Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

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Chapter-07

「第5特異点と関係がある?」

 ダ・ヴィンチの聞き返す声。

 やや遅めの夕食の最中。生魚ではないが、銀鱈の包み焼きに舌を打っているところへ、マシュがその話題を出した。

「はい」

「第5特異点は北米だったな。それほどユニークな存在なのか?」

 ゴルドルフが思い出すように言い、訊ねる言葉を発してから、

「いや、特異点そのものが特異(ユニーク)ではあるのかもしれないが……」

 と、付け加えた。同じように、シオンも少し怪訝そうな表情をしている。

「確認しました。多少、抽象的な表現で記録されている部分がありますが、1783年のケルト魔術師の蜂起による大陸反乱軍の崩壊、 “バーンズ農場の崩壊” によるケルト魔術師蜂起軍の壊滅、これらの記述は、第5特異点の事実を矛盾なく説明しています」

「その、 “バーンズ農場の崩壊”、というのは?」

 深刻そうな面持ちで説明するマシュに、カドックが訊ねる。

「北アメリカ大陸、ポトマック川とアナコスティア川の合流部分に挟まれた、バージニア州とメリーランド州の境界地区で発生した、魔術的な破綻を起因とする土地の崩壊、と書かれていました」

「おいちょっと待て、そこは……」

 マシュの説明を聞いて、カドックが表情を引きつらせた。

「はい。()()()()()では、ワシントンD.C.が存在したところです。そして、 ────」

 そこまでいいかけて、マシュは、一旦チラリ、と、立香に視線を向ける。

 いつもの立香は、厄介事に自分から首を突っ込んでくる騒動屋というわけではないものの、自分の関係する話題に無関心でいるタイプでもない。割とツッコミを入れてくる方だ。

 だが、今の立香は、その話に興味がない、といった様子で、話の輪に加わることもなく、かといって、食も進んでいるという様子でもなく、ボーッと焦点の合わない目を軽く上に上げている。

 マシュは、視線をゴルドルフ達の方に戻し、

「──……私と先輩が、魔神柱ハルファスと戦ったところ、汎人類史では、1800年にホワイトハウスが建設される場所です」

 と、大きくはないが、重く感じる声で言った。

「……とは言っても、第5特異点は間違いなく定礎復元されているはず」

 ダ・ヴィンチが、困惑した表情で言う。

「その未来が、独立して存在するはずは……────」

「あれ、どう考えてもおかしかったんだよね」

 ダ・ヴィンチやマシュ、カドック達が深刻そうに考えている中、立香がぽつり、とそう言った。

「先輩?」

 ゴルドルフやシオンも合わせて、視線が立香の方を向くと、そこで立香は、マシュ達の方に視線を向けた。

「第7特異点で、ギルガメッシュ王が言ってたじゃない。特異点の復元はその被害が帳消しになるわけじゃない、辻褄合わせがされるだけだって」

「はい、言ってました……」

 どこか消極的さを感じさせる口調で、マシュが言い、視線を伏せがちにする。

「例外は、第6特異点や第7特異点のような、神格級の介在があった場合だけ……メイヴ女王やクー・フーリンは、影響力も自身の実力も強大ではありましたが、神格と言う程の存在ではありません……」

「しかも、第6特異点や第7特異点に比べて、第5特異点はかなり近現代に近いですからねェ……重要人物だけではなく、一般人の大量死も、有耶無耶にすることはできないでしょう」

