玉輿-消えにし後は澄み渡る空   作:ミズアメ

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第一話 討伐任務

 薨星宮から続く、薄暗い通路を走る。

 

 脇目も振らずに全力で。

 とうの昔に息は上がっていて、肺と横腹が酷く痛む。足は棒みたいになっていて、ちゃんと動いているのかすらよく分からない。だから何度もつんのめって転びそうになるけれど、それでも足は止まらない。絶対に止められなかった。

 外敵の侵入を防ぐため、ここはとても入り組んだ構造をしている。文字通りの迷路だ。元来た道を辿って戻ることさえ難しい。昇降機があった場所に着くまで、どれ程の時間が掛かるだろうか。

 来た時よりも長い距離を走っている気がする。

 私だけなら、絶対に迷っていた。

 

《こっちじゃ、早ようせぃ小娘!》

 

「……ッ! うん!」

 

 嗣狼(しろう)の先導に従って、私は廊下を必死で駆け抜ける。

 こいつには感謝しても仕切れない。呪霊だけど、もう何度も私を助けてくれている。さっき撃たれた時も、咄嗟に私を庇ってくれた。おかげで私は生きている。怪我もしていない。

 

 

 ―――――五条悟は俺が殺した。

 

 

 鉄砲で私を撃った後、あの男はそう言った。

 私を殺しに来た呪詛師。急に現れて、五条を背後から串刺しにした奴だ。

 その時はまだ、五条は生きていた。

 あいつは呪詛師の相手を一人で引き受けて、その隙に私と黒井は、夏油といっしょに天元様の許へ向かった。

 天元様と同化し、その存在を人に留める。それが星漿体である私の使命。私にしかできない、私だけの役割。この世界に生まれてきた意味。

 

 でも―――

 

 帰ろうって、言ってくれた。

 

 五条と夏油。性格はアレだけど、とっても強い、すっごく頼りになる呪術師達。

 たとえ天元様を敵に回したとしても、私が帰りたいと願うのなら、それを叶えてくれる。最強だからできないことはないんだって、優しく微笑んでそう言ってくれた。

 

 だから私は――自分の心に正直になるって、決めた。

 

 使命も大切。でも、それ以上に。

 私は生きたい。

 私は、もっと皆と一緒にいたい。離れ離れになんてなりたくない!

 

 

 もう一度、大好きな黒井に会いたい!

 

 

 ……だけど、五条は死んだという。

 私は呪術のことはそんなに詳しくないし、戦いのことなんてなにも分からない。私が知ってる五条は悪ノリが酷くてデリカシーのない奴だったけど、でも、その強さは疑う余地もなく本物だった。

 

 それでも死んだ。

 私を護るために。

 

 夏油も、私を逃がすために戦っている。今も薨星宮の本殿がある下の方から、ずずん、と大きな音と揺れがここまで伝わってきていた。

 二人は強い。

 もしかしたら五条だって生きてるかもしれないし、夏油があの男を倒してしまうかもしれない。いや、そうなるに決まっている。天元様を敵に回してでも私を逃すと言ってくれたあの二人が、負けるはずなんかない!

 でも、どうしても嫌な想像が頭の中に浮かんでしまう。振り払おうとしても、しつこくこびり付いて離れない。

 

 五条はもう、本当に死んでいて。

 夏油も、すぐに殺されてしまう。

 

 そして私も殺される。黒井に会えないまま、ひとりきりで。

 

 ―――そんなのは、絶対に嫌だ……!

 

 死にたくない。せめて最後に黒井に会いたい。生きていたい。五条にも夏油にも死んでほしくない。生きていてほしい。逃げることしかできない自分が恨めしい。あんな奴に負けたくない。黒井に会いたい。会いたい。会いたい。ずっと、ずっとずっと、大切な人達と一緒にいたい―――!

