Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-04

 7時頃、函館駅。

 『ゆうづる』1号は、定刻通り6時50分に到着している。

「大沼べご飯4つに北の家族弁当5つ、180円ねー」

 ホーム上のファミリマート函館駅構内店へ、立香とエスィルトが買い出しに出てきていた。

「ブディカにストアして、そこからお願いできますか」

「かしこまりましたー」

 エスィルトが、2枚の100円札と、電子マネーカード『Buddy Pay』のカードを差し出しながら告げると、店員はそのようにレジを操作する。

「なんかお母さんの名前と同じって、変な気がしない?」

 立香は、両手で弁当を抱えながら、会計を終えてきたエスィルトに、苦笑しながらそう言った。

「…………うーん、そういえば日本語の記述だとそうなるんだっけ。英語同士だと綴りが違うから、考えたことなかったや」

 エスィルトは、今まで思いもしなかったという様子で、視線を上に向けつつ言った。

 2人は、皆が待っている7番線・8番線ホームの中程へと戻る。

 北海道新幹線専用ホームと対面乗り換えになっている3番線ホームから、7時12分発札幌行急行『すずらん』1号が、キハ240形・キハ460形でキハ183系格下車を挟んだ6両編成をホームに横たわらせ、発車を待っている。

 鉄道の函館・札幌間連絡メインルートは、勾配が少なく線形のいい、南回りの室蘭経由、通称『海線回り』だ。ニセコ・小樽経由は『山線回り』と呼ばれ、距離ではやや短いが、特に蒸気機関車時代はその勾配のきつさで、ディーゼル時代に入ると今度は線形が悪く速度が出せないことで、メインルートの座を室蘭経由に譲っている。もっとも、建設中の北海道新幹線は、山線回りになっているが。

 ニセコ近辺に魔術関係の観測所がある関係で、 “山線” も汎人類史よりは重視されているが、それでも海線回り程ではない。

 ニセコ・小樽回りの昼行特急・急行もあるのだが、『ゆうづる』1号と接続するのは ────

『まもなく 8番線に 上野からの寝台特急 「北斗星」5号 ニセコ・小樽経由 札幌行が参ります。危ないですので 黄色い線の内側に下がってお待ち下さい』

『「北斗星5号」、当駅より終点の札幌まで、8号車、10号車は自由席特急券でのご利用が可能となります。座席はお譲り合いになられましてご利用頂きますようお願い致します。当駅で機関車交換のため8分ほど停車致します。発車は7時10分となります』

