コピー能力にはそれなりの代償を   作:稲光結音

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異世界殺人にノックスの十戒は通用しない

 この一件は殺人事件である。ティアラのその宣言に周囲はざわつきはじめた。

 

「そんな、ドルフが毒を呷って死んだ。その毒はこの男が売った。そういう話じゃないのか?」

「でたらめだ!」

「いやだが……受付嬢がいうなら……」

 

 ざわめく群衆はしかし、受付嬢の言う事ならばそうなのかもしれないと徐々に納得していく。

 え、その受付嬢に対する信頼なんなの。

 

「現場検証を行う。誰か案内を」

 

 この場を取り仕切る探偵ティアラ。その小さな背中が頼もしく見える。

 私達と目つきの悪い商人は数名の人物に連れられて、死体のある住宅へと入っていく。

 そこは鍛冶場に併設された、職人の為の宿泊所だった。

 

「まず、飲んだという毒が何かという事」

 

 それなら【毒物知識】を持つ私の出番だ。自信のある様子からして彼女も持っているのかもしれないが、ベッドの上で苦悶の表情で死んでいる亡骸にティアラを近づけたくない。

 ふむ、激しく苦しんでいる様子にこの独特の香り……実際の経験がなくとも、コピーしたスキルが教えてくれる。この毒は。

 

「アヌビーボム。遅効性の毒で、時間が経つと一気に発症。激しい苦しみに襲われ死に至る」

「そう。あれの効果は遅効性。半日前のアリバイが大事」

 

 スバルという目つきの悪い商人はホッとしたように言った。

 

「ならオレはちゃうわな。その頃はまだこっちに向かってる最中やった。この町には来れてへん」

 

 気まずそうなのは彼を犯人扱いした案内に付いて来てくれたこの町の人々だ。

 

「じゃあ……一体誰がドルフを?」

「お姉様は神官の中でも【霊視】を取っているタイプ。よって本人から情報を引き出す事ができる」

「おお! お願いしますシスター! 彼の無念を救ってあげてください!」

 

 そう言われれば吝かではない。探偵をサポートする助手のように、馬車馬のように働こう。

 とはいえもう読心術で霊から情報抜き取ってるんだろうけど。アリバイが大事なのはこっちもである。

 

「とりあえず、半日前に会った人を聞いてほしい」

「分かりました」

 

 霊視を発動。死体から浮き出るもう一人の本人。

 まるで双子芸人が幽体離脱の一発ネタでもやっているかのような、いや不謹慎だった。でも本当にそんな感じだったから許して欲しい。

 

「苦しい……苦しい」

「すみません、貴方はドルフさんで間違いないですね」

「ああ……美しいお嬢さん。君を見ていると苦しみが少し慰められるような気がする」

 

 それは神官としての技能か? それともただのナンパか? 判断に困るが話を進める事にした。

 

「半日前、ドルフさんは誰かと会っていましたか?」

「昨日という事か……記憶が確かなら三人。武器を打ってやった冒険者。急ぎの仕事だと言われた……

 この宿場町の料理人、ジェフ。新しい包丁が欲しいと相談を受けた。

 俺の鍛冶場仲間、ワーフ。いつものように一緒に酒を飲んでいた……」

 

 酒……毒を入れていたなら、そこだろうか。ワーフが怪しいか?

 

『やめろやめろ。お前にゃ探偵は向いてねえよ』

『慎重さ、足りないかも……』

『今回女の子が全然いないからどうでもいいわ』

 

 人格たちが好き放題言うので、余計な事は言わずありのままを周囲に伝えた。

 

「冒険者はこのまま逃げる可能性があるな……多分あのシルトとかいう男のことだろう? 捕まえておけるか? 急げ!」

「ジェフとワーフも連れてくる! もしもの時証拠を隠滅されても困る!」

 

 慌ただしくなった周囲をよそに、マイペースな男が一人。

 

「あー、オレもう商売始めてええ? 時は金なり言うやろ?」

 

 犯人候補から外れたスバルである。

 

「好きにしろ! 疑って悪かったな!」

「おおきに。助かったで小さな探偵さん。大きな助手さんもな」

 

 そう俺達に感謝すると、ふらふらとどこかに立ち去って行った。

 

「お姉様、今のうちになにか動機があるかを聞いてほしい」

「分かりました。ええと、ドルフさん。貴方は殺されたのですが……なにか殺される原因みたいなの、今お話しされた三人にありました?」

 

 慎重に語り掛けると、霊は唸った。

 

「冒険者には、無い。急ぎの仕事だというのにこちらが殺意が湧いたが、依頼は達成。引き渡しも問題無しだ。

 料理人のジェフには最近品物の値段が上がってるのではないかと文句を言われたくらいだ。

 鍛冶仲間のワーフも分からん。分からんが……付き合いが長いゆえの不満なんかもあったのかもしれないな」

 

 そう言って悲しそうな顔をするドルフ。そりゃ自分が殺されるほど憎まれてるだなんて思いたくないよ。

 と、そこに三人の男が町の人に連れられて入ってきた。一人は新品の剣を佩いている。冒険者も旅立つ前に捕まえられたらしい。

 ……人数が多くなって手狭!