 

 もう頭の中がぐちゃぐちゃで、訳が分からなかった。

 

 それでも確かなことは――こんなにも、私は生きたいんだって。それが私の、嘘偽りのない本心なんだ。

 

 ……もうすぐ昇降機があったところに辿り着く。

 

 もしあいつが追って来ているなら、上にあがってから嗣狼に昇降機を壊して貰えば、なんとかなるかもしれない。少なくとも、時間は稼げるはず。それから黒井に会おう。後のことは五条や夏油、呪術高専の人間に任せればいい。相手は一人なんだ。きっと、どうにかなる―――

 

 通路を抜けた先にある、開けた空間。

 

 一番奥には昇降機があって。その手前、に、は―――

 

 血を流し、地面に倒れ伏した黒井の姿があった。

 

「―――――くろ、い?」

 

 呆然と呟く。

 名前を呼んだのに反応がない。黒井は、倒れたままぴくりとも動かなかった。

 

「―――……ッ! 黒井! 黒井! 黒井っ!」

 

 もう動けないくらい疲れていた。でも、体は動いた。

 全力で黒井に駆け寄って、倒れた体を抱き上げる。

 黒井の体は異常なほどぐったりとしていて、柔らかくて重かった。胸に空いた二つの穴から、ゆっくりと血が零れている。

 

 薄っすらと開いた瞳は、ガラス玉みたいに生気がない。

 

「嗣狼! お願い! 黒井をっ、黒井を助けて!」

 

⦅無茶言うなや。呪霊である儂に反転術式は使えん。それにその女、もう死んじょるぜよ⦆

 

「……嘘」

 

 そんな訳、ない。

 

 黒井の顔を覗き込む。

 顔色からは血の気が失せていて、表情はがらんどうみたいに抜け落ちている。……優しく表情豊かだった黒井。私の大好きな黒井の姿と、今の黒井は、全く違うものだった。

 

 手に伝わる感触は、あまりにも冷たい。

 

 黒井が、死んでいた。

 

「…………そんな。なんで、なんでこんな……ッ!」

 

 どうして黒井が死んでるの?

 どうして黒井が死ななければならなかったの?

 

 おかしい。おかしいよ。

 黒井は悪いことなんて、なにもしてない。殺されなきゃならないような理由なんてなかった。なのになんで死んでるの。どうしてこんなことになってるの。なんで? なんで、なんでなんでなんで―――

 

⦅―――殺したいがか?⦆

 

 …………えっ?

 

 その言葉は、まるで魔法の()文みたいに。私の頭の中に入り込んできた。

 

⦅さっきのあの男のことぜよ。呪力の無い珍しい猿。その女の仇やきな、殺したいじゃろ? それだけ(ばあ)やない。御前(おまん)を殺すよう依頼した、盤星教とかいう連中。ソイツ等も皆殺しにしたいんじゃなかか――と、儂は訊いちょるんじゃ⦆

 

「そんなの……―――!」

 

 どうしたいかなんて、そんなのは決まってる!

 

 悲しい気持ち、寂しい気持ち。途轍もない喪失感。

 私の中にあった感情が、どんどん塗り替わっていく。自分でも制御できないどろどろとした黒くて熱い何かが、胸の中で渦を巻いていた。

 

 許せない。許せる訳が、ない!

 

 明確な意志を込めて。

 それこそ殺すつもりで、嗣狼を睨み付ける。すると、嗣狼はニィと口角を釣り上げて、くつくつと愉快気に嗤った。

 

⦅ククッ、そうじゃろう、そうじゃろう。なら、儂の首輪を外せ。そうしたら礼に力をやる。御前(おまん)に、あの男を殺させてやるぜよ⦆

 

 それは、明らかに罠だった。

 

 もはや隠そうという気すら感じられない。聖書に出てくる、悪魔の誘惑そのもの。頷けば、間違いなく破滅が待っている。でも、それでも―――

 

 それでも、私は―――!

 

 嗣狼の首輪に触れる。焦茶色の大粒の球が幾つも連なった、数珠みたいな首輪。呪符などに使われる文字がびっしりと書かれたそれは、特級呪霊である嗣狼の力を封じ込めるために着けられたもの。これを外せば、嗣狼は呪霊としての本来の力を揮うことができる。

 だが当然、それは強大な呪いが野に解き放たれることを意味した。

 私は、自分の指に嵌めた指輪を見る。

 初めて会った時、夏油から渡されたものだ。この指輪と嗣狼の首輪は繋がっていて、この指輪を着けている限り、嗣狼は私の言うことを聞く。そういう仕組みだ。

 

 