 自動放送に続いて、肉声の放送が案内してきた。

「ロビーカーで集合だから、そのように」

 立香達は、セレスタにそう指示されて、5号車の出入り台が表示されている場所で待つ。

 『北斗星』5号は『ゆうづる』1号同様、上野発車時とは逆向きに、ED500形電気機関車に牽かれて電源車の側からホーム内に入ってきた。

『はこだてー、函館です。8番線に到着の列車は……────』

「あ…………」

 デッキに上がり、ロビーカーのそのロビースペースに入った立香の前に、ゴルドルフの姿があった。

「立香君」

「えっと、その……」

 ゴルドルフが声をかけようとするが、立香は気まずそうに視線を伏せさせてしまう。その立香の傍らに、険しい表情をしたブーディカが立った。

「我々は君に対して怒ってはいない」

 ゴルドルフは、努めて剣の無いように立香に対してそう言った。

「それは……それでも……」

「いや、それでも、と言うなら、我々の方こそ、よくまた立ち上がってくれた、と言うべきだ」

 まだ言い澱む立香に対し、今度はゴルドルフは表情を引き締めて、そう言った。

「事態がどうなっているかは、解っていてここへ向かってくれたんだろう?」

「! …………はい!」

 ゴルドルフの言葉に、立香は視線を上げてはっきりと声を出した。

「立香」

 その脇から、カドックがアナスタシア・オルタと共に姿を表す。

「僕だって本来ならよくここで味方ヅラしてられるな、と言われてもしょうがないんだ。けれど、君達はその僕を受け入れてくれただろう」

「それは、でも」

 立香は戸惑ったような声を出すが、すると、カドックはフッと口元で笑った。

「自分が他人に施した善意のリターンぐらい、別に受け取ったって誰も責めやしない」

「うん……」

「そんなことより」

 カドックの言葉に立香が返事をすると、険しい表情のゴルドルフが声を発する。それは、立香に対する憤りと言ったようなものではない。

「我々にはしなければならないことがある。それはこの世界か、我々の世界か、どちらが残るかは関係ない。マリスビリー・アニムスフィアの企みを排除しなければならない」

「あー……まぁ……あのバカおy…………そちらのお父様が迷惑をかけて本当に申し訳ありません」

 ゴルドルフの強い言葉に対し、セレスタが決まり悪そうに後頭部を掻く仕種をしながら、立香に代わってゴルドルフの前に立った。

『機関車が連結されます。揺れますのでご注意ください』

 車内放送があり、その直後、僅かに、ガクン、と衝動があった。

「おっと」

 その場にいた全員が、その振動に対して一瞬踏ん張る。

「こちらが、アニムスフィア家の?」

 ゴルドルフが問いかける。

「あ、はい! こちらはセレスタ・II(2)型・ヒストプルーフリッド・アニムスフィア。この世界のカルデアの所長さんです。それと、 “この世界の” オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアさん。セレスタさんの姉です」

 立香は、ゴルドルフ達にまずセレスタとオルガマリーを紹介してから、今度は腕でゴルドルフを示し、

「セレスタさん、こちらはゴルドルフ・ムジーク。汎人類史のノウム・カルデアで、オルガマリー所長の後任の新所長です」

「は…………?」

 と、2人にゴルドルフを紹介すると、セレスタとオルガマリーは揃って怪訝そうな表情をする。

「ゴルドルフ・ムジーク? え? この人が()()()()()ゴルドルフ・ムジーク?」

 信じられないと言った様子で、オルガマリーもセレスタも口元に手を当ててしまう。

「まぁ、両方知ってる人間だと皆そういう反応をするんだろうな」

 自分もニヤけてしまうのを抑えつつ、カドックが言う。

「もうね、好きに言ってください」

 ゴルドルフは、投げやりな様子で言った。

 車内から発車メロディが聞こえてきた。

『お待たせしました。「北斗星」5号、ニセコ・小樽経由札幌行、発車致します』

 車掌の肉声放送があった後、デッキの乗降扉が閉まる。

 JR北海道の旅客用ディーゼル機関車もDF200形への更新が進んでいたが、 “山線” では軸重制限(軸重:車軸1軸にどれだけの重さがかかっているかの値)の関係でDD51形の可変軸重機構が必要なため、こちらを経由する客車列車の牽引機はDD51形のままになっている。

