Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Before After Time
Chapter-01


 時系列は若干前に遡る。

 

 ストーム・ボーダーは、再び東京湾に着水した。

 南極にとどまらず、日本にまで来たのは、一先ずの理由は、乗員に対する事情聴取、と言う事だった。

「“転移孔(ゲート)” の件で少なからず気づいた国や組織はあるでしょうし、多分ソ連(ウチの国)からは主要人物との直接聴取要求されるわよ。イギリスも」

 アナスタシア・オルタのその言葉を聞いて、大和が片手で頭を抱える。

「頭が痛い……」

 ──────── では、あるのだが。

「南極で収容するわけには行かないわよ?」

 同時に、万国カルデア天文台の責任者であるセレスタは、そう告げる。

「うちには充分な人員が居るし、やってもらうことがないもの。それに、前にも言ったけどウチは武装組織の性格が薄いから、ストーム・ボーダーとかずっと持ってるわけにも行かないし」

「まぁ……魔術職は特別技能だから再就職先は紹介できると思いますよ。我が国にとどまるなら……の話ですけど」

 真顔で言うセレスタの隣で、ゆうだちが苦笑しながら言った。

旧汎人類史(おれたち)の魔術師は、名家でもない限り故郷にいい思い出がない事が多いからな……この世界のフランスがどうなっているのかは気になるけど、住める分には日本でも構わないか……」

 この呟きはムニエルのものだったが、元ノウム・カルデアのメンバーの大半に漂う空気でもあった。

「日本にはカルデア関係の施設もあるから、そこでなら何人か雇えるわよ」

 セレスタはそうも提案してくる。

 南極の施設には置いておけないが、日本にある施設は多少定員以上を抱えていられる ──── というのも、南極の施設は当然、食糧や生活必需品を外部からの輸送に頼らざるを得ない。備蓄はあるにはあるが、特に理由のない平時から余計な人員を配置しておくのは弊害の方が大きい。

 それに対して、日本は生活インフラも整っているし、人を生活させるコストは当然ながらずっと低い。

 事情聴取と、元ノウム・カルデアメンバーの生活の再起動、その為に、ストーム・ボーダーは彼らを乗せたまま、日本へやってきたのだった。

 

 着水したストーム・ボーダーに、六四式一〇(メートル)運貨船が横付けする。以前の東京湾停泊時にも何度かあった光景だが、今回はただ迎えに来ただけではなく、日本側の人間をストーム・ボーダーまで乗せてきていた。

「皆様、お疲れさまでした」

 食堂に元ノウム・カルデアメンバーが集められているところへ、東京帝大魔術研究局・天文部藩王位、マグダレーナ・フォン・ムジークが、穏やかに笑いつつ、そう言いながら入ってきた。護衛のセイバー、足利氏姫を連れている。

「一先ずの皆さんの生活の場ですが、以前ストーム・ボーダーから皆さんが退去する必要があると相談されまして、私の方で住居を確保してあります。上陸を希望される方はそちらに移ることができますが、如何なさいますか?」

「ストーム・ボーダーの維持はしばらく続けるから、すぐに上陸したくないってやつは中で生活してもらっていても構わないぜ」

 マグダレーナの隣に立ったネモ・キャスターが付け加えた。

「うーん、悩ましいなー……」

 ムニエルが呟く。

「ストーム・ボーダーの中は生活に不自由しないし、ガラッと環境が変わるのもいきなりは怖い感じもするけど……このままずっとストーム・ボーダーの中で生活できるってわけじゃないもんな」

「私は……ギリギリまでここにいたいかな……」

 小さくそう呟いたのは、セレシェイラ・エルロンだった。臆病な性格の彼女は、異世界、異国の地に降りる事に抵抗があるのだろう。

「ええと……私は、2人で生活できる場所が欲しいんですけど、どうしたらいいでしょう?」

 星麗禰を連れたマシュが、マグダレーナに、自身の要望を言って、質問する。

「確保してあるのは(ひと)間の物件ですけど、お風呂とトイレは個別ですし、2人で生活する分にはそれほど手狭でもないかと」

 マグダレーナは、笑顔でそう答える。

「それなら、私達は移りましょうか?」

 マシュが、星麗禰を振り返って言う。星麗禰はそれを聞いて頷いた。

「…………マシュ、そう決めたんだ」

 立香は、なんとなく、今のマシュはそうするだろうという感じと、なんのかんの自分に声をかけてくるのではないかという感じと、両方を考えていたが、マグダレーナにそう声をかけたのを見て、僅かに意外そうに呟いた。

