Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
東京湾、ストーム・ボーダー、電算室。
ダ・ヴィンチはここに監禁されていた。
「…………」
アーチャー霊基のオルタだから限界値が低いのか、それとも意図的なのか、身動きは封じられつつも、ダ・ヴィンチのサーヴァントとしての活動は完全には氷結されず、思考は続いている。
トリスメギストス
シオンだけではなく、ネモ・プロフェッサーの姿もない。
「…………」
立香やムニエルのこの世界に対する感情は、理解できているつもりだった。
ただ、それを認めることはできない。
なぜなら、
今はその段階には達してはいないが、もしそれを心の底から肯定してしまったら、自分はさほど時を経ずして活動限界を迎えることになる。
── でも。
認めなかったところで、なにができるというのだろうか、とも思う。
カドックが言っていたとおり、 “
── こんな時に、シオンはどこへ……
カラララ……
本来は自動ドアだが、動力が切られているそれを開けて、ネモ、ネモ・キャプテンが、何人かの人物を連れて入ってきた。
「!」
その、ネモの直後に入ってきた人物を見て、ダ・ヴィンチは緊張を強くする。
「ふむ……」
ネモに連れられて、何人かの政府職員と、海軍士官、それに、マグダレーナとともにストーム・ボーダーの電算室に入ってきた大和は、見上げる姿勢でトリスメギストスIIを一瞥する。
「確かに処理能力は私を上回っているようね。スタンドアロンのコンピューターとしては素晴らしいものだと言えそうだわ」
女性らしい口調で言う。大和の普段の口調はこちらだ。国の威信がかかっているときに、男性のようでかつ、高圧的な口調になる。
それを余所に、マグダレーナはダ・ヴィンチの正面にまで歩いてくると、腰を屈め、座った状態で『極北監獄』によって戒められているダ・ヴィンチの顔を覗き込んだ。
「どう? なんとかなりそう?」
ネモが、マグダレーナに問いかける。
マグダレーナは、顔を上げてネモの方を見、
「我々の設備で見てみないとなんとも……」
と、そう言って、身体を起こし、前髪の生え際を掻く仕種をした。
実際のところ、マグダレーナが天文部藩王位に迎えられたのは、マリスビリーのスキャンダル後で「調停役として事務屋が務まるゼネラリストで、西洋魔術師であること」が条件だった。カルデアス運用の為に、オルガマリー、セレスタは排除できないために、この2人のことを考えると日本人魔術師ではないほうが望ましい。という事で、ムジーク家が候補に上がった。
ムジーク家の本来の専門は、ホムンクルスや霊子体人形といった半人造生命だ。 “汎人類史ゴルドルフを見捨てるべきではない” とした占星装置も、こちらの技術の応用によるものだった。
しかも、マグダレーナ自身が霊子体人形なのである。本来本家の嫡男であった “この世界のゴルドルフ” が魔術に対しての関心が弱かったために用意されたバックアップだった。最終的にゴルドルフがラリーストに走ってしまったために、マグダレーナが正式に当主になった。
魔力が潤沢なために長命化しやすく、また日本の価値観が支配的なこの世界にあって、ホムンクルスや霊子体人形を使い捨て・人格に価値のないものと考える風潮は極めて薄い。道具として造られる存在でも、その道具に魂が宿るという考え方だからだ。
──── なので今回、マグダレーナは天文部藩王位というより、霊子体を専門とする魔術家系の長として呼ばれていた。
「シオンと違って、ダ・ヴィンチは “在り方” さえ変えられれば、今の流れに対応できると思うんだ」
「100%をお約束はできませんが、できる手は打ちましょう」
ネモの言葉に、マグダレーナは、真摯な、しかし楽観的ではない表情で答えた。
「お願いするよ」
ネモがマグダレーナにそう押して頼んだところで、
「艦長」
と、今度は大和がネモに言葉をかけた。
「このコンピューターの性能はかなりのものと見ましたが、艦そのもののシステムとしては、直結はしていないようですが……」
「ああ、うん、これから機関室に案内するよ」
ネモが答える。
「緊急時のことを考えて、陸上の滞在地も押さえるようには言ったけど、できればストーム・ボーダーは移動拠点として彼らに残してあげたい」
身動きが取れない中、ダ・ヴィンチはネモがそう言うのを聞いた。
「南極のこともあるからね」
「まずは魔力炉を我が国のものに替えるのは必須になるでしょうけど……」
大和はそこまで言って、視線をネモからマグダレーナに移した。
