Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-05

 強力形急行気動車のキハ400形とキハ480形、それに在来型を改造したキハ56形とキハ27形それぞれ出力増強車に、元特急型のキロ182形、それを挟んだ函館行上り急行『ニセコ』4号が小樽駅を発車してくるのと、 “山線回り” 『北斗星』5号はすれ違う。

 かつてC62形蒸気機関車、そしてDD51形ディーゼル機関車と日本最大級の機関車が重連で挑んだ “山線” も、 その意味ではその名残は、夜行列車以外には見られなくなっていた。昼行の特急『北海』、それに先程の『ニセコ』も、強力形気動車で勾配そのものは難なく越えていく。

『小樽ー、小樽です。4番線に到着の列車は札幌行寝台特急「北斗星」5号です』

 汎人類史とこの世界と、2つのカルデア御一行様は、小樽駅のホームに降り立った。

 周囲を見渡すと、他にも小樽駅の降車客は目立つようだったが、皆、そそくさと自身の目的へ向かって移動を始める。中には地理感の無い観光客らしき集団もいたが、自分達ほどの大所帯ではない。

 一旦その雑踏が薄れてから、

「では皆さん、私についてきてください」

 と、益満の音頭で移動を開始した。

 タクシー待機列から少し離れたところに、カルデア一行の出迎えのマイクロバスが待機していた。三菱ローザの、土地柄か4WD車。

「全員お乗りになられましたね?」

 車内で、玉彦が訊く。カドックとセレスタが立ち上がり、車内を見渡した。

「大丈夫だ」

 カドックが言う。玉彦はそれを聞いて、カドックとは通路を挟んだ反対側の席に腰を下ろした。

 添乗員席には、益満が乗っていて、彼女も立ち上がって車内を見回していたが、確認を終えると、席に腰を下ろす。

「出してください」

「はい」

 益満の言葉で、運転手はローザのギアを1速に入れ、出発させる。

「あー、もー、なんか嫌な予感がするんだよなぁ……やっぱり固辞すればよかったかなぁ……」

 バスに揺られながら、ネモ・キャスターは、頭を抱えるようにしてそんなことを、誰にともなく呟いていた。

「しかし、鉄道があるだけじゃなくて、そこからも自動車で送迎してもらえるなんて、本当に交通機関様々だな……」

 玉彦のすぐ後ろの座席で、ムニエルがそう言った。

「今までの異聞帯には、交通機関がなかった……?」

「まぁ……な」

 玉彦が問い返すように言うと、ムニエルは疲れたような顔で答えた。

「奇妙な話ですね。どの異聞帯も、歴史自体は重ねてきていたんでしょう?」

「完全な監視社会をつくるのに、移動の自由って邪魔だろ」

 玉彦が感想のように言うと、ムニエルに代わってカドックがそう言った。

「ああ、それで……」

「例外として、アトランティスにはあったけどな。アレは社会システム全体が監視機構だった。住民も含めてな」

 納得したような声を出す玉彦に、カドックはそう付け加えた。

「あまり考えたくないディストピアね……」

 カドックの隣に座っていたアナスタシア・オルタが言う。

「君がそれを言うのか」

 口元で苦笑しながらカドックが言う。確かに、監視社会という点では、ソ連もどっこいの気がするが、それはあくまで汎人類史のソ連の話だ。

 アナスタシア・オルタの治世下では、もっと穏やかな社会主義社会が築かれていたのだろう。だからこそ、今日3大国の一画を占めているとも言える。

 アナスタシア・オルタは謙遜気味に「人民が飢えない社会を創ったつもり」と言うが、実際には仕込みとしての功績は凄まじく大きかった。

 大国である証として、具現化人格軍艦の “元ネタ” をいくら持っているか、という指標があることは以前話したが、21世紀現代に於いてはもうひとつ、「WDNのノード構築に必要なメインフレームを製造できるか」というものもあった。

 こちらは端末であるパソコンを自社とその互換機で席巻したNECのACOSが絶対王者として君臨する一方、文部省系に食い込ませておいたFMRシリーズから発展させたFM TOWNSで、汎人類史におけるMacポジションを確立した富士通のFACOMが国内の有力な宿敵(とも)として健在。その他方、残り2大国も国家の威信をかけて、イギリスのICL、ソ連のBESMがNECを追う立場にある。

 これにはハード屋としてより、WDNプロトコルを取り扱えるOSを書けるソフト屋が必須だった。 ──── これをアナスタシア・オルタの時代に育てておいたので、この世界のソ連は3大国の立場を堅持できている。

