Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order 作:神谷萌
「小型舟艇、接近します」
ストーム・ボーダーが指定された場所に着水すると、そこに灰色の小型のボートが接近してくる。
軍用の、荷物や人員を運ぶためのもののようで、簡単な操縦席の他は、フラットな荷台になっている。
「それでは皆さん、会談の場所まで向かいましょう」
ストーム・ボーダーの管制室では、ゆうだちがそう言って促した。
「それでは行こうか、ゴルドルフ君」
ダ・ヴィンチのその言葉に対して、
「う、うむ……」
と、ゴルドルフは、いまいち歯切れ悪そうな態度を示す。
「ど、どうも、責任者である私が、この管制室を離れるというのはだね……」
「留守中の事は任せてくれていい」
ゴルドルフの言葉を半ば遮るように、ネモが言う。
「それに、ここが安全とは限らない。もし交渉決裂となれば、真っ先に狙われるだろうからね」
「う、それは確かに……」
ネモの言葉に、ゴルドルフは顔面蒼白になりつつ、そう呟いた。
「そ、それでは私について来たまえ、立香君、カドック君」
体裁を整え直して、ゴルドルフはそう言ったものの……────
「…………返事がないな」
「所長がグズグズしてるから、先に行っちゃったぞ」
ゴルドルフの言葉に、傍らに立ったムニエルが、そう告げた。
「こ、こういうところで指揮官をおいていくとは何事だぁ!!」
一方、ムニエルの指摘したとおり、立香とマシュ、カドックは、既に小型艇のデッキの上にいた。
「六四式一〇
ゆうだちが、妙な、悪戯っ気混じりの渋い顔をしながら、立香達に向かって言う。
「別に、VIP待遇にしろと言うつもりはないからな」
カドックがまずそう返す。
「泳いで渡れと言われないだけ、だいぶ有情かな」
「そうですね」
立香の言葉に、マシュが同意した。
「お前達、私を置いていくとはどういう了見だ」
憤った様子のゴルドルフが、船上に降りてきて、言う。
「いえ、しばらく時間がかかりそうだったので」
まず、立香がそう言った後、
「結果的に僕達だけで行くことになるもんだと思ってた」
と、カドックが追撃を入れた。
「どこまで信用無いの、私……!!」
ゴルドルフが、驚いたような表情になる。
「信用がないというのとは、違うかな」
立香が言う。
「こういう時は、管制室でどっかり構えて無闇に動かないのが、新所長の役割だと思ってました」
「あ……うん、まぁ、そうか……」
「信用ないどころか、きちんと理解されてるじゃありませんか」
傍らに立っていたシオンが、立香のフォローに付け加えた。
「これで、全員ということでよろしいでしょうか?」
ゆうだちが訊ねると、
「うむ」
と、ゴルドルフは、瞬時にキリッとした表情になって、肯定の返事をした。
「それでは出発しますね。揺れると思うので。気をつけていてください」
ゆうだちは、まずノウム・カルデアの面子にそう告げた後、
「日の出桟橋へ」
と、操縦席にいた、おそらく兵士と思しき人物に、そう指示する。
「ええっ!?」
それを聞いて、兵士の方は驚いたような声を出しつつ、ゆうだちを振り返る。
「いいんですか? あそこは民間ですよ?」
「許可はとってある。別に軍人がわらわら上陸するわけじゃないんだから、大丈夫よ」
「解りました」
ゆうだちが説明すると、兵士はそう言って、一度座席に軽く座り直してから、自動車型の舵輪とスロットルレバーに手をかける。
「…………」
その光景を見ていた立香が、微妙に目を細めた。
トットットットットッ……
「この音……
ゴルドルフが後ろを振り向きつつ、呟いた。
「はい。横倒型55馬力です」
ゆうだちが答える。
「…………船体はそれほど古いものには見えないけどね」
ダ・ヴィンチが、キョロキョロと見回すようしながら、意外そうな口調で言う。
「つまり、この世界ではまだホットバルブエンジンが造られているということか」
ゴルドルフは、鼻から息を吐き出しつつ、そう言った。
「…………?」
小型艇は埋立地に挟まれた運河を通り、途中、レインボーブリッジの下をくぐり抜け、隅田川の河口の方へと向かっていく。
大型船が発着する汐留ターミナルの手前側、日の出埠頭の小型船桟橋に、小型艇は接舷した。
先導するかたちで最初に下船・上陸したゆうだちが、迎えに来ていたらしい、スーツ姿の、おそらく政府職員の男性と、軽く話し合った。その男性が手元に何かを取り出す。
「みなさーん」
ゆうだちが、立香達ノウム・カルデアの面子に声をかける。
「皆さんに、念の為にこれをお渡ししておきます」
そう言って、男性職員とともに、それをノウム・カルデアの面子に1人1枚ずつ手渡す。
立香は、それを受け取ると、しげしげと見つめる。
「これは……」
