Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-02

 北海道小樽市、小樽港。

 三菱重工業小樽造船所。

 本来は、同じ三菱グループの日本郵船小樽支店に併設するかたちで設けられている造船所だが、主に政府系の、魔術系の観測装置を搭載する艦船の建造・整備も請け負っていた。

 そのドックのひとつに、港内に着水したストーム・ボーダーが進入しようとしている。

 その、管制室。

 操艦部分の中央で、大和が、腕を組み、仁王立ちしている。

 ネモ・キャプテンは、オペレーター席のひとつに着いていた。

 大和の身体が、鈍く光を帯びている。

 管制室の扉を開けて、海軍士官が入ってきて、大和のそばまで小走りに駆けてくると、そこで直立不動の体勢になって、敬礼しながら報告する。

「地上側の魔力術式と接続しました。以降、この艦の維持は地上側で行います」

「諒解」

 大和は、士官に対してまず告げた後、

「今、私とのリンクを絞り始めているけど、どう?」

 と、ネモの方に向かって訊ねた。大和が身体に帯びていた光が、徐々に薄くなっていく。

「…………、大丈夫そうだ」

「よし」

 ネモが答えると、大和は再度視線を士官に向ける。

「ご苦労、引き続き作業に当たってください。ああ、三菱の人間にも労いを忘れずに」

「はっ」

 士官はそう言うと、再度敬礼して、管制室を出ていった。

「ふぅ……」

 大和は息を()き、ハンカチを取り出して額に浮いた汗を拭った。緊張している間は気にならなかったものが、負荷がなくなって急に吹き出してきた、という感じだ。

「なんとか小樽までは保たせたわね」

 呟くように言う。

 以前、南米異聞帯でストーム・ボーダーが致命的な損傷を受けかけた時、ネモがストーム・ボーダーと完全に同期し、なおかつ自身の霊基の崩壊を凍結状態にすることで、ストーム・ボーダーの完全崩壊を阻止した。

 その時と同じ事を、今回は大和が代行したかたちになる。 ──── と、言葉で書くのは簡単だが、ハイそうですかとできるような代物ではない。

 ネモがストーム・ボーダーに対してそれができたのは、ストーム・ボーダーの骨子が元々、彼の宝具であるノーチラス号だからだ。

 本来縁の薄い大和がそれを代行するのは並大抵のことではない。 ──── ではどうしたのか、と言われると、身も蓋もないのだが力技だ。万光年級の戦闘出力と霊子臨時艦体を維持する霊力で強引にパスを繋いでいた。

 回航中は緊張と、ネモに対して彼を不安にさせないと同時に、自分達の方が絶対上位であることを示すためとで、余裕有りそうに管制室で仁王立ちしていたが、その緊張が緩むと、途端に疲労感が現れてくる。

「流石に消耗が激しいわ。食事にしましょう。艦長、あなたも」

 大和は、安堵したような笑みで言い、ネモに声をかけた。

「ああ、うん。誘われることにするよ」

 汎人類史フォーマットのままのネモ・キャプテンには、食事によるエネルギー補充は効率的ではなかったが、誘われて断る理由はなかった。

 ── けど。

 ネモは、大和を追って歩き出しつつ、声に出さずに逡巡する。

 ── シオンは、僕が活動不可能にならない程度の魔力は送り続けている……理由は? いや……それは明らかか……

 残されたノウム・カルデアの面子がどう動くか、ある程度知るために、ネモを監視装置代わりにしている、というのが一番簡単な答えだろう。

 ── 僕は、僕なりの方法で彼らの行き着くところを見届けるだけ、だけどね。

 今回のことだってそうだ。()()()()()カルデアがストーム・ボーダーの権利を主張したからと言って、後は善意だけで修理・改造してくれるというわけではないだろう。ストーム・ボーダー自体やトリスメギストスII(2)が解析されるのは止められない。

 それでも、ネモはその毒を飲んだ。

 ただ ────

 ── でも、その中には君も入っていて欲しかったんだけどね、シオン。

 

 

 上野駅、入谷口付近。18時45分頃。

「それで、北海道か」

「うむ」

 カドックの言葉に、ゴルドルフは口髭を弄りながら答えた。

「キャプテンは共に先行しているが、他のスタッフ ──── 特に人間のスタッフは、万一の際に巻き込んではならないということでな。我々は陸路で向かうことになったわけだ」

