Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-08

「減速!! スラスター逆噴射! 衝突するぞ!!」

 ネモ・キャスターが叫ぶ。

 ストーム・ボーダーが急減速し、慣性で前に引っ張られる。

 ストーム・ボーダーの舳先のすぐ前方に、虹色に煌めく花のような、物体らしきものが迫ってきていた。

『汎人類史からの避難民の方ですね。ようこそいらっしゃいました』

「な、なんだ!?」

 管制室に響いてくる、その場にいる誰でもない声に、ゴルドルフが戸惑いの声を出した。

『ここはあらゆる不明、あらゆる過ちを解消した世界。人理保障天球 カルデアス。登録手続きを行います。その場でお待ち下さい。僭越ながら私が、直接説明に参ります』

 そこまで聞こえたかと思うと、

「!?」

 と、突然管制室に現れた、人間と言うには少し異質な姿の女性が姿を表す。

「な、なんだコイツは!?」

 ネモ・キャスターが、それを凝視しながら言う。

「なんのセンサーにも反応しなかったぞ」

「異星の巫女……」

 立香が、顔を険しく(しか)めながら言った。立香達にとっては、ロシア異聞帯から幾度となく見かけてきた姿だったが、今ここで現れたのでは、今までのように無害な存在とは思えない。

 この場にいたサーヴァント、ブーディカとエスィルトが、それぞれ槍と剣を実体化させて構えつつ、警戒の険しい視線を向ける。デオンも懐の桑原レプリカに手を伸ばしていた。

「警戒の必要はありません」

 異星の巫女はそう言うが、3人、いやこの場にいる全員が緊張を解かない。ネモ・キャスターまでもが、魔術師杖(メイジスタッフ)代わりの巨大スパナを実体化させて構えている。

「まだ理解ができていないということでしょうか……安心してください。旧地球人類の皆さん。今の私はあくまで本宇宙の代表として参りました。汎人類史の皆さんに危害を加える意図はありません」

 異星の巫女はそう言うものの、

「それって、汎人類史以外からの人間はどうにかするってコト……?」

 と、立香が問い質す。

「そうですね」

 あっさりとした口調で、異星の巫女はそう言った。

「異聞帯出身の人間が、ここにいる事は想定外でした。本来なら直ちに排除するところですが、まずは状況を把握しようかと」

 それでもなお、全員が厳しい視線を向ける中、セレスタが1人だけ口元でニヤニヤと笑っている。

「状況を把握、ねぇ……」

 すると、異星の巫女は、立香達に対する態度とは変わって、淡々とした、それが酷薄さを感じさせる口調で言う。

「貴方が異聞帯で造られたカルデアスだと言う事は解っています。カルデアスの更に擬似的な存在。貴方を排除する事はいつでも可能です」

「あ、そ。やっぱりそういう認識なんだ」

 セレスタの方も動じず、そうとだけ言い返した。

 そこへ、立香が、異星の巫女とセレスタの間に割って入ってきて、鋭い視線で異星の巫女を睨んだ。

「私達はそっちのカルデアスを止めに来た。今の世界を壊させないために」

「その通りだ」

 ゴルドルフも、憤った様子の声を上げる。

「なぁーにが人理保障だ。汎人類史の地球を白紙化しただけでなく、自分の世界であるカルデアスさえ白紙化し、輝かしい宇宙(ソラ)の星々は見えなくなり、惑星の中身は気味の悪い空洞ときた! こんな景色が人理保障だというのなら、異聞(今の)世界の方が遥かにマシだ!!」

 ゴルドルフの啖呵を聞くと、異星の巫女は何処か呆気にとられた表情になった。

「なるほど、そういう事でしたか」

 そう言うと、異星の巫女は苦笑したような表情になった。

「マリスビリー氏の理念が皆さんに伝わらなかった、共有できなかった。まぁ、氏は『人間なら言わなくても解るだろう』と考える方でしたから、説明が足りなかったのでしょう。本当に困った方です。私を鋳造した時と何も変わらない」