「JTカードと言いまして、中の記憶チップに紐付けられている金額分、ワンタッチで鉄道や路面電車なんかの交通機関を利用できるカードです」
ゆうだちが説明する。
「『Suica』じゃないんだ」
立香がつぶやく。
「? 食べ物の話ですか?」
それを聞いたゆうだちが、不思議そうに訊ねる。
「あ、そうじゃなくて、その、つまり、汎人類史にも似たような物があったっていうか……」
「ああ、名称が違うわけですか」
言われて、ゆうだちはあっさりとそう言った。
「…………はい」
立香は、微妙に考えているような様子を見せながら、そう言った。
「ともあれ、このカードには150円分ストアしてあるので……────」
「ええーっ!? たったそれだけ!?」
ゆうだちが説明を再開すると、再び立香が、抗議するような声でそれを遮ってしまった。
「…………ええと」
ゆうだちは、驚いて目を
「米、なら上質米でも20kgは買える金額ですが……」
「あれ、えっと、お米って……?」
立香は、自分の右手で数えるような仕種をしながら、オロオロと声を出す。
「日本の物価には詳しくありませんが、米20kgの分量からすると、それなりの金額ですねェ」
シオンが、腕組みしつつ、ため息交じりにそう言った。
「物価が違うということだな。貨幣の価値は相対的なものだから、世界が違えばこういうこともあるだろう」
ゴルドルフが何故か訳知り顔をしていた。
「とまれ…………それなりの金額をストアしてありますが、わざわざはぐれた
「異聞帯でもそう言う街の扱いなのかよ……秋葉原……」
ゆうだちの念を押す言葉に、カドックが辟易したような表情になってそう言った。
「では、バスの方に乗車してください」
ゆうだちが先導し、送迎車乗降場まで向かう。そこに、マイクロバスが停まっていた。
「む。マツダのバッジが付いているな」
ゴルドルフが、それに気づいて声に出した。
「デザインもファイブポインテッドグリルになっているし……ふぅむ……」
「あの、すみません、時間がありますので」
ゴルドルフが思わずと言った様子で、観察してしまっていると、ゆうだちが困ったように声をかけた。
「おお、おお失礼した」
ゴルドルフはそこまで確認できなかったが、その車体の後部には『WX-90 Parkway』のロゴが、『SKYACTIV-D』のそれとともに掲げられていた。
彼らが乗り込んだところで、マイクロバス・パークウェイは発車する。
雪隠詰めの大渋滞というほどでもないが、やはり自動車の数は多い。そう言う意味では、立香達に見慣れた東京の姿だった。
「ここまで違和感のない異聞帯というのも、どこか奇妙な感覚になりますね」
「うん」
立香とマシュは、隣り合って腰掛けながら、車窓の外を伺っていた。マシュが言うと、立香が同意の声を出す。
「新虎通りの方から行きます」
「了解。あとは任せる」
運転手が言うと、添乗員席に座っていたゆうだちがそう返す。
バスはゆりかもめの高架下を走り、汐留交差点で左折 ────
「あれ?」
それを見て、立香が声を出した。
ゆりかもめの線路が伸びていっている方から、左折した通りの方に、併用軌道が合流してくる。
バスと路面電車がすれ違った。
「都電……都電が残ってる」
「東京には、もともと路面電車は残っていたのでは?」
立香のつぶやくような声に、不思議そうに表情をしたマシュが、立香の後頭部越しに訊ねてくる。
「うん。でもこのあたりじゃなかったはず」
マシュの言う通り、汎人類史においても、東京には都電荒川線が路面電車として残っているが、もっと内陸の方だ。
その姿は立香も
バスはしばらく都電の軌道と並走し、虎ノ門二丁目交差点で都電の方が右側へと逸れて行った。
赤坂一丁目交差点で外堀通りと合流し、直後に特許庁前交差点を右折。北上して首都高都心環状線をくぐることになる交差点を越えて、右折で進入する。内閣部局庁舎。汎人類史では、内閣府のそれがある場所だ。
扉が開き、案内役のゆうだち、それに、ゴルドルフを差し置いて、立香とマシュ、カドックが降り立つ。
すると、正面、建物の出入り口のところに、何人かの職員と思しきスーツ姿の人物とともに、大和が立っていた。
「改めてようこそ、帝都・東京へ。汎人類史カルデアの諸君」
大和は、両腕を開く仕種をしながら、言う。
「お互いに納得がいく会談になるといいわね」
「…………」
笑顔で言う大和の言葉に、立香とマシュは黙ってその顔を見つめる。やがて、立香が軽く唇を尖らせた。
成層圏の、雲とのグラデーションが美しい蒼穹の中を進む、これもまた、均整の取れたプロポーションが美しい、銀色の航空機。
幻想的な光景 ──── これから起こることを除けば。
航空機の ──── ボーイングB-29『スーパーフォートレス』、その胴体内、爆弾倉に収められた、サイズ感以上に、異様に太った形状の ──── 爆弾。
あっさりと、投下されていくその爆弾。
