Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-07

「それでマスターになっちゃった、って?」

 朝。

 妙に照れくさそうな表情で報告するマシュに、立香は唖然としたような表情でその表情を覗き込んだ。

「ええっと……はい」

 マシュは、どこか決まり悪そうにもしつつ、隣に立っていた星麗禰の頭をぽんぽんとする。

「むふー」

 子供のように扱われているが、星麗禰は悪い気はしていないようだった。

「ですので、これからは、マスターの先輩として、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」

 マシュは、自身の右手首を左手で握る仕種をしながら、立香に視線を向けてそう言った。

「う、うん……まぁ、私がマシュに指導できることがどれだけあるかわからないけど……」

 立香はくすぐったそうに苦笑しながら言った。

 

 ──── とは言え。

「今回は完全に我々の手落ちね……」

 大和が言う。

「シャドウサーヴァントの情報があったから、もっと大々的な襲撃を想定していたし、その時は最悪私が出ればと思っていたけど、こんな方法で三菱の人間を狙ってくるとは……」

 先ほどとはまた別の場所だが、立香とマシュはその場にいる。カドックとムニエルの姿もあった。

「今回は僥倖で軽傷者だけですんだけど、こうなると、道警の対霊装備部隊じゃ手が足りないか……」

「陸軍に応援を頼みますか」

 大和の補佐をしていた海軍士官が、大和に伺いを立てるように言う。

「うん……それに、この種の敵なら私より翔鶴の方が適任ね。交代してもらおうと思う」

 大和は、渋い顔をしながら、士官には肯定の返事をしつつ、自分の案も述べた。

「もともと、私があまり帝都をカラにするわけにもいかなかったし、あいつなら適任でしょう」

 そこまで言って、はーっ、と、一度深くため息を()いた。

 それから、大和は、立香達の方を見て、

「改めて聞くけど、相手の “伯爵”、心当たりはないんですか?」

 と、訊ねた。

「うーん……伯爵、と言うと、真っ先に思い浮かぶのは……」

「監獄島のエドモン・ダンテスさんですか……」

 視線を上に上げ、顎に手を当てて考え込む立香に対し、マシュが横から言う。

「別名巌窟王、モンテ・クリスト伯爵か……でも ────」

 大和がその名前を呟きつつ、表情を顰める。

復讐者(アヴェンジャー)にしても、巌窟王の復讐のスタイルじゃないのよね、真っ先に三菱の人間を狙うとか」

「はい、私も彼ではないと思います」

 大和が言うと、立香も、視線を大和に向けてそう言った。

 巌窟王の復讐は派手なため、本人以外に巻き添えが出ることもあるが、それでも利害関係で深く繋がっている人物が基本だ。サラリーをもらっているだけの工員を真っ先に狙うタイプではない。

「第一、私は何度か面識があります。エドモンだったらすぐに解るはず」

「なるほどね……その線ももっと特高のケツ蹴飛ばしとくか……」

 立香の言葉を受けて、大和は、彼女にしては珍しく表情を崩して言った。

「と、とっこう!?」

「先輩、この場合は特別高等警察のことかと」

 明らかに、特攻、あるいは、特効、の方を想像してしまっている立香に対し、マシュが肘で突きながらそう言った。

「その、特高が残っているんですか……」

 立香が、大和に向ける視線を落ち着け直してから、訊ねるように言う。

「スターリン主義は壊滅したし昔の治安維持法は改正されて今は別物だけど、今はコンピューターでおイタする人間もいるし。ホストセンターとか。国内だったらまだしも、海外やられたら国際問題よ」

「そう考えると、重要ですね、国家警察……」

 大和のボヤくような言葉に、マシュが、後頭部に嫌な汗をかきながら言った。

 そう言う意味では汎人類史の日本も大して変わらない。一度GHQが解体した国家警察だが、占領が解けると再び警察庁に集約され国家が指揮権を握るようになり(一応予算執行権として都道府県も干渉はできるのだが)、さらに公安調査庁という秘密警察の性質を持つ組織が誕生している。

 ましてマシュは、汎人類史の戦後日本人の感覚ではないから、国家警察の存在にあまり疑問がなかった。

「とにかく、警備は厳としないとならないわね」

 大和は呟くように言ってから、

「発令したいけど、軍用のコンピューターある?」

「ご用意します」

 と、訊ねるように言うと、海軍士官はそう言い、一旦部屋を出ていった。

 ちなみに、この場合の「軍用のコンピューター」とは、「軍用に開発されたコンピューター」という意味ではなく、「軍のログインIDを持っているパソコン」という意味である。