 重連のDD51が汽笛(ホイッスル)を鳴らし、『北斗星』5号は札幌へのラストスパートを走り始めた。

「募る話もあるだろうけど、この後食堂車の予約時間なんだ。だから、一旦失礼させてもらうよ」

「え…………」

 燃え尽きている様子のゴルドルフに代わる形で、カドックがそう言うと、オルガマリーとセレスタが共に硬直し、立ち尽くした。

 それを余所に、上野からのノウム・カルデア組は、ロビーカーの扉をくぐり、隣接する食堂車『グランシャリオ』に入っていった。

「食堂車、というのも興味がありますね……」

 硬直しているアニムスフィア姉妹を余所に、マシュが呟く。

「すみません。北斗星の食堂車は完全予約制でして、特に朝食だけ、というのはとても……」

 そのマシュの背後から、玉彦が、苦笑しつつ後頭部を掻くような仕種をしながら、申し訳無さそうに言った。

「ふむ、それは残念です」

「残念なのはいいけど、マシュ」

 呟くマシュの足下の方から、声がかけられた。

「いくらなんでもボクを忘れていったのは酷くないかい?」

「あ、ハベにゃんさん……置いていったって……あ、あぁぁ!!」

 ハベトロットに言われて、マシュはようやくその事に気づいたように、声を上げた。

「す、すみません、ハベにゃんさん、私、すっかり舞い上がっていて……」

「もう、そんな事だろうと思ったから、まぁいいよ。でも、またこんな事がないようにはしておくれよ?」

「は、はい、すみません……」

 いいと言いつつ、まだむくれている様子のハベトロットに、マシュは、恐縮して平謝りすることしかできない。

「万華美さん」

「ああ、星守さん」

 ハベトロットに続いてロビー室に入ってきた益満に、玉彦が反応する。

 そして……────

「姉ちゃん」

「あ、タスカ」

 その益満とともにいた少女が、エスィルトに声をかけ、エスィルトが反応する。

「!?」

 その、エスィルトがタスカ、と呼んだ少女を見て、ブーディカが愕然としてその姿を凝視する。

「あ、 ──── あ、あ、あ。なんで、なんで、なんで!?」

 ブーディカは、その場で立ち尽くし、先ずはその言葉を繰り返した。

「う……やっぱり、私の姿は、母様は……私は、ローマの子、だし……」

 タスカは、身じろぎして後ろに退()がるようにしながら、視線を伏せがちにして、戸惑いの口調で言う。

「そうじゃない、そうじゃないんだ」

 ブーディカは、恐慌したかのような表情で、目を見開いた状態の顔を抱えるようにしながら言う。

「なんで、なんで今まで忘れてたんだろう! タスカ、カモーラ、確かに、確かにあたしの産んだ子()()()()()なのに…………!!」

「え? え?」

 ブーディカに寄り添って背中を擦るようにしつつも、その言葉に立香も戸惑いの声を出してしまう。

「それはほら、母上はタスカとカモーラを産んでさほど経たずに亡くなられてしまったから……」

 エスィルトが、苦笑の表情でフォローする。

「それ、じゃあ……」

 立香もまた、驚愕の表情になって、ブーディカとタスカを交互に見る。

「あの日の…………あの屈辱の結果、あたしはこの子達を孕んだんだ……双子を……反乱の初期に出産して……なのに、あたし、今まで忘れてた……この子達に恨みなんかなかったはずなのに……どうして……」

 ブーディカは、涙を零しながら、それを何度も手で拭う。

「でも……そういう事なら、仕方のない事かも……」

 タスカ自身が、まず呟くように言った。

「英霊の座の記憶だって完全なものではないです。私も、実際にこうして会うまでは、ぼんやりとした姿しか思い浮かべることしかできませんでした。母様が私やカモーラの姿を覚えていないのは、私も仕方のないことだと思います」

 最初のおどおどとしたような様子が消え、タスカは、エスィルトと姉妹なんだなーということが解るような、どこかヘラッとした口調と表情で言う。

「うーん、そういう時系列なら、私も不可抗力だと思うなぁ」

 立香もまた、腕を組んで、わざとらしく難しい表情をして、まずそう言った。

「立香?」

 しゃがみこんでしまっていたブーディカが、立香を見上げる。

「だって、 “忘れていた” んでしょ? それって、タスカ達を恨んでない、憎んでないっていう一番の証拠だと思うんだ。ローマに対する憎しみや恨みが前提にあるんだったら、逆に絶対に忘れない。違うかな? …………って」

 そこまで言って、立香は急に、照れくさそうに苦笑して、頬を掻く仕種をする。

「私が、英霊にこうやって言うのもなんか変な話だけどね」

「いえ、立香さんの言う通りだと思います」

 エスィルトが、すぐにフォローの声を出した。

「ほら」

 立香が、ブーディカに対して手を差し出す。ブーディカがその手を握ると、立香はその腕を引っ張って、ブーディカを立ち上がらせた。

 そして、ブーディカは、タスカに視線を向けた。

「タスカ……その」

「はい」

 返事をしたタスカを、ブーディカはきゅっと抱きしめた。

「ごめんね、放っぽりっぱなしの駄目な母親で。でも、もう忘れないから。これからは、ずっと」

「…………、はい。私も、サーヴァント同士として(こんなかたち)であっても、こうして母様と触れ合えたこと、絶対に忘れません」

 タスカの方も、嬉しそうに目を細めてそう言った。

「ずっと、あたしに甘えていいからね?」

「え、えーと? それは英霊として、どうなんでしょう?」

 母親らしくそんなことを口にしたブーディカだったが、その言葉に対しては、タスカは少し戸惑ったような声を出した。

「あ……それもそう……かな?」

 ブーディカは、タスカを抱きしめる腕を緩めつつ、苦笑しながらそう言った。

「多分、母親らしいことをできなかった、って意味で言ってるんだと思いますけど、母様がいなくなった後、エスィルト姉ちゃんやネッサン姉ちゃんに育ててもらいましたし、甘やかしてももらいましたから。そういう意味でも、母様の娘で良かったと、思ってます」

「そっか、うん…………ありがとう」

 泣いた子がもう笑った、という様子で、ブーディカは笑顔でタスカにそう言った。

「実際に苦労したのは私とネッサンなんだけど……ま、いいか」

 唇を尖らせて言い始めたエスィルトだったが、苦笑になってあっさりとそう言った。

「じゃ、一件落着、って言うことで」

 あっけらかんとした口調で、立香がそう言った。

 ──── 一方。

 その様子を伺っていたマシュだったが、少しだけ怪訝そうな表情をする。

 ── 確か、ブーディカさんの娘の消息は明らかな記録が残ってないはず……エスィルトとネッサンも、タスカとカモーラも、後の創作物で付けられた名前……つまり、その4人が同時に存在しても矛盾しないストーリーが創られている。 ……最も、古いサーヴァントにはよくある話、でもあるけど……まぁ、でも。

 親子に立香を加えて、4人で談笑しているのを見る。

 ── 玉彦さんや、タスカさんのマスターさんが、クリプターそっくりなのは気になりますが、今は先輩が立ち直れているのなら、それで良しとしましょう……────

 

 





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