「それは解るが…………」

 ゴルドルフの説明に、カドックはそう返しつつ、視線を一緒にいたマグダレーナに移す。

「空路という選択肢はないのか?」

「それが、我が国では鉄道輸送の方が活発でして」

 カドックの問いかけには、その傍らに立っていた氏姫が、先にそう答えて、頬を掻く仕種をする。

「それに、この列車ですと目的地まで1本でいけますから。空路ですと、千歳からも函館からもそれなりに距離がありますし」

 引き続いて、マグダレーナがそう説明した。

「まあ、いいじゃないか。ここで夜汽車の旅っていうのも気分転換になる」

 やはり同道していたムニエルが、笑みを浮かべながら言う。

「まぁ、今までの異聞帯は交通機関も無いのが普通だったしな……贅沢は言わない、つもりだったんだが……」

 カドックはそう返しつつ、だんだんと言葉が歯切れ悪くなってくる。その傍らで、アナスタシア・オルタが妙に機嫌良さそうに微笑んでいた。

 改札の近くまで来ると、1人の子供を連れた4人の女性が、一行を待っていたかのように近づいてくる。

「あっ!?」

 そのうちの、男児を連れた1人を見て、ゴルドルフ達一行が、驚いた声を上げた。

「エンジン? なんでこんなところにいるんだ」

「あー、また、その説明?」

 カドックの素っ頓狂な声に対して、ネモ・キャスターは糸目に疲れたような表情で言う。

「あたしはこの世界で召喚されたキャスター霊基なんだよ。まぁ、そっちのネモと縁があって今回、呼び出されたようなもんなんだけど」

「なるほど……? で、そっちの子供は?」

 カドックは、ネモ・キャスターと手を繋ぎつつ、人見知りしたようにその影に隠れながら、カドックやゴルドルフ達を伺っている、10歳ぐらいの男児に視線を向けて、そう訊ねる。

「だから、こいつがあたしのマスター」

 ネモ・キャスターはそう言ってから、男児を前に出させる。

「ほら、挨拶しな」

「えっと、は、はじめまして!」

 男児は、挨拶と言うか、ぎこちない様子で思い切って声を出した。

「…………魔術師、には見えないが……」

「うん。まぁ、この場で説明すると長いから、機会があれば列車に乗ってから説明するよ」

 訝しげなカドックの表情に、ネモ・キャスターはそう言った。

「で、ハベトロットはなんでそっちにいるんだ?」

 ムニエルが訊ねると、

「マシュにおいてかれたんだよ」

 と、ハベトロットは不貞腐れた表情で答えた。

「円卓の盾を改造するのに、一旦ボクも現界して外に出てるしかなくてさ……マスター……立香に会いに行けるって意識が強く出すぎて、その事忘れたまま行っちゃったんだ」

「マシュらしくはないが、やらかしあるあるではあるな」

 ムニエルは苦笑しながら返した。

「それでは、こちらの女性が……」

 ゴルドルフが、その女性を前にして、マグダレーナに問いかける。

「ええ、今回、あなた方をご案内します、文部省の星守さんです」

「文部省魔術局天文術部、万国カルデア天文台担当局次長の星守(ほしもり)益満(ますみ)と申します。今回はよろしくお願いします」

 日本人名を名乗ったが、青みがかった瞳に淡い色の髪に、ブリッジ式の片眼鏡(モノクル)をかけた女性は、そう名乗り、軽く会釈をした。

「うむ、こちらこそよろしく頼む」

 ゴルドルフが返す。

「…………あんた、それ、もしかして魔眼殺し……か?」

 カドックが、軽く驚いたように益満の顔を凝視し、息を呑むかのようにしながら、そう訊ねる。

「…………! その通りですが……よくわかりましたね?」

 益満の方も軽く驚き、訊き返すように言う。

「……いや、 ────」

 どう言うべきか、一瞬悩んだカドックだったが、

「知り合いの魔眼持ちに似てたんでな、思わずそうじゃないかと思って、訊いてしまった。気を悪くしたのなら済まない」

 と、謝罪の言葉を口にした。

「いえ、別にそんなことはありませんから、大丈夫ですよ」

 クスッと笑って、益満はそう言った。

 それを見て、カドックは、

 ── ああ、あいつ本人じゃない、んだよな……

 と、胸中で呟く。

 ── アイツがこうやって笑うところなんて、見た覚えがあったかな、オフェリア……

「それと、こちらは私の護衛で、サーヴァントのタスカ」

「宜しくお願いします」

 益満が、自身の傍らに立っていた、少女サーヴァントを紹介する。タスカ自身も、真摯な表情で挨拶の言葉を発した。

「…………タスカ、というと、イケニの女王、ブーディカの娘、だったかな」

「ご存知でしたか。光栄です」

 ゴルドルフが思い出しながら言うと、タスカの方もぱっと笑顔になって返す。

 ── あれ、でも、それは……

 カドックは、そのやり取りに引っかかりを覚えたが、敢えて言葉には出さなかった。

 

 上野駅地平ホーム、19時03分。

『お待たせしました。まもなく 15番線に 19時35分発 寝台特急 「北斗星」5号 ニセコ・小樽経由 札幌行が入線いたします。あぶないので、黄色い線の後ろ側に下がってお待ち下さい』

