Resurrection of Rising Sun ~Failed Grand Order   作:神谷萌

8 / 53
Chapter-08

 立香と慎二を乗せた秩父鉄道17000系電車が、地下鉄三田線内を走る。

 立香は座ることができたが、彼女達の乗った新板橋から、西巣鴨、巣鴨と乗客が増え、混雑している、と言えるほどの乗客数になった。

 子供連れや、立香と同じかそれより少し上かの、学生ぐらいの若い人が目立ったが、春日駅につくと、その子供連れや若い人が降りていき、別の子供連れや若い人が入れ替わるように乗ってくる。

 それをキョロキョロと、まるで首都圏以外から訪れた人間かのように、立香は見回している。

「…………そんなに珍しい?」

「あ」

 常にどこか気障で厭世的な雰囲気を漂わせながらも、慎二は、立香の様子を見て、不思議そうな表情で聞いてくる。立香は、悪戯を咎められたかのように短い声を出す。

「汎人類史ってとこでも、一応、東京は帝都として、大都市だったんだろ」

「ええ、まぁ……」

 慎二が問いかけるが、立香は言い澱ませて誤魔化す。慎二もそれ以上は問いたださなかった。

 春日から日比谷まではかなり混み、そこで再び若干混んでいる、程度の乗客数になって、三田駅に至る。

『3番線、発車いたします。閉まるドアにご注意ください』

 ドアチャイムとともに扉が閉まり、電車が発車する。

『次の停車駅は、泉岳寺、泉岳寺です。京急線、羽田飛行場、横浜、浦賀、三崎口方面はお乗り換えです』

 自動放送がそう伝えた後、

『泉岳寺駅ホームゲートございません。お降りになられましたら電車から離れてからホームのご移動をお願いいたします。始発の快速特急、9時21分発羽田・三崎口行御利用のお客様、階段、エスカレーター下りまして5番線からの発車となります』

 と、車掌の肉声の放送があった。

 ── 泉岳寺、って、三田線通ってたっけ……

 立香がそんな事を考えている間にも、

『泉岳寺、泉岳寺です。お出口は右側です』

 と、自動放送とともに、電車は減速を始めた。

「降りるよ」

「あ、はい」

 慎二に促されて、立香は、彼に続いて座席から立ち上がった。

「あっ」

「あ!」

 到着の直前、軽い、と言うには少し強めの衝動があった。電車がポイントを渡ったそれだったが、それを知らなかった立香が、バランスを崩す。よろけた立香の手を、慎二が掴まえて、倒れないように引いて支える。

「す、すみません」

「あ、いや。僕も甘かった。東京に慣れてても、三田線しょっちゅう乗ってないと、ここは不意打ちなんだよな」

 立香が謝罪すると、慎二も申し訳無さそうにそう返す。

「都交に、ここは注意放送入れろって、言っとくかな……」

 慎二がそう呟いている相手に、電車は停車し、ドアチャイムとともに扉が開き、他の乗客とともに、ホームに降り立つ。

『御乗車お疲れ様でした。泉岳寺、泉岳寺です。1番線の電車は西馬込行きです』

 ホームの自動放送がそこまで言い終えたときには、すでに発車メロディが鳴り始めている。ホーム反対側の京急久里浜行特急とほぼ同時発車になって、都交と京急のそれが同時に鳴って、不協和音になる。

『1番線、発車いたします。閉まるドアにご注意ください』

『2番線、ドア閉めます。ご注意ください』

 自動放送まで重なり合って、扉が閉まり、ホーム上から見るぶんには同じ方向へ向かって、2本の電車は走り出す。

 京急側の電車は、片開きの扉に、最後尾は昭和の電車を塗装だけで新しく見せかけた感じの電車だった。

 元旧1000形、界磁添加励磁制御の3代目京急500形は、乗ってきた側の秩父鉄道17000系とほぼ同時にホームを出ていった。

「あれ」

 電車を見送ってから、立香はそれに気づく。

「線路が3本ある」

 立香は、鉄道に詳しくないとは言っても、銀座線や丸の内線の第三軌条については知っていた。しかしそうではなく、今、自分達が乗ってきた電車が出ていった線路には、電車の車輪が乗るレールが3本ある。

