Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
ここ数回、鉄道回なので普段より薀蓄マシマシになります。
Chapter-01
あの決断は、それでも主人に仕えたいという想いから。
でも、それと同時に、
自分の脚で立つ、その決断でもありました。
常南電気鉄道土浦・学園軌道線。
昭和60年の国際科学博覧会を意識しつつ、土浦駅からつくば市内の交通の要衝までを結ぶ軽軌道計画があった。
汎人類史においては新交通システムとして具体的な話に踏み込みかけたところで水子に終わり、土浦市内の高架部分のみ道路橋として建設された。
この世界においては、「つくば市内がこれ以上過密になる前に敷いてしまえ」とばかりに、つくば市内を基本併用軌道(路面電車)として、国鉄常磐線土浦駅と西武筑波線葛城駅(現・つくば駅)の間を、筑波大学入口・筑波大学附属病院を経由して結ぶ形で建設された。
運行会社の常南電気鉄道は、土浦市・阿見町にまたがる2本の軌道線と、軌道線として計画して途中、資金難からトロリーバスに、経路も変更した国鉄荒川沖駅-西武谷田部駅-関東鉄道水海道駅を結ぶ路線、それに石岡と鹿島を結ぶ鉾田線を運行している。土浦・学園軌道線開業時は関東鉄道に属していたが、行政支援を受ける前提で不採算路線として、関東鉄道との合併前の旧社名で分社されたかたちだ。
つくば市内から土浦市内に入ったところで、県道24号・土浦学園線と別れ、専用軌道の高架を走る。
高架は土浦市内の道路に面したビルギリギリのところを通過する。窓を開けて手を伸ばせば届きそうにさえ感じられる。実際には流石にそこまで近くはないのだが。
名古屋市交通局から連接車2600形の譲渡を受け、車体更新をしつつも新製時のイメージを維持しているとして有名だったが、今となってはそれだけで運用は間に合わない。アルナ工機のリトルダンサー タイプLシリーズの一族である3連接車の2000形に、立香達は揺られていた。
『本日は、常南電気鉄道をご利用いただき誠にありがとうございました。まもなく、終点、土浦駅東口前、土浦駅東口前です。お降りの際は、お忘れ物のなきよう、今一度お手回り品の確認をお願いいたします』
自動放送が終点到着を告げる中、電車は高架から急カーブを伴った勾配を降りる。下り勾配だが、すでに終点に向けて減速をかけており、つよく前に引っ張られるように感じられる。
『お疲れさまでした。土浦駅東口駅前です』
運転手の肉声のアナウンスとともに、扉扱いブザーとともに、前側の降車口が開く。
ピピピッ……ピピピッ……
「ありがとうございました、……ありがとうございました」
降車客が、従量制運賃を運賃授受機で支払っていく。その多くの乗客が、JTカードでの支払いだった。降車する客に、運転手が挨拶している。
ゴクリ
その様子を観察して万全にしたつもりだったが、いざ、自分の場合になって、マシュはカードと運賃授受機のカード読み取り台とを凝視しつつ、喉を鳴らしてしまう。
「えい!」
ピピピッ
無事に工程が完了した音とディスプレイの表示を見て、
「ほっ……」
と、胸を撫で下ろしながら、
「ありがとうございました」
「あ、お世話になりました」
そう、運転手の声に返してから、乗降場に降りた。
「すみません。初めての経験だったので、お待たせしてしまいました」
マシュは、苦笑しつつ、負い目ではないという程度に申し訳無さそうにそう言った。ただ立ち止まっただけではなく、他の乗客を観察しようとしていたのと、別の乗客に迷惑をかけないようにとで、ほとんど最後に降りたので、他の面子を待たせていた。
「あれ? 確か、JTカードみたいなのって汎人類史にもあったのよね?」
オルガマリーが気付き、問いかけるように言う。
ビクッ、と、立香が、驚いたように小さく身体を跳ねさせたが、
「えっと、私はその、都市部で生活したことがほとんど無いですし、日本で公共交通機関を利用するのも初めてだったので」
と、マシュは自ら、苦笑しながら説明した。
電車停留所には、阿見へ向かう阿見線の電車も見える。こちらは、単行のボギー車だ。これまた名古屋市電のお下がりと、リトルダンサー タイプSの新製車が混ざっている。
路面電車とバスの乗降レーンをまたいでいる横断歩道を渡り、東口から土浦駅に入る。
土浦駅は貨物取扱駅で、東口と旅客ホームの間に荷役所がある。併用軌道のようになっている荷役線に、コキ100系コンテナ車の列車が停車し、トップリフターが忙しく走り回って積み下ろしをやっている。あえて目立つ汎人類史との相違点は、パレット扱いに限って有蓋車も僅かに残っている点で、編成の端の方に連結されたワキ10000形・ワラフ10000形の扉が大きく開けられていた。
