Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-09

 プパー♪

 

「…………!?」

 立香達が歩きだして僅かに経った時、空から、ラッパのような、ブザーのような音が響いた。

 それと同時に、立香達の視界から、光景が三原色を分解したようにズレて見え、その後、周囲が僅かに色褪せたように見えた。

「これは…………」

「戸惑っておられるご様子。しかし安心なされよ。これは我が権能のひとつを発動させ、この場に相応しくない者を排除しただけの事」

 突然、響いてきた男性の声に、立香達の視線がそちらに集まる。

「!?」

 長身にガッシリとした、しかし肥満ではない体格。その身体に、灰色のワイシャツ、黒いベストにスラックス。銀色の髪。

 そこまでなら、日本人離れはしていても人間離れとまではいかないのだが、鈍く輝く赤と緑のオッドアイが覗く。そして、その視覚情報以上に、強烈に放たれる違和感。

「アンタは……?」

 主武装の槍を除いて、霊装を実体化させつつ、ブーディカが問い質す。立香を庇う位置に立った。

「さて……この世界で()ばれたサーヴァントには理解の範囲の外のはず……」

 男は、ニヤニヤと気障に笑いながら、言う。

「ですが! お嬢さん(がた)には私という存在に心当たりがあるはず」

 そこまで言い終えてから、男は、視線を立香に向けた。

「…………」

 立香は、眉間に皺を寄せて、一度、辛そうに目を閉じた後、目を開け直して、視線を男に向け直す。

「………… “異星の使徒”」

「そう! そのとおり!!」

 立香が低い声で呻くように言うと、男はそれに対して、妙に満足そうに声を上げる。

(わたくし)の事はどうぞ『伯爵』と」

「その伯爵様とやらが、一体何の用なのかしら?」

 セレスタの方が、苛立ったような口調で伯爵に問いかける。

「言うほどヒマってわけでもないんだけど」

「なに、まずはただの顔見せですよ」

 伯爵は、一旦視線をセレスタに向けて言う。

「そう、それこそが最も重要な意味を持つのでね」

 そして、再度視線を立香に向けた。

「貴女なら解るでしょう。藤丸立香。私がここにいることの意味が!」

 最初はドキッとしつつも、瞬時には答えが出なかった。

 しばらく、ブーディカの身体に隠れるようにしつつも、立ち尽くして伯爵を凝視していたが……

「あ……あ! あ……」

 その事に気付き、立香は愕然とする。

「立香!?」

「カルデアスが、カルデアスが2つ存在する!!」

「え?」

 ブーディカとデオンが、訊き返すような声を出した。

「地球の表面は白紙化されて、そこにこの世界が定着しようとしてる……でも! カルデアスは異星、地球上じゃないことになるから…………!!」

「そのとおり。地球上が混沌を極めようとも、汎人類史が葬られようとしていようとも、我が主たる天球はまだ健在。その目的も、その理念理想も健在、という訳で御座います」

 立香の戦々恐々とした口調での言葉に対し、伯爵は、それを肯定し、満足気に笑みを浮かべた。

「でも ────」

 一度は、視線を伏せて震えてしまっていた立香だが、 ────

「だから、私はもう一度立ち上がらなきゃならないんだ!」

 ──────── 脚を軽く開いて踏み直し、視線を上げて伯爵を見据える。

 伯爵の笑みが、僅かに揺れた。 ────

「この世界はまだ失われていないんだ! 失ってから取り戻すんじゃない! 今あるこの世界を壊させないためなら、まだ、立ち上がれる!」

 立香の声が響き渡る。

「威勢のいいことで……もし、その意志が2度折れぬようであれば、またいずれお会いすることになるでしょう」

 伯爵は飄々と笑顔を向けたまま、後ろに下がろうとする。

「っ、他者の認識から外れているなら好都合!」

「やめなさい!」

 デオンが桑原レプリカを構え、伯爵を狙おうとするが、それをセレスタが制する。

「こいつ、中身ないわよ」

「その通り。流石にアニムスフィア家の御令嬢、いや ────」

 セレスタの言葉に、伯爵が妙に満足気に言う。

「── この世界のカルデアス……と、言うべきですかな?」

「中身がない、ただの影……ん?」

 ブーディカが、妙に緊張感が薄らいだ感じのする、怪訝そうな声を出す。

「あーっ、じゃあ、この前アストルフォにチューハイの缶ぶつけられて逃げてったのって」

「…………」

 ブーディカがその事に気付き、伯爵を指差してしまいながら言った。伯爵の表情が一瞬、凍りつく。

「チューハイの缶……?」

 立香が、急に緊張感のない表情で目を点にする。

 だが ────

「ですが、確かに霊基の気配を感じます!」

 デオンが言う。

「ええ、それはもう、ええ、影と言えど、この程度の事はできますからな。最も、お嬢さん方には大した試練にもならないでしょうが……────」