「へー……()()()()、ね」

 セレスタだけが、先程から変わらずニヤニヤとしながら、意味ありげに言った。

「なにが言いたいのですか、カルデアスの偽体」

 やはり、異星の巫女は、セレスタに対しては淡々とした口調と表情で対応する。

「別に……ああそうだ、1つ聞きたい事があるんだけど」

「異聞帯出身の存在(もの)に、答える義務はありません」

 異星の巫女は、突き放すようにそう言ったが、

「セレスタさんの質問は私達の質問だと思ってください」

 と、立香が、相手を睨んだままそう言った。

「……この惑星(ほし)の表面にびっしり生えてた空想樹……あれ、宇宙の構成要素を閉じ込めたものよね?」

 セレスタが問いかけると、異星の巫女は、最初にやれやれといった感じでため息を吐いてから、

「仮想存在と言えどアニムスフィアの者だけのことはあるようですね。はい。その通りです」

 と、言って、内容を認めた。

「どういう事だ?」

 ゴルドルフが、2人を交互に見ながら問い質す。

「あなた達言ってたでしょ、『異聞(私達の)世界では夜が来る』って。これってつまり、白紙化された地球には昼夜の巡りすらなくなってしまったって事よね?」

「そ、そうだけど……」

 セレスタの問いかけるような言葉に、立香が答えた。

「地球にもっとも近い恒星である太陽の力は、ただ天幕を張ったぐらいじゃ遮れない。にもかかわらず、昼夜の変化すらなくなってしまったのはなぜか」

「な、な……そういうことか!?」

 問いかけるようなセレスタの言葉に、ダ・ヴィンチが驚愕の表情で声を上げる。

「もしそれが本当なら、デイビットの言った通りだ。マリスビリーはなんて恥知らずな事を考えたのか!?」

「ど、どういう事かね、技術顧問! 解るように説明してくれ」

 驚愕するダ・ヴィンチの様子に、ゴルドルフも憔悴した様子で訊ねる。

「もしかして、空想樹の名前が銀河の名前なのって……」

 立香が言う。

「その通りだよ。南米異聞帯(ミクトラン)でテペウが言っていた。『空想樹は兵器ではなく、銀河である事が重要なのでは』。空想樹は元々、仮想の銀河だったんだ」

「だとしたら、異聞帯は、最初から並行世界や剪定された歴史のifなんかじゃなかったんだな?」

 カドックが、表情を歪ませながら言う。それを聞いて、ダ・ヴィンチとセレスタが同時に頷いた。

「異聞帯は空想樹という仮想天体の下で運営された人類史だ。そうする事で、仮想の天体を本物として認知させる為のね」

「異聞帯は、そのための生贄だった、っていう事か」

 ダ・ヴィンチの言葉に、カドックが付け加えた。

「専門外の僕でも解ってきたぞ……銀河は宇宙(ソラ)ではなく、地上にあるという事を証明したんだ。それが、あの地表を埋め尽くす空想樹って事だろ?」

「そうだ。人類に観測可能な銀河を全て地上に移してしまうことで、138億光年の範囲の宇宙を……いや、だから、宇宙そのもの、空間を消してしまったんだ。まったく自分の都合だけでね」

 カドックの言葉を、戦慄した表情のダ・ヴィンチが肯定し、説明を加えた。

 それを聞いた立香は、

 ── あれ、だったら、どうして、あれがないんだろ?

 と、疑問をもったが、

「ちょっと待て……だったら、第8の異聞帯、異聞(今の)世界はなぜ今のようになったのかね?」

 そう、先にゴルドルフが疑問を口にしたことで、立香はそれを言葉に出すタイミングを失した。

「それは、空想樹を早期に切除したからさ」

 ゴルドルフの疑問に、ダ・ヴィンチが答える。

「空想樹の証明が終わる前に切り離してしまったから、並行世界ではなく、汎人類史と同じ空間に存在する別位相世界(レイヤー)になって、汎人類史の白紙化によって定着を始めたんだ」

「マリスビリーは既存の宇宙を消すことで、つまり……────」

 カドックが言うと、

「はい。マリスビリー氏は、地球(この星)だけを宇宙にしたかったのです」

 と、異星の巫女はその結論を述べ、認める。

「ここで初歩的な理解をしましょう。保障とは何か。それはあらゆる外的要因による事故への対応です。天災、人災、犯罪、不可抗力。それらは人類の手では予測できないものから生じています。どのような時代、人種であっても、皆さんはこの言葉を口にしました。『いつ、なにが起きるかわからない』 ────」

