Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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【注記】
 改めて設定見直したら、都電11系統残ってたので前回を修正しました。


Chapter-06

 板橋区。

 ノウム・カルデアのメンバーを乗せたマイクロバスは、ホテル、と言うには、瓦と木目調の素材でできた建物の前に寄せた。

「The Japanese hotel といったところかな」

 バスから降りて、その出入り台の傍らに立ったゴルドルフが、建物を見上げて、そう言った。

「急なことで、皆さん西洋系の方々のところへ、和風旅館しかとれなくて申し訳ありません……」

 ゆうだちが、苦笑しながら言う。

「でも、安宿という感じではありませんね」

 マシュが、その構えに視線を向けたままそう言うと、

「もちろん、皆さんは賓客という事になっておりますので、滅多なところには」

 と、ゆうだちが、表情を引き締めてそう言った。

「『旅館 茶々』だって」

 看板を見て、立香がその建物の名前を呼び、面白そうに笑いながら、マシュやダ・ヴィンチの方を見た。

「茶々さんの顔が思い浮かびますね」

 マシュも失笑気味にしながら、そう言った。

「ようこそ、お早いおつきで」

 重厚そうなデザインの玄関をくぐると、和服の、人の良さそうな女将が、和服姿で出迎える。

「えっと、内閣部局の方から予約させていただいたものですけれども」

「シオン・エルトナム御一行様 ────」

 女将がそこまで言ったとき、ゴルドルフの身体が傾いた。

「プライム・デラックス1室、デラックスツイン1室ですね」

「部屋の呼び方は英語風なんだな……」

 女将には聞こえない位置と声量で、カドックが呟いた。

「まずは、お手数ですが宿帳に記帳をお願いいたします」

 そう言って、女将は両開き形のクリップボードに留められた、宿帳を差し出す。

「自分が代表者名になっているってことは、ワタシが書くべきなんでしょうね」

 どこかやれやれと言ったような様子で、シオンは、差し出されたボールペンを受け取り、書き込もうとするが、

「! 縦書き……」

 と、一瞬戸惑ってしまう。

「ああ、気が利かなくて申し訳ありません。こちらで」

 女将は、宿帳を横倒しにした。そこへ、シオンがそこに、サインをする。

「ありがとうございます。それでは、お部屋にご案内いたします」

 女将は頭を下げてそういい、丁寧な所作で宿帳をフロントのカウンターに戻してから、そのフロントからもう1人の、やはり和服姿の若い女性従業員を伴って、戻ってくる。

「お荷物の方は、大丈夫ですか?」

 女将が訊ねると、

「ああ、こちらの必要な荷物は、後から私達が運びますので」

 と、ゆうだちが言った。

 文字盤が古めかしい、昭和終盤期の日立製エレベーターに乗る。整備はしっかりしているようで、テンションの緩みによるふわふわ感もなければ、カゴの中も清掃が行き届いていて、操作盤の手垢すらない。