「セレスタ・アニムスフィア所長は『カルデアと名がついている以上、私達の権利の下にあると主張する』と言っています」
「そうすると軽視もできないか」
マグダレーナの言葉に、大和は、糸目に口が左右に広がった表情で、やれやれ、と言ったように言った。
「ただ、実際作業を行うとなると……────」
大和がそう言いつつ、彼女とネモは、海軍士官服の人間とともに、機関室へ向かうために、電算室を出た。
「── 横須賀や追浜、呉、長崎あたりはダメですね。都市が発生させるノイズが大きすぎる」
通路を歩きながら、大和はネモにそう言った。
ただの鋼鉄の船とは違う。ストーム・ボーダーに、魔力の質、構成からこの世界にあわせるための工事を行うとなると、過密の大都市が発生する電磁波や魔術的ノイズが小さい場所で行う必要があった。
「可能な場所の候補はあるの?」
「小樽。ニセコにある魔術観測所の関係で、あの辺りは対策されています」
ネモの問いかけに、大和はそう答えた。
「問題はそこへ回航するだけの力が残っているかどうか、か……」
ネモは、難しそうに眉間に皺を寄せた表情になって、そう言った。
ネモの予感通り、シオンとネモのパスはまだ繋がってはいたが、シオンは魔力の流れを絞ってきていた。ネモが現界するのに最低限しか流れてきていない。
大気中の
ネモ自身、分割思考を停止させてネモ・シリーズを格納し、魔力消費を最低限まで絞って、なんとか現状のストーム・ボーダーが崩壊しないように努めていた。もちろん、戦闘艦として使えるような状態ではない。
「その間の維持は私自身がなんとかしますよ」
大和がネモを安心させるかのような笑顔でそう言った。
茨城県つくば市、アニムスフィア邸。
そもそもアニムスフィア邸がなんでつくば市にあるのかと言うと、汎人類史のJAXA同様、この地に日本の宇宙研究施設が設けられているからに他ならない。
カタカタカタカタ……
私室で、セレスタがパソコンに向かい、報告書やその添付資料の作成に
テレビはリビングのものほど大きくないものの、コンポーネントステレオとともにラックに載って置かれている。ただ、ビデオデッキは外されていて、アンテナ線と映像デジタルにピンジャックオーディオのAVケーブルが前に垂れ下がっている。
パソコン台も和室用ローデスクで、作業用回転座椅子に座り、EPSON・98互換BIOSの自作機のディスプレイに視線を向けて、作業を続けていた。
「よし」
Just Focusでひとつの資料を作り終え、キーボードから手を離してマウスで保存操作をする。そのもう一方の手で、畳の上に置いてあったドクターペッパーの瓶を手繰り寄せる。
『製造所 アサヒ飲料株式会社 群馬工場』とラベルに記述されているそれを一度煽ったところで、
ピリリリリリ……
と、携帯電話の着信音が鳴り始める。もちろんダイヤルガラケーではなく、MCフォンだ。
セレスタはそれを手に取り、発信者を確認してから、通話ボタンを押した。
「はい、もしもしセレスタのアニムスフィアです。……ああ藩王位、お疲れさまです。ええ、夕方には都内に移ろうかと。……は? まだ待機? ……なるほどそれで、小樽」
そこまで話が進んで、セレスタは表情を怪訝そうにしたかと思うと、
「…………私もですか!?」
と、突然、素っ頓狂な声を出した。
『まだ正式な判断は出てないけど、もし
── メンツで余計なこと言うんじゃなかった。
セレスタは胸中でそうボヤきつつ、
「はい……解りました」
と、疲労困憊したかの様子でそう言った。
座椅子に座り直すと、
「とりあえず送るファイルだけ送っちゃってと……」
Just Focusや、ワードプロセッサの一太郎のファイルを、ディレクトリに纏めてLHA 3.0で圧縮をかけた後、メールクライアントから、各送り先に送信する。
そうしていると、コンコン、と、片開きの、室内側が襖風になっている引戸がノックされた。
「何ー?」
PCに向かったまま、セレスタが扉の方に向かって声をかけると、カラッ、と扉が開いて、デオンが顔を出す。
「ちょっと早いですが、買い出しに行こうかと」
「んー……」
デオンの言葉に、セレスタは少し考えてから、
「立香達も一緒?」
と、訊いた。
「ええ、はい」
「じゃあ、私も行くわ」
「いいんですか? 日用品もありますよ?」
セレスタが立ち上がると、デオンが訊き返した。
「じゃあクルマが要るんじゃない」
「それは、そうなんですが」
「丁度いいから私のコレクション走らせる」
「解りました」
デオンは苦笑しながら先にリビングに戻った。
