Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
日付が変わり、大通りにはまだクルマの通りがあるが、住宅街は寝静まりつつある時刻。
タックメイトつくば栗原店。
汎人類史でもおなじみのコンビニエンスストアだが、アメリカ合衆国発祥のこの単語はこの世界に存在しない。単純に “超・
黎明期には “道のキオスク” とも呼ばれたが、結局昭和44年にチェーンストアとして大阪で開店したマイショップ マミイ豊中店が完全な原型とされて、一時期似たような形態の店全体が『マイショップ』と呼ばれた時期を経て、法律・経済用語として『マイマート』とこの形態を呼ぶようになった。
現在世界最大の “マイマートチェーン” と言えばファミリーマートだったりするが。
──── 閑話休題。
そのタックメイトの店舗で、銀色の癖のある髪の女性が、カウンターで精算をしている。
「22円と3銭になります」
POSレジスターで計算しつつ、品物を手提げ付きの紙袋に入れ終えた店員が、表示された金額を読み上げる。
「Budding payでお願いします」
「かしこまりました」
銀髪の女性がICカードを提示しながら言うと、店員が電子マネー決済を選択し、レジスターはICカード読み取り台のガイドランプを点灯させた。
「どうぞ」
店員に言われ、カードをタッチさせる。ピピピッと電子音がして、レジスターの画面が精算を終えたことを、残りのストア金額の表示とともに告げる。
「ありがとうございました」
「どうも、お世話様でした」
店舗を出て、道路を歩く。
「…………」
すると、黒い靄の塊のような人影が、銀髪の女性の後を追って、音もなく動き始めた。
レトロなホーロー傘の電球街路灯 ──── 無粋にも電球型蛍光灯が取り付けられたそれに、防犯のために追加されたLED街路灯が混ざって点在しているが、それでもこの時間の住宅街と農地の境あたりの街路は明るいとは言えない。
銀髪の女性は、一応はセンターラインの描かれた県道200号を、もと来た方角とは逆に歩き始めた。先程は、店舗の駐車場も面している、県道128号の交差点を渡ってきたが、それが貫通している桜地区・上野地区の住宅街から離れていく。
地元系運送会社の車庫をすぎると、いよいよ道路の左右とも農地か休耕地になる。
銀髪の女性に向かって距離を詰めようとすると、その銀髪の女性の方が、突然走り始めた。
途中、路地に折れてさらに駆けていく。
そこには、やや広めの面積が、造成でもするのか、休耕地から整地されていた。
「!?」
周囲を見回すが、確かにここに駆け込んできた銀髪の女性の姿がない。
「誰、探してるんだい」
「!?」
突然かけられた声に、黒い靄の人影がそちらを振り返ると、赤い髪に銀の槍を携えたサーヴァント ──── ブーディカが立っていた。
「アンタは……」
その姿を見て、ブーディカが言葉を途切れさせる。僅かに一瞬だが、呆然と立ち尽くしてしまう。
「いけません!」
黒い靄の人影が、投擲のモーションに入る。
銀髪の女性が、懐からクラシックな小型リボルバーを抜き、黒い影に向かって発砲する。
バスッ、バスッ
.32ACP対応汎用品のサプレッサーを着けた桑原レプリカがくぐもった発射音をたてるが、すでに黒い靄の人影はそのモーションを完了させていた。
人影と同じように、黒い靄に包まれつつも、鈍く赤く光る棒 ──── 槍が、ブーディカめがけて迸る。
「っ!」
寸でのところで、右に身体を反らせてそれを躱す。これが
「このっ!」
射撃を受けて態勢を崩した黒い靄の人影が、次のアクションを起こす前に、ブーディカが一気に間合いを詰める。
「くっ」
槍での刺突は躱される、が下側を抉るような動作からハイキックを繰り出し、黒い靄の人影の側頭部を強烈に蹴飛ばす。相手は転がるように跳ね飛ばされた。
「なんで……」
今度は隙を見せずに構え直しつつも、不快そうな口調で疑問を声にする。
「なんでこの世界に、シャドウサーヴァントがいるんだよ!?」
召喚時の魔力不足や、霊基が損傷しつつも退去が不完全になったサーヴァントなど、不完全な霊基で現世に残留しつつ、それが悪性の魔力や怨念と結びついたもの。
だが、魔力が潤沢で、なおかつ “文明の守り手” であることが求められると同時に、聖杯のような願望器・魔力リソースではなく『現代おもしれーからもっかい半生やってみない? ん?』と呼び出すこの世界の英霊の座は、このような存在を許さないはずだった。
