Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-06

 夜。

 しばらく時間がかかるということで、申し訳ないのですが、と言われつつ、カルデア一行は小樽造船所と日本郵船小樽支店の職員宿舎で寝起きすることになった。

「なに、衣食住が保証されるだけでも全然、天国みたいな環境だぜ」

 ムニエルがそう言い、それに異を唱える人間もいなかった。

 そして、2ヶ所に別れて滞在している、その日本郵船の職員宿舎の方。

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 皆が寝静まった時分、エントランス前のロータリーで、マシュが竹刀の素振りをしていた。

 騎位(クラス)変移(シフト)を利用してセイバーになったは良いが、やはりまだ落ち着かない。

 戦い方自体が解らないわけではない。剣を握れば、どう立ち回るべきか自然に頭に湧いてくる。

 だから、鍛錬、とは少し違った。ただ、自身の精神を安定させるためにやっていた。

「ふう……ふぅ……」

 これも息が切れたというわけではない。定期的に呼吸を整えて、精神の安定を図る。

 ただ、負い目やそれから来る焦りがないというわけでもない。

 立香の事もあるが、こちらは、自分でも意外なほどに割り切れていた。

 ── ただ、また立ち上がってくれた。

 それだけで、立香に対しては充分だった。

 それよりも気にかかるのは、凍結されてしまっているダ・ヴィンチ、行方の知れないシオン、そして事実上、そのシオンに生殺与奪を握られてしまっているネモ・キャプテンだ。

 ── ダ・ヴィンチちゃんは、東京で霊子体の専門家に見てもらっているとのことでしたが……

 今のダ・ヴィンチは汎人類史を取り戻すためにできている。だから、それを諦めさせるということは、その存在意義が失われてしまうということになる。

 ただ、そのあたりを調整できないか、と、専門家 ──── マグダレーナ達が解析している最中だった。

 そして、それ以上に気にかかるのは、

 ── シオンさんは、一体、何を考えてストーム・ボーダーから離れたのでしょうか……

 と、これだ。シオンが汎人類史の奪還を目指していたのは解る。だが、だからといって今ここで姿を眩ませるということが、一体どんな意味があるのか、皆目見当がつかなかった。マシュ以外にも。

 ブゥウゥゥゥン……ジジジ……

「! これは……っ」

 音というより、気配のようなものだったが、マシュはこれに近いものの気配を覚えていた。

「はっ!」

 それまでのジャージ上下姿から、霊装を呼び出して武装すると、気配のした方へ ──── 小樽港の桟橋の方へと跳躍する。

「うわっ、わぁぁっ!」

 実際に悲鳴が聞こえてきた。マシュがそちらへ向かうと、すれ違うように、三菱重工の作業着を着けた男性が逃走してくる。

「大丈夫ですか!?」

 マシュが慌てて声をかける。

「アンタも……アンタもサーヴァントか……?」

 逃げてきた男性は、マシュの姿を見ると、憔悴しきった様子で声をかけてくる。

「私も……? あ、はい」

 一瞬怪訝に思ってしまったマシュだったが、すぐに、

「カルデアのサーヴァント、セイバー、マシュ・キリエライトです!」

 と、答えた。

「あ、ああ、さっき、突然、黒い靄のような、羽虫のようなものに襲われて……今、ちっこい(むすめ)っ子のサーヴァントが応戦してるんだ! 俺達は逃げるしかできなかった、情けねぇ……」

 男性は、不甲斐なさそうに言いつつ、そちらの方角を指差した。

「いいえ、皆さんは戦闘要員ではありませんから! ここは私達に任せてください!」

 マシュはそう言うと、剣を構えながら、男性が指差した方角へ向かってダッシュする。

 果たして ────

 ビシッ、ビシッ、ビシッ!!

 港湾の照明が照らす中、その光を吸収するような、シャドウサーヴァントの更になり損ないみたいな黒い靄と、それが戦っていた。

 年端も行かない、小柄な少女のサーヴァント。クラスはセイバー……いや、アサシンだろうか。

「!」

 その少女サーヴァントが正面の靄と戦っていると、その脇を突くかのように、別の靄が迫ってくる。

「でやぁっ!」

 マシュはそこへ飛び込み、細身のその剣で靄を両断した。靄は霧散していく。

「カルデアのサーヴァント、セイバー、助太刀に参りました!」

 マシュは、そう言いつつ、少女サーヴァントの正面以外から向かってこようとする靄に対し、剣と盾を構える。

「はっ!」

 少女サーヴァントは正面の敵を短刀で斬り倒す。

「このぉっ!」

 マシュは向かってきた3体の靄を捌く。そのうちの1体に深く斬りつけ、霧散させた。

 シャッ!