 アナスタシア・オルタは「そこそこ成功」と謙遜しているが、瑕疵らしい瑕疵はちょっと前に3代目の大統領がやらかした()()()で、ソビエト()()()()共和国連邦は間違いなく今日(こんにち)超大成功国家であり、アナスタシア・オルタはその牽引力だった。

 ──── 在位時から日本のWDN実験 ──── 内務省系のACOSと文部省系のFACOMでリアルタイムデータ連携を可能にしろ ──── 以来ずっとそれに興味をいだいていたアナスタシア・オルタには、強権的な情報統制社会というものが正しいようには思えずにいた。むしろ、────

「どこに行けば飢えなくて済むか、間違いなく支給を受けられるのか、とか、基本的な広報ができなければ国は動かないわよ」

 アナスタシア・オルタは、そうカドックに言い返した。

「君の統治というのは随分緩かったんだな……」

 カドックは口元で苦笑を続ける。

 これでは、(くだん)の大統領のやらかしの際、彼女の重祚という話が出てきても無理はない ──── 閑話休題。

 

 

 マイクロバスで、カルデア一行は三菱重工業小樽造船所まで連れてこられた。

「うわー……」

 ゲストのバッジをつけた立香は、キャットウォークから、乾ドック内に収容されたその姿を見て、感嘆の声を出す。

 思えばこうして、ストーム・ボーダーの姿を外から()()するのは初めてかもしれない。ミクトランでも大修繕が必要になったが、このような設備が整った場所での作業ではなかった。

 あの時の泥縄式の修繕ではない、施設内での整然とした作業が続けられている。

「直るん、ですか?」

 その傍らに立っていた大和に対し、立香が顔を向けて、訊ねる。

「直す、というと語弊があるかもしれませんが、シオン・エルトナム嬢の影響を受けないようにするのには、なんとか」

 大和は、女性らしい口調の方で、微笑みながらそう言う。

 ── これが、この人の本当の喋り方なんだ。

 大和の言葉を聞いて、立香は、改めてそう思った。東京でも少しだけは聞いていたが、きちんとした会話でこの口調を訊くのは、初めてである気がした。

「ただ ────」

 大和が言葉を続ける。

「やはり根幹のところで、ネモ艦長の『ノーチラス』が骨子であるという部分があるので、それに関しては、私達だけではどうにもなりませんので ────────」

 

「それであたしを呼んだっていうのか!?」

 小会議室。

 小樽造船所で待っていたネモ・キャプテンに、話を()()()()ネモ・キャスターが、険しい表情で声を上げる。

「うん、君なら『ノーチラス』を支えられるだろう?」

「やーっぱりそう言う話かよ……」

 しれっとした表情で言うネモ・キャプテンに対し、ネモ・キャスターは、嘆くかのように目元を覆った。

「一応、あたしには東京で仕事がある、とは言ってみるけど……」

 チラチラとネモ・キャプテンに視線を向けながら、ネモ・キャスターは、あんまり効果ないだろうなー、といった様子で訊ねるように言った。

「それは問題ない。君の上司に話をしたら、一も二もなく送り出してくれたと聞いているよ」

「だろーと思った。支那麺が妙に乗り気だった時点でさっさと逃げ出しちゃえばよかったなぁ……あたし一応、未成年者の後見人やってるんだよ?」

 あまり表情を変化させず、クールなネモ・キャプテンに対し、ネモ・キャスターは辟易した様子で言い返す。

「そう、だから君は断れない」

「!」

 ネモ・キャプテンの言葉に、ネモ・キャスターは眉間のあたりを歪ませる。

「君にはこの世界に守りたいものがある。そして、この世界には今、明確に脅威が迫っている。だから、この僕の頼みを断れないはずだ」

 真摯な表情で言うネモ・キャプテンに対し、ネモ・キャスターは、どこか唖然、とした表情になって、

「一応訊くけど、支那麺のやつ、その話……」

 と、問い質した。

「もちろん知ってる、はず」

 ネモ・キャプテンの話を聞いて、ネモ・キャスターは机に突っ伏した。

「ああ、まったく……」

 そう言いつつも、ネモ・キャスターは身体を起こしながら、

「わーかったよ、そこまで言われたら逃げようがないや。ストーム・ボーダーの管制人格、引き受けるよ」

 と、若干ぶっきらぼうになりつつも、唐突に振られた難題を引き受けた。

「タイミングは?」

 ネモ・キャスターは、左手を開き、そこに魔術陣を出現させながら、ネモ・キャプテンに訊ねる。

「もうすぐ、魔力炉の換装が終わる。そうしたら、お互いの宝具を共鳴させて、管制を君の『ノーチラス』に渡す」

「解った」

 ネモ・キャプテンの言葉に、ネモ・キャスターは、短く答えた。

 