「ああ、浅草線と三田線は本来、レールの幅が違うからな。さっき揺れたのは、合流点を越えた時のだよ」

 慎二が、立香の背後から説明する。

「有名な話だけど、日常的にこの路線使ってないと、解らなくても無理ないか」

 立香が顔を上げると、確かに1番線ホームの案内には『浅草線 三田線 西馬込方面』と書かれていた。

「10分待ちか……タイミング悪かったな」

 慎二が呟いた。2番線の発車案内は『9:25 準急 久里浜』と表示されている。

 3分ほど経って、

『2番線 準急 久里浜行が到着いたします』

 と、放送が入るが、更に続いて、

『この電車は 時間合わせのため 当駅に 5分ほど停車いたします。階段・エスカレーター下りまして5番線快速特急 羽田・三崎口行が先発いたします』

 そう、続けられた。

 列車は、ステンレスの京成3600形の編成で入ってきた。扉が開く。あまり乗降はなかったが、車内は若干混雑していて、座席は空いていなかった。

 車内に乗り込みつつ、特に立香は何かを話すこともなく、慎二も何かを語りかけることもないまま、5分が過ぎた。

『お待たせしました。準急京急久里浜行、発車いたします』

 ホームの発車メロディが鳴り、プシューッ、と、空気ドアエンジンの音がして、扉が閉まり、電車は発車する。

 慎二がぼやいた意味を、立香はすぐ理解することになった。

 品川駅を経て、 ────

『次は、北品川、北品川です』

「次、降りるよ」

「えっ……あ、はい」

 泉岳寺から5分ほどで、次の乗換駅に着いてしまった。

 汎人類史において、京急北品川駅には第一京浜こと国道15号線に面した改札口しかなかったが、 “西口” とされているそちら側に対して、降りた1番線の北の端に、 “東口” が設けられていた。

「えっ?」

 ビルが無く、駅前ロータリーが設けられていて、そこより北側の旧東海道が拡幅されていたが、立香が驚いたのはそこではなかった。

 その駅前ロータリーに、変な電線が張られている。その電線は、ロータリー内でループを描いて、拡幅されている旧東海道へ続いていた。

 なんだろうと思っていると、その旧東海道の方から、バスがはいってきて ────

「えっ? バスに電線?」

 棒を2本、電車のパンタグラフのように電線に接触させたバスが、ロータリー内のバス停に停車する。

 前面には、この世界の都電がつけていたのと同じ様式で、『道玄坂線 102』の表示を運転席下に掲げていた。

「何をそんなに驚いているんだい?」

 そんなに深刻そうな様子もなく、慎二は苦笑しながら、立香に訊ねた。

「え、だって、バスに電線……」

「トロリーバスには架線があるだろう?」

 唖然としている立香が、答えると言うより、漏らすように言うと、慎二は不思議そうに返す。

「東京に、こんなの……」

「? トロリーバスはだいぶ前からあるだろう? 昭和にじゅう……あれ、何年だったかな」

 唖然としている立香に対し、慎二は、そう言って顎に指を当てた。

「…………と。とりあえず乗ろう」

「あ、は、はい」

 我に返った慎二に促され、立香も歩き出す。

『お待たせしました。このバスは トロリーバス道玄坂線 大崎本町 中目黒経由 渋谷駅行きです。 安全運転を心がけておりますが 事故防止のため 急停止することがございます。 座席にお座りになるか お立ちのお客様は つり革 手すりにしっかりおつかまりいただきますよう お願いいたします。 次は、八ツ山橋です』

「汎人類史の東京には、トロリーバスがなかったのか……」

 立香にそう聞かされて、慎二が言う。

 車内はありふれた内燃機関のバスと同じ、変哲のない内装だが、都バスと異なり、従量運賃制の中乗り前降りとなっていた。

 2人は、乗車口向かいのロングシート部分に腰掛けている。

 なまじ汎人類史と差異の少ない日本、しかも東京という土地だから、逆に差異に気がつくと、それが大袈裟に感じられる。それでも都電は汎人類史でも荒川線だけはあったが、トロリーバスは、立香は今までその存在すら知らず、この世界独特の乗り物に感じられていた。

 