 マシュに続いて、シオンが、どこか険しい表情で腕組みをしながら、そう言った。

「待ちたまえ」

 言いつつも、箸が休まる気配のないゴルドルフが、反論する。

「それを言うなら、第4特異点は、更にそれより後の時代だろう? そちらも、ロンドンで大量死が発生した、という歴史の書き換えは発生していないではないか」

「いや、それはこういうカラクリだ」

 カドックがそれに対して発言する。

「ロンドン特異点は、確認されている死者が限定的なんだ。だから、大量死の辻褄合わせはしなくていい。毒の霧で都市機能が麻痺した、そこだけ整合が取れればいいんだ」

 僅かに沈黙があった後、

「待ってください……」

 マシュが、立香の方をむいて、重い口調で言う。

「エレナさんは、アメリカ以外の国は滅びている、と言ったじゃないですか……それの辻褄合わせはどうなるんですか?」

「それはまぁ、私も考えついてはないなんだけど」

 立香は、やる気なさそうな表情のまま、こめかみに指を差すようにして、言った。

「エレナ……エレナ・ブラヴァツキーが言ったんだよな?」

 カドックが声を発した。

 一旦立香に向いていた視線が、カドックに向く。立香も、消極的に、首は最小限の動きでカドックを見た。

「はい、そうです」

 マシュが肯定の返事をする。

「僕もシミュレーターでその経験をしたが、エレナ・ブラヴァツキーは『アメリカ以外の()()()()滅亡している』と言ったはずだ。『アメリカ以外は滅亡している』ではなく」

 カドックは、問いかけるかのように言った。

「は、はい、確かにそうですが……」

 マシュは、カドックが何を言いたいのか解らない様子で、困惑した口調で答える。ゴルドルフとシオンも、似たような表情をしていた。

「念の為に訊くが、他の人物から似たような説明を受けたことはないんだな? 特にエジソン」

 カドックが重ねて問いかけると、マシュはゴクリ、と喉を鳴らした。

「はい、直接的には、言及されたことはなかったと思います」

 すると、カドックは軽く息を吐いてから、言う。

「エレナ・ブラヴァツキーは1831年生まれの1891年没だ。彼女にとって、()()()()()()じゃ()()()んだよ」

「あ! そ、そう言うことか!」

 ダ・ヴィンチが、合点がいった、と声を出す。

「日本が主要国になるのは20世紀に入ってから、多くの一般人にとっては早くとも第一次世界大戦以降だ。名実ともに大国と呼べるようになったのは、1985年のプラザ合意以降と言ってもいい」

 ダ・ヴィンチがまくしたてる。

「だが……だからといって、日本が滅亡していない、という事になるのかね?」

 ゴルドルフが、流石に箸を止めてしまいつつ、緊張した面持ちで、問いかけをする。

「さっきからマシュや立香が言ってるだろう? 定礎復元は辻褄合わせだって。実際にエレナ・ブラヴァツキーが何を見たかよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ」

「つまり、矛盾なく歴史に合流できればそれで構わないということですね……」

 カドックの説明に、マシュが付け加えた。

「そうだとするなら、この異聞帯(ロストベルト)異聞世界(レイヤー)は、他の異聞帯のように、確定した剪定事象というわけではなく、 …………汎人類史の代わりに第5特異点を受け入れるために、演算と選定が行われた世界……?」

「今の所、仮説に過ぎないし、それが真であるか、確かめる機会があるのかも解らないけどな」

 少々飛躍していると自覚しつつも、ダ・ヴィンチが声に出すと、カドックがそれに付け加えた。

「でも、そうだとするなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()というのも、納得がいくのではないかね?」

 ゴルドルフが言う。

「……と言うより、日本以外の()()()は、まず日本があって、再生された存在なんだろう。異聞帯は本来、その地域だけ切り取られているものだからな」

 カドックがそう言った。

「まぁ、この世界の成り立ちについての正確さは、これ以上は in Bush と言うところだろう」

 ゴルドルフがそう言うと、ダ・ヴィンチが同意から、自論を続ける。

「そうだね。重要なのは、この世界が今までの異聞帯より、遥かに安定しているということだ。それは、このまま汎人類史の代わりに、白紙化地球に定着してしまった場合、そこから逆転するのは難しいということでもある」

「そうですね、汎人類史の側としては、当然、このまま上書きされてしまうわけには行きませんし」

 先程から腕組みをしたまま困惑気にしているシオンが、ダ・ヴィンチに同意した。

「……………………」

 マシュは、どこか不安げな表情で、立香を見た。

 

 

