一般乗客として馬車に乗り込んでいるわけだが別に知り合いがいるわけでもなく。
結局は護衛の面子と話し込んでいる。
というか結局襲撃されたら困るのも自分なので【鷹の目】スキルを持つ自分で索敵をするのが確実なのである。
なので外を警戒しながらゴルド達と会話をしていた。
内容は、今から向かうバルトについて。
「バルトは闘技場がある……というのは知っていると思うが、実はただ闘技場があるだけの街じゃない」
「そうなんですね。というと他になにか名所があるんですか?」
そう問うたのはヘイムである。
「ああ、闘技場がある」
至極真面目そうなトーンで訳の分からない事を言うゴルドに、アルフは若干苛立った声をあげる。
「ワケわかんねえ。ふざけてるのか?」
それを愉快そうに笑って、ゴルドは続けた。
「はっはっは。なんてことはない。闘技場が複数ある、という話だ」
「いや、なんでだよ。一つありゃ充分だろ」
「ま、その辺は曰く付きでな。元々最初の闘技場は事故で亡くなった最強の魔法使いの霊を慰めるために建てたらしい。
それはもう戦いが好きだったらしく……周囲に害を及ぼしていた霊障も、闘技場で鎮魂の試合をするようになってからはとんと収まった」
ふんふんと私が頷いていると、しかしアルフはまだ噛み付く。
「いや、余計一個でよくね? あんまり関係ない話な気がするんだよな」
「その意見は最もだ。だが、これに味を占めた当時の領主が、なにかとても悪い事が起こるたびに新しく闘技場を建てるようになったとか」
「……馬鹿じゃねえの? で、今何か所闘技場があるんだ?」
「六つだな。アルフ、お前が参加したがっている武闘大会〈魔剣士杯〉では東西南北の四つの闘技場でそれぞれ予選を行い、中央の闘技場で本戦。決勝戦を街の奥の闘技場でするんだ」
大会で活躍する自分でも想像したのか、ニヤつくアルフ。
「ふーん、ま」
このタイミングで第二人格が乗っ取りを仕掛けてきた。
「目指すは優勝だな」
「目指すは優勝だな」
そしてハモる私とアルフ。するとアルフは明らかにびびっていた。
「え、あの……出るんですか、大会」
教師役として付いてきているゴルドにさえ傍若無人な態度を取っていたのにも関わらず、私には敬語である。明らかにトラウマとして刻み込まれている。
「おう。なんか問題あるか?」
「あり……ます」
「言ってみろ」
明らかに圧をかけている第二人格に、それでも抵抗するあたり馬鹿なのか天才なのか。紙一重だなあと思ったりもする。
「魔剣士杯は二人一組の大会なんで、相方いないと駄目かと……思います」
「なにぃ!?」
予想外の情報に喜んだのは俺と第三人格だ。
『やったー! しょうがないね! 諦めよ!』
『だな。二人一組ならしょうがない』
なるほどつまり、アルフはヘイムと一緒に参加するためにこの大会を選んだというわけだ。
しかし、この場にはもう一人いるのである。本来参加出来なかったはずの人物が。
「ならば私と組まないか? なに、足手まといにはならんさ」
鎧の男、ゴルドがパートナーに立候補してきたのだ。あれか、余ったら先生と組まされるあれか。
『やだー!』
第三人格が心の中で拒否するが、表には出さない。出したらあとで第二人格に〆られるのが分かっているからだ。
「お、悪ぃな。世話にならあ」
「優勝の夢を潰すのも悪いとは思うが……私も一人の戦士でね。チャンスがあるなら出たいものさ」
そう言って朗らかに笑うゴルドとは対照的に、項垂れる少年剣士。
「終わった……どっちか一人だけでも勝てねえのがコンビ組みやがった」
「いけるところまで頑張ろうね、アルフ」
「おう……」
励ます白ローブの少女の言葉も、ほとんど届いていないように見えた。
「しかし……モッド。君のその喋り方はなんなんだ? 情緒不安定なのか?」
「気にすんな! お前は優勝した時のインタビューの内容の事でも考えてりゃいいんだよ!」
そう言って笑う第二人格に、ゴルドは呆れたようだった。
「バルトに着くまであと数日あるんだがね……」
◆
本気で警戒をしたゴルドの前では山賊もモンスターも敵ではなく。
平和にバルトの街まで着いた。
乗合馬車を降りると、御者とゴルド達護衛一行は依頼の完了を報告するためにギルドへ向かう。大会でタッグを組むことが決まっているので、別に冒険者として乗り込んだわけではないが離れると不味いと思い私もそれについていく。
バルトの街のギルドは広い。受付も十を超えるほどあり、一度に複数の案件が処理できるようになっている。
と、一つの受付から一人の少女がこちらに近づいてくる。
「……お姉様」
そう言って私の修道服の裾を掴む眼鏡っ子。
「え? え?」
「こっちにきて」
言葉数の少ない少女に連れられて、人気のないところにやってきた。
「貴女は何者?」
「ええと、私はモッド。修道女として巡礼の旅をしています」
「――そのスキル構成で?」
こいつ、まさか……!?
