Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-07

 大地にできた巨大な裂け目。ストーム・ボーダーは次元穿孔と防護の光を纏いながら、そこから地殻の中に進入していく。

 外の景色は、鈍く光るなにかの奔流が荒れ狂っていて、ストーム・ボーダーはそれによって激しく揺さぶられる。

「想像通り、断層内の流れが激しいな……総員、気を緩めるな!」

 ネモ・キャスターの表情から、先程までの余裕を感じさせた笑みが消える。

「情報の侵入が完全に防げない! 精神防御が必要なやつはそちらに専念するんだ!」

 

 ──────── え

 

 立香は、ストーム・ボーダーの中だと思い、礼装の防御を緩めてしまっていた。

「立香! 大丈夫!? りつか ────」

 異変に気づいたらしいブーディカの声が、遠のいていく ────

 

 

 最初の頃は、わかって、という切願。

 その後は、助けて、という懇願。

 その後は、もうやめて、という哀願。

 

 その後の記憶はあやふや。

 気付いた時には、わたしは自分が何者なのか、ここが何処なのか、どうしてこうなっているのか。そういった事を考えても、その数秒後にはわたしという意識は白紙になっていた。

 

 今日も、あの光がわたしを照らす。

 

 わたしは ちきゅうじん です

 わたしは ちきゅうじん です

 

 あなたたちの なかま です

 あなたたちは なかま です

 

 ── わたしは

 ── わたしは ────

 

『我々の任務は今日までだ』

『まだ、不満が残りますね』

『なに、次のチームが引き継いで、成果を上げてくれるさ』

『しかし……この施設も古くなりましたね。稼働から何年経っているんですか?』

『もう60年近い。検体ごと入れ替える(すべ)がないからな』

『非公式の施設だ、そのあたり、派手にやるわけにはいかないからな』

『この検体が生き続ける限り、この施設も稼働し続ける。終わりはないんだよ』

 

 ときおり すこしのあいだ ひとがいなくなって

 しずかになる ときがある

 

 いまのわたしに まぶたがあるのか わからないけど

 しかくをとじると けしきがかわる

 まどろみのふちで みる なつかしいユメ

 

 ──── 視覚として捉えられる光景が、無機質な部屋から、燃える街の中に変わる。

 

 わたしには いしきは ないはずなのに

 わたしには きおくは ないはずなのに

 ユメをみる きのうも ないはずなのに

 

 でも このけしき だけは みるのです

 

 きっと わたしだった ものにとって

 ゆいいつの たのしかった ひとときのこと なのでしょう

 

 どうして こんな けしき なのでしょうか

 どうして はんにちに みたない できごと なのでしょうか

 そんなに わたしには たのしいことが なかったのでしょうか

 

 わたしは といかけながら くりかえすのです

 ここにはいない わたしだったものに

 こんなものが きぼうとゆめ だったのかと

 

 ──── 小さいが鋭い衝撃とともに、景色が、あの無機質な部屋に戻る。

 

『今、眼球部に反応があったか?』

『どうだろう。宇宙人の眼球はわかりづらい』

 

 もう あなたたちに きぼうは もちません

 もう あなたたちに りかいは もとめません

 

 だって 精神(わたし)は もう ここに いないのですから

 

 わたしの精神(こころ) わたしだったもの

 あのひとたちに つたえてください

 ()()()()()は まだ たたかっていると

 

 ──── また、景色が変わる。

 満天の夜空を見上げる。

 天には、煌めく星々の流れ。美しい天の河。

 

 わたしには まだ やくわりがあると────

 

 