 ―――いいかい、理子ちゃん。

 嗣狼は呪霊だ。自由になるために、首輪を外すよう唆してくるかもしれない。だから嗣狼の言葉に耳を貸してはいけないよ。絶対に、首輪の封印を解いてはいけない―――

 

 

 夏油は、そう言っていた。

 

「…………」

 

 私は、もう一度、黒井の死に顔を見る。決心するために。

 

 痛かったよね。苦しかったよね。辛かったよね。

 その無念を……必ず、私が晴らしてみせるから。

 

 だから―――

 

 私は、嗣狼の首輪を引き千切った。

 

 * * *

 

 2005年――

 10月の終わり頃。

 

 鬱蒼と生い茂った深く暗い山の中を、一台の車が駆けている。

 舗装されていない道なき道であるため、運転手には極めて慎重な足取りが要求される。地元のレンタカー屋で借りた安っぽい国産車の調子は可もなく不可もなく。何度も石や溝に足を取られながら、車は木々の隙間を縫うように前進した。

 

 揺れる車内の座り心地は最悪で、流石の夏油傑も辟易していた。

 

「あのさ、まだ着かねぇの? もう六時過ぎてんだけど」

 

 不満を漏らしたのは五条悟だった。

 傑の隣に座った悟は、さも不愉快です、と言わんばかりに唇を尖らせている。同じく自動車の後部座席に腰を据えた傑もまた、口に出すことはしないまでも、内心では概ね同意見だった。

 

「も、申し訳ありません……何分、目的地は非常に込み入った場所にあるもので……」

「まあ、こんな田舎の山奥じゃカーナビなんて役に立たないし。車じゃ限界もあるっしょ。そこは仕方ないんじゃない? ま、うんざりするのも分かるけどさ」

 

 しどろもどろに受け応える補助監督の男。今にも消え入りそうな弱々しい声に、助手席に座る家入硝子が助け舟を出した。

 しかし悟は納得せず、日本人離れした端整な顔を嫌そうに歪めたまま悪態を吐く。

 

「つっても、俺らが空港に着いたのって確か朝の四時くらいだっただろ。そこから延々ともうノンストップで十四時間は座ったままだ。いくらなんでも限度があるだろ、限度が!」

「―――それはお前もだ、悟。一体これで何回目だ? 口を開けば『まだかまだか』と文句ばかり、同じことを繰り返している。いい加減耳にタコが出来そうだ。辛いのはここにいる全員同じなんだから、耐えろ。子供じゃあるまいし」

「正論やめろ、今はマジで反吐が出るわ。車酔いとのダブルコンボでな! オッエー!」

 

 白目を剥いてえずく真似をする悟。あまりの鬱陶しさに傑の堪忍袋の緒が切れかけるが、結局は無視を決め込むことにした。

 

 ―――なんてことはない、それはいつもの光景。

 

 東京にある呪術高等専門学校から、地方に現れた呪霊を退治するべく出動する――呪術師ならば当たり前の任務だった。

 今回のように車で強行軍というのも珍しくないし、それに対して悟が文句を垂れるのは様式美の範疇である。心情的には思いっきりぶん殴ってやりたい所だったが、この後に控えている戦闘を考えれば控えるべきだと傑は判断した。

 

 愛媛県の松山空港から高速を飛ばし、訪れたのは高知県北部の山奥。

 

 ここには犬神憑きの一族が住むという。

 

「そういえば、『犬神』ってなんだっけ? 金田一のやつ?」

 

 場の空気を入れ替えようと思ってのことか、硝子が誰にともなく尋ねる。

 傑はそれに答えることにした。

 

「『犬神家の一族』か。あながち的外れということははないが、あの小説に書かれた事件そのものに呪いとしての犬神は関係ないからね。参照するならその元になった伝承の方だろう」

「そうそう。蠱毒みたいなやつだ。動物を材料にして造った呪物」

 

 無理やり傑の後を継ぎ、悟が説明する。心なしかその語調は得意気だった。

 

「犬っころを首だけ出した状態で地面に埋めて、死にかけるまで飢えさせる。で、目の前に食い物を出して、犬がそれを食おうと首を伸ばしたところをぶった斬る。切り落とした首は人通りが多い道に埋めて、人間に踏み付けにさせることで犬の怨念を増大させる。後は首を祀って『犬神の完成~!』ってな感じだな」