「立香は、どうする?」

 ブーディカが、立香に聞いてくる。

「あたしは付き合うよ」

「うーん……どうしようかなぁ……」

 立香は、腕を組んで考え込む。今、マシュがそう判断したのを聞いてしまって、なんとなく、同じ建物で暮らす事に奇妙な感覚を感じていた。

 そこへ、

「立香」

 と、セレスタが声をかけてきた。

 オルガマリー、それにデオンとアストルフォも一緒だった。

「貴方は、うちでこのまま暮らさない?」

 セレスタはそう提案する。

 立香が以前、ノウム・カルデアから脱走した後、しばらくの間、茨城県はつくば市にあるアニムスフィア邸で生活していた事がある。

「えっと……」

「貴方、魔術師としてはほとんど素人なんでしょ? 生活基盤つくるの時間かかりそうだし、物価の高い都内で生活する事ないと思うのよね」

 戸惑って声を詰まらせた立香に、セレスタは真顔でそう説明する。

「それは……そうですけど……」

「まぁ、筑波研究学園都市(がくえん)にもそういう施設はあるから、もし魔術の方に進みたい、って言うなら口利きはできるし。タダで住むのが嫌だったら、そのうちに食費光熱費は入れてもらえれば」

「確かに……それは私にとっては楽だけど……いいんですか?」

「うん、まぁ、ほら。私は旧汎人類史でもカルデアの所長だったわけだし、立香を迎え入れた身としては一応責任を感じるっていうか」

 セレスタは腕組みをし、難しそうな表情を装って、まずそこまで言い、

「それと、ぶっちゃけると、私が南極にいる時にお姉ちゃんがちゃんと生活できてるか見張っててほしいのよねー」

 と、苦笑しながら付け加えた。

 当然、隣に立っていたオルガマリーが顔色を変える。

「ちょっと、それどういう意味よ!?」

 当然のように、オルガマリーは抗議の声を上げた。

 すると、今度はセレスタの方が、怒ったような呆れたような様子で声を荒げる。

「そのまんまじゃん! 一応生活は回してるみたいだけど、この前帰ったときは生活必需品ギリギリのストックだったし! カスミで買えば安いものファミマで済ませてる時があるのも知ってるんだからね!!」

 カスミは、茨城県のローカルスーパーマーケットだ。

「えっと……」

 それを見ていた立香は、苦笑しながら頬を掻く仕種をする。それから、一度ブーディカに視線を向けた。

「あたしは、立香が決めた事に従うよ」

 ブーディカのその答えを待って、立香は再び視線をアニムスフィア姉妹に向ける。

「そういう事なら、甘えようかな……」

「なら決まりね」

 言い争っていた表情から一転、2人とも笑って、セレスタがそう言った。

「ただ、その、一度都内で行っておきたいところがあって……」

 立香が、おずおずとした様子でそう言うと、セレスタとオルガマリーは目を見合わせる。

「それって、急ぎ?」

 セレスタが訊ねる。

「あ、いえ。別に約束があるとかそういうわけじゃないんですけど」

「んー、じゃあ、私も寄るところがあるから、付き合ってくれる?」

 立香が答えると、セレスタがそう聞き返した。

「あ、は、はい」

 

 