「強い女性は好き。だから貴女は私のお姉様。そのスキル数、只者じゃない。最高」
『鑑定スキル持ちか!?』
『お、コピー狙うか。ただ、この嬢ちゃん弱そうなんだよな。他にスキルなさそうだぜ』
『い、言いふらされる前に殺した方がいいんじゃないかなあ』
なんか第三人格が黒い。なんにしろ情報を集めてからだ。
「【鑑定妨害】を覚えた方がいい。あまりにも人間離れしている。他の鑑定メガネ持ちに見られると厄介」
「鑑定メガネ?」
「優秀な受付嬢に渡される希少なマジックアイテム。失われた【鑑定】スキルを発動できる。私は優秀。ふふん」
その眼鏡があれば俺でも鑑定が使える。となれば……。
『奪うか?』
『情報持ってかれないように殺して奪おうよお』
うちの人格共が野蛮人な件。ダブル野蛮サンドだわ。
協力してもらうとか考えないものかね。まあ、奪うのは俺も考えたんだが。
そんな思考をしていると、目の前の少女がぶるりと震えた。
「あまりにも当然のように倫理に反する行いをしようとする。精神も強者の資格あり」
もしかして、こいつ鑑定だけじゃなくて……
「正解。スキル【読心術】。貴女の中に二人いるのも分かっている。そして、スキルコピーの能力を持っている事も」
本当に筒抜けだ。どうする? なんとか懐柔できないか?
「できる」
あ、できるんだ……本人が言うんだからそうなんだろう。
「私のお姉様になって」
「ちょっとよく分からないですね」
「私を妹にして」
「変わらないですね」
結局何が言いたいのかまとめたところ、甘えたい時に甘えて何かあった時は守って欲しいしなんなら肉体関係も、という事らしい。
つまりお付き合いしましょう的な事らしい。
「保留とか……」
そう考えたが、ふと思い直す。そもそも鑑定メガネを合法的に手に入れるチャンスである。
少女の見た目も悪くない。むしろ良い。
優秀な受付嬢だというから頭もいいのだろう。背は低くて言葉足らずなところはあるが、胸も大きい。これは優良物件なのでは?
しかも【読心術】が使えるというおまけつき。
「ただ、会ったばかりなんだよなあ」
「じゃあ一緒に冒険する。とっておきの情報がある」
「それは? 大会出るからあんまり遠出は出来ないのですが……」
小動物じみた可愛らしい少女から出てきたのは、とんでもない提案だった。
「強力な【鑑定妨害】を持っている相手を知っている。【読心術】で見たけど、その人物は【魔導の極み】スキルを持っている事も間違いない。伝説の魔法使いマギカの幽霊に会いに行く」
【魔導の極み】……興味があるな。なんだかんだ追加される人格も癖はあるが御し切れないほどじゃない。
ここで伝説とまで呼ばれた魔法使いをコピーすればもう今後魔法使いのコピーはいらないだろう。それは結局、人格数を制限できるという事にならないだろうか。
「――やりましょう」
「安心して欲しい。【魔導の極み】を持っているのは確認している。無駄コピーにはならない」
無駄コピーが一番痛いからな……情報提供ありがたい。
「それで、どこにいけばいいのでしょう?」
「ここ。ここでマギカは亡くなった」
「なるほど……【霊視】」
ふと、トリーさんが言っていた事を思い出した。ロリお姉さん修道女のトリーさんのことだ。
彼女は霊を祓う時、ピントが合うと言っていた。私的にはチャンネルが合うの方がしっくりくるのだが……なんにせよ、霊に干渉できるという事は、霊に干渉されるという事である。
圧倒的な魔力の圧が、私を襲う。なんなら死んだ。
死んで、血液を消費して【復活】スキルで復活してまた死んで……を繰り返した。そうして。
「複製完了。――魔術師モッド、導入。
ふふ、よろしくねえ。ベースモッド」
第四の人格が目覚めた私は、急いで霊視を切った。
圧倒的な魔力の奔流を、【魔力制御】で抑え込む。なんであの霊は魔力垂れ流しにしてるんだ……
「うん、鑑定メガネで貴女の鑑定はできない。安心してほしい」
情報は正確だった。だから多分、この少女は信頼できる。
「自己紹介が遅れた。私はティアラ。ティアラ・ダイアモンド。
末永くよろしく、お姉様」