 エレベーターの文字盤から読み取ると、地上14階・地下3階建てとなっている。その9階で、エレベーターが停まった。

「デラックスツインのお客様、こちらで」

 若い女性従業員が、そう言った。

「……………………」

「……おい、僕達の事だぞ、オッサン」

「はっ! そ、そうか」

 まったく気づいていなかったゴルドルフが、カドックに言われて我に返る。

「すみません、お2人だけ格下の部屋にしてしまって」

 付き添っていたゆうだちが、苦笑しながらそう言った。

「まぁ、男の方が少ないからな。仕方ない」

 カドックが言った。

「落ち着いたらそっちへ行く」

「待ってるよー」

 渋い顔をしつつもエレベーターを降りるゴルドルフを余所に、カドックと立香がそうやり取りして、エレベーターの扉が閉まった。

 女性陣は、13階まで上がると、

「こちらになります」

 と、ワンフロアに3室しかない “プライム・デラックス” に案内された。

「おおっ!」

 その踏み込みから中へ進むと、(フタ)間続きの8畳間に、下手な戸建住宅より広く豪奢な洗面所に浴室。

「…………」

 いつもなら、2人して悪ノリしてはしゃいでそうな立香とマシュだが、今は静かだった。

「まさに、和室スイートって感じだねぇ」

 どちらかというと、ダ・ヴィンチとシオンの方が気分が高揚しているような様子を見せていた。

「お食事は、こちらで皆様でお召し上がりになられるとのことですが ────」

「ああ、ええ、はい」

 女将の言葉を、途中で遮るようなかたちで、マシュが返事をした。

「ええ、それで、急の御予約でしたので、申し訳ないのですが、お食事が8時近くになってしまいます」

「それは、構わないよ」

 戻ってきたダ・ヴィンチが返事をした。

「かしこまりました。では、そのとおりに」

「あ、あの!」

 そこで、マシュがハッとしたように、声を出した。

「調べたいことがあるのですが、Webの閲覧ができる端末はありませんでしょうか?」

「うぇぶ?」

 マシュの質問に、女将が、鸚鵡返しに言い、ゆうだちと顔を見合わせる。

「インターネットはない……か……やっぱりね」

 ダ・ヴィンチが、苦笑交じりに言う。

 21世紀の、市民の対話と自己表現の絶対的手段、World Wide Web。

「そのいんたーねっと、というのは、どういうものなのか、説明していただけますか?」

 ゆうだちが訊ねる。

「世界中のコンピュータ同士を接続し、一般のユーザーが情報のやり取りをしたり、サーバーにコンテンツを置いて自己表現したりする、世界的ネットワークインフラのことですねェ」

「まぁ、異聞帯では、市民の統制に不都合なので、技術レベルが21世紀かそれ以上だとしても、存在していないモノだけどね」

 シオンに続いて、ダ・ヴィンチが、どこか諦観したような表情で言う。

 すると、ゆうだちと女将が再度顔を見合わせた後、ゆうだちがキョトン、とした表情で問い返す。

「我々の言う、WDNの事ですか?」

「えっ?」

 ゆうだちの言葉に、立香以外の3人が、逆に軽く驚いたように、短い声を発しながらゆうだちを見る。

「Wide-area Data-transfer Network system. 元は軍用や気象観測用のデータ転送ネットワークだったんですが、今では市民対話や企業のサービス提供の場、何より、市民が()()()()()()()()()()()()()()をする場ですよ。敷設もほぼ世界中に拡がっています」

 笑顔で、それを途中から苦笑にしながら、ゆうだちが説明した。

「…………確かに、日本人のネーミングセンスだとそんな感じになりそうだね」

「気を悪くしますよ?」

 ダ・ヴィンチが皮肉っぽい苦笑でいうと、ゆうだちも戯け混じりに睨むようにして言い返した。

「ごめんごめん」

 ダ・ヴィンチは、あまり真剣味のない謝罪をする。

「ですが、こういうネットワークは、時として大衆の監視のためにも使われます」

 マシュが、重々しい表情で言う。

「汎人類史でも、そう言う国はありました」

 すると、ゆうだちは、ノウム・カルデアのメンバーに対するそれだけではない辟易さを苦笑に混ぜつつ、

「永田町を戦場にする気ですか。それとも港区の芝を?」

 と、そう言ってから、表情を直して、

「流石に公序良俗を鑑みて野放図にはしてませんが、せいぜいサンプル調査ですよ。ガチ独裁の小国ならあり得るんでしょうが、億を超える我が帝国臣民の創造と妄想を全部監視するなんて、無理です。ホストコンピューターのディスクがパンクしますよ」

 そう、笑い飛ばすように言った。ゆうだちには逆に、独裁は独裁だが汎人類史で地球一の人口の国家がそれをやっているとは、流石に瞬時には想像できないらしい。

「すみません、少し意地悪に言いました」

 マシュは、まず謝罪するように言ってから、片腕の手を広げる仕種をしつつ、続ける。

「では……その、端末を使わせていただきたいのですが」

「カードパソコンの貸出ならありますが、大きい画面が必要なら、1階と6階のフリースペースにパソコンが置いてありますので……────」

 