シャドウサーヴァントの手に、投擲したはずの槍が戻ってくる。
その瞬間、ブーディカの方から仕掛けた。
シャドウサーヴァントも、迎え撃つかのように槍を構える。
バスッ、チンッ
桑原レプリカの発射音、弾丸が金属のなにかに当たって弾ける音がする。その
ブーディカが一気に間合いを詰める。今度は、相手に躱す余裕はない。
「
マスターの立香がいない手前、限定的な展開だが、とどめを刺すために発動させる。銀色の槍が、炎が滲み出すかのように赤黒い光を纏った。そのまま、その槍がシャドウサーヴァントを貫いた。
シャドウサーヴァントはそのまま、僅かに破裂したようになった後、全体が砂礫のように崩れて、消えていった。
「──── !」
ぱち。
目が覚める。
仮の滞在地か、居候先と言うべきか、とにかく先日から生活させてもらっている、アニムスフィア邸の和室。
敷布団に腕をついて起き上がる。周囲を見回す。ブーディカがいない。
「────」
ガラッ
立香が何かを言葉にしようとした時、部屋の襖 ──── 内側からは襖に見える、引違い戸を開けて、セレスタが入ってきた。
「終わったわよ」
「え?」
セレスタの言葉に、立香は思わず短く訊き返す。
「パスが繋がってるんだから、無事だってことぐらい解るでしょ?」
「あ、うん……」
言いながら自分の隣、布団の端の外側に腰を下ろすセレスタを、立香は、曖昧な返事をしながら、自分も敷布団の上に座る。
「はい」
セレスタは、立香に向かって大きめのマグカップを差し出してきた。
中身を見ると、温められた牛乳がほんのりと湯気を立てている。
「ホットミルク。落ち着くわよ」
「あ、ありがとうございます」
立香はマグカップを受け取り、軽く息をフーッと吹きかけてから、口をつける。砂糖が入れてあって、程よい甘みがあった。
「なにが起こっているのかは、私にもだいたい伝わってきてるから」
「えっ?」
セレスタの言葉に、立香は軽く驚いたように視線を向けた。
「天文部藩王位、私の実質的な上役ね。その人が、
「…………そういう、事ですか……」
セレスタの言葉を聞いた立香だったが、視線は伏せがちになってしまう。
「まだ、役者は揃ってないんでしょう? 貴女の方も」
「え……」
セレスタに言われて、今、そばに居てくれるブーディカには悪いと思ったが、マシュの顔が脳裏をよぎった。
「そう、かも」
「その間、もう少しのんびりしていなさい。今までずっと、休まらなかったんでしょうから」
「え……」
セレスタの言葉に、立香は顔を上げて、その顔を見る。
── !?
一瞬、セレスタの顔が、別の人物に見えた。
「えっと、あの」
「じゃあ、私はデオン達をねぎらってくるから」
立香がどう問おうか言葉を選びかけたところで、セレスタは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「あ、私も行きます!」
「なんでシャドウサーヴァントが……」
ブーディカは立ち尽くし、再度その疑問を口にする。
「単純に考えれば ────」
デオンが、被っていた
「── 汎人類史から入り込んできた何か、ということでしょうね」
「立香のせいだって言うの!?」
ブーディカは驚いた表情をしつつ、責める様子ではないものの、デオンに向かって声を上げる。
「それ以外に要素がない以上、その面はあります。ただし、立香さんが悪いわけではありません」
デオンが答える。
その最中、アストルフォがすでに武装を霊体化して、上野駅で立香と会ったときのような、ピンク色のジャケットを着て、ズボンのポケットに手をつっこんだまま歩いてきたかと思うと、彼にしては珍しく、仏頂面のまま、デオンが手に提げていたタックメイトの袋を覗き込む。
そして、そこから1つの缶飲料を取り出す。サントリー ストロングゼロダブル完熟梅の350ml。
「あ、それはセレスタに頼まれたもので……」
デオンが言い切るより早く、アストルフォはそれを彼方の方角に向かって投げた。
ガンッ
「ぶげっ!」
衝撃音と、悲鳴だかなんだかの男性の声が聞こえてきた。
「まだ誰かいたの!?」
「追っても無駄だと思うよ」
ブーディカがいきり立つように声を上げたが、アストルフォがそう言った。
「…………確かに、気配が消えました」
デオンが言う。
「今のところは、あっちも威力偵察ってところか」
「おそらく……」
ブーディカが呟くように言うと、デオンが同意の声を出す。
「あーっ!」
さらに袋の中を弄っていたアストルフォが、嘆くような声を出した。