「本当なら、神州でそのような不埒は許さない、毛先ほども傷はつけさせない、と、言えるべきなんでしょうけど……厄介ね」

 大和が、不甲斐なさそうに言う。

「いえ、私達も警護ぐらいは可能ですし、そうあるべきですから」

 マシュが、表情を引き締めて言った。

「それは助かる、と言ってはいけないのかもしれないけど……」

 大和はそう言いつつ、さらに表情を顰める。

「ただ、こうして弱いところを狙ってくる相手と解った以上、そっちも気をつけてね。特に立香さん、あなた、本職の魔術師じゃないんでしょう?」

「あ……それはそう、なんですが」

 大和に言われ、立香は妙に気まずくなったように感じて、口元を笑うように引き攣らせながら後頭部を掻く仕種をする。

「大丈夫です。それこそ、先輩にはブーディカさん達もいますし、私達もいますし、カドックさんもいます。簡単に手出しはさせません!」

 対照的に、マシュが、険しい表情をしつつも、自信を感じさせる口調でそう言った。

 会話をしているうちに、先程の海軍士官が、シティグレーの可搬型コンピューターを持って戻ってきた。ノートパソコンと異なり、トランク型に折り畳めるものの、バッテリー駆動は考慮されていないタイプのパソコンだ。その代わり、ノートパソコンにはない拡張スロットやリムーバブルドライブが備わっている。

「今、準備します」

「自分でやるわよ」

 何から何まで用意しようとした海軍士官に、大和は苦笑しつつ、デスクのサービスコンセントに自らプラグを差し込むと、画面を起こして、デスクトップ機では珍しい直接接触式のスイッチを押した。

 FM TOWNS IX(9) THは、オープニング画面とメモリ計算の後、休止状態になっていたOSの復帰を始めた。

 

 

「第2宝具『ノーチラス』、疑似骨子、展開」

 乾ドック内のストーム・ボーダー、その艦内、機関室。

 魔力炉を換装、それに、トリトンエンジンもレプリカに交換されている。

 その魔力炉を立ち上げ、トリトンエンジン・レプリカをアイドルにした状態で、別霊基の2人のネモが、管制人格交換の作業に取り掛かっていた。

 ネモ・キャスターの左の掌に、青く光る魔術陣が出現している。

「宝具『ノーチラス』、基本骨子、圧縮」

 同じようにして、ネモ・キャプテンの右の掌に、魔術陣が出現した。すると、周囲、というかストーム・ボーダー全体が、艦の内外を問わず、鈍い光を放ち始める。

「拡張骨子、移管。我がノーチラスから、同位の存在へ」

 ネモ・キャプテンが唱えると、彼の魔術陣から、ネモ・キャスター、彼女の魔術陣へと眩い光が流れ込んでいく。

「ぐっ……」

 ネモ・キャスターが、そう言って、苦しそうな表情になる。

「な、何だこれ……おっも! こんな重いもん、汎人類史の乏しい魔力で支えてたのかよ!」

 自身の第2宝具として存在するノーチラスにストーム・ボーダーを受け止めたネモ・キャスターは、途中から呆れたような口調になりつつ、声を上げた。

「無理もないか。君等が意識することはないよう、分割思考を制御していたものな」

 ふぅ、とひと仕事終えたかの様子で、息を()きながら、ネモ・キャプテンはそう言った。

「そんなにきついかい?」

 ネモ・キャプテンが、僅かに心配そうに訊ねる。

「いや……使い慣れてる軍統一型魔力炉も載ってるし、この世界なら問題ないけど、前の通りに動くようにするって言うなら、あたしに対応させてあちこち最適化が必要だな……」

 目を閉じ、思考の中でストーム・ボーダーを隅々まで認識しながら、ネモ・キャスターは言う。

「時間がかかりそうかい?」

「あたし1人でやるとかなりきつい……────」

 ネモ・キャプテンの言葉に、ネモ・キャスターは、目を閉じたまま、額に脂汗を滲ませながらそう言いかけたが、

「──── あ」

 と、何かを思いついたように目を開け、短く声を出した。

「支那麺に言って北海道帝大のホスコンのAI使わせてもらおー」

 ネモ・キャスターは、そう言って、ポケットから自身のMCフォンを取り出し、メモリダイヤルを呼び出し始める。

「そ、それは方方(ほうぼう)に迷惑がかかったりするんじゃないのか?」

 ネモ・キャプテンは、後頭部に嫌な汗をかくような感触を感じながら、ネモ・キャスターに言う。

「元々文部省と海軍が持ってきた仕事じゃん優先度高いって」

 何故かネコ口になりながら、ネモ・キャスターは言う。

「それに、それこそ他の迷惑考えてる場合じゃないだろー」

「ま、まぁそれはそうなんだが……」

 

 

