Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-03

『ありがとう』

 その声が聞こえた気がして、立香は後ろ上方へ振り返る。

 振り返ったが、その先は管制室の天井があるだけだ。

「どうしたの?」

 ブーディカが聞いてくる。

「誰かが、今、私に…………」

「え?」

 立香が答えると、ブーディカは警戒するように構え、あたりを見回す。

 そこへ、

「警戒しなくても大丈夫よ。イケニの女王」

 と、セレスタが声をかけてきた。

 セレスタは病衣姿で、軽く(はだ)けた胸元に包帯が巻かれているのが見える。

「貴方にも聞こえてるのね」

 セレスタは、口元で笑いつつも、少し意外そうに言った。

「セレスタさん……」

立香が、視線をセレスタに移した時だった。

『きゅうさいは精神(わたし/あなた)でじゅうぶんだとおもっていました。でも、わたしももういちどだけ、 “やりなおし” てもいいですか?』

 更に、その声は立香にも聞こえてきた。

「やりなおすって……」

 戸惑ったように立香は言うが、

「いいわよ。『魂は再生する(Primal ReBirth)』って、私が言ったんだから」

 そう、セレスタは静かにそう言った。

『ありがとう ────』

 声は再びそう言いつつ、離れていく ────

 

「冠位指定の矛盾を正す、というのは、アニムスフィア家の()()に限った話じゃなかったんだな」

 立香が、声がした、と感じた方をやはり見上げながら、ロマニが穏やかな表情で呟いた。

「ロマニ?」

 近くにいたダ・ヴィンチが、訊ねるような声をかける。

「第三魔法は無意味な存在になった。全ての冠位指定は意味喪失(Failed Grand Order)になったんだよ」

 