土浦駅、改札口前。18時30分。
「あーいたいた」
それそのものが汎人類史のJR西日本テクノス製のものにそっくりなことと、3レーンが関東鉄道筑波線用の入口になっている事を除けば、同じようにズラッと並んだ自動改札機、その西の端に、団体用の腰の高さの格子扉のゲートがある。そこの横の壁によりかかるようにしていた長髪の男性と、それに付き添っている少女の姿を見つけて、セレスタが手を振りながら声を発する。
「あ、お疲れさまです。所長」
長髪の男性の方も、それに気がつくと、姿勢を正して、格子扉越しに、セレスタと向かい合った。
「はい、こちら、所長と皆さんの分です」
紙のチケットを取り出して、セレスタに手渡そうとする、その男性は……────
「どうしたの? 2人とも」
言葉を失い、口をぽかんと開けて凝視している立香とマシュに、怪訝そうな表情でオルガマリーが声をかける。
「きっ、ききき、き……」
「木?」
その傍らのアストルフォが、冗談めかして言うが、2人は愕然として立ち尽くしたままだった。
ようやく、立香が何かを飲み込むような仕種をしてから、その驚愕の声を発した。
「キリシュタリアー!?」
「へ?」
セレスタが振り返り、男性とともに、立香とマシュに、キョトン、とした表情で視線を向ける。
「私は、そのような者ではありませんが……」
2人の様子に、男性は、当惑の様子を見せてそう言ってから、一度セレスタと視線を合わせる。
すると、セレスタが笑顔になって、
「彼は万国カルデア天文台の総務長で
と、男性を紹介した。
「それほど偉かったら、ここに駆り出されたりしないと思うんですけどねぇ」
玉彦、と紹介された男性は、悪戯ッぽい笑顔のセレスタに対し、呆れ混じりに苦笑を
「ああ、すみません」
玉彦は、はっと我に返ったように言う。
「とりあえず、ホームに。列車がもう到着しますので」
「はい、みんなの切符。寝台の位置は後で調整すればいいから」
玉彦の言葉に続いて、セレスタがそう言って、JR東日本の紙のチケットケースからそれぞれの乗車券を配る。
「…………」
玉彦の姿に気を取られたまま、視線でそれを追ったままの状態で、立香は改札を通ろうとするが……────
「あ、あれっ!? こ、これ自動改札通れるの!?」
乗車券は自動券売機のものと違って、映画や興行の予約チケットのような短冊形で、しかも裏面に磁気塗布がされているように見えない。
「バーコード、端っこのバーコードを下の窓にかざすんだよ」
後ろから、アストルフォが立香に声をかけてくる。
乗車券を確認すると、確かに短冊型の片方にバーコードが印刷されている。そして、改札機の方には、磁気切符投入口の手前下に透明ガラスの窓が開いていた。そこにバーコードをかざすと、ピピピッ、と音がして、改札機が読み取りしたことを表示した。
「まったく……さっきはマシュのこと心配しといて、自分がトチっちゃってちゃ世話ないよ」
「だって……こんなの見たこと無いんだもん……」
苦笑しながら、後ろから声をかけてくるブーディカに、立香は決まり悪そうにしつつも、そう言って口を尖らせた。
光学読み取り改札は、立香の汎人類史にはまだなかった。技術は揃っていたが、汎人類史を ──── 我々の現実世界を当てはめるならば、2024年に試験が開始されたばかりだ。
土浦駅、1・2番線ホーム。
『まもなく2番線に 特別急行 ゆうづる1号 函館行 が参ります。危ないですので 黄色い線の内側に下がって お待ち下さい。 この列車は 当駅を出ますと 次は 水戸 に停車いたします』
「そんなに僕とそっくりなんですか、その
妙に親しみ深い表情で苦笑しながら、玉彦はケラケラと笑い飛ばすようにしながらそう言った。
「ええと……確かに面影が似てるような感じはあるんですが……」
決まり悪そうに立香が言う。
「言われてみると……キリシュタリアは金髪の西洋人だったし……」
玉彦はキリシュタリア並みの長身で、日本人離れしているが、逆に言えばそれぐらいだ。髪を長髪にしているものの、顔の作りは似ているように見えて、実際には黒髪、黒い瞳と、どう見ても日本人の特徴である。
「まぁ、自分に似ている人間は世間に7人はいるといいますし、そういうこともあるんでしょう」
玉彦がそう言っている間にも、ヘッドマークを掲げた列車は紅い機関車を先頭に、入線してくる。
外観は流美な20系客車 ──── だが、高速バス対策の座席車2両は、12系の改造車で、車体断面や屋根高さが合わず、凸凹編成になってしまっている。