「概ねその通りだ。お前がそこまで知っているとは、少し意外だな。……いや、呪術師の家系である五条家の出身なら知っていて当然か」

「いや、前に読んだ漫画に載ってた。ぬら孫。おもしれぇぞ」

「ああ……そういう……」

 

 梯子を外されたように感じて、傑は一瞬だけ遠い目をする。

 しかしすぐに切り替えて、傑は情報を補足すべく口を開いた。

 

「犬神は他者の財を奪い取り、殺す呪いだ。その力は強大であるとされ、呪術の全盛期――平安時代においては蠱毒と同様、犬神を使って呪いを掛けた者は死罪という法律を、時の権力者達が公に定めている。そして特に犬神の使役が活発だった四国では、急に財産を成した者を『犬神を使役する憑き物筋ではないか』として忌避する習慣が近代まで残っていたそうだ。婚姻時には相手やその親類が憑き物筋ではないかどうか調べるのが通例だったとか。犬神家の一族も、そういったエピソードが由来なんだろう」

「どっかその辺りの池に逆さの死体が刺さってるかもな」

「不謹慎」

「ハッ!」

 

 端的に咎めるが、悟にそれを聞き入れる様子は微塵もなかった。

 

 車は夜道を進む。

 あまり良くない車内の雰囲気とは真逆に、天気は快晴で月が出ている。中秋の名月は過ぎているが、高い山を登っている最中ということもあって、普段よりも月が大きく美しく見えた。

 月は狂気の象徴だ。その輝きは人を含めたあらゆる動物を狂わせるという。そしてその代表となるのが狼だ。

 

 狼男。

 

 その伝説自体は日本に流入したばかりの代物だが、今では怪物の代表として国民に広く受け入れられている。ハロウィンでは吸血鬼やフランケンシュタインの怪物と並ぶ仮装候補の筆頭格だ。

 ともすれば、今の日本においてその存在はある意味で妖怪よりも身近であるといえる。

 

(……まあ、今回の任務とは関係ない話だが。そういえば、今日はハロウィンだったか)

 

 やや曇った窓越しに月を見上げつつ、傑は自分達に与えられた任務の内容を反芻した。

 

 呪詛師一族――門脇(かどわき)家。

 他者からの依頼を受け、人殺しや財産の簒奪を行う典型的な呪詛師集団。彼らは犬神と呼称される推定準1級以上の呪物から成る式神を使役し、人間や呪霊を殺す一子相伝の術式を有する。その歴史は長く、千年を越えるとされた。

 当然ながら高専ら呪術界とは敵対関係にあり、御三家の呪術師とも幾度となく矛を交えている。此度の任務も対犬神戦を想定されていた。

 

 ―――というのも。

 

「しっかし、間抜けな話だよな。テメェんとこの呪物が制御不能になって、そのせいでずっと敵対してた俺たち高専に助けを求める羽目になるなんてよ」

 

 呪物の暴走。それを引鉄にした未曽有の大災害。

 門脇家は呪術界における古参の病巣だが、しかし年々彼らの手による被害は減少傾向にあった。その理由は犬神を扱える術師が極少数しか産まれていないことと、呪物そのものが強大になり過ぎて人の手で操ること自体が叶わなくなってしまっていたからだ。

 

 そして先日――破棄して一旦造り直そうとしたところ、遂に暴走。

 呪物から仮想怨霊へと変貌し、手当たり次第に暴れ始めたという。

 

 一族の者多数が被害に遭い、散々慌てふためいてから、藁にも縋る気持ちで暴走した犬神の対処と一族の救助を敵対者である高専に依頼した。それが事の発端。以降、門脇家とは音信不通になっている。

 結果、呪術高専は事態の真偽を把握するために三人の一年生を派遣した。

 

 それが傑達三人がここにいる理由と経緯だった。

 

「間抜けってのはまあ、確かに。でも罠とか空振りだったらやだなー。骨折り損だもん」

「その可能性は低いと思うよ、硝子。今まで高専が集めていた門脇家の情報と、今回の件は符合する。少なくとも上は十分に有り得る事態だと判断した訳だ。呪物『犬神』は無力化後、封印して回収する。その為の呪具も渡されているからね。それに生存者は救出の上、捕縛して連れ帰るようにと厳命されている。向こうで裁判にかけられる筈だ。―――悟、忘れるなよ」