「大変です!」

 メインシステムの停止で、ストーム・ボーダーの中は一息ついた雰囲気だったが、その最中に、管制室で玉彦が声を上げた。

「キツネノメが、この空間の急激な収縮を観測しました! このままでは、我々も爆縮に巻き込まれます!」

「な、なにぃいぃぃぃ!?」

 ゴルドルフが顔面蒼白になって、驚愕の大声を出す。

「まずい、マリス・カルデアスが意味喪失となって崩壊を始めてるんだ!」

 ダ・ヴィンチも緊迫した表情で言った。

「大丈夫!」

 セレスタが、言いながら、管制室の操縦区画、ダ・ヴィンチの隣にまで駆けてくる。

「脱出ルートはちゃんと確保してあるわよ。座標は……────」

 そこまでは、自信あり気に言ったセレスタだったが、そこまで言ったところで、

「あ、あれ!?」

 と、戸惑った表情になる。

「まずい……空間収縮速度が早すぎて、転移元(こっち)の座標が固定できない……」

「なんですとー!?」

 ゴルドルフが白目まで剥き、ダ・ヴィンチとともにその声を上げた。

 言ったセレスタの方も、表情から血の気が失せてしまっている。

「閣下!」

 具現化人格軍艦もその場にいた。翔鶴が大和に声をかける。

 大和が張り上げた声で答える。

「私にも無理だ! ワープ元の基準点が固定できなければ事故になる!」

「こ、ここまで来て帰還不能かよ!? そんなのってないぜ!」

 操縦席のムニエルが、毒つくような声を出した。

「い、いえ、待ってください!」

 キツネノメを観測していた玉彦が声を出す。

「固定された点が……」

「え!?」

 セレスタが、驚いた表情で振り返る。

「前方、強烈な光が見えまーす!」

 観測担当のガールマリーンの1人が、声を出した。

「なんだい、ありゃあ!?」

 ネモ・キャスターが、緊張している中にそれを見て、素っ頓狂な声を出す。

「しめた!」

 大和が声を出す。セレスタやゴルドルフ、ダ・ヴィンチが立っているところまで駆けてきた。

「あの光の点は固定されている! あそこからならワープ可能だ!」

「ほ、本当か!?」

 ゴルドルフが、藁に縋るかのように声を出す。

 大和の方は、緊張しつつも、口元は笑っていた。

「カルデア所長、転移先の座標を寄越せ!」

「あ、は、はい!」

 大和の指示に、セレスタが反応する。

 次いで、大和はネモ・キャスターに向かって声を出す。

「艦長、艦体の防護を最大限に展開しつつ、魔力炉の出力を最大にしていろ! それと、機関室の要員は一旦安全区画に退避! 舵はあの光の点に向けさせておけ!」

「りょ、了解!」

 ネモ・キャスターはそう言うと、

「ムニエル! 言われた通りにしてくれ!」

 と、視線を大和から操縦席に移し、そう言った。

「りょ、了解!」

 ムニエルの声が返ってくると、大和は、仁王立ちのように足を開いて立ち、自身を支えるかのように、管制室の区分の手すりにつかまる。

「仮想波動エンジン2基、展開、エネルギー充填!」

 大和が声に出す。

「ま、待ってください!」

 ガールマリーンの1人が、声を出す。

「前部甲板に、光る人のようなものが……」

「やり直している余裕がない、申し訳ないが、一旦このまま行く!」

 大和はそう告げる。

「ワープ、開始」

 ストーム・ボーダーの艦体、厳密にはそれを包んでいる防護障壁が、虹色の光を帯びる。

「先輩、あ、あれ!」

「えっ!?」

 前部甲板の “光る人影” を移していたモニターを指して、マシュが声を上げる。

 それを見て、立香も軽く声を出し、そして、それを確認した。

「…………デイビット……」

「ええ!?」

 立香が、Aチーム、クリプターの名前を出すと、セレスタも驚いた声を出す。

 前部甲板で光を放つ人影の姿は、後ろ姿ではあるが、南米異聞帯(ミクトラン)で見たデイビット・ゼム・ヴォイドの姿に見えた。

 更に、彼は振り向き、その顔を見せた。間違いなく、デイビットの顔だった。

 彼を前部甲板に載せたまま、ストーム・ボーダーはワープに入る。

 

 宇宙の更新は為された。唯一神の庇護は終わり、せんてい(剪定/選定)の人理は終わり、無限の可能性へ、世界は生まれ変わる ────

 

 

 虚数潜航(ゼロ・セイル)によく似た視覚情報がもたらされた後、ストーム・ボーダーは青空の下に存在していた。眼下には、常に雪に覆われている大地、そして ────

「ここは……我々は、地球に戻ってきたのか?」

 ゴルドルフが言った。

「いえ、今は途中経由地よ。でもここまで来たのなら、後は心配ないわ」

「途中経由地?」

 セレスタが言うと、それを聞いたダ・ヴィンチが、不思議そうな声を出した。

「大気成分は地球とほぼ同じ、文明の観測もある。魔力は濃いけど、それは新しい世界の定着した地球と同じ。それでもここは地球じゃないのかい?」

 ダ・ヴィンチは戸惑ったように言ったが、

「ああ、これついさっきもやったじゃねーか」

 と、ネモ・キャスターが言う。

 すると、セレスタは苦笑した。

「多分それ。ようこそ、カルデアス(わたし)へ」

 セレスタは、どこか気恥ずかしそうにしている。

 ゴルドルフは、

「こ、ここから地球にどうやって帰還するというのかね!?」

 と、まだ血の気の良くなさそうな表情で訊ねる。

「南極の、地球のカルデアの施設があるのと同じ座標に、地球と出入りするための設備があるわ。それを使えば、地球に出られるわよ」

 セレスタは、そこまで言った後に、決まり悪そうに苦笑して、頬を掻く仕種をする。

「まぁ、安定性には問題ないとは言っても、魔術(ソロモン)王の転移孔(ゲート)に比べたら、稚拙なものだけどね」

 

 一方 ────

 前部ハッチにつながる艦内の通路を、立香とマシュ、それにカドックが駆けていた。

 前部格納庫についた時、既にハッチは開かれていた。

 立香とマシュは、そのままの勢いで、前部甲板に飛び出す ────

 そこに、彼は立っていた。

「やあ」

 南米異聞帯で出会った時そのまま、黒いシャツに黒いネクタイ、茶色の横縞ベストに黒いレザーパンツ、革のジャンバーを着た姿。

「デイビット…………」

 カドックがその名前を呼んだ。

「3人とも意外だという反応だな。まぁ唐突な事だったから、無理もないか」

 デイビットは、薄く笑いながら言う。

「なんでここに……」

 立香が、問い質すというより、呟くように疑問を口に出した。

「オレは一度、テスカトリポカの冥界(ミクトランパ)から戻ってきた。つまり生者だ。 ──── 世界の変わりようには驚かされたが、それが藤丸立香、お前の選択だったら仕方ない。より良いと判断したのだろう」

「…………」

 デイビットに言われ、立香は一度視線を伏せてしまう。

「オレも戦いに参加することもできたが、お前達を導いているのがオルガマリーだと気づいてな。性格は別物になっているが、詰めの甘さは残っているだろうと考えた。そこで道標(みちしるべ)が必要になると判断して、こういう形で姿を表させてもらった」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

