Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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第4節 原初特異点 冬木
Chapter-01


『座標固定、アンサモン行程開始、霊子変換実行』

『シミュレート完了。成功率99.998%、行程続行』

『跳躍まで、3、2、1 ────』

 

 ヴンッ

 

 システムボイスとクライン・コフィンの若干の仕様の違いを除けば、今まで経験してきたレイシフトそのもの ────

 

「!?」

 

『──── 塩基配列 ヒトゲノムに申請』

『──── 霊器属性 善性・中立に申請』

『──── 100%の安全性を保証 ゲート 開きます』

 

 ── 何だ、これは。

 

『ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。ここは人理継続保証機関 カルデア ──── 最終確認を行います、登録名を入力してください』

 

 それは、視覚的な情報なのか、精神的なノイズなのか、はたまた別のなにかか。

 その区別すらできない。

 ただ、その場面は知っている。

 ──── 知っている、はずだった。

 

 ── !?

 

『──── 登録済みのデータと一致します。あなたがカルデアスの()()であることを認めます』

 

『お待ちしておりました オルガマリー・アニムスフィア。あなたの来訪を歓迎します。どうぞ、善き未来をお過ごしください』

 

 ──── レイシフトから抜けた ──── かに見えた。

 しかし、目の前に広がる光景は、炎上する都市ではなく ────

 荒涼とした海岸。まるでそれと対象的に、満点の星空。天の河がキラキラと美しい。

 なぜこんなところに、と思う間もなく、その光景は、まるで新幹線の車窓のように流れ去っていく。

 

 再び、レイシフト中の視覚情報から、その出口の光へ ────

 

「──── 立香、立香、大丈夫かい?」

「はっ」

 声をかけられて、立香は我に返る。

 そこは、かつて見た光景。

 建物の一部は倒壊し、あたりは瓦礫にまみれ、人の姿はなく、ただ、燃えている都市の光景。

「また、ここへ来たんだ」

「はい」

 立香の言葉に、マシュが反応する。

「すべての事件が始まった場所、最初に観測された特異点、そして ────」

「ッ!」

 マシュがその先を言おうとした時、立香が、下唇を噛みながら表情を歪めた。

「す、すみません」

 マシュが、立香の傷を抉りかけていたことに気付き、慌てた声を出す。

「いや、いいよ、ここに来るって決めた時点で、その記憶との戦いになると覚悟してたから」

 立香は強気の笑顔をみせて言うが、

「相当、苦しい思い出があるんだね」

 と、ブーディカが心配そうな表情で問いかけるように言う。

「あたしみたいに……本当に、大丈夫なの?」

「……うん、大丈夫。それに、それを乗り越えるためにも、ここを乗り越える必要があるんだ」

 強気を取り繕ったまま、立香は言う。

「無理は、 ──── うん、少しはしないと。所長の為にも」

 マシュとブーディカは、それでも少し心配そうな表情で立香の表情を見ていたが、その立香の視線を追う形で、自分達も周囲を見渡した。

「あの時、私達はこの特異点を修復したわけじゃなかったんだ」

 立香が言う。

「特異点としての聖杯は確かに回収した。けれど、それで崩壊を始めたこの特異点から、強制退去させられただけだったんだ」

 立香は、どこかしみじみとしたように言った。

 だが、それを聞いて、

「ちょちょちょ、ちょっと待って」

 と、ブーディカが驚いて声を出した。

「あ、あたし専門外だけどさ、こういう特異点、みたいのって、かなりのエネルギーリソースがないと維持できないんじゃないの? 聖杯を回収して、じゃあ、今()()が存在しているのはどういうことなのさ。確かにこの中は、かなり魔力が濃い感じはするけど」