ショルダーバッグに財布を入れ、ポケットにMCフォンを入れ、セレスタは立ち上がった。
「あれ、最初の日とは違うクルマだ……」
立香が、セレスタが出してきたAA型ホンダ シティ ハイパーシフトを見て、そう呟いた。
「セレスタさんの趣味なんです。ヴィンテージコンパクトカーのコレクション……」
デオンが、苦笑しながら言い、頬を掻く仕種をした。
「あ、しまった」
運転席のセレスタが、窓を開けながら言う。
「動かしときたいと思ってこれ出してきちゃったけど、4人乗るなら5ドアの方が良かったわね」
「あ、大丈夫ですよ」
笑顔で、身体の前に突き出した手を振りながら、立香は言う。
「ね? ブーディカ?」
「座席はあるんだし、ちょっと手間がかかるぐらいだし、立香がいいんならそれで」
立香に
「じゃあ、こちらから」
デオンが助手席のドアを開け、その助手席を前に倒す。そこから、立香とブーディカが後部座席に乗り込んだ。
「私が南極にいる間、お姉ちゃんにたまに乗っといてって言ってあるのに、全然……特にこれとジャスティは過給器後付だからオイル回さないと動かなくなっちゃうのに」
セレスタがぼやいたところで、デオンが助手席に収まり、ドアを閉めた。
「日用品だから、山新でいいのよね?」
「はい。お願いします」
セレスタが問いかけると、デオンが答えた。
「出すわよ」
ギアを1速に入れ、そう告げてから、シティを発進させた。
「まぁ私のコレクション邪道なんだけどね。過給器欲しいからないモデルは
「は、はぁ……」
セレスタは苦笑しながら自嘲というか謙遜するように言うものの、立香にはなんのこっちゃか解らない。わからないが、とりあえず愛想笑いと曖昧な返事をした。
「あと動かしてないのは101シャレードか。あれはディーゼルターボなんだから油代建て替えても安いと思うんだけど」
「EP82のスターレットターボ、いいのがあったら
運転しながら呟くセレスタに、立香とブーディカは顔を合わせ、肩をすくめる仕種をしつつも、微笑ましそうに笑った。
山新グランステージつくばは、アニムスフィア邸からは7km以上離れているが、北関東の住民にとってクルマで20分は「ちょいとそこまで」の範疇だ。
桜地区はやや外れるものの、筑波研究学園都市周辺は、こことジョイフル本田荒川沖店という巨艦店同士の
「ティッシュにトイレットペーパーに風呂用洗剤洗濯洗剤、台所用洗剤にG用トラップ……台所用スポンジも!?
「ええ、もう、『有ればいい』になっちゃってるみたいで……だいぶボロボロでしたし」
セレスタの驚き混じりの呆れ声に、デオンも苦笑しながら言った。セレスタが目元を手で覆う。
この2人は普段、日本を離れていることの方が多いのだ。
「えーっと、ここまででだいたい物の値段が1/60ぐらいだって解ってきてるから、えーとー」
立香が、物の値段をざっと計算しようとする。
「えっ、この世界、ティッシュとかすごく安いんだ」
「そうなの?」
立香が軽く驚いたように呟くと、ブーディカが訊ねるように言う。
「うん、素直に換算したら、箱ティッシュ1個分でこっちだと4つ買える」
「へぇ」
立香とブーディカはそう納得したものの、実は住んでいる場所の問題が大きかったりする。藤丸家は都内のそれも高地価地帯にあるものだから、物価も高くなりがちだ。汎人類史でもこれぐらいの較差があったのである。
「よいしょっと」
リアハッチからカーゴスペースに荷物を積み込んで、そのドアを閉める。
「ねぇ、ちょっと小腹が空かない?」
「あ……ちょうどお昼ぐらいですよね」
セレスタに言われて、立香がそう反応しつつ、自分の上腹部を手で押さえる仕種をした。
「じゃあ、ファーストキッチンでも寄っていきましょうか」
「あ、ファーストキッチンもあるんですね」
立香が言った。汎人類史でアメリカ合衆国発祥の企業がいくつかが、この世界に存在しないことに気付いていたからだ。特にそれを強く意識したのはセブンイレブンが無かったことだった。
ファーストキッチンは日本の企業だが、このジャンルの大元になるマクドナルドが無い可能性があった。実際には存在しているが、マクドナルド兄弟時代のカリフォルニアはダウニーの古い3号店が日本人実業家の目に止まり、日本企業の出資を受けて拡大したという企業史になっている。なので総本社は大阪府の門真市にあったりする。
「寄っていくのは?」
「賛成です」
「じゃ、行きましょうか」
セレスタの問に立香が答え、4人は店舗の方に戻るかたちで移動を始める。
プパー♪
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