 デイビットの説明を聞いて、マシュが礼を言った。

「楽な役割だ。礼はテスカトリポカに言ってくれ。ヤツの冥界での待遇はどうかと思うほど快適だった。ああ……」

 デイビットはそこまで言って、視線を立香に向ける。

「今の世界ではやりやすいと言っていた。ヤツの性格からして藤丸立香に直接言うことはないと思うし、伝えることも不本意だとは思うがな」

「デイビット……」

 立香が視線を上げ、その名前を呼んだ。

「それで、お前はどうするんだ?」

 カドックが訊ねる。

「また、……というのは変か。この世界のカルデアに来るのか?」

「カンベンしてくれ」

 デイビットは、薄く笑ってそう言った。

「宇宙の更新が為されたせいで、オレは存在に反発を受けている」

「えっ……」

 デイビットの言葉に、立香が声を漏らす。

「まぁ、時間をかければ適応する。その間は、もう少し休息させてもらう」

「そうか……」

 デイビットの言葉に、カドックが、複雑そうな表情で言う。

「……もうじき5分が経過するな。オレは行かせてもらう。この事を記憶できるうちにな」

 デイビットが言う。

Failed Grand Order(冠位指定不完終了)()()()()()の結末を、覚えておきたいからな」

「…………そう、か」

 デイビットの言葉を聞いて、カドックが漏らすように言った。

 デイビットの周囲が、光で煌めきだす。

「また、会えるかな?」

 立香は、それが相応しくない言葉だと感じつつも、気づいた時にはそう、デイビットに問いかけていた。

 デイビットは、

「お前次第だ、と、答えておく」

 と、答えた。

「そう……ううん、もう会えないと決まったわけでもないって事だね」

 立香は、寂しそうにも苦笑しつつ、言う。

「ありがとう、デイビット・ゼム・ヴォイド」

「……ああ」

 立香が礼を言うと、デイビットは何かを思い出したように告げる。

デイビット(Daybit)ゼム(Sem)ヴォイド(Void)というのは伝承科に行ってからの名前でね。本来の名前はデイヴィット(Davit)ブルーブック(Bluebook)と言う。藤丸立香、この名を覚えておいてくれ」

「う、うん!」

 立香が返事をすると、デイビットは満足そうに口元で笑みを浮かべた。

「『人間は善を成そうとする者』 ──── お前の選択はそれに基づいたものだ。誇っていい。それと……──── 父さんの言葉を守ってくれて、ありがとう」

 つむじ風のように広がる光の中に包まれて、デイビットは消えていった。

 

 私達の旅は終わりに近づいている。

 取り戻したいものは、(うしな)った。

 私達の旅は、失敗で終わった。

 でも。 ────

 

 ただ1人、不幸な女の子だけは助けられた。

 それで、良かったのかも知れない。

 藤丸立香(わたし)は、英雄じゃない。

 どこにでもいる誰か。

 だから、できる事は、これが精一杯。

 

 征こう(帰ろう)新しい世界(どれより古い世界)に。

 

 

 茨城県つくば市。アニムスフィア邸。

「ほらー、立香、いい加減起きないと」

 和室でまだ布団に入ったままの立香を、ブーディカが揺すって起こす。

「あと5分~」

「ちょっと、それもう5回目だよ!」

 布団の中でうつ伏せの立香が言うと、ブーディカが呆れた声を出す。

「別に自宅のつもりで生活してもらっていいけど……時間に遅れるのは困るわよ」

 和室の入口に立ったオルガマリーが、腕組みに苦笑しながらそう言った。

「はっ!?」

 それを聞いて、立香はようやく覚醒して飛び起きる。

 慌ててパジャマから、すっかり着慣れた白い制服に袖を通す。

 

 地球帰還から数日。

 立香達、旧ノウム・カルデアのメンバーは日本に戻されたが、そこで待っていたのは、事情の聞き取りだった。

 旧汎人類史のそれも含めて、情報量が膨大なので、1人あたりは連日というわけでもないが ────

 

 準備を終え、アニムスフィア邸を出る。

 県道201号線、通称しらかし通りのバス停に立つ。僅かに経って、『桜地区循環 東回り』と書かれたバスがやってくる。普通の、ディーゼルのバスだ。

「はーぁ、戦いが終わってからもこんな面倒くさい事がいっぱいあるなんてなー……アニメやゲームのように都合良くは行かないか」

 バスの車内で、立香はため息をつく。

「まぁ、物語(サーガ)なんてたいてい、美しいところを描いて終わりだからね」

 同居しているアストルフォ同様、私服を着ているブーディカが、苦笑しながらそう言った。

 西武鉄道筑波線 つくば駅。

 バスを降り、駅構内へと進む。

「指定席、使う?」

 ブーディカが聞くと、

「いいよ、もったいない」

 と、立香はそういった。

 JTカードで改札を通り、高架ホームに上がる。

『3番線に停車中の電車は、快速急行、西武上野行きとなります ────』

 

 旅は終わった。しかし、物語はもう少しだけ続く。

 

 






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ネモ・ガールマリーンの衣装について

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