「別行動、ですか?」

 翌日、朝。

 8時前にはやってきたゆうだちは、立香にそう申し出られて、困ると言うよりは、キョトン、と、呆気にとられたような表情をした。

 この場には女性陣しかいない。ゴルドルフとカドックは、まだ自分達の部屋にいた。

「はい。お願いできませんでしょうか?」

 立香が、どこか弱ったような様子と口調で、重ねて訊ねる。

「ええと……ちなみに、どちらに行きたいのかお聞かせ願えますか?」

 ゆうだちが訊き返す。

「はい、 ────────」

「え、そんなところへ?」

 立香の答えに、ゆうだちが意外そうな表情をした。

「はい。どうしても確認したくて」

 立香が、細いように聞こえて、どこか、譲らない、という意志を感じさせる口調で言う。

「まぁ……確かに、立香さんは、商業街を見るよりは、そちらの方が、この世界の状態を理解しやすいのかもしれませんね……」

 ゆうだちは、視線を上に向けるようにしつつ、そう言ってから、

「解りました」

 と、ポケットから、MCフォンを取り出した。

「先輩」

 立香は、ゆうだちが取り出した通信ガジェットを観察しようとしたが、そこへ、背後からマシュがどこか慌てたように声をかけてきた。

「私も、先輩と御一緒します!」

 マシュが立香に寄ってくるが、立香は、申し訳無さそうに、弱気そうに苦笑して、

「ごめん。でも、どうしても1人で行きたいんだ」

 と、マシュにそう告げる。

「そんな……」

 マシュは、消沈したように視線を落としてしまう。

「ご安心を。信頼できる人物を案内につけますし、都内での安全は保証いたします」

 一旦通話を中断し、受話器を抑えて、ゆうだちはマシュにそう言った。

「うん、大丈夫だから、ごめん。今回は」

「…………解り、ました……」

 苦笑気味に言う立香に、マシュは不承不承といった感じで、それを受け入れ、

「先輩……────」

 と、顔を上げて、立香に何かを告げようとする。

「うん?」

 だが、立香がマシュに視線を向け直して、それを聞こうとするが、

「…………いえ、何でもありません……」

 と、マシュは結局、その言葉を告げられなかった。

 

「そうか、それで許可したのか」

 旅館『お宿茶々』の玄関を出たところで、ゴルドルフがダ・ヴィンチと話している。

「うん。立香ちゃんの見たい場所を見せた方が、世界の正体に気付けるんじゃないかと思ってね」

「そうか」

「おや?」

 ゴルドルフの反応に、最初におやっという表情をしたシオンが、ニタニタとした悪戯っぽい笑みに変える。

「てっきり、『指揮官を差し置いて独断しおって』、なんて言うと思ってたんですが?」

「それは、そう考えてはいるがな」

 そうは言うものの、ゴルドルフは、憤った様子はあまりなく、やや目を伏せがちにしていた。

「うん、立香君自身の目でそれを確かめた方がいいと思ってな」

「…………」

 あまり覇気なく言うゴルドルフを、カドックがなにかいいたげに見ていた。

「つまり……」

「みなさーん!」

 ゴルドルフが何か言おうとした時、小走りに駆けてきたゆうだちの声がそれを遮った。

「それでは、今日はこちらのクルマでご案内いたしますね」

 ゆうだちがそう言うと、白のミニバン、と言うにはやや車体の長い車両が入ってきた。

「昨日はマイクロバスだったが、今日はワゴンか」

 カドックがそう言うと、

「あはははは、昨日はもっと多くの方が上陸を希望されるかと思っていましたので」

 と、後頭部を掻くような仕種をしながら、誤魔化すように言った。

「別に待遇が悪くなったとは感じていないよ」

 一方、ゴルドルフは、今日もはいってきたそのクルマを観察する。

「ふむ、ミツビシのデリカD:5の……これは、実用車型というところか?」

 ゴルドルフを余所に、電動スライドドアが開いたところで、ダ・ヴィンチやシオン達は、ロングボディの10人乗り、三菱 デリカ コミューターに乗り込んでいく。

「外観から感じるよりゆったりしてるじゃないか」

「座席は、マイクロバスより上等かもしれませんねェ」

 ダ・ヴィンチとシオンが言い合う中、マシュが最後尾の座席に腰を下ろした。

 そして、ゴルドルフが最後に乗り込んできて、そのマシュの隣に座る。

「全員乗りましたね!?」

 ゆうだちが、スライドドアの開口部から覗き込んできて、訊ねてくる。

 カドックが2列目、ダ・ヴィンチとシオンが3列目、ゴルドルフとマシュが4列目に座っている。

「ああ、大丈夫だ」

 それを確認して、ゴルドルフがそう答えた。

「はーい。じゃあ出発しまーす」

 ゆうだちがそう言って顔を引っ込めると、ゆっくりと電動スライドドアが閉まる。その間に、ゆうだちは助手席に乗り込んだ。

「発車しますねー」

 運転手の男声がそう告げてきた。コラムシフトのギアを1速に入れて、デリカ コミューターを出発させた。

「心配か?」

 エンジンから離れ、タイヤからのロードノイズだけが響いてくる最後部で、ゴルドルフがマシュに訊ねる。

「心配と言えば……心配なんですが、普通に言う心配とは、少し違う気がして」

 マシュは、俯きがちのまま、そう答えた。

 それに対して、ゴルドルフが返す。

「なんとなくだが、そうだろうな、という気がするな」

 