「カルデアの預かりになるのはいいけど、()()()()カルデアとしては、過剰戦力になりませんか?」

 立香達に代わり、やはり、セレスタとともに同道していたオルガマリーが、大和に訊ねる。

「それは、ただカルデアが観測をしていればいい、という平時の判断です」

 大和は、オルガマリーに、はっきりとした口調で答えた。

「今はすでに、 ……ええと、その、失礼」

 大和は言いかけて、言葉を選び始める。

「ええもう好きに言ってください。『あンの馬鹿親父』でもなんでも……」

 セレスタと揃って苦い顔をしながら、オルガマリーは呆れたような口調でそう言った。

 それを聞いて、流石に大和も辟易としてしまう。

「流石にそこまでは。それに、 …………そうですね、汎人類史のマリスビリー。その残滓と言えば良いのですか、明確な脅威が迫っている以上、手駒は多いに越したことはない……違いますか?」

「いえ。閣下のおっしゃられるとおりかと」

 大和の言葉に、オルガマリーはそう答えた。

「ただ、ひとつ気になってたんだけどさ、セレスタ」

 アストルフォが、セレスタの方に向かって問いかける。

「確かにオルガマリーもカルデアに関しては他人とは言い切れないんだけど、今回はどうしてわざわざ連れてきたのさ」

 アストルフォの言う通り、オルガマリーは直接、この世界の万国カルデア天文台の職員、というわけではなかった。だが、なぜか今回の旅に同道している。

「本来この世界のカルデアスと魂を共有するのは私の方だった。そして、汎人類史にセレスタは存在していない。だとすると……矛先、とは言わないまでも、汎人類史マリスビリーが何かを私に向ける可能性はある、って言うことでしょう?」

 セレスタが答えるより先に、オルガマリーが、どこか乾いた表情でそう言った。

「うん、まぁ、そう言うこと」

 セレスタは、何かを誤魔化すように苦笑しながら、そう言った。

 ちょうどこの時、オルガマリーを挟むかたちでセレスタと大和は位置していた。セレスタがチラリと大和に視線を向けると、大和は何も言わないまま、制帽をかぶり直す仕種をした。

「ね、お姉ちゃん」

「な、何よ……?」

 セレスタが、妙に改まった口調で言うと、オルガマリーは、ドキリ、としたような表情で聞き返す。

「あのバk…………汎人類史のマリスビリーが何を企んで、そのためにどうお姉ちゃんを利用するかはまだ解らない。でも、お姉ちゃんにはたくさん味方がいる。だから、なにかされても、なにかあっても、絶対に諦めて欲しくない。それだけお願いしてもいいかな?」

「…………それぐらい、私だって諦めが良いほうじゃないことぐらい、アンタがよく知ってるでしょ」

 セレスタの言葉に対して、オルガマリーは、困ったような呆れたような表情になりながら、そう答えた。

「そう言うわけだから、アストルフォもよろしくね」

 セレスタは、視線をアストルフォに移し、そう言って微笑みかけた。

「もちろん」

 ドン、と、アストルフォは自身の胸を叩く仕種をし、

オルガマリー(マリー)のパートナーサーヴァントとして、マリーのことは絶対守ってみせるもんね」

 と、いつもの戯けた様子を取り戻し、少し調子に乗った様子になりつつも、自信有り気にそう言った。

「立香達も、それはお願いできるんだよね?」

「えっ?」

 キャットウォークの手すりから、ストーム・ボーダーの改修作業を眺めていた立香だったが、呼びかけられて、セレスタを振り返る。

「お姉ちゃんの事」

 そう言われて、立香は、一度オルガマリーに視線を向けてから、表情を引き締める。

「はい! 今度は、所長…………オルガマリーさんを、しっかり守ります!」

 立香は、胸に手を当てるようにして、言う。

「それに、セレスタさんのことだって…………!」

「ありがとう。私は自分の事はギリギリまでなんとかしてみるつもり。でも、どうにもならなかった時は……────」

「どうにもならないなんて、最初からそんな事言わないでください!」

 セレスタの言葉に、立香は、思わず、目を向いて声を荒げてしまっていた。

 一瞬、驚いたような表情になったセレスタだったが、すぐに苦笑して、言う。

「だから、私1人でどうしようもならない時は、助けてね、って言おうとしたの」

「! は、はい! もちろん、助けます!!」

 





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