「あ…………」

 トロリーバスを降りると、その光景に、立香は、ぼうっとしたように、しばらく立ち尽くし、ゆっくりとあたりを見回した。

 トロリーバスの架線が目立つし、若干違うが、それでも、ここが見慣れている場所だ、と、意識が訴えてくる。

「その、…………」

 立香が言葉に詰まると、

「ああ、置いていかないようにしてくれれば、いいよ」

 と、若干の気障さを感じさせつつも、紳士的に、慎二は言う。

 言葉に甘えて、立香はバス停の近くから、路地に入る。

 知らない場所じゃ、ない ────

 今までは、人理修復でも、異聞帯でも、そこは立香にとって、時代的にも地理的にも、ファンタジーの空想世界に等しい異世界だった。

 日本もあったが、時代が隔絶していて、自身の故郷という認識は薄かった。

 ここも、まったく同一ではない。

 ──── だが、その差異が細かく指摘できるほど、()()だった。

 近所の神社の、例大祭の看板。

 かつて通っていた、中学校。

「いいところに住んでいるんだな……」

 後ろからついてくる慎二が呟く。

 どうしてここに来たのか、ここがどういう場所なのか、実は、ノウム・カルデアのメンバーには伝えていなかった。

 だが、逆に、なぜそうしたいのかと、ゆうだちには話さざるを得なかった。だから、慎二もそれを知っている。

「ここにあるちょっとした戸建ての方が、僕の実家の屋敷の10倍するところだもんな……」

 その、慎二のボヤくような呟きさえ、ここがそうなのだ、という情報になる。

 まったく同一ではない。

 違いもある。

 だが、街の佇まい、街路の配置、それがどうしようもなく、同じ場所なのだと思い知らせてくる。

 そして……────

「あ…………」

 そこに建っていたのは、一見すると、違っていた。

 狭い庭に面して縁側があり、和洋折衷ではあるが、より和風の ──── あるいは、昭和の装いが強い外観をしている。

 逆にそう感じられて、若干の安堵を覚えた ──────── だが。

「え…………」

 引違いの玄関が開いて、その人物が出てきた。

 自分と同じ年代の、少年というにはやや年嵩の男性。スポーツ刈りと言うには、やや不精に伸びた感じの髪型。日本人に典型的な黒髪に、僅かに青みがかった黒い瞳。

 性別も含めて、自分とは似ても似つかないはずの存在。

 なのに ────────

 ── あれは、私だ。

 自分の中で、頭の中で、胸の中で、心の中で、自分が自分に思い知らせてくる。

 ── あれは、このせかいの、わたしだ。

 だから、ここは。

 この家は。

 この場所は。

 自分がいたはずの場所。

 ある日突然、離れる事になって、今の今まで、戻ってこれなかった場所。

「ちょっと」

 突然、声をかけられて、我に返りつつ、声の主の方を振り返った。

「アンタ、このあたりじゃ見ない顔だけど、私の同級の家をジロジロ見て、何やってんの?」

 その顔は ────

折田(おるた)、さん」

「え、なんで私の名前知ってんのよ」

 立香が発した言葉に、相手は気味が悪いと言った苦い表情になって、訊き返してくる。

 だが。

「待ってくれ、この娘は ────」

 慎二が割って入ろうとした、その次の瞬間。

「う…………」

 立香の表情が崩れる。

 昨日来、まったくの無表情ではないし、その起伏もあったが、どこか低調だった感情の発露が、突然、その堰を切った。

「うぅ、うぁ」

「ちょっと、え?」

「うわぁあ、あぁぁぁぁぁぁっ、ぁぁぁぁぁっ!!」

 相手の戸惑いの声にも反応せず、立香は声を上げた。

 ただただその場に立って、泣きじゃくった。

 

 

 神社の名前の付いた、少し大きめの公園。

「はい」

 立香がベンチに座り、その傍らで、あたりを気にするようにして慎二が立っている。そこへ、折田少女がやってきて、自動販売機で買ってきた、自販機用ガラス瓶の『スーパーH2O』を立香に差し出した。