「えっと……」

 ノウム・カルデアの、立香以外のメンバーが去った、『お宿茶々』のロビーに、逆に玄関から入ってきた、クセっ毛の青年が、写真を表示させたMCフォンを片手に、あたりを見回す。

「ああ、いたいた」

 ソファに座ることもなく、佇んでいた立香に、その青年は声をかけた。

「藤丸立香さん、だね? 汎人類史カルデアの」

「えっと、あ、はい。そうです」

 訊ねられて、立香は姿勢を直しながら、そう答えた。

「内務省警保局の間桐慎二って言うんだ。キミの護衛と案内を命じられている」

 身分証明書を見せながら、青年はそう名乗った。

 その身分証明書を、立香は少しの間観察する。汎人類史の日本の警察手帳とは異なる意匠だったが、偽物っぽくはなかった。

「はい。よろしくおねがいします。間桐さん」

「よろしく」

 立香に、慎二が穏やかな笑みを向ける。

「それで、クルマを手配しようとすると、出発が昼過ぎになってしまいそうなんだけど、どうする?」

「あー…………」

 慎二が訊ねると、立香は、逡巡するかのような声を出してから、

「電車とかで行けるんでしたら、それでいいですよ」

「解った。と、先に連絡だけ入れておくから」

 立香が答えると、慎二はそう言って、MCフォンのキーボードを操作し始めた。ゆうだちのものとは異なり、キーボードカバーフリップのないタイプだ。その入力をしながら、

「地下鉄の駅まで、歩かせて大丈夫?」

「はい、それぐらいなら」

 との、慎二の質問に、立香はそう即答した。

「よし」

 メッセージを送り終えて、キーボードホールドスイッチをかけてから、慎二はMCフォンをポケットにしまう。

「じゃあ、出発しようか」

「はい。よろしくお願いします」

 立香は、霊基グラフの小さなトランクケースを手に、慎二の案内で、『お宿茶々』から出発した。

 ──── 都営地下鉄三田線、新板橋駅。

『まもなく 2番線に 東上線直通 快速 坂戸 行きが参ります ドアから離れて お待ち下さい』

「あれ……」

「? どうかした?」

 反対側の電車だったが、電車接近の放送を聞いて、立香は、微妙な違和感を感じた。立香が思わず漏らした声に、慎二が反応する。

「いえ、…………なんでもないです」

「……気分とかが悪かったら早く言ってくれよ、大事なお客様なんだから」

 慎二は、苦笑しながら、立香にそう言う。

「は、はい、大丈夫です」

 ♪ピロロロピロロロロポン

『まもなく 1番線に 西馬込行が参ります ドアから離れて お待ち下さい この電車は 都営線内は 全駅に停車します』

 ── 三田線……西馬込行?

 立香がそう思っている間に、立香が覚えている限りでは三田線内で見たことのない型の電車が入ってきた。ステンレス車体だが、前面のデザインが、幌座の付いた貫通型で、何となく野暮ったいように感じる。

 ドアチャイムが鳴り、ホームゲートとともに電車の扉が開く。

 慎二にエスコートされて、車内に乗る。ガラガラというわけでもなかったが、座席に座ることができた。

 その、向かい側の網棚の上の、路線図を見る。

 ── なんだ、アレ?

 運転系統図に書かれている文字を見て、立香は心の中で呟いた。

『秩父鉄道 東上線』

 





https://x.com/kaonohito2/status/1998856667942064478
(架空) マツダ WX-90 パークウェイ

https://x.com/kaonohito2/status/2000295942415864176
(架空) スバルの内製軽。3代目R2と4代目レックス

https://x.com/kaonohito2/status/2000689085233434887
(架空) 三菱 デリカ バン/コミューター

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
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