『この列車ドア手動となっております、手でお開けください……土浦、土浦です。この列車、立ち席乗車券でのご利用は当駅までとなっております。当駅より先は全車寝台券・指定席券必要となります』
「寝台なんですが、皆さんの分、全部Aでは揃いませんで……お1人はB寝台になってしまうんですが、どなたが……────」
最後尾の電源車の1つ前、開放A寝台車のデッキから乗り込んだところで、その、B寝台の寝台券を手にしながら、玉彦が言う。
見た目は流美な20系だが、B寝台のベッド幅は55cmと、最低限だ。
オルガマリー、セレスタ、アストルフォ、デオン、ブーディカが、腰元からなにかの技を繰り出すかのように、腕を引いて
「出っさなっきゃ負っけだよじゃんけー……────」
「じゃあ、私が!」
セレスタが音頭を取りかけたところで、マシュが挙手し、死闘を始めようとしていたメンバーは勢い余ってコケかける。
「マシュ……えっと」
戸惑ったように、立香が声をかけかける。
「あ、そ、それでしたら、私が…………!」
デオンが慌てたように声を出す。
「えっと、私も1人でいろいろと、考えたいっていうか、そういうこともあるんです」
気落ちしたとか悲観的な様子があるわけではなく、マシュは苦笑しながらそう言った。
「それならいいけど……」
立香はまだ後ろ髪を引かれるような感じでいたが、マシュは、
「それじゃあ、また朝に」
と、言って、前の方の車両へと歩いていった。
「今の顔は、特に心配が必要な様子じゃないと思うけどな」
釈然としない様子の立香に、ブーディカが、背後から声をかけた。
すでに列車は土浦駅を離れ、夜の常陸路を走っている。
「それとも、子離れされた親の心境ってやつかい?」
「そうかも知れなくても、そうだよって言えないよ」
立香はブーディカの方を向いて、そう言い、言ってから苦笑した。
顔を見合わせて笑い合ってから、
「さてと ────」
と、今度はブーディカの方が顔を上げると、表情を引き締めた。
立香、マシュ、ブーディカのやり取りがされていた傍らで ────
「で、玉彦はやっぱりB?」
アストルフォに訊ねられ、玉彦は苦笑する。
「それが、取れたのが座席でね」
「それこそボク達が代わろうか?」
アストルフォが笑顔の中にも心配したように訊く。組み込まれている12系・20系併結対応車は、座席のリクライニングシート化改造も受けていたが、ベッドで横になるのとは比べ物にならない。
この世界において、サーヴァントは、汎人類史を基準にすれば半分以上受肉しているようなものなので、休息をある程度は必要とするが、それでも生身の人間ほど長い時間の睡眠は必要としないし、休息するにしてもその環境に対してデリケートでもない。
だが、
「いや、君達には所長やオルガマリーお嬢様の警護をしっかり務めてほしいからね」
玉彦がそう言うと、アストルフォの表情から、一瞬、笑みが消えた。
「じゃあ、環境なりに腰を落ち着けたいからね」
玉彦はそう言うと、視線をセレスタとオルガマリーの方へ向ける。
「では所長、オルガマリーお嬢様、何もなければ翌朝お会いしましょう」
「はい、おやすみなさい」
セレスタとそう挨拶の言葉を交わして、玉彦は、自身の護衛サーヴァントの少女とともに、前方の座席車に移ろうとするが ────
「ちょっと待ちなエスィルト」
と、腕組みしたブーディカが、そのサーヴァントの背後に声をかけた。
「えへへへ……お久しぶりです、母上。エスィルト、玉彦さんの召喚に応じました」
エスィルト、と呼ばれたサーヴァントの少女は、ブーディカに向かって、決まり悪そうにしつつも、悪戯ッぽく笑いながらそう言った。
「えっ、じゃあ」
立香が、はっとその事に気づいて、声を上げつつ、目を
「そ。あたしの上の子」
ブーディカは、立香にそう言ってから、視線をエスィルトに向け直す。
「クラスは?」
「あ、そっか、今私服姿だから……はい、一応ですけど、セイバーを」
ブーディカに訊ねられ、エスィルトは物怖じした様子もなくそう答える。
「セイバー……ねぇ。確かに、多少は心得あったみたいだけどさ……あんた、あんなに戦うの嫌がってたじゃない。 “母上みたいなのは1人いれば充分です” って言ってた子が」
ブーディカが、別に不快というわけでもないが、なんとなくスッキリしなさそうな表情で言い、前髪の生え際のあたりを掻く仕種をした。
「それはつまり、文字通り2人も3人も
「な!?」
割って入ってきた立香の言葉に、ブーディカは驚いたように顔色を変えるが、
「わぁ、こちらが母上のマスターさんなんですよね。さすが、鋭いこと言います」