「…………ありがとう」

 俯いていた姿勢から、気だるそうに折田を見上げつつも、立香はそれを受け取る。

「いくらだい?」

「2円50銭」

「解った」

 慎二が訊ね、折田がそう答えると、慎二は財布を取り出し、中から1枚の紙幣を取り出して、折田に差し出した。この日本の、5円札だった。

「お釣りないよ!? ブディカで買っちゃったから」

 折田は、慌てたようにしながら、手に持っていた電子マネーカード『Budding Pay』を見せつつ、言う。

「いいよ。君の分も含めてってことで」

 慎二はウィンクして、そう言った。

「じゃあ、受け取っとくけど……」

 折田はそう言って、慎二の手から5円札を受け取った。

 その傍らで、立香がスーパーH2Oのキャップを開けて瓶を煽り、一気に半分ほど飲んだ。

「でも……アンタが異世界の藤丸ね……なんかムズムズするけど」

 折田が、言ってから、笑い飛ばすように苦笑した。

「だから、私の事も知ってたってことなのね」

「他言しないでくれよ?」

 少し困ったように眉を歪ませながら、慎二が言う。

「言わない言わない……────」

 折田は、最初は冗談めかしてそう言ったが、やや真剣な表情になって、

「──── て、言いたいところだけど、難しいときもあるかも」

 と、困ったような口調になって、言う。

「おいおい!? そりゃ困るよ!」

 慎二が、ギョッとして声を上げる。

「私はこんなヨタみたいな話、広げる気ないけどさ、さっきこの娘がないてたところ、結構近所の人間に見られちゃったじゃない。聞かれたら、答えなきゃならなくなるかも」

 折田がそう言うと、慎二が目元を手で覆った。

「こりゃ、後々始末書かな……」

「あの」

 立香が、小さく言って、立ち上がる。

「ちょっと、トイレに行ってきます」

「あ、場所は大丈夫?」

 慎二より先に、折田が反応した。

「はい。多分」

 素っ気なくそう言うと、立香は、霊基グラフのトランクを持って、公園のトイレのある方に小走りに歩いていった。

「なるほどね、トイレの場所も知ってるってわけか」

 折田が、感心したような呆れたような口調でそう言った。

「……まぁ確かに、あの娘、藤丸の妹にちょっと似てる気がしたかな」

 折田は、手に持っていたガラス瓶の『ドクターペッパー』のスクリューキャップを開けながら、呟くように言う。

「妹」

「んん、藤丸自身とはあんま似てないけどねー」

 思わずと言った様子で、慎二が言うと、折田は唸るような口調で答えた。

 ……

 …………

 ……………………

「ねぇ、ちょっと遅くない?」

 何分か経って、折田が言った。

「女でも、ここまで時間かからないわよ」

「そうだな……気分が悪くなったのかもしれな…………────」

 慎二は、緊張感がない様子で、そこまで言ってから、僅かに沈黙し、ハッとした。

「いや、まさか!?」

 そう言って、立香が去っていった方へ走り出す。折田が、それに続いた。

 確かに、公園のトイレはそこに存在していたが ────

「ダメ! いない! どれも塞がってないわよ!」

 女子トイレの中を探りにいった折田が、飛び出してきて、言う。

「逃げられた!」

 

「なんだって!?」

 首相官邸でその報告を受けた大和が、表情を歪ませる。

「直ちに、緊急手配をします」

「いや、待って」

 内務長官が言うのを、大和が制した。

「事を公にしたくない。警視庁には騒ぎにさせないで、居場所だけ見つけて、報告するように言って」

「はっ? …………解りました」

 内務長官は、一瞬訊き返しはしたが、すぐに意図を理解して、そう言い、自身の任務に取りかかった。

 ── 事と次第によっては、この世界が滅ぶというのだからな、万一公になったら、暴動が起きるかも知れん……

 もっとも、この内務長官の理解は、大和の思惑のすべてを当ててはいなかったのだが。

 

 渋谷駅。

 トロリーバス道玄坂線の、もう一方の終端につくと、立香はそこから、JRの駅に駆け込む。

『それなりの金額をストアしてありますが、わざわざはぐれた()()をして秋葉原なんかに行ったりしないでくださいね』

 そう言って渡されたはずの、JTカードを使って、自動改札を通る。雑然とした東京の人混みの中をすり抜け、(まま)よ、と登った階段の先は、埼京線のホームだった。

 ステンレスではない、緑色の車体の電車が、すぐにやってくる。

 立香を乗せて、101系2000番台が、新宿、池袋の方へ向かって、走っていく ────

 

 





具現化人格軍艦 戦艦大和
https://x.com/kaonohito2/status/1991659945927094501

具現化人格軍……艦 護衛艦ゆうだち
https://x.com/kaonohito2/status/2002323170846539886

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

カドックとのカップリングは……

  • アナスタシア以外考えられない
  • 譲っても立香♀まで
  • 既存の型月キャラなら、まぁ……
  • 別に型月キャラでもオリキャラでも
  • 逆にやるならいっそオリキャラの方が良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。