「はい、それは私も驚いています。今でもあのときの状況が維持されているとは ────」

 マシュも、自身が驚いていることを隠さず、言いかけたが、

「完全にあのときのままじゃ、ないみたいだよ」

 と、マシュの言葉を遮って、立香がそう言った。

「え?」

 マシュが、短く声を漏らす。

「あれ」

 立香が指差した方向には、冬木市を東西に貫いている道路があった。瓦礫でだいぶ散らかっているが……

 それを見て、マシュが驚いた声を出す。

「架線柱!?」

 揃ってなぎ倒されてはいるが、明らかに鉄軌道の架線を支えるそれに見えるようなものが、道路の中央分離帯に並んでいた、その残骸が視覚できた。

「こ、ここはどう見ても道路です。路面電車の軌道もない、なのに、どうして……」

 マシュが戸惑いの声を上げている最中に、立香はその架線柱の並びを追うように視線を移動させていく。

「あった、あれだよ」

 その目的のものを発見して、立香はそれを指差した。

 それは、半ば瓦礫に埋もれかけているが……────

「バス……いえ! トロリーバス!!」

 マシュは、損傷しつつもどうにか原型が確認できる車体の上に、集電装置周りがあるのを確認して、声を上げた。

「トロリーバスがあると、何か変なのかい?」

 ブーディカが訊ねる。

「汎人類史の冬木市には、トロリーバスはなかった、いえ、そもそも汎人類史2015年の時点で、日本にトロリーバスは専用道の2路線しか残ってなかったんです!」

「え?」

 マシュのブーディカへの言葉を聞いて、立香が笑っているかのように表情を引き攣らせる。

「汎人類史の日本にトロリーバス、あったんだ」

「知らなかったんですね……」

 立香が気まずそうな表情で言うと、マシュは目元を手で覆った。

異聞(こっちの)世界じゃ、まだ東京にもあったんだ。冬木にもあってもおかしくない」

「だ、だとするなら、今のこの場所は……」

 立香が説明すると、マシュは慄いた様子の言葉を出しつつ、喉をゴクリと鳴らす。

「元々の冬木と、異聞(この)世界の冬木の要素とが衝突(コリジョン)を起こしている……」

 マシュの言葉に、立香が頷いた。

「それじゃあ、ここでどうしたらいいか、わかんない ──── って事になってたりする?」

 ブーディカが、2人に問いかける。

「いや、そんな事はないと思う」

 立香が言い、未遠川を挟んだ西の方角を見る。

「セレスタさんが言ってた。この世界でも平成16年に聖杯戦争があったんだ」

「つまり、私達が目指すのは変わらず、座標点0号、大聖杯のある地下大空洞、ということですね」

 立香に、マシュが続き、2人は顔を見合わせて、頷きあった。

 その直後。

「きゃあ~。誰か~助けて~」

 と、高い声が聞こえてくる。

「今の声は!?」

 立香がその声が聞こえてきた方を向く。

「どう聞いても誰かの悲鳴です! 行きましょう!」

 マシュが言い、瞬時に霊装、武装を呼び出す。

「うん!」

 そう言って、2人は駆け出す。

「そーかなー。今のなんか妙に余裕ぶって間延びしてたように聞こえたけどなー」

 そう言いつつも、ブーディカは霊体化していた槍を実体化させつつ、星麗禰とともに、2人を追い越す勢いで後を追う。

 果たして、4人の前に現れた光景は ────

「え、ええっ!?」

 立香が、それを見て、目を剥くようにしながら驚愕の声を上げる。

 空想樹の種子が複数、1人の女性を取り囲んでいる。

 空想樹の種子も、以前は見たことがない存在のはずだが、それはまだいい。すでにここでは、異聞世界(レイヤー)の冬木市の衝突を含めて、以前にはなかった異変が発生している。

 だが、問題はその、取り囲まれている女性の姿だった。

「オルガマリー所長!?」

「と、とにかく救助しましょう!!」

 立香とマシュが驚きと戸惑いの声を出しつつも、マシュも含めた3人のサーヴァントは、その方向へ向かって飛び出した。

「ていっ!」

 ブーディカが、ランサー霊基ながら、腰に吊っている細身の剣を抜き、それを空想樹の種子に向かって投げつける。

 キンッ

 それ自体は、空想樹の種子の1体に当たって跳ね返るものの、それがきっかけで、オルガマリーを取り囲んでいた空想樹の種子の動きが変わり、

「はっ!!」

 と、新たなアクションに入りかけたところへ、ブーディカは槍でその1体を貫いた。

 そのまま、別の種子に、上段から踵落としを入れると、そこで崩れた態勢を立て直される前に、槍で貫く。

「ヒュウッ」

 星麗禰が、隙間を擦り透けるようにしながら1体の胴を深く斬りつけ、その動きのまま身体を回しつつ、クナイをもう1体の頭部に投げつける。それが命中して頭部を損傷した種子が、その頭部が爆発するように崩壊し、地面に崩れ落ちる。

「た ────」

 マシュは高く跳躍し、空中で倒立前転しつつ身体の向きを変え、空想樹の種子とオルガマリーの間に、オルガマリーを庇うように立った。

「え?」

「救助要請を聞いて駆けつけました! オルガマリー所長をお守りします!」

 マシュは言い、

「はっ!」

 そのまま、目前の種子の1体を剣で斬り裂いた。

「え、え、えええー!?」

 オルガマリーが驚愕の声を出している間にも、

「でぇいっ!」

 マシュは、左腕に装備されている、少し小型化された円卓の盾で、空想樹の種子の1体にシールドチャージをかけると、

「星麗禰さん!」

「フンッ!」

 と、マシュが弾き飛ばした種子を、星麗禰が斬り裂く。

 同時に、マシュ自身も、また別の種子を剣で袈裟斬りにしていた。

「……戦闘は終了しました」

 マシュが言う。この場にいた空想樹の種子は全て、残骸となった後に霧散していた。

「ですが、これはどういうことなのでしょう?」

 マシュは戸惑いを隠さず、言った。

「それは私の言葉よ」

 オルガマリーが言う。

「マシュ、あなたシールダーじゃないの? その武装、まるで……セイバーじゃない」

「えっと、これは、その」

 オルガマリーに問い質されて、マシュはとっさに言葉が出なかった。

「それも含めて、お互いの状況確認。私はこの通り無事よ。傷一つないから心配無用 ──── 何よ、その顔は」

 異聞世界(レイヤー)のオルガマリーとは明らかに違う、常に苛立ったような、余裕のないような表情と口調で、オルガマリーは言い、それを凝視する立香とマシュの表情を見て、更に不機嫌そうな表情になった。