 1階ロビー脇のフリースペース。

「あれ、電源が切られてしまっていますね」

 案内板には『電源は完全に切らず、待機状態にしておいてください』と書かれているにも関わらず、置かれている3台のパソコンは、すべて電源が切られてしまっていた。

「入れても大丈夫ですか?」

 マシュが女将に問いかける。ゆうだちも付き添っていた。

「はい、どうぞ」

 女将は、マシュに答えつつ、残りの2台の電源ボタンを押していく。

 3台のPCは、汎人類史の21世紀、AppleのiMacに端を発する華美なデザインはなく、シンプルな装いで、2台がベージュ、1台がグレーの塗装をしている。グレーの1台だけは、正面の横置きにしたトップローディングの光ディスクドライブがあり、多少気取ったデザインではある。

 マシュは、椅子に座り、正面のパソコンの電源ボタンを押した。

 ピポッ

『MEMORY 640KB+ 16776192KB OK』

 テキストベースの無機質な起動画面の後、ディスクアクセスランプが点滅を始める。

『SX-Window NX for PC-9800 featuring TRON kernel Technology』

 GUI OSの青い起動画面が表示される。

 視線を脇に走らせると、ベージュのもう1台にも同じ起動画面が表示されている横で、グレーの1台には、

『ASAHI』

 と、毛筆で書いたアルファベットで表示され、

『FM TOWNS system』

 そう、小さく添えられた起動画面が表示されていた。

「えっと……」

 マシュが向かい合っていたPCは、自動ログインに設定されていて、そのまま操作画面になる。マシュはマウスを手に持つが、操作の勝手が違い、一瞬戸惑ってしまう。

 95以降のWindowsや、OS X以降のMacはアプリケーションのランチャーが画面下側にあるが、 “SX-Window NX” は左端にアイコンボタンが並んでいた。

 GUIなので、直感的に操作はできるかと思ったが……

「えっと、ブラウザは……」

「ああ、えっと、コンピュータのピクトのボタンを押して」

 マシュが戸惑った声を出すと、ゆうだちがその背後から画面を覗き込むようにして、説明する。

「『ネットワーク』から、その『GINZA』ってやつ」

 プルダウンメニューにGINZA Browser と表示されたのを、クリックすると、Webのそれのようなブラウザ画面がフルスクリーンで表示された。

「それがそのまま検索サイトだから、なにか調べたいことがあればそこに入力して……」

 『MANGROVE』とタイトルされた検索サイトの文字ボックスに、キーボードで入力して、世界地図を表示させた。

 そして、それを見て、マシュの動きが凍ったかのように止まる。

「…………アメリカ合衆国が……存在していない……」

「え?」

 汎人類史であれば、アメリカ合衆国(United States of America)があるべき場所には、

Commonwealth North America(北部アメリカ連邦)

 と、書かれている。

 国旗は、オーストラリアなどに見られる、ユニオンジャックを左上に起き、群青に三重の円形に星が並んだ意匠をしている。

「アメリカがっしゅうこく?」

 ゆうだちが、マシュの言葉を鸚鵡返しに聞き返してくる。

「はい。この地域は ────」

 マウスカーソルで、マシュの知っているアメリカ合衆国のあたりを示しながら、説明する。

「汎人類史では、1776年にイギリスからの独立戦争を経て、1783年に独立した国家が存在していたんです。あ、えっと、西暦で、です」

「安永5年の英アメリカ植民地の軍人の反乱ならこの世界でもあったが……えっと」

 ゆうだちは、マシュの背後から離れ、FM TOWNSに向かい合い、操作する。WDNを検索し、ブラウザの表示を確認する。

「そう。天明3年。アングロ・サクスン主導の反乱軍に対して、ケルト魔術師による別の蜂起が発生。西暦で言えば、1783年」

「え」

「彼らの急襲により、反乱軍人の委員会は壊滅。その後、数ヶ月の争乱の後、バーンズ農場の大崩壊が発生して、ケルト魔術師蜂起軍も崩壊、イギリスによる再平定がされた。その際、旧スペイン統治領はスペインに再平定の能力がなく、イギリスに売却された」