 マシュが盾で退けた2体に対して、少女サーヴァントが手裏剣を投げつけた。動きが鈍る。

「はぁぁぁっ!」

 1体をマシュが、もう1体を少女サーヴァントが、己の主武器で斬りつけ、霧散させた。

「はぁ……ッ!?」

 マシュと少女サーヴァントは、周囲に気を巡らせる。

「全部、やっつけたみたい」

「そのようですね……」

 周囲に嫌な気配が無いことを確認してから、マシュは剣と円卓の盾を霊体化して格納した。少女サーヴァントも、バチン、と、短刀を鞘に収める。

「私達の関係者を助けていただき、ありがとうございました」

 マシュはまず、相手に感謝の念を告げた。

「さっきの……あなたの、なかま?」

 不思議そうな表情で、少女サーヴァントは問い返してくる。

「はい。私は……ええと、万国カルデア天文台のサーヴァント、セイバーのマシュ・キリエライトと言います」

「かるであ……」

 マシュが説明するものの、少女サーヴァントはいまいち理解できていないようだった。

「アサシンとお見受けしましたが、あなたの真名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 この世界でも、真名を語りたがらないサーヴァントはいるだろう。そう考えて、マシュは失礼のないようにと考えて質問した。

「うん、クラスはアサシン……でも、真名は……ないかもしれない」

「え?」

 真名の無いサーヴァント、そんなものが存在するのだろうか? そう考えたマシュだったが、すぐにトラオムでの出来事に行き着いた。

 あのときも、その他大勢で、ほとんど名前の知られていない、幻霊級と呼ばれるサーヴァントが多数いた。

 まして、魔力の濃いこの世界では ────

「私は、ちゃんと名前を残す前に死んじゃったから。ただ、思念だけが幻霊として現界したの」

 マシュが考えた通りの事を、少女サーヴァントは答えた。

「それも、私、もとの私1人じゃ足りないから、弟も一部に取り込んでるんだ。だから、ちゃんとした名前がないの」

「そう、だったんですね……」

 マシュは哀しそうな表情をしてしまうが、少女サーヴァントの方はニュートラルに近い表情で、ケロリとしている。

「つ…………」

 マシュの右手に、鈍い痛みと言うか、熱さが走った。

 ── え?

 反射的にそちらに視線を向けたマシュが、それを凝視する。

 ── 令呪? 私に!?

 右手の甲に現れたのは、赤く鈍く輝く模様。

 立香のものとも明らかに違う、明らかな令呪だった。

 いや、元々Aチームだったマシュには令呪が与えられることにはなっていた。だが、今のマシュは ────

「あ! 違う!」

 と、思わず声に出してしまっていた。

 マシュは、 “デミ” ですら無いサーヴァントになった自身にもう令呪が発露するのはおかしい、と考えかけたが、サーヴァントがサーヴァントを二重召喚・契約する例は、それこそ汎人類史でも存在していた。