「その……所長は、本物、なんですか?」

 立香が、やっと声に出せた、と言う様子で、オルガマリーに向かって指を差してしまいながら、そう訊ねた。

「なによ、それ」

 怒ったような口調で、オルガマリーは言う。

「私が本物か、ですって? それ、カルデアの所長に相応しいかどうかって話? バカな事言わないで。誰がなんと言おうと私はカルデアの所長よ。その責任から逃げられるわけないでしょ」

「い、いえ、そういうことではなくてですね……その、なんでここに存在しているのか、実在する存在なのか、っていう事で……」

 立香がさらにそう問う。

「それは……」

 オルガマリーは、そこで言い澱んだ。

「そうだ……触ってみてもいいですか?」

 立香がそう言い、オルガマリーに近付こうとする。

「えっ……」

 オルガマリーは、一瞬固まったかのように、短く驚いた声を出すと、

「ちょ、ちょっと待って、あなたのその魔力量……迂闊に近づかないで、爆発しちゃうでしょ!?」

 そう言って、後ろにさがり、立香から離れようとする。

「マシュの武装と言い、立香の魔力量と言い、この時点で他の2体のサーヴァントを連れているところと言い……確かにおかしなところが多いわね、今回はそういう設定か、とも思ったけど……」

 立香とマシュをジロジロと見ながら、オルガマリーは言う。

「設定って……どういう意味です?」

 オルガマリーの言い回しに、立香は、後頭部に汗をかくような感覚を覚えながら、訊き返す。

「こっちの話……いえ、それも含めて、まずは事情と状況を説明して。協力パターンにはいるのは、それからよ」

 オルガマリーがそう言うと、

「あ…………」

 マシュとブーディカが、少し不安そうな表情を立香に向けた。

「うん、大丈夫。このオルガマリーさんにも納得してもらわないといけないと思うし……」

 立香は、苦笑交じりにそう言った。

「オルガマリー()()? あなた、私の事をカルデアの所長と……────」

 オルガマリーは、敵意も感じさせるような視線を、立香に向ける。

「あ、ああこれには深ーい事情があって! それも今、説明するから」

 ブーディカが、立香の方を制するかのように腕を広げて庇いながら、そう言った。

「事情、ね……まぁいいわ。聞かせて頂戴」

「それじゃあ……────」

 ……………………

 …………

 ……

「…………それを、私に話して、どう反応するか考えなかった?」

 レフ・ライノールによる冬木へのレイシフト実証の失敗。

 7つの特異点を消去する人理修復の旅、人理定礎の復元。

 そして、人理焼却の現況だったゲーティア、ビースト(1)との決戦。

 人理が修復、されたと思った、事。

 その後、発生したカルデアへの襲撃。

 カルデアスの凍結、南極のカルデア基地からの脱出、地球の白紙化、空想樹の降着、異聞帯の発生。

 本来冬木に送られるはずだったAチームが、クリプターとして異聞帯を育てていたこと。

 キリシュタリアの第5異聞帯で降臨した『異星の神』。

「この、『異星の神』に記憶容量は使わなくていいわ、いいわね?」

 7つの空想樹を切除、本当の『異星の神』、カルデアスこそが『異星』であり、地球白紙化を行った元凶だと知った事。

 そして ────

 その奪還を試みて、南極に突入した時に、入り込んでしまった8つ目の異聞帯(ロストベルト)異聞世界(レイヤー)

 そこまで、オルガマリーは話を聞き、理解し、自分なりに噛み砕いて納得していたのだが ────

「カルデアの本来の名前は忘れてないわよね? 本来の人理を投げ出して異聞世界(レイヤー)を選ぶ? そんな事、カルデアの所長である私が認められると思う?」

「それ、は……」

 それを話すことを楽観視していた立香は、オルガマリーから強く詰められて、視線を伏せつつ、言葉を詰まらせてしまう。

「り……立香の精神の負担も考えてあげてよ!」

 マシュと2人で、立香を庇うようにオルガマリーとの間に割り込みながら、ブーディカが言う。

「世界全体を背負わされる、なんて、英霊でも気が遠くなる!」

「そうね、それは同情してあげてもいい。でも、今の事情を納得できるかは別」

 オルガマリーはそう言い、怜悧な視線を立香に向けている。

『そう、じゃあ、あなたもう話さなくていいわ』

「えっ!?」

 突然、割り込んできた声に、その場にいた者はキョロキョロとあたりを見回す。立香も顔を上げた。

 立香とマシュには見慣れた、魔術通信の映像が映し出された。

『通信の呼び水になってくれてありがとう。でも、その判断について立香達を責めるなら、あなたはもう黙ってて。後は私がやる』

 






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ネモ・ガールマリーンの衣装について

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