 そう言う伯爵の身体が、足元から巻いた布が(ほど)けるようにして消えていく。

 そして、その解けていった内側に、黒い靄のようなものが包まれていたのが、顕わになる。

「それでは御機嫌よう、またいずれ……ははは、はははは、ハーッハッハッハッ!! ハッハッハ…………」

「■■■■■■■■■■■━━━━!!」

 伯爵の癇に障るような哄笑が消えていったかと思うと、それと入れ替わりに、人のものとは思えない、だが獣のそれでもない、周囲の大気を震わせる咆哮が響き渡った。

「シャドウサーヴァント!」

 巨躯の影は、不気味に光る目で、立香の方を見る。

 ダッ

 ブンッ

 立香に向かって突進し、手に持っている ──── 靄のせいでそのシルエットははっきりしないが、おそらく斧と思われるものを振り下ろそうとする。

「立香!」

 ガキィッ

 ブーディカが、立香を突き飛ばすようにして離させつつ、その間に割って入る。左腕につけていた盾でそれを受ける。

 パカン

 真正面から受け止める事を避けて、受け流したつもりだったが、盾はその一撃で割れてしまった。落下しつつ、霊子に分解されて霧散していく。

「はっ」

 ブーディカは身を仰け反らせつつ、立香を突き飛ばした方向へ身体を倒すようにしてシャドウサーヴァントの第二撃を躱す。

 そのすぐ背後に駐車していたE12型 日産 ノートに直撃し、車体が前後真っ二つに破壊される。

「あれうちが弁償することになるんだと思う?」

 セレスタは言いつつ、右手の掌に、外見は拳銃弾、8mm南部弾そのものの弾丸を取り出す。

「流石にあれでは持ち主が可愛そうではありますからねぇ」

 言いつつ、デオンが桑原レプリカを構える。それに揃えるかたちで、セレスタは、人差し指と中指で弾丸の薬莢(ケース)を挟み、その右手を拳銃のように構える。

 桑原レプリカの射撃とともに、セレスタの手にあった弾丸も閃光の魔弾となって発射される。 ────が。

「効いてないどころかこっちを見もしない!?」

 確かに命中の閃光が、その身体の表面にあったにもかかわらず、シャドウサーヴァントは気づいてすらいないかのように、ブーディカと立香の方へと向かっている。

「ねぇあれまさかと思うけどヘr ────」

 ガキィンッ!

 セレスタが言葉を発している間にも、シャドウサーヴァントはブーディカに向かって一撃を繰り出す。槍を実体化させる隙もそれを有効に使う間合いもなく、腰に吊っていた、ライダー霊基のときにも使っていた剣を抜き、それで受け止めた。

 ── 相手がシャドウサーヴァント(不完全な存在)だからこの程度で済んでいるけど!

 その剣も、バキン、と折れてしまう。

 間合いを取り直しつつも、立香を庇えなくなるところまで下がる訳にはいかない。

 ── どうしたら……

「宝具の準備! 令呪の強化です!」

 その声が響いてくる。

「この声は……────」

 立香がその声の主を探しかけた時、上から莫大な光が降ってきた。

 

新たなる規範の剣(カリバーン・オブ・カルデアス) ────!!」

 

 光の斬撃が、シャドウサーヴァントを両断した、かのように見えた。

「まだ終わってません」

「ブーディカ!」

 立香が、右手の甲の令呪をかざす。

「令呪を以て命じる! そいつを貫け!」

 光の斬撃の最中に、すでに実体化されていた銀の槍が、炎で赤黒く染まる。

母后の勝利槍(ヴィクトリアス・マトリアーク)!!」

 それ自体が貫くかのような視線とともに繰り出された穿突は、槍の実体から、神殿の柱のような太さの赤黒い炎のそれとなる。シャドウサーヴァントを貫き、炎の濁流がその影のすべてを飲み込み、焼き尽くした。

 

「なんとか……なったの、かしら?」

 セレスタが、デオンとともにクルマの影から出てくる。デオンは桑原レプリカの撃鉄(ハンマー)を戻し、そのまま霊体化させた。

「えっと……」

 立香は、気まずさに苦笑しつつ、後頭部を掻く仕種をする。

 それに対して、相手は、装飾のシンプルな剣を立てて、宣誓するかのような姿勢になる。

「サーヴァント、セイバー。マシュ・キリエライト、到着しました!」

 以前の霊装の特徴も残しつつ、銀色に輝く胸甲と肩当て、脇楯。小型化して腕に取り付けられた円卓の盾。

 それから ────

「イメチェン?」

 少し唖然としたような笑顔で、立香は自分の前髪でそれを再現するかのような仕種をしながら、そう言った。

「ええ、まぁ……一応霊装の一部で……その……────」

 

「ダーメ、絶対。俺のポリシーと美的センスが許さない。飛び道具ならともかく近接戦でその前髪は視界を遮るし鬱陶しくて集中力を欠かせるでしょーが」

「まぁサーヴァントの戦闘で視界はともかく、鬱陶しく感じるって点は同意」

 