「だから、『人事を尽くして天命を待つ』」

 セレスタが、声を張り上げて、異星の巫女の言葉を遮った。

「人類の叡智ってやつを軽視するんじゃないわよ。つまり、アンタとマリスビリー(バカ親父)は全てを管理可能なスケールに落とし込もうって考えてるんでしょ?」

 セレスタは相変わらずニヤニヤしているが、異星の巫女は口元でムスッとした様子になる。

「はい。マリスビリー氏は私に語りました。人類は賢くなりすぎた、と。生命にとって宇宙はシンプルであるべきだ。それを複雑にしているのは他ならぬ人類である、と」

「それは正確じゃないわねー」

 異星の巫女の言葉を聞いて、セレスタがそこで笑みを消した。

「複雑に、やたらめったらナイフで切り刻んで『解らない、解らない』って言ってたのは西洋魔術師だけよ。最初から宇宙はそこまで複雑でもない」

「前言を撤回します。アニムスフィア家の者とは思えない思考ですね」

「じっくり考える時間だけはあったからね」

 異星の巫女が批判気味に言うと、セレスタは皮肉っぽく笑って言い返してから、その笑みを消して、胸に手を当て、言う。

「構成だけを再現して結果だけを出力する。ヒトも、それ以外の構造体も。表層だけの、文字通り()()()()()()()。私をそんな空虚な惑星(ほし)にされてたまるか。文明ってのは人間が思考を重ねてきた結果の産物。それを見守る為に創られたのがこっちのカルデアス(わたし)よ」

「誤解があるようですね」

 異星の巫女は、ニュートラルな表情で言う。

「異聞帯の存在は必要ありません。保障されるべきは汎人類史の人理ですから。貴方達はこの後、速やかに消去します。もちろん、偽りのカルデアスも」

「やれるもんならやってみれ」

 セレスタが、口元で不敵に笑いながらそう返した。

 異星の巫女は、セレスタとの会話は終わった、とでも言うかのように、視線を立香達ノウム・カルデアのメンバーに向けた。穏やかな微笑みに見える表情になって、言う。

「汎人類史の皆さんは理解いただけますよね? 継続されるのは汎人類史なのです。貴方(がた)が求め続けたものです。それを、内部からの崩壊も外部からのアクシデントもない、間違いのない、間違いようのない世界、アニムスフィアの理想の中で、穏やかな継続をお約束します。私は人理保障天球カルデアス、皆さんの未来を約束する空洞(虚空)惑星(ほし)

 そこまで言うと、異星の巫女はまるでため息を吐くかのような表情になった。

「まったく ──── 中身を欲しがるのは、この宇宙の悪いクセでした」

「……………………」

 立香は、真正面から異星の巫女を見据える。

「…………? どういう事でしょう? 汎人類史の方が強く警戒しています」

 異星の巫女は、戸惑ったように言った。

「私 ────」

 立香が言う。

「私、ここまでずっと、自分の選択が正しかったのか、本当は悩んでた。私の本当の世界を、家族も、友達も、私の知っている人も、消えることを受け容れてしまって、正しいのかって何度も何度も思い返した」

「ええ、ですから、それらは世界の機構として ────」

 異星の巫女は、穏やかに、立香を安心させるかのように言いかけたが ────

「でも、私が取り戻したかったのはそんな世界じゃない! 家族も、友達も、私自身までカラッポなただの作り物になっちゃうって、そんな世界なら要らない! 私、今、完全に吹っ切れた。吹っ切れたって思った事は何度かあったけど、今、本当に最後の最後まで吹っ切れた!! 私は新しい世界を守る!」

 立香は涙を目に滲ませつつも、強い意志を表情に出して、勇ましく言った。

「よく言った!」

 ゴルドルフの声。

「中身は要らないだと? 表層だけの世界だと? 我々は、人間はチェスの駒ではない! そんな世界に組み込まれるぐらいなら、今の世界でこれまで通りの人間らしく生きる方がマシだ。もはや我々の意志は出身世界に関係なく一致している。なのでこの場の指揮官として発言しよう。今すぐにその馬鹿げた機能を停止したまえ。破壊するのだけは勘弁してやる。悪いのはマリスビリーだ。道具に罪はない」