 東京都千代田区。

 地下鉄九段下駅の近くに、万国カルデア天文台の東京研究所ビルがある。

 その、来客用駐車場。

「うわー! ホントに綺麗!」

 鮮やかな赤塗装のL30型 トヨタ カローラII(2) リトラGPターボが停まっている。

 それを見て、セレスタが興奮した声を出していた。

「サスとタービンが社外に変わってますけど、サスのヘタリもないですし、所長が満足できる状態かと」

 セレスタの代理で下見をしていた、東京研究所のスタッフの男性が、そう言う。

 セレスタは興奮した様子でカローラIIのあちこちを見ている。立香はその傍らで微妙に疲れたような苦笑をしていた。

 オルガマリーは「付き合ってられない」と言って、先に電車でつくばの自宅に帰ってしまっている。もっとも彼女が同行すると、アストルフォもいて6人になってしまい、2BOXの小型乗用車には乗りきれないのだが。

 ボンネットを開ける。

「おおっ、エンジンも綺麗じゃない」

 流石に経年を完全には隠せてはいないものの、昭和の最後に発売されたクルマのそれにしては、エンジンルームの砂埃も少なくいい状態に保たれているように見えた。

「納得してもらえましたか?」

 現状のオーナーが、セレスタに訊ねる。

「はい! このまま貰いたいんですけど、いいですか? 名義変更したら車検証FAXしますから」

 本当に嬉しそうに、セレスタは言う。

「代金の方も、後ほど振り込みで?」

「あ、じゃあそれは今振り込んじゃいます」

 問いかける現オーナーに、セレスタは、そう言ってMCフォンを取り出すと、ネットバンキングのサイトにアクセスする。

「これで」

「ええ、こちらでも確認しました」

 セレスタが振り込み完了の画面を現オーナーに提示すると、現オーナーの方も、自身のMCフォンで入金を確認した。

「それじゃあ、名義変更の委任状はグローブボックスに、車検証と一緒に入れてありますので。後はよろしくお願いします」

「はい! ありがとうございます!」

 セレスタとのやり取りを終えると、現オーナーは、家族かクルマ仲間か、同行者が運転するHS36S型 スズキ アルトワークスでその場を後にした。

「はー、生きて帰ってきてよかった。これ見れなかったら死んでも死にきれなかった」

 そんなことを言いながら、セレスタはボディに頬ずりまでしていた。

 

 ただ1人、不幸な女の子だけは助けられた。

 それで、 ────

 

「── まぁ、良かったの、かな」

 立香は苦笑したまま、呟いた。

 

 

「旧汎人類史ではこのあたりに住んでたって……土地込みだとここの4LDKがうちの屋敷より高いところなんだけど、……旧汎人類史ではそうでもなかったとか?」

 1日保険をつけてセレスタが運転するカローラIIで、旧汎人類史で立香の家があった場所、そこまで来ていた。

「どうだろ……私は意識したことなくて……あ、そこ、右に曲がってもらえますか?」

「右ね」

「曲がったら、すぐのところでちょっと停まってもらえますか?」

「了解」

 立香の指示に、セレスタが従う。

 右折してすぐ、狭い庭に面して縁側があり、和洋折衷ではあるが、昭和の装いの家の前に出た。

 そこでセレスタが停車させると、立香は助手席の窓から、その家を覗き込む。

「ここが……旧汎人類史で立香の家があったところ……」

 デオンとともに後部座席に乗っていたブーディカが、やはり窓からその家を見る。

 立香は、家から少し視線を路地の方へ移していき ────

「あ」

 立香と同じ年代の、少年というにはやや年嵩の男性。スポーツ刈りと言うには、やや不精に伸びた感じの髪型。日本人に典型的な黒髪に、僅かに青みがかった黒い瞳。

 その彼が、やはり同年代の、折田(おるた)少女と一緒に歩いていた。なにか話しながら歩いているが、流石に聞き取れない。

 だが、立香は、それを見て、口元で笑んだ。

「もう、大丈夫です。行きましょう」

「え?」

 立香の言葉に対し、軽く驚いたように訊き返す声は、後部座席の方から聞こえてきた。

「いいのね?」

 運転席のドアに頬杖を突いていたセレスタが、口元に笑みを浮かべながら、訊ねる。

「はい。お願いします」

 立香がそう返事をすると、セレスタはギアを1速に入れ、カローラIIを発進させた。

 






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