惨めな負け犬になっちまう……」
2人の言葉に気圧されて、一瞬、ダ・ヴィンチはたじろぐが、
「だからといって、汎人類史と人理を無視した世界に書き換われば、地球自体が ────」
「
そう、言い返しかけた時、背後から別の女性の言葉とともに、硬いものが後頭部にあたったのを感じた。
「カドック……キミは……」
両手を上げた姿勢から、身体を動かさないように背後を伺うようにしつつダ・ヴィンチは苦い声を出す。
「僕は元クリプターだ。汎人類史それそのものを使命にしていたわけじゃない。僕が味方していたのは “カルデアという組織” だ。そのカルデアがバラバラになりかけている今、誰に共感を置くべきなのかは自分で判断する。ダ・ヴィンチ、お前やシオンじゃない」
「マスター、処置は?」
ダ・ヴィンチの後頭部に銃口を突きつけたまま、アナスタシア・オルタは訊ねる。
「流石に今消すのはまずいか」
「Да.」
カドックの言葉を受けると、アナスタシア・オルタのブーツ、『人民皇帝の銅靴』の両踵を結んでいる鎖、『極北監獄』が伸びてくる。一定の長さになったところで、アナスタシア・オルタが手に取ると、踵を繋いでいる分からは切り離された。
「霊子さえも凍る、凍てついた監獄を象徴する鎖よ。サーヴァントでも……いえ、サーヴァントこそ、これで戒められたら身動きは取れなくなる」
そう説明しながら、アナスタシア・オルタは『極北監獄』でダ・ヴィンチを縛り上げた。
「ひょっとして、それ、アナスタシアか……オルタ?」
ムニエルは、思わずアナスタシア・オルタを指差してしまう。
「流石に “それ” 扱いは不敬よ、仮にも元皇帝に向かって」
アナスタシア・オルタは、淡々とした口調と表情でそこまで言ったが、
「なんて、ね」
と、悪戯ッぽく笑って、ウィンクした。
カドックは、目元を手で覆うようにして頭を抱えた。
茨城県つくば市、アニムスフィア邸。
オルガマリーの私室もまた、日本住宅の様式の範疇を出ない変形8畳相当の洋室だった。それも重厚感をあまり重視せず、圧迫感のない明るい色使いだ。収納も引き違い戸で、クロゼットと言うよりは、『押入れ』の呼び方のほうがしっくり来る。
調度品も、ダブルベッドはしっかりとした作りのものだが、派手な豪奢さはない。それに小説や少女漫画の類とビデオソフト類、使い古したノート類が詰まった本棚と、プリンタ台のあるPCデスク。どれも、場所を考えれば出どころはジョイフル本田か山新グランステージといったところだろう。
それに、ダイニングから玉突きしてきたブラウン管式のテレビ。流石にアナログ放送は終了していたが、ビデオデッキのチューナー経由で放送を受像できるようにしてある。そのビデオデッキは、HD-DVD
また女性の私室らしく鏡台も置いてあるものの……──── というか、完全に日本独特と言うと語弊があるものの、そもそも収納と姿見が一体になった鏡台そのものが日本の昭和文化の中で生まれた様式だったりする。
唯一、イギリスから持ち込まれたライティングビューローが、この中では若干の違和感を持つが、この部屋の主が、このあたりのミスマッチに無頓着な日本人だと言ってしまえば、それまで程度だ。
パソコンは
そのパソコンで、OAチェアを前後逆に腰掛けたアストルフォが、少しだらけた様子でWDN巡りをしていた。すでにパジャマ姿だ。
カチャ……
廊下への扉が開き、その音に、アストルフォが視線をそちらに向ける。
ネグリジェ姿のオルガマリーが入ってくる。身体のラインが透けて出ているが、日本式の風呂で温まってきましたという雰囲気がそれとはチグハグさを生み出しつつも、しっとりとした色気を演出している。
「よーいしょっと」
アストルフォは声を出して立ち上がると、せっかくの英国式ライティングビューローのイメージをぶち壊しにするカラーボックスをその足元から取り出し、その中から
「はーぁ」
鏡台の前でドレッサーチェアに腰掛けたオルガマリーの、まだタオルドライしただけの髪を、ブラッシングしながらドライヤーでヘアブローしていきながら、アストルフォは声を伴ったため息を吐いた。
「どうしたのよ。そんな疲れたような顔しちゃって。アンタらしくない」
「いや、だってさ……」
オルガマリーが訊ねると、アストルフォは、実際彼らしくない、少ししょんぼりしたような表情で答える。その間も、手は止めない。
「元々首突っ込んだのはボクだって言われたらそれはそうなんだけどさ、なんかここ数日、立香の事ばっかりになっちゃって、
「なんだ、そんな事」
オルガマリーも苦笑する。
「わざわざ関わり持ったのは私だって同じだし、子供みたいに機嫌悪くしたりしないわよ」
「それはまぁ、有り難いけど、肝心な事があるじゃん」
「肝心なこと?」
アストルフォの返しに、オルガマリーは、不思議そうな表情で鸚鵡返しにする。
「ボクが寂しいの」
「プッ」
アストルフォの答えに、オルガマリーは吹き出す。
「前言撤回。思いっきりアンタらしかったわ」
「そんな笑わなくたっていいじゃん」