「── と、支那麺さんとキャスターのネモさんが」

 髪が目にかからないようにつけられた霊装ヘアピンを指しながら、マシュの方も苦笑しつつ、そう言った。

 ひとしきり脱力したような笑みを浮かべていた立香だったが、

「シナメン? キャスターのネモ?」

 と、聞き慣れない名前に訊き返す。

「支那麺ってのは魔研局の降霊部にいるやつよね? 支那麺房総っていう割とふざけた名前のやつ」

 セレスタが、そう言いながら会話に入ってきた。

「知ってるんですか?」

 立香が、視線をセレスタに向けて訊く。

「私の部下の知り合いで……私も会ったことあるし。カルデアの人材候補だったから。本人が固辞したから流れたけど」

 セレスタは頷き、そう説明する。

 すると、立香は、左手で肘を支えた右手で顎を抱えるようにしつつ、小首をかしげた。

「えーっと、部下って……」

「あたし一応っていうかレッキとしたカルデアの所長なんだけど」

 疑問符を浮かべる立香に対し、セレスタは、笑顔になりつつもこめかみに青筋を浮かべて言い返す。

「まったくそう言うところ、変わってないんだから……」

「じゃあ、こちらがオルガマリー所長……っと、オルガマリーさんの妹のセレスタさんですか」

 マシュがその事に気づいて言った。

「私のことは立香から聞いてるのね」

「はい。それと、カルデアのWeb……じゃなかった、WDNのサイトで」

 セレスタの言葉に、マシュがそう返す。

「あ、そうかあそこ見れば私の公人としてのプロフィールは載ってるか。……もとい」

 セレスタは、一度視線を下へ向けてそう呟いてから、視線をマシュに戻す。

「一応、正式に挨拶を。私は万国カルデア天文台所長、セレスタ・II型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア。宜しく」

「私はマシュ・キリエライトです! よろしくお願いします!」

 セレスタが左手を差し出したので、マシュは反射的にそれに(こた)えて握手をした。

「でもマシュ、よく私がここにいるって解ったね?」

 立香が問いかける。

「いえ、先輩がいるとは気づいていなかったんですが、駅で電車を降りたところで、明らかに自然じゃない、猛烈に嫌な気配を感じたので、放っておくことはできないと思いまして」

「ああ、そう言うことか……」

 マシュの言葉に、立香は納得の声を出した。汎人類史のつくばエクスプレスと異なり、西武筑波線つくば駅は、現在は高架駅なので、感じ取れたのだろう。それに、立香は理解していなかったが、地理的にも近い。

「あ、そうだ、公衆電話ありますか?」

 思い出したように、マシュが言う。

「それでしたら、ちょうどファーストキッチンの隣に、 ────」

 デオンが言う。汎人類史のここと異なる場所として、飲食店街に2台の678-A2型赤電話が設置されていた。

 だが、

「魔研局に連絡入れるんでしょ? 私がかけてあげる」

 と、セレスタがそう言って、ポケットからMCフォンを取り出した。

 

 

 東京帝大魔研局、降霊部霊装研究室。

「セレスタちゃんから何の電話かと思ったら、マシュちゃんと一緒にいるのね。それで、一応は不具合なし、と。りょうかーい」

 電話を受けた支那麺は、その内容に喜んだ顔をしつつ、マシュとの通話を終えて、ダイヤル式ビジネスホンの受話器を戻した。

「他にも案が用意されてたってのは驚いたけど、やっぱサーヴァントって言ったら一番の花形はセイバーだしねぇ」

「あ、それはいいんですけど」

 上機嫌な支那麺に対し、リヨが描いたような仏頂面のネモ・キャスターが、そう言って指差す。

「あれ、どうするんです?」

「マシュー! いくらマスターに会えるって興奮してたからってボクを忘れていくなんてあんまりじゃないかー! ボクはもともと異聞帯出身なんだ、自力で魔力の調律ぐらいできるんだよー!」

 

 

「免許持ってる……わけじゃないんですよね? アサシンの能力とかで……」

 シティの後部座席から、恐る恐る、といった様子で、立香が、運転席のデオンに声をかける。

「免許は持ってますよ、ほら……」

 デオンはそう言って、ライセンスケースを取り出し、立香に見せた。

「サーヴァントでも免許取れるんだ……」

「まぁ、一般試験(イッパツ)で取ってるんで、立香さんのも半分当たってはいるんですが」

 デオンはそう言いながら、ルームミラーの位置を直し、ギアを1速に入れ、

「出しますよ」

 と、スーパーチャージド シティ ハイパーシフトを発進させた。

 ズズー……

 セレスタは、自分から「後部座席は狭いから、5人乗るなら小柄な私が後ろに行った方がいいんじゃない?」と言っておきながら、妙に不機嫌そうに、ファーストキッチンのカップの、サントリー コーラをすすっていた。

 

 





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