「いまの、は」

 弾けるように視界が変わったかと思うと、そこはストーム・ボーダーの管制室で ────

「ごめんなさい、私が気づくべきだった」

 目の前に、セレスタが立っていた。

「舵が素直になってきた!」

 ゴルドルフの声がする。彼が操縦席に座っていた。ムニエルや他の者では、今の情報侵入を防御しながら操舵する事に困難があったのだろう。

「乱流の層を抜けるぞ!」

「トリトンエンジン、15秒後に出力を50%に絞る!」

 ゴルドルフの声を受けて、ネモ・キャスターが言う。

「プロフェッサー! 外の情報を収集しろ! 管制室(ここ)にいる連中も、観測装置を注視してろよ!」

「キツネノメ、起動して構わないでしょうか!?」

 玉彦の声がして、それにネモ・キャスターが(こた)える。

「大丈夫だ! 魔力炉の運転は余力を残してある!」

「ここから先はカルデアスの内核だ。空間的には安定しているはずだけど、何があるかの保証はないよ!」

 ダ・ヴィンチも声を上げた。

「マム、状況確認です。艦内施設、通路、異常なし!」

「装甲面の電磁障壁も異常ありませーん!」

「設備の機能も正常でーす! 食堂の調理設備もまったく問題なし!」

「艦首レイプルーフ、霊子USM、A型・B型、その他兵装、異常ありませーん!」

 ネモ・ガールマリーンが次々に報告の声を上げる。

「サーヴァント並列召喚システムは……ダメです、霊基グラフの励起不可能です!!」

 順調な報告が続いた中で、1つだけ、悲鳴のような声が上がってきた。

「司令官! 召喚システムが不調だと言ってきているけど、どうする!?」

「こんな時に故障か!?」

 ネモ・キャスターが問いかけると、操縦をガールマリーンの1人と交代したゴルドルフが、険しい声を出す。

「すぐに修理だ。カヤンとマーカスを向かわせろ!」

「私も見てみます!」

 オルガマリーが立ち上がり、言った。

「汎人類史由来のシステムの不調なら、修正のしようがあるかも知れない」

「……うむ、頼む!」

 ほんの一瞬だけ躊躇ってから、ゴルドルフはオルガマリーにそう言った。

「お願い、お姉ちゃん。私がここから離れるわけには行かない」

「解ってる。任せておいて」

 セレスタの言葉にそう返して、オルガマリーは、アストルフォと、それに案内役のガールマリーン1人とともに、管制室を出ていった。

「…………」

 スタッフがバタバタと動いている間、立香は、モニターに写る外の景色を注視していた。

「ここが、カルデアスの内側……」

 表層を覆う空想樹の根でもあるのだろうか、空想樹のそれとよく似た表面の、太い蔦状のものが、中心に向かって伸びていっている。

 そして、その隙間から覗く、外殻の内側とでも言えばいいのか、そこを注視すると ────

「あれは……」

「建物がたくさんある。でも、これは……街、と言っていいのかい?」

 立香が戸惑ったような声を出し、同じようにモニターを注視していたブーディカが、続けて呟くように言った。

「私にも見覚えのある建物が幾つかあるが、これは……」

 モニターに視線を移したゴルドルフが、やはり呆然として呟くように言う。

「プロフェッサー、分析の結果は?」

『西暦2017年の、汎人類史の文明が圧縮、凍結されています』

 ダ・ヴィンチが訊ねると、電算室のネモ・プロフェッサーが、通信越しに回答してきた。

「魔術理論の『世界卵』の応用ね。これだけの規模の事象保管、できるのか」

 セレスタが言った。

「では、汎人類史の地球の表層という事か ────」

 ゴルドルフがそう言った時、立香はモニターに視線を向けたまま、傍らに立っていたブーディカの手を握った。ブーディカが、その手をよりしっかりと握り直す。

「── これを元に戻せれば、汎人類史を……────」

「無駄よ」

 ゴルドルフが言いかけた言葉を、セレスタが、少し酷薄そうな口調で遮った。

「確認するけど、生命反応はある?」

「プロフェッサー」

 セレスタの問いを、ネモ・キャスターが更に()()

『植物性のものだけが、冷凍された状態で観測されています』

「な……────」

 プロフェッサーの答えを聞いて、ゴルドルフとダ・ヴィンチが絶句した。

 淡々とした口調のまま、セレスタの説明が続く。

「置換魔術ですり替えたんでしょう? それに、戻すときもそれを使うはず。だとしたら魂があるものなんて置換魔術の邪魔にしかならないし、そもそもマリスビリーはそれに価値を見出していない。あれだけ用意周到だったやつが、わざわざ無用なモノの為に成功率低下のリスクを(おか)さないわよ」