「スーパードライじゃーん……せめてモルツにしようよー」
ぼやくように言うアストルフォに対し、デオンが戯け混じりにも眉間に皺を寄せる。
「高いのはカスミで買う時にしてください」
ストーム・ボーダー、管制室。
「それで、今後についての行動方針はあるのか、新所長」
カドックがゴルドルフに訊ねる。
「……今のところは、追加の情報待ちというところだが……」
「そう言うということは、向こうからなにか持ちかけられたってことね」
どこから話したものかと考えていたゴルドルフの言葉に対して、アナスタシア・オルタが言った。
「はっきり言っちゃいましょう、新所長」
「そうだな」
ムニエルが言い、ゴルドルフが同意する。
「白紙化地球にこの世界が定着するのはもう避けられない……ノウム・カルデアの責任者が断定的に言ってしまってはいかんのかもしれないが」
「……いや、
「汎人類史の人理の概念は、この世界にはそぐわないけどね」
カドックの言葉に、アナスタシア・オルタが付け加える。
「だからといって、僕個人としては立香を責める気にもならないな」
「それは、俺達も思い知ったよ」
カドックが言い、ムニエルが同意の言葉を出した。
「確かにマグダレーナさんは護衛のためにサーヴァントを連れていたけど、あくまで護衛だからな。他人をどうこうしようとは考える人じゃなかった。ロードに匹敵する人が、だぜ?」
「だから僕はそのあたりを問題にしようとは思っていない。それ以上のことがあるんだろ?」
「ああ」
カドックがそう言って促すと、ムニエルとゴルドルフが目配せした。
「つまり……だ。この世界が地球に定着しても、
「!」
ゴルドルフの説明に、カドックの表情が強張った。
「それらはもう存在意義はないのかもしれない。だが、地球に対応する “在り処” があったはずの代物を、強引に上書きしようとすれば……────」
「濾過異聞史現象が発生する……いや、すでに汎人類史の情報の価値はこの世界を上回るものではないだろうが、その過程で情報の衝突が発生すれば、この世界に大混乱が起きる……な……」
ゴルドルフの言葉に続くかたちで、カドックが呟くように言った。
「お前にこんな事を言うのは変かもしれないが、これ以上わざわざ犠牲を出すのは意味がないだろう!?」
ムニエルが問い質すように言う。
「仮に汎人類史に戻すにしても、強引にやるのは意味のない犠牲を出すだけだ。僕は快楽殺人者じゃない」
苦い顔で、カドックはそう返した。
「そうだ。これは汎人類史の残滓だ。それによって被害が出る。
「後半がなけりゃ、かっこよかったんだけどなぁ……」
ゴルドルフは険しい表情で言ったものの、それを聞いていたムニエルは、若干呆れ気味に言い、頭を掻く仕種をした。
「この世界のムジーク家?」
キョトン、として、カドックが訊き返す。
「ああ、実はな……」
ムニエルが説明して ────
「……んん……ぅ゙ゔ……」
カドックは両手で口を押さえつつ、くぐもった声を漏らしている。もちろん吐き気がするとかそう言うわけではない。笑ってしまうのを堪えているのだ。
彼の性格上、言葉で説明されただけならこうはならなかったかもしれないが、ムニエルの手には、連絡用にとマグダレーナに持たされたMCフォンがあり、その中にはマグダレーナのMCフォンからコピーした “この世界のゴルドルフ” の写真も入っていた。
そのムニエルは、何故か口元で不敵に笑っている。
「はぁっ……はぁっ、はぁっ、とにかく、だ」
なんとか笑いの衝動を抑えきったカドックは、息をつきながら、
「確かに僕が言うのは今更かもしれないが…………いや、見過ごすわけにもいかないな。その大本がマリスビリーだって言うなら、なおさらだ」
「敗戦処理ね」
それまで、3人の会話を聞いていたアナスタシア・オルタが、そう言った。
「気に障ったのなら謝るわ」
3人の視線が集中したことに気付いて、アナスタシア・オルタはそう言った。
「いや、そのとおりだな。まぁ、幸か不幸か、私はこの手の仕事には慣れている」
「新しい人類史に、迷惑はかけられない、か」
妙に落ち着いているゴルドルフに対し、ムニエルの表情は複雑だった。
カドックは、管制室の窓から、沿岸部を見た。
神性と科学技術の両立する世界の中枢、不夜の街。
「キリシュタリアがこの世界を見たら、どう言っただろうな……」
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。