アストルフォは唇を尖らせる。
「それこそ、
「むぅ……それも正論」
オルガマリーの言葉に、アストルフォはわざとらしく眉間に皺を寄せる。
「でも、お願い」
「え?」
オルガマリーが、鏡越しにアストルフォを見ながら、言う。
「私も、なんだかあの娘は放っておけなくて……」
「うん、マリーのことで、なにかあったみたいだからね」
「それは別の世界のオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアとのことで、私じゃないのかも知れないけど、今更放り出すのも、目覚めが悪いでしょう?」
「まぁ」
アストルフォが短く返事をしたところで、オルガマリーがすこし真摯な表情になった。
「私はアンタに助けられてきた。お父様は私に無関心だったし、特にイギリスにいた頃は、周りの人間もずっと私のことは認めてくれなくて……うん、セレスタがいてくれたから、本当に孤独にはならなかったし、極端に追い詰められることはなかったけど」
オルガマリーはしんみりとした表情と口調で言う。
「カルデアス建造の最終段階になって、私じゃなくてセレスタがカルデアスと魂を共有することを知らされて、直後にお父様が失脚して……カルデア関係者として護衛のサーヴァントを召喚することにはなったけど、あの時は結構ギリギリで、破れかぶれで……そしたら、アンタが来た」
「しんみりしてたのに、なんでそこで急に、冗談みたいに笑い飛ばすような顔になるかなぁ」
アストルフォは、オルガマリーの表情の変わり方に、自分も苦笑しつつ、
「ごめんごめん。でも、助けられたっていうのは本音よ。失敗も、成功も、相応に笑い飛ばしてくれるアンタがいて、参ってた私は本当に救われた」
オルガマリーは、笑いながらも、本心からそう言った。
「そう言ってくれるのは、嬉しいけどさ」
「だから、今は、困っている
オルガマリーは振り返り、言う。
「ボクは包装の剥がしやすいお歳暮じゃないんだけど、まぁ、マリーがそう言うなら、そうするよ」
オルガマリーのヘアブローを終えて、アストルフォはドライヤーを鏡台の上に置いて冷ましつつ、ヘアブラシに絡まった毛を取り始める。
「でもやっぱり、ちょっと寂しいかも」
「じゃあ……──── する?」
「へっ?」
誘われて、アストルフォは一瞬、キョトン、とすると、
「いいの? ちょっと我慢が効かないかもよ?」
と、まずは冗談めかして言う。
「もちろん」
「!」
──────── 成人ならまだ宵の口、といった時刻だが、アストルフォに片付けを中断させると、2人はベッドになだれ込んだ。
「…………気を張り詰めて、緊張の糸が切れたところで寝る、って言う感じが続いてるな」
日付の変わる頃、和室。
力尽きたようにうつ伏せで寝る立香の頭を撫でながら、ブーディカは呟いた。
「何かしら進展があると……この娘の新しい目標になることでもあればいいんだけど……」
そこまで、声に出して呟いた。
「!」
ブーディカの表情が、俄に険しくなり、視線を立香から、窓の外に向ける。
「ごめん立香、ちょっと行ってくるね」
そう言って、ブーディカは、そっと立香の傍らから立ち上がり、和室を抜け出す。
「あっ」
その、まさに部屋を出たところで、デオンと遭遇した。
「気づきましたか?」
「そりゃ、ここまで嫌な気配は、私でも気づくよ」
デオンの言葉に、ブーディカはそう返す。
「できれば、住宅街ではやり合いたくないけど……」
「北側の、整骨院の裏手の空き地にでもおびき寄せますか」
「できる?」
「相手次第ではありますが、今の私でしたら」
そう言いつつ、デオンは、衣装の懐から、中折式のリボルバー銃を取り出した。
「アンタの時代って、もうちょっと前じゃなかったっけ?」
「ええ、でも、近現代のアサシン霊基だと、手投げの飛び道具だけじゃ、それ以前の方々を相手にするのはきついですよ」
ブーディカの意外そうな言葉に、デオンはそう言いつつ、桑原製軽便拳銃の姿をしたそれの装弾状況を確かめる。ただ、そのものではない。サーヴァントの身体や他の霊装と同じ霊子体だ。
「じゃ、先に行きます」
「うん」
デオンが、北向きの掃き出しの窓から風のように飛び出していく。ブーディカも裏庭に降り、そこで霊体化していた武装を実体化させる。
「ごめーん、ちょっと遅れたー!」
そこへドタドタと、アストルフォが、階段を駆け下り、廊下を走ってきた。
「遅ーい! デオンが整骨院裏手の空き地におびき寄せるって言ってたから、先行ってるよ」
「えーっ!」
ブーディカが高く跳躍すると、アストルフォは慌てて裏庭に飛び出し、その背中に向かって言う。
「そのさらに北側にはワイナリーがあるんだ! ぶどう畑を巻き込まないでよーっ!」
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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