投下した当の機体か、それとも僚機からか、撮影され続ける、その後方の地上。
高度が高い上に、雲にかすれて、地上の様子までもは伺いきれない。
刹那、雲の下での閃光。
その後に、一気に空へ向かって伸びたかと思うと、どんどんと太っていく、不自然な雲。
画面が切り替わり、その瞬間を地上の離れた位置から撮影した写真が写し出される。
さらに ────────
その映像のさなか、アフレコされたものだろう、誇らしくその
「これを見せられた我々が、汎人類史、貴方がたがそう呼ぶ世界が、我々より優れていると認める、事ができると思うかね?」
映像を映し出していた、レーザープロジェクションモニターの画面に対し、大和は自身もそちらを向いていたが、机についている双方の参加者の方を向いて座り直しつつ、ノウム・カルデアのメンバーに向かって、そう言った。
内閣部局庁舎、第3小会議室。
上座に置かれたモニターの下に、やたらボタンのついたビデオデッキが置かれている。立香はかろうじて家庭用ビデオテープレコーダーの存在を知っていたが、立香が知っているそれに比べて、ビデオテープカセットの挿入口が横方向に狭い気がした。カセット挿入口の下に『Digital Beta』と書かれている。
だが、今、映像を映し出していたのはそちらではなかった。
大和の傍ら、机の上に、なんかAmaz◯nで、汎人類史の通貨で¥5,000以下で売っていそうな小型のメディアプレーヤーが置かれていて、そのHDMI出力から手作り感漂うアルミケースの変換ボックスを経由して、3本のケーブルがモニターの背面に向かっている。
「この映像は、誰が持ってきたものか、聞いてもいいかな?」
ダ・ヴィンチが、比較的落ちついた口調で、そう訊ねた。
「“異星の使徒”と名乗っていた。同時に、蘆屋道満であるとも。その者がその再生装置ごと持ってきた」
「いい風評被害です……」
大和が答えた直後、異聞世界側の出席者の1人が、思わず、といった様子で呟いた。呟いてしまってから、かけているメガネを直す。
蘆屋
「あいつ……」
リンボが “異星の使徒” として、この世界にちょっかいをかけていた事実を知り、ダ・ヴィンチが苦い顔になり、立香が目元を手で覆った。
「我々が瑕疵のない完璧な平和を提供しているなどと傲慢な事を言うつもりはない。戦争や事変がまったくない世界だと言うつもりもないし、核反応兵器自体は存在しないわけでもない…………」
静かに、しかし意図してはっきりと聞こえる声で、大和は言い、そしてそこから、一気に声が大きくなる。
「だが! 程度問題というものがある! 1万発以上の核反応兵器を、人類同士での争いのためだけにお互い向けあっているなど、どう考えても尋常ではない! しかも、現実に、軍事施設以外を巻き添えにした都市攻撃に使ってしまった、それも、その対象が日本だったなど! 断じて認められん!!」
大和の言葉に、ノウム・カルデアのメンバーは、一瞬押し黙ってしまう。
「……汎人類史の方が優れている、なんて言いません」
立香が、口に出してから、視線を大和の方に向けた。
「私達の世界は、汎人類史は、優れているどころか、最も失敗を繰り返した歴史だと、私達も認めます。けれど、それが可能性を広げてきたんです。だから……それを知ったとしても、『野蛮で停滞しているから優れていない』のだと解ったとしても、私達も、汎人類史を消していいと認めるわけにはいかない」
「そもそもですね」
立香に続いて、シオンがメガネを直しつつ、発言する。
「アレは単に、世界のシステムが『一番 “先” に進める可能性が残っている時間軸』として選んだだけです。あなた方の世界の方が道徳的にまっとうだとしても、それはまた別軸の評価なんですよ」
「それなら、問うが」
大和が切り返す。
「なぜ、汎人類史は白紙化した?」
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
カドックとのカップリングは……
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アナスタシア以外考えられない
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譲っても立香♀まで
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既存の型月キャラなら、まぁ……
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別に型月キャラでもオリキャラでも
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逆にやるならいっそオリキャラの方が良い