「どうしたの?」

「え、あ! その……」

 マシュの声に、不思議そうに少女サーヴァントが訊き返してくると、マシュは、一瞬、反射的に誤魔化そうとしてしまう。 ……だが、すぐにそれをやめた。

「ええと、その……あなたは、いつも、こういう敵と戦っているんですか?」

 マシュは、表情をなんとか緩めるように気遣いつつ、そう訊ねる。

「うーんと? いつも、じゃないかな……こういう、嫌な予感がする敵が出てきた時に戦ってる」

 少女サーヴァントは、どこかあっけらかんとしたように答えた。

「じゃあ、この土地を守っている、とか、そう言うわけでは無いんですね?」

 マシュが、更に問いかけた。

「うーん? そう言うわけじゃないかな。もともとは、ずっと、南の方にいたし」

 完全なはぐれサーヴァント、それは確定した。

「それでは、私からお願いしたいことがあるんですが……」

「うん、なーに?」

 畏まって、表情が険しくなってしまうマシュに対し、少女サーヴァントは、どこか無邪気に聞き返す。

「私と、契約を交わしてくれませんか?」

「え」

 マシュが令呪を見せながら言うと、少女サーヴァントが一瞬固まった。

「私が、あなたのマスターになるということです」

「ええと、ええと、それって、なにかあなたに得になることがあるの?」

 少女サーヴァントは、困惑した様子で、問いかけてくる。

「はい。あなたとずっと一緒にいることができます」

 マシュは、自信有り気な表情になって、即答する。

「え……それって、あなたにとって得なの?」

 ますますわからない、といった様子で、少女サーヴァントは重ねて問い返す。

「はい! だって、あなたは、私達の仲間を守ってくれました!」

 マシュは、弾んだ声で言った。

「あ、うん、そうかも知れないけど……」

「これからもきっと、一緒にいれば協力して戦えると思うんです!」

「一緒にいる……協力する……うん、それは別に構わないんだけど……」

 マシュがやたら前のめりなのに対し、少女サーヴァントは若干困惑した様子を見せている。

 すると、マシュは、

「それと……それに、これは、私の側の事情になってしまうんですが」

 と、語り始めた。

「うん?」

 少女サーヴァントは、マシュの言葉に耳を傾ける。

「私は、元々はマスター候補だったのですが、結局、マスターにはならずにサーヴァントになってしまったんです」

「んー、でも、サーヴァントになってもマスターにもなれなかったっけ?」

 やはりこの世界ではそう言う感覚なのか、少女サーヴァントは小首を傾げる。

「はい、ただ、私には尊敬する先輩……マスターがいて。私も、その人のようになりたいって、ずっと思ってて、だから、今……」

「うん……話は、解った」

 マシュの言葉に、少女サーヴァントはそう答えて頷く。

「でも、それ、あなたの最初のサーヴァント、私でいいの?」

「!」

 少女サーヴァントに質問されて、マシュはハッとした表情をするも、

「もちろんです! お願いできますか!?」

「うん……あなたがそれで良いのなら。先ずはお試しも兼ねて、私でどうぞ」

「お試しなんて! とんでもありません!」

 苦笑して謙遜気味に言う少女サーヴァントに対し、マシュは慌てた口調でそれを否定する。

「えへへ、謙遜はしてるけど、後悔はさせないよ。たぶん」

 どこかニュートラルだった少女サーヴァントの表情が、悪戯ッぽい笑みを帯びて、そう言った。

「えっと、そうしたら……」

 マシュは、発現したばかりの自身の令呪を、少女サーヴァントに向けてかざす。

「マシュ・キリエライトの名を以て契約を」

「サーヴァント、アサシン。契約に応じる」

 キィン、と、マシュの令呪の輝きが、一瞬増した。

「お、おおおっ!?」

 少女サーヴァントが、驚いたような声を上げる。

「力が湧き上がってくる……これが、マスターの力……」

「はい!」

 少女サーヴァントの言葉に、マシュが肯定の声を上げる。

「これが、本当のサーヴァントの力です!」

「おおおおお!」

 

「ところで」

 2人の興奮が一段落したところで、マシュが切り出した。

「名前がないのでは、少し不便ですね……単にアサシンでは、他の人と混同してしまいますし」

「うーん……マスターがつけてくれる?」

 マシュが呟くように言うと、少女サーヴァントはそう返した。

「え、私が、ですか?」

「うん」

 マシュは一瞬戸惑うような声を出した。少女サーヴァントはどこか期待したような表情でマシュを見ている。

「そ、それでは…………コホン」

 戸惑いを隠すために、マシュはわざわざ一度咳払いをする。

「できれば短く呼べて、綺麗な名前で……星麗禰(セレーネ)、なんてどうでしょうか?」

「せれいね?」

 マシュの提案を、少女サーヴァントは鸚鵡返しに聞き返す。

「はい。星が麗しいと書いてセレーネです。どうですか?」

 少し緊張がある様子で、マシュは聞き返す。

「うん、呼ばれるならそれがいい。星麗禰、悪くない」

「よかったぁ……」

 少女サーヴァント ──── 星麗禰の反応を聞いて、マシュはどこかホッとしたようになった。

「改めて、よろしくお願いしますね、星麗禰さん!」

「うん、宜しく、マスター!」

 2人はそう言って、ぎゅ、と、お互いの手を握った。

 

 





無名アサシン(星麗禰)
https://x.com/kaonohito2/status/2020738114868879613

次回まで、少し時間をいただくかもしれません。
申し訳ありません。


具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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