 放送が終わると、僅かに経って、逆向きの推進運転で、最後尾になる電源車を先頭にして、青地に3本の金帯を入れた客車が入線してくる。星空を模した、群青ベースに白い文字の、()()()()()()テールマーク。 ──── 元々夜行列車の衰退が進んでおらず、20系も現役を務めているような状況で、函館本線ニセコ・小樽経由の所謂 “山線回り” (函館-札幌間のメインルートは、距離はわずかに長いが線形がよく勾配の少ない室蘭経由である)が1往復多く設定されたものだから、国鉄清算事業団も旅客会社に譲渡できる車両が限られた結果、元20系カニ22形、カニ25形が2両、JR北海道に渡った。流石にイラストマークにはしたが、24系本来の四角形の意匠とは明らかに異なる。

 そこまでヘヴィな鉄オタでなくとも、青函トンネル開通・北斗星ブームの頃に鉄道少年をやっていた人間ならツッコミも入れられるだろうが、生憎ここにそれに相当する人物はいない。

 だが、繋がっている編成の方は ──── 『カシオペア』がすでに存在している為、フラッグシップではなくなったとは言え、編成の半数が個室の豪華特急ではある。

「流石にロイヤルは取れなくて……それに、本来1人用個室ですし」

 今となってはやや平成レトロ感が出てきたが、ゆえに色褪せない特別個室。エクストラベッドを使えば2人でも使用することができるが、1列車4室しかないプラチナチケットだ。

 益満が申し訳無さそうに言いつつ、ゴルドルフとムニエルが案内されたのは、2階建て構造の2人用A個室『ツインDX』。

「まぁまぁ……じゃないかな」

 ムニエルが言う。

 隣室と互い違いのベッド部分に若干圧迫感があるものの、一晩過ごすのには贅沢と言っていいくらいだ。

 運行開始当初はテレビが取り付けられていたが、液晶ディスプレイに交換され、MCフォンと同じOSを使ったエンターテイメント装置に代わっている。窓際のテーブルのカバーに操作用のキーボードが隠れるようになっていた。

「食堂車の予約券もお渡ししておきます」

「うむ。ありがとう」

 ゴルドルフが、益満からチケットを受け取った。

「そこらの木賃宿よりよっぽど広くて豪華じゃないか」

 1人用B個室『ソロ』。

 ハベトロットはその1室に入って、妙に興奮した様子を見せていた。

「これが走るって言うんだから、すごい世界だなぁ」

 ベッドに飛び乗り、窓から外を見る。

「私達は食堂車挟んで反対側の車両におりますので」

「あたしらも乗ってるから、なんか困ったことがあったら来てくれていいよ。部屋番号は……────」

 益満とネモ・キャスターがそう告げる。

「うん、ありがとー」

 そう言いながら、ハベトロットはベッドの上でピョンピョンと跳ねていた。

 一方 ────

「日本を代表する豪華寝台列車で、どうしてコンパートメントでもない車両に乗ることになるんだか……」

 下段ベッドに腰掛けた状態で、頬杖を突くようにしながら、カドックは、不貞腐れたような嫌味を言うような口調でそう言った。

 4往復体勢時も含め、ニセコ・小樽周りの1往復のみに、座席車とともに連結されている開放A寝台車。

(わたくし)がお願いしたんです」

 アナスタシア・オルタが言った。

「なにせ私、帝政ロシアの時代もソ連人民皇帝の頃も、こういう庶民的な旅をしたことはないので……」

「まぁそりゃそうだろうよ」

 流石に顔がひきつるのが隠せない。

「まぁ食堂車は要望通りに予約してもらえたからな、それぐらいが楽しみか」

 手元のチケットを見て、カドックは呟いた。

 

 プルルルルルルル……

『お待たせしました。14番線から、ニセコ・小樽経由、札幌行、寝台特急「北斗星」5号、発車致します。お見送りの方は、黄色い線の後ろまでお下がりください』

 上野駅地平ホームの長い発車ベルが鳴り、同時に特徴的な女性のアナウンスが流れる。

 汎人類史と異なり、交流・交直流機を示す赤基調塗装のEF510形に牽引され、『北斗星』5号は上野駅のホームから離れていった。 ──── 19時35分。

 

 





エスィルト
https://x.com/kaonohito2/status/2011425094745428318

タスカ
https://x.com/kaonohito2/status/2011430998156935593

星守益満
https://x.com/kaonohito2/status/2011431357638234429

電源車がカニ25形(元20系カニ22形)の『北斗星』
https://x.com/kaonohito2/status/2011436783284953505
編成表
https://x.com/kaonohito2/status/2011437210806243536

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