 立香とゴルドルフの言葉を聞いて、しかし、異星の巫女は明らかに口元で笑った。

「何が可笑しいのですか? ゴルドルフ氏の交渉は人間的だと思いますが?」

 玉彦が、紳士的な口調で言う。

「確かに、不可能なことを口にするのは人間的ですね。とても愚かで、好ましいです」

 異星の巫女は、薄く笑ったままそう返す。

「ですが、その条件は飲めません。機能停止は拒否します」

 異星の巫女がそう言うが、それを聞いて、セレスタが口元で笑う。

 異星の巫女は続ける。

「私は私の完成のために生まれた知性。自己保存を最優先にしています」

「では戦う他ない。交渉は決裂だ」

 ダ・ヴィンチが言った。

「この結果は残念です。私はカルデアの皆さんを愛しています。ああ、汎人類史のカルデアの方、という意味ですが。愛しているものの希望は可能な限り叶えたい。それがマリスビリー氏の反応でした。ですので私との接触を許可します。どうぞメインシステムの場所までお進みください」

 それまで、ゴルドルフを中心に全員を見渡すようにしていた異星の巫女が、その視線を明らかに立香に向ける。

「マスター、藤丸立香。貴方の工程(たび)の成果を、私にも教えて下さい」

「ま、待て!」

 ブーディカとネモ・キャスターが飛び出すが、異星の巫女の姿は、すっと消えていった。

「マム! 前方のエネルギー体、接近してきています! 甲板に接触するまであと60!」

 ガールマリーンの1人が、報告してきた。

「こうなっては、カルデアスの核 ──── メインシステムを破壊する以外ない。だけど……」

 そう言って、ダ・ヴィンチが苦い顔をする。

「並列召喚システムはまだ復帰しない。追加のサーヴァントの召喚は難しい」

 それを聞いて、立香はブーディカを見た。

「おねーさんに任せなさい、と言いたいところだけど、宇宙(せかい)が相手かぁ……」

 勝利の女王が、苦笑しつつ言葉を濁す。

「大丈夫よ」

 セレスタの声。

「さっきも言ったでしょ、こっちのカルデアス(わたし)至近距離(ここ)にいる限り、あいつは全力を出せない」

「それなら……なんとか、なるのかな? スケールが把握できないから、なんとも」

「ブーディカさん」

 マシュが、神妙な面持ちで割って入ってくる。

「ライダーの貴方は守護の宝具を持っていました。今の霊基でも防御の宝具(わざ)は持っているのではありませんか?」

「え……うん、あると言えば、あるけど」

 マシュの質問の意図がわからず、ブーディカはキョトン、としている。

「先輩」

「マシュ?」

 視線と言葉を自分に向けられ、立香もそれだけでは理解しきれずに聞き返す。

「私、先輩が一番苦しんでいる時にそれを理解してあげられませんでした。その後もずっと先輩が苦しんでいる事を、理解と言うか ──── 私には、共感してあげる事ができませんでした」

「マシュ、でも、私が着いてきてっ言った時に……」

「それは、私が私の意志で望んだことです。だって、私の世界は先輩の居るところでしかなかったから。その痛みを解っていたのに、何倍も辛い先輩の事に気付かなかった。サーヴァント(騎士/従者)失格です。だから……────」

 そこまで言って、マシュは僅かに哀しげに苦笑した。

「私は、もう先輩を “マスター” とは呼びません」

「マシュ!」

 嫌な雰囲気を感じて、立香は声を上げる。

 それに対して、マシュは表情から悲壮感を消し、掛け値のない笑顔になった。

「大丈夫です! 自棄になっている訳じゃありませんから! 先輩。カルデアスを倒して ──── 帰りましょう、新しい世界に」

「…………」

 一瞬、呆然としてしまった立香だが、すぐに笑顔に変わる。

「うん!」

 

 





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ネモ・ガールマリーンの衣装について

  • 原作マリーンと同じ短パン
  • スカートにしたら?
  • ちょい色気のあるショーパンにならない?
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