と、エスィルトの方は、妙にはしゃいだような様子で、そう言った。
「ちょっと2人とも」
ブーディカは、まだ戯けが入った怒りの苦笑をしつつ言うが、エスィルトは、笑みを穏やかにして、言う。
「でも、単純な話じゃないんです。あの時は、私が前に出たら母上をもっと困らせるって、そう、思ってたからで……。でも、一度全部終わってから、ようやくわかったんです。 “あの時、自分にできることは何もなかったんだな” って。だから……母上に、少なくとも引け目を感じないようになりたくて。だから、座にお願いしたんです。そう有りたいって」
「座に、お願い?」
立香が、驚いたように訊き返す。
「この世界では、サーヴァントは原則として記憶や経験を持ち越せるだろ?」
疲れたような表情と口調で、ブーディカが説明する。
「あ、うん」
「それって、伸びシロがあれば成長できるって事。だから、
「は、はぁ……」
ブーディカの説明を聞いて、立香も疲れたような苦笑を浮かべる。
「あっ、あの、ごめんなさい。勝手に戦士になっちゃって、怒ってますか?」
ブーディカと立香のやり取りを見ていて、エスィルトは急に、まずいのかなー、といった様子になる。
「確かに ──── 母上には、静かに暮らしてほしいって言われてたのに ────」
俯きがちになったエスィルトの代わりに、立香がブーディカに視線を向ける。
ブーディカは、「ああ、もう」、といった感じで、前髪をかき分ける仕種をしてから、
「怒るか、そんなの」
と、まずは端的に言った。
「……びっくりして、ちょっと自分の目が信じきれなかっただけ。まさか、あんたが本当に “こっち側” まで来るとは思ってなかったからさ。」
「こっち側、ですか?」
エスィルトが顔を上げ、鸚鵡返しに問い返す。
すると、ブーディカは、苦笑気味にも穏やかな表情になって、エスィルトに視線を向け返す。
「戦士の側。血を浴びて、何度も倒れて、それでも立つ側。……親としては、そっちには来てほしくなかった。…………はずなんだよ。でも、今、こうしてあんたを見て、……嬉しく感じちゃったんだよね。ああ、私の子なんだ、って」
そこまで言って、ブーディカは頬を掻く仕種をした。
「母上……」
「こんな形での再会だけどね。それでも ──── もう一回、あんたに会えた。それだけで、あたしはだいぶ報われてるんだよ」
「はい、私もです。…………ぁ」
ブーディカの言葉に、自分も感極まったかのような様子になったエスィルトだったが、
あっと気づいたような声を漏らす。
「玉彦さん、私置いて行っちゃった……? すみません、母上。一旦はここで!」
「ああ、積もる言葉も、後で交わす場もあるだろうさ」
ブーディカの言葉を待たず、エスィルトは駆け出しかけていたが、ふっと振り返って、
「はい! 向こうの列車には、タスカも乗っていますから! あの子も会えるのを楽しみにしているはずです。そのときに、ゆっくり話しましょう!」
と、言ってから、再度列車の前部、玉彦と同じ車両へと駆け出していく。
「走ると危ないよー」
と、これは立香。
「はーい」
エスィルトの姿を見送りつつ、ニヤニヤしていた立香だったが、
「あれ? ブーディカ?」
と、視線をそちらにむけると、ブーディカが、深刻なような、混乱したような、どこか険しい表情で、頭を抱えている。
「どうしたの?」
「うん……その……」
立香が訊ねても、いつもの打てば響く反応が帰ってこない。
「エスィルトで……あの子の妹はネッサン……あ、あれ? でも、タスカって名前、……あたしの娘……あれ? あれ…………?」
※:ワラフ10000形:元スニ41形
万華美 玉彦
https://x.com/kaonohito2/status/2010700469484630402
常南電気鉄道
土浦・学園軌道線 2000形
https://x.com/kaonohito2/status/2010686858028806621
常南電気鉄道
阿見線 1200形/1800形(元名古屋市交)
荒川沖・阿見線(大部分が元海軍専用線) キハ930形
トロリーバスとして開業した谷田部線
https://x.com/kaonohito2/status/2010687682012238295
ゆうづる1号
https://x.com/kaonohito2/status/2010694956390989965
その編成表
https://x.com/kaonohito2/status/2010697859562410077
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。