 とりあえず、ティアラに形式上聞いた話を伝えると、次の指示が出る。

 

「なにか飲食物を渡されたか聞いてほしい。毒はそこに含まれていた可能性がある」

 

 聞いてみると、なんと全員が彼に飲み物、もしくは食べ物を提供していた。

 シルトという冒険者は東の方で手に入れたという緑茶……緑茶!? 東の方ってことはあるんだろうなあ、日本風の国。

 ジェフはお酒を壺でまるごと。ワーフは一緒に酒を飲んでいるときのつまみとして串焼きを二人で食べていたらしい。

 

 そして、最後に時間の流れを確認。

 まずはシルトが武器の受け取り。その時急がせたお詫びとして珍しいお茶を用意した。

 そのあと、ジェフが新しい包丁の相談に来て、壺でお酒をまるごと置いてった。

 最後にワーフがその貰った酒を飲みながら串焼きを食べていた。この時、品物は均一。全部同じ串焼きだったそうだ。

 ここまで聞いて、ティアラは言う。

 

「犯人が一人に絞れた」

 

 一斉に、彼女に注目が集まる。

 

「まずジェフは違う。置いていった酒をワーフも飲んでいる。よってこの酒に毒は入っていない。

 続いて、ワーフ。串焼きは全て同じもの。好物一つに毒を仕込む、などといった選択は取れないことから自分が毒を引き当てる可能性もあり、リスキー。

 となると、あとは冒険者シルト。貴方が犯人」

 

 沈黙する一同。事件は解決か……と思われたが。

 

「ふふふ、探偵になれますよ受付嬢さん。だが、所詮は消去法。私だというには弱い」

「そもそもよぉ、こいつが鍛冶屋のおっさん殺した動機ってなに?」

 

 そんな疑問を呈したのはアルフだった。

 

「そうでしょうお仲間さん! 私には彼を殺す動機はない! ただ依頼をして、受け取って、お金もきちんと払った! 最後に急がせたお詫びとしてお礼にお茶をして終わり! なにも不思議はない! 殺す動機があるというなら教えてもらいたいものですねえ!」

「――本当に?」

「は?」

「言っていいの。この場で」

 

 そう圧をかけると、観念したように項垂れて、しかし。

 

「……この場にいる全員を殺せば、証拠隠滅だ!」

 

 そう言ってティアラに新品の剣を向ける。

 一気に貫かんと突き刺す構えのそれを、しかし。

 

「誰を殺すってえ!?」

 

 第二人格が炎を纏った剛力で武器を叩き折った。

 武器を無くした冒険者は、今度こそ観念したようで町の人々に連れてかれていった。

 

 

 

 

 ティアラは事件の解決後、感謝されるのもそこそこに人通りのない裏道を通っていた。

 来れば分かる。そう言って詳しい理由は話してくれない。

 そして現れたのは。

 

「ども、お嬢ちゃん」

 

 犯人だと疑われていたスバルという目つきの悪い商人だった。

 眼鏡の位置を一度直すと、手を大きく広げた。

 

「いやあ、助かったで。商人は信用が命。こんなところで捕まってたら、なあ?」

「犯人に仕立て上げられなくてよかったですね」

 

 私がそう言うと、スバルはくっくっと笑い出す。

 

「なんや、まだ言っとらんかったんか。あのシルトって男に毒渡したんはオレや」

 

 ……? この人が宿場町に来たのは今朝だと言っていたはず。

 

「もっと北の方の町の拠点であの男にアヌビーボムを渡した。で、殺しにいってもろてん。で、ちゃぁんとお仕事出来たかなーって見に行ったらまだやっとらんかった。仕事が遅いやっちゃなあ。ちゃっかりへそくりで装備まで作ってもろとる。お仕事舐めてるなあ。そのせいでオレが犯人扱いされそうになった。まあ真犯人なんやけど」

「裏の仕事関係か?」

 

 ゴルドがそう聞くと、首を横に振る。

 

「ま、中間くらいってとこか。金貸しでな。利子の返済がちょーっと足りん。そんでなめられるくらいなら殺しとこってな」

 

 しかし、それならなぜティアラはこの男を告発しなかったのか。

 

「探偵のお嬢ちゃんはかしこいなあ。オレを捕まえたらどうなるか、ちゃーんと分かっとる」

「どうなるんだ?」

 

 アルフの問いにメガネを光らせ、真面目な顔をして男は言う。

 

「こっちより先で小麦一粒買えると思うなや」

「商人は表の顔。本性は裏の重鎮」

「そういうこと。分身のやったことは他の奴にも通じるからなあ。おかげで【情報処理】スキルも身に付いてしもたわ。ああ、ダイヤモンドの嬢ちゃんも情報処理スキル持ちやんな。見事な推理やった」

「実家がバックについてればこんな男に屈しない。しかし冒険中の今は……」

「ま、無理やろな。

 ――なんにしろ助けてくれた恩義は大事にする。それが裏の流儀や困った事があったら各地の俺に話しかけてみ。助けたる。そんじゃな」

 

 背を向け、手を振る男を私達はただ黙って見ていた。

 これでよかったのだろうか……?

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