 

 念を押す傑に対し、悟は嘲るように鼻で笑った。

 

「へっ、そりゃまたお優しいことで。呪詛師相手にも情けをかけようってのか?」

「生まれで差別することは許されない。罪を犯したならば相応の報いを受けるべきだが、そうでないなら日の光の下で生きていく権利がある。誰にでもだ。どちらにせよ、私達一介の学生が計れる問題じゃないさ」

「ハッ――オッエー!」

「……悟。長時間椅子に座りっぱなしで疲れただろう。そろそろ休憩がてら、外で軽く運動でもしないか」

「いいね、やってやろうじゃねぇか。おいアンタ、ちょっと車止めてくれ」

 

 いい加減腹に据えかねた傑が挑発に乗ると、待ってましたとばかりに悟が食らいつく。それに対して硝子が嫌そうに顔をしかめ、補助監督の男はただただ戸惑っていた。

 

「はっ? いやっ、あの……?」

「えー、着くの遅くなるじゃん。せめて着いてからにしてよ」

「安心しろ、硝子。すぐに終わる」

「ああ。速攻でケリつけてやんよ」

 

 腕を鳴らす二人の1級術師。それに呼応する形で、車が止まった。

 

 ―――ガクン

 

 ブレーキを踏んだからではない。

 唐突に、エンジンがストップしたのだ。

 

「―――――」

 

 三人の呪術師の顔色が変わる。傑と悟は、すぐさま術式を発動できるよう身構えた。

 傑は、自身の背筋の肌が粟立つのを感じていた。

 夏油傑と五条悟は、呪術高専一年生でありながら既に1級術師の等級を与えられた天才である。自他共に最強と称されることも多い。その彼らが揃って身の危険を感じ、即座に戦闘態勢へ移る――硝子にとって明らかな異常事態であった。

 

「あれ、おかしいな。オートマ車なのにエンストなんて……」

 

 異常に気付いていないのは補助監督の男だけ。彼は何度も車のキーを回し、エンジンを作動させようとするが上手くいかない。

 エンジンの機構が空転する。

 瞬間、暗転していたカーナビに光が灯った。しかし意味のある画像は映らない。ただただ、雑音を視覚化したようなノイズだけが表示されている

 

 そしてスピーカーから、雑音交じりのメッセージが発された。

 

 

『―――入ルナ。出テイケ。入ルナ。出テイケ。入ルナ。出テイケ―――』

 

 

 淡々と繰り返される警告。それを聞き、補助監督の男の顔色が真っ青になる。ようやく事態を飲み込んだ彼は酷く怯えていた。

 

 一方で―――

 

「ハッ、めっちゃホラーじゃん。超ウケる」

 

 飄々とした態度を崩さないまま、悟が口笛を吹いた。

 

「―――悟」

「ああ。コイツは、門脇が張ってた人避けの結界だな。こっから先は敵さんのテリトリーって訳だ。わざわざ警告してくれるとは、ご親切だねぇ。―――さて、そういうことなんで、硝子と補助監督のアンタはここで待っててくれ」

「一応、二人は結界の外に出ていた方がいい。私と悟で様子を見てくる」

「まっ、この感じだと間違いなく全滅してるだろうけど」

「決め付けるな、悟。結界が未だ消えずに機能し続けている以上、生存者がいる可能性は捨て切れない」

「はいはい、分ーってるって――っと」

 

 車から降り、悟はぐっと背筋を伸ばして凝り固まった筋肉を解した。

 傑も同様に下車する。

 呪術高専から預かった呪具を車のトランクから取り出し、準備を整えた。

 二人は並び立ち、結界の発生源――山の上方、より深く暗い闇に覆い隠された、樹木の蜜海を見上げる。

 

「それじゃ征くか、傑」

「油断するなよ、悟」

 

 現代最強と称えられる二人の呪術師が――今、呪われた一族が棲むという森に踏み入った。




夏油「ところで悟」

夏油「『ぬらりひょんの孫』の連載が始まったのは2008年だ」

夏油「今は2005年。まだジャンプに載ってないよ」

五条「なん……だと……!?」
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