「そうだ、よくよく考えたらそうだ。なんで私達はそんな事に気付かなかったんだろう」

 ダ・ヴィンチが、少々悲痛そうな表情になって、そう言った。

「『世界卵』は、魔術理論に於いては、密閉された空間の内部を世界に、外側を無に見立てたものですが……」

 マシュが、険しい表情で言う。

「では、()()カルデアス地球は内側と外側が逆である、という事でしょうか?」

「厳密には少し違う」

 セレスタが答える。

「地表一面の空想樹を見たでしょ? まだちょっと断定的な事は言えないんだけど、あれにも意味はあるはず。だから、()()()()()()()()()

「それもそうだ。マリスビリーが何の意味もなくあんな状態にしておくわけがない。一度は白紙にしたのかも知れないけど、今は “無” の状態じゃない」

 ダ・ヴィンチが、同意しつつそう言った。

「ただ、アニムスフィアの冠位指定の理想に基づけば、空洞にこそ宇宙の中心があることになる」

「つまり、この空洞の中心に、カルデアスの核がある、ってことですね?」

 立香が言った。

「それらしいのは、もう見つけてますよ」

 ムニエルの声が聞こえてきた。

「艦長、モニターに写してもらえますか」

「ああ」

 ネモ・キャスターの同意の声の後、中央の3Dモニターに映像が映し出された。

 外部の蔦が辿り着くその点に、明るく輝く星のような光が見えた。

「それを観測しようとしたとたん、シバの機能が停止してしまいました。再起動も受け付けなくなっています」

「な……!? 近未来観測レンズ・シバは、トリスメギストスII(2)同様、カルデアの宝ではないのかね!?」

 ゴルドルフが、取り乱した声を出した。

「キツネノメはどうなってる?」

 セレスタが訊ねる。

「こちらは……8億年分の情報が存在する事を確認した時点で、緊急停止しました。再起動は完了していますが、詳細の確認は危険と考えて控えています。強行しますか? 所長」

 玉彦が報告し、最後にセレスタに訊ねる。

「今の所はやめておいて」

「了解です」

 それを聞いて、

「そうか、シバには安全装置が組み込まれていなかったんだ」

 と、ダ・ヴィンチが言う。

「シバが観測できる情報量は10億年が限界だった。キツネノメも同じくらいなんだろう?」

「ええ、そうです」

 ダ・ヴィンチが、問うというより悲しさと悔しさが混じったような様子で言うと、玉彦がその内容を肯定し、説明する。

「地球の歴史は30億年以上ですから、誤操作があると崩壊してしまいます。ですので、8億年で緊急停止するように、高速度遮断器が組み込まれています」

 それを聞いて、ダ・ヴィンチは僅かに悔しそうに言う。

「シバにはその機能がなかった。だから、崩壊してしまったんだ」

「えーっと……つまり、あの光の場所には、10億年以上の情報が押し込まれているってことですか?」

 立香が訊ねる。

「プロフェッサー、トリスメギストスIIはそれについて答えたかい?」

『えっと、その、それが……これ、答えていいんでしょうか?』

 ダ・ヴィンチの問いかけに対し、いつもボーッとしたような表情で淡々と答える印象のネモ・プロフェッサーが、軽く取り乱したような様子を見せる。

「『根源の渦』」

「な ────!?」

 セレスタが端的に短く言うと、ノウム・カルデアのメンバーに加え、玉彦に、彼に付き従っていたエスィルトまでもが、驚愕の表情でセレスタを見る。

「違う?」

 セレスタは、不敵な笑顔まで見せながら、通信の向こうのネモ・プロフェッサーに向かって短く問いかける。

『は、はい、その通りです』

 ゴルドルフが狼狽える。

「い、一体どういうことなのかね!? 『根源の渦』がこんなところから観測できるはずがない」

「ありえない、いくらなんでもありえないよ!」

 ダ・ヴィンチまでもが、泡を食ったような様子で言う。

「『根源の渦』って、確か、第三魔法の……」

 過去の特異点での出来事から知識を思い出し、立香が言う。

 すると、

「はい。全ての事象が始まった場所であり、現在・過去・未来の結果が渦巻く神の座標。アカシックレコードとも呼ばれる、魔術師、いえ、魔術世界の最終目標 ────」

 と、マシュがそれを引き継いで、言う。

「『根源の渦』に到達した者は『この世の全て』を知る事になり、同時に、『この世にはない神秘』 ──── 『魔法』を習得することになり、魔法使いと呼ばれます。ですが……」