「そ、の、歴史、は……」

 マシュは絶句し、短く区切った言葉を絞り出しつつ、愕然とする。

 ケルト魔術師の蜂起、首脳部メンバーの死によるアメリカ大陸軍壊滅、それは……────

「第5特異点……」

 ゆうだちに聞こえない小声で、マシュは呟いた。

「その後、文化12年に自治権を持った Dominion of North America となって、外交的にも英本国と対等になったウェストミンスター憲章が昭和6年。今のコモンウェルス・ノース・アメリカと名乗るようになったわけね」

 そこまで説明してから、ブラウザを閉じ、ゆうだちはマシュの方に視線を向ける。

「キリエライトさん?」

「あ、いいえ……何でもありません」

 ゆうだちが声をかけると、マシュは視線を下に向けたまま、そう言った。

「なんでもないって態度じゃない気がするけど……」

「……はい……ただ、……」

 ゆうだちがさらに訊くが、マシュ言い澱む。

「あっと……そうか、私達に言える内容じゃないってことですね」

 ゆうだちは、はっと気がついたようにそう言って、前頭部を掻く仕種をした。

「……………………はい、すみません」

 僅かに逡巡してから、マシュは小さな声でそう言った。

「調べたいことはこれで終わり?」

「あ、いえ」

 ゆうだちが訊ねると、マシュは少し慌てて返事をした。

「了解です。ただ、私はそろそろ部局に戻らないとなりませんので……後は、よろしいでしょうか?」

 ゆうだちが、いくらか申し訳なさそうに言うと、

「あ、は、はい。お付き合いさせてしまって、申し訳ありません」

 と、マシュが、少し慌てたように、自分の方が謝罪するかのように言った。

「私達の方が貴方がたを連れ回しているようなものなのですから、そういうところは気にしなくていいですよ」

 ゆうだちは、苦笑しながらそう言ってから、

「では、失礼いたします」

 と、マシュに向かって軽く敬礼してから、その場を後にした。

 

 

 マイクロバス、マツダ WX-90パークウェイは既にいない。

 ゆうだちが旅館の玄関を出ると、1台の軽自動車がそのそばにつけた。

 ゆうだちはその助手席に乗り込もうとして、ドライバーの顔を見て軽くギョッと驚いた。

「あれっ、キミが来たの!?」

「ええ、後片付けで、定時には帰れませんでしたから。非組の管理職の方が、あとあとギャースカうるさい事にならないで楽ですし」

 運転席の蘆屋朔とそんな会話をしながら、ゆうだちは助手席に収まり、シートベルトを締めた。

 蘆屋朔、文部省魔術局占術部付で、課長級。蘆屋道満の子孫筋故就いた役職で、年齢はまだ若い。そのこともあって、率先して雑務もこなしていた。

 朔はギアを1速に入れ、軽自動車、3代目スバル R2を発進させた。平成24年以降も、スバルは軽自動車を内製していた。しかし合理化とは無縁とは言えず、売れるサンバーのパワートレイン流用で、初代レックス以来のボンネット付きのリアエンジン車になっている。デザインも、3代目レックスのようなやや角張った、パッケージング優先のそれになっていた。

 永田町方面へ向かうため、朔はR2に都道305号線を南下させる。その傍らで、ゆうだちが、ポケットから通信端末を取り出した。

 スマートフォンのようにも見えるが、画面の縦横比が4:3に近い。その分ブランクスペースになっているかのような部分が、パカッと開いて、その下が小さなキーボードになっている。M(Micro)C(Computer)フォンと呼ばれるガジェットだった。

「なにか?」

 つい、朔はゆうだちに訊ねてしまっていた。

「うん、北米史について、ちょっと調べておいてもらおうと思って」

「なにか、関係があるんですか?」

 ゆうだちが答えると、朔は重ねて聞いた。

「重要かどうかはわからないけど、関係があるかないかで言えば、確実にある」

 ゆうだちは、電子メールを打ち込みながら言う。

 その最中、都電の軌道が合流してくる。と言っても、併用軌道ではなく、並行している専用軌道の形をとっている。

 走っている電車は、運転台の向かって左下に『荒川線 27・32』と掲示している。

「厄介なことにはなりそうだけど、物騒なことにはならなくて済む……んじゃないかな、ひとまず、彼女達とに関しては」

 






具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
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