 ──── 数日後。

 東京。

 深夜。クルマの通りは途切れることはないとは言え、流石に一段落している首都高を、GZG50型トヨタ センチュリーのストレッチ・リムジンが走っている。

「すみません、こんな夜中に終わらせるかたちになってしまって」

「いえいえ。割と慣れてますから……」

 対座式のJシートに座っているマグダレーナが申し訳無さそうに言うと、対面のリアシートに座っていた芦屋朔が、苦笑交じりに返した。

「それに、こんな急ぎでやってもらって、申し訳ないくらいで……」

「いいえ、状況が状況ですから、そのような言葉は不要です」

 朔が逆に恐縮しようとするのを、マグダレーナが制する。

「調子はどうですか? 不具合が出ていませんか?」

 温冷庫を挟んでマグダレーナの隣に座る氏姫が、朔のとなりに座るその人物、というか、サーヴァント的存在に話しかけた。

「うん、今のところは大丈夫みたいだ。感謝してるよ」

 少女の姿をしたそれは、ニコリと笑って礼を言う。

「このままうまく動作できるといいのですが」

 マグダレーナもそちらに視線を移して、苦笑気味に言う。

「いやいや。さすが霊子体のプロのムジーク家だ。本当にこの短期間で書き換えができてしまうとは、この天才も脱帽せざるを得ない。あ、今帽子かぶってないけど」

 そう言う相手を見て、氏姫もマグダレーナも微笑ましそうに笑っていたのだが、

「!?」

 突然、氏姫の眼光が鋭くなる。その視線が、薄めのスモークが貼られた窓から、車外へと向いた。

「な!? な!?」

 朔が驚愕の声を出す。

 黒い靄でできた人の姿が、それでも70km/hを越えて走っているセンチュリーと並走している。

「シャドウサーヴァント!」

 少女の姿をした者が、険しい表情になってそう言った。

「こいつが……!」

 朔の表情も、一方的な驚愕から、敵対者を見る視線になる。マグダレーナも同様だった。

「どうやら、中身のない影ではない様子。私が処理してきます」

 氏姫は、そう言って座席から立ち上がりかける。

「少しだけ前に出てください」

「は、はい!」

 氏姫が言い、運転手がアクセルを踏み増す。国産乗用車唯一のV型12気筒である1GZ-FEエンジンが吠え、センチュリーは追跡者より僅かに前に出る。

 ガチャッ!

 センチュリーの増速に気づいた追跡者が、自身も増速しようとした瞬間、センチュリーの右後部ドアが開き、氏姫が飛び出してきた。

「はっ!」

 剣ではなく、脚で追跡者、シャドウサーヴァントの頭を捉える。70km/hからの慣性を残したまま、レッグシザースホイップで、シャドウサーヴァントの頭を激しくアスファルト路面に擦りつけた。

 氏姫は、跳躍で間合いを取り直す。左手に刀を実体化させた。

 果たして、シャドウサーヴァントは、ゆらり、と起き上がってくる。

「まぁ、いまので潰れてくれるなら、苦労はないですね……」

 氏姫の方も、口元で不敵に笑いながら、言った。

「今の速度、どう考えてもライダーとお見受けしますが……セイバーやランサーでないことを感謝しますか」

 そう言いながら、抜刀の構えを取る。

「はっ!」

 バキィッ!!

 氏姫の刀と、どこか釘のようにも見えるシャドウサーヴァントの剣とが、ぶつかり合う。そのままお互いが交差して、前後関係が入れ替わった。

「魔力は感じていますとも、ええ。あなたが本物でしたらひとたまりもなかったでしょうが、紛い物では、私の適正と我がマスターの魔力を侵すことはできません」

 言いつつ、左手に持っていた鞘を霊体化させると、両手で刀を握り、構え直す。

「あなた単体では、少し大仰に過ぎますが、その背後にいる存在は、看過できません。家を守ること、この国を守ること、その為に争いの種は断たせてもらいます。ご容赦を」

 氏姫が言った直後、お互い、再びその中間点、交錯点に向かって飛び出す。

「──── 古河・小弓、喜連川。足利一門の名において、ここに断つ。桜花一刀(おうかいっとう)公方(くぼう)断罪(だんざい)!!」

 煌めく白刃を、シャドウサーヴァントは自身の剣で受け止めようとするが ────

「実体なき穢れの影にて、斬捨御免」

 ──── その、受け止めようとした剣ごと、切り裂かれた靄のサーヴァントは、そのまま砂礫のように、風に流されるように霧散していった。

 氏姫は、刀から穢れの残りを振り払った後、左手に実体化させた鞘に収める。彼女が振り返ると、先に行ってもらったと思っていたセンチュリーが、ハザードをつけて数十メートル先に停車していた。

「なんとか、この場は切り抜けたみたいですね」

 ガンドの構えをとっていた朔が、その姿勢を緩めてそう言った。

「でも、あんなのが出てくるようじゃ、あっちの動きを待って動こうなんて考えは捨てた方がいいっぽいね。早くゴルドルフ君達と合流しないと」

 リアシート越しに、リアウィンドウから氏姫達の闘いを見ていたサーヴァント的存在の少女 ──── ダ・ヴィンチちゃん、は、険しい表情のままそう言った。

「強行軍になりますが、取れる一番早い新幹線と、接続する列車を手配します」

 朔が言い、内ポケットからMCフォンを取り出して、新幹線の予約サイトを開き始めた。

 

 





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