「ムチャクチャだ!」

 ネモ・キャスターが声を上げた。

「あたしらしくないが、魔術師(キャスター)霊基でここにいる身としては言わざるを得ない! 並行世界すら含めた全ての()()を収めた『整然たる混沌の渦』と同格の存在がこんなところで観察できるなんて! ありえない!!」

「ああ、もう、みんな落ちついて」

 髪をかき分ける仕種をしながら、セレスタが言った。

「あれはその複製品」

「複製品、だって!?」

 まったく落ち着きを取り戻す様子もなく、ダ・ヴィンチが声を上げる。

「それこそ不可能だ! 『』を物質として取得するなんて。まず、そんな記憶容量を持つ媒体が存在しない! 仮にあったとしても構築には無限の時間がかかる。そんな事をしている間に、宇宙の情報はさらに膨大していく!」

「あー……それ、 “複製” じゃないのよ。 “構築” なの」

 セレスタは、軽く頭を掻く仕種をしつつ、そう言って、

「違う理論経路を通ったとは言え、最後に行き着いた結論がマリスビリー(バカ親父)と同じって言うのが腹立つんだけど……」

 と、わざとらしさもありつつ苛立った表情で言ってから、説明を続ける。

「あなた達の言ってるのは、構造を知った後、その全ての働きを理解して、その上で部品を吟味して、……なんてやってるうちにどんどん情報が膨大していってしまうって事でしょ? そうじゃなくて、構造を写し取った後、とりあえず難しいこと考えないで3Dプリンタで出力すればごく短期間で済むってこと」

「だ、だけど宇宙のコピーなんて、そんな事……簡単にできるものなんですか!?」

 下手に造詣が深くないが故に、この中では比較的落ちついている立香が、それでも時折吃りながら問い質す。

「簡単ではないけど、できるかできないかで言えば前例はある。そもそも、カルデアスは地球のコピーのはずよ。地球(ほし)の魂の複製品」

「え……あ……!?」

 セレスタは説明を続けたが、それに声を出して反応できたのも、立香だけだった。

「地球の魂の複製ができたのだから、『根源の渦』……宇宙の魂もコピーできる。マリスビリーが行き着いたのは、そんなところでしょうね」

「でも、セレスタさんも同じ結論に行き着いたって……」

 立香が問うと、セレスタはウィンクをして、右手の人差し指で自分の頭を指した。

「私のはもうちょっとシンプル、というか、発想の転換ね」

「それで ────」

 立香がセレスタに問う。

「── あそこに行かなければならないんですか?」

「ま、ま、待ち給え」

 それを聞いて、ゴルドルフが顔色を悪くしながら言う。

「そんな、『根源の渦』の情報が詰まった場所に行って、高エネルギーで我々がジュッ……ということになってしまわないか!?」

「それは大丈夫」

 セレスタが答える。

「今のあれは正常に稼働できていないから、接近するだけなら、この艦なら大丈夫」

「正常に稼働できてない? どうして?」

 立香が、鸚鵡返しに訊き返した。

異聞世界のカルデアス(わたし)という異物がいるせいで、理論を完結させることができないのよ。『根源の渦』にはない、無視するにはあまりにも大きい異物のせいでね」

 そう言ってから、セレスタはゴルドルフの方を見た。

「そう言うわけだけど、どうする?」

「せ、接近する他あるまい」

 問われて、ゴルドルフは、声が震えそうになるのを必死に抑えながら、

「どう見てもあれがカルデアスの “核” だ」

 と、そこまではっきり言ったものの、それに続けてしまう。

「だが慎重に、スピードは気持ちゆったり目でな? 危険を察知したらすぐに反転するのだぞ?」

 それを聞いて、ネモ・キャスターが操艦スタッフに

「了解。微速前進。観測機器から目を離すなよ」

と、そう下令した、直後、

「ま、待て!!」

 そう、慌てた声を出した。

「なんで ──── さっきまで計測不能なほど遠くにいた存在が、こんな近くにまで ────────」

 





ミニスカ版ネモ・ガールマリーン。(試作品)
https://x.com/kaonohito2/status/2029938713510461826

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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ネモ・ガールマリーンの衣装について

  • 原作マリーンと同じ短パン
  • スカートにしたら?
  • ちょい色気のあるショーパンにならない?
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