スタレの推しは丹恒、マダムヘルタ、トリスビアス、サフェル、ファイノン、キュレネです。
連合軍によるオクヘイマへの進行。
この知らせを受けて、ケリュドラ率いる軍は今までにない速度でオクヘイマに向かっていた。
道中の関所も都市国家も無視した強行軍を続けていた。
彼らの表情は鬼気迫る様相を呈しており、士気は十分と言えるだろう。
だが、どうしても胸に渦巻く懸念が晴れずに思わず呟く。
「間に合うのか、コレ」
連合軍がオクヘイマへ進軍を開始してから既にかなりの時間が経っている。
こちらも早急に動き始めこそしたが、後手に回ってるのは事実。
連合軍もかなりの速度で移動しているらしく、追いつける可能性は低いだろう。
後はオクヘイマの国境を守護する衛兵たちの奮闘次第といったところか。
「トリビー、オクヘイマの様子はどうだ?」
「今の所は大丈夫みたいだけど...。
市民の皆も混乱しちゃってるみたいで、あんまりいい状況じゃないみたいなの」
「まぁそりゃそうだよな。
...ライアのやつ、無事だと良いんだけどな」
「...うん、そうだね」
以前オクヘイマに滞留したときに親交を深めたある少女のことを思い出す。
ブロンドの髪を持ち《浪漫》のタイタン、モネータを信仰する家系の少女。
あの少女とはそれほど長い付き合いになる。
トリビーを師と仰ぎ、やけに俺に対して当たりが強い少女の無事を願うが、それも俺たち次第だと再び進軍に集中する。
そうやって暫く進んで、日が傾き始めたころ突如トリビーの様子が急変する。
「ッ!!
ポネウス!カイザーの所に行くからついてきて!」
「ん!?
急にどうした!」
こちらの疑問に答えずにケリュドラがいる場所に向かって突き進むトリビー。
その後を追い、人混みをかき分けて何とかケリュドラの所へ到着する。
「カイザー!
オクヘイマの国境を守護してる衛兵たちが皆降参しちゃったみたい!」
「はぁ!?」
それはマズイどころではない情報だ。
元々連合軍に追いつけるかどうかは国境の衛兵たちの奮闘を勘定に入れたものだ。
彼らが降伏して連合軍を通してしまったというならば俺たちが奴らに追いつく事は出来なくなる。
その報告を聞いたケリュドラは腕を組んだまま目を瞑る。
その状態を暫く続けたあとケリュドラはトリビーに向き直り問いかける。
「........運命卿、覚悟は出来ているな」
「...うん出来てるよ」
「そうか...。
断鋒卿と冬霖卿を始めとした精鋭を召集せよ!
牽石卿は僕たちが出発した後の軍の指揮を任せる!
僕たちはこれより《門と道》の権能を使い聖都オクヘイマへ向かい、逆賊どもを討滅する!
選りすぐりの精鋭は僕と共に来い!
残るものはこのまま進軍を続けて背後から奴らの喉笛を噛み切ってやれ!」
ケリュドラの号令に即座に反応し、兵士たちは準備を始める。
兵が、武器が、人の声が飛び交う中俺はトリビーを見つめる。
「ごめんなさい、ポネウス。
あんなに心配ちてくれてたのに...」
「こんな状況なんだから、トリビーが謝る事じゃねぇだろ。
それで、今回は誰が開くんだ?」
「今回はあたちたちとトリアン、トリガン、トリウー、トリシー、トリゴンで開くつもり。
一人で開くわけじゃないから負担もそんなに大きくないと思うの。
だから心配ちないで!」
トリビーは心配事など無いかのように明るく振る舞う。
だが、どれだけの年月を連れ立って来たのか忘れたのだろうか、無理矢理作った強がりなんて簡単に見破れる。
その強がりを見てられずしゃがみ込んでトリビーの目を真っ直ぐに見つめる。
「いいか?今から言う事はトリビーだけに向けたものじゃないからな。
別に『無理をするな』とか『下手な強がりをするな』なんて言う気はない、この旅にはそういうモノも必要なのは分かってる。
だから飲み込んだ弱音も文句も、全部俺に吐き出しちまえばいい。
それぐらいは一緒に背負わせてくれ」
「...でも迷惑になっちゃうんじゃ」
「あのなぁ、そんぐらいで迷惑になるってんなら俺はとっくに火追いの旅から居なくなってるての。
それに---」
トリビーたちは俺に対して罪悪感に近いものを抱えている。
それは普段の言動から何となくそんな気はしていた。
もしも彼女が俺を火を追う旅への同行を願った事を気にしているというのならそれは必要のない罪悪感というものだ。
「俺は確かに同行を願われたけどな、それに着いていくって決めたのは他の誰でもない俺自身だ。
俺は俺自身の意思で今までも、これからも火を追う旅を続けていくんだ。
だから迷惑、なんて思ってくれるなよ」
ずっと伝えるべきだったが、目まぐるしい日々の中で伝えられなかった事を目の前の彼女に伝える。
遅すぎる、となじられても文句は言えないが伝えられたので良しとしよう。
トリビーは逡巡するような様子を見せたが、それから間もなく口を開く。
「...門を開くのは本当に怖くないの。
ただ...今まであたちたち次第で多くの命を救うなんて事が無かったから、ちょっぴり不安で...」
トリビーが抱えていた感情は不安。
多くの人の命が自分たちの手にかかっている、その事実は酷く重くトリビーたちにのしかかる。
今までに感じたことのない重圧に手足は震え、身体は冷えて固まっていく。
徐々にその不安は大きく、重くなり目の前が暗くなる。
目の前が黒色に染まりきるその直前、旅を始めてから聞きなれた声が聞こえてくる。
「人の命が懸かってる、か。
じゃあその命を救った後の事を考えないか?」
「救った...後?」
「あぁ、俺たちが行くんだから連合軍なんて敵じゃないわけだし。
ならその後はオクヘイマの人達に感謝とかされるんじゃないか?
俺たちって今まで邪険にされたことは多いけど感謝されたこととか殆どないし、結構新鮮だと思うんだよ。
それに聖都の窮地に駆けつける軍勢、前に教えてくれたおとぎ話に似てないか?
もしかしたら、英雄なんて呼ばれるようになるかもしれないな」
まくし立てるように連合軍を退けた後を想像して話し出す。
その話す内容がどこか冗談じみた内容であったからかトリビーの顔も徐々に明るく笑顔が浮かんでくる。
「む、そんなに変だったか」
「だって英雄って呼ばれるかも、なんて言ったこと今まで無かったでしょ?
ポネウスにしては珍ちいなって」
「珍しいって一応俺もクレムノス人だぞ。
戦場での栄光だとかそんなものに惹かれるときもあるさ」
おどける様に、励ます様に、寄り添う様に語り合う。
気づけば、トリビーの顔には先ほどまでの強がりで作った笑顔は無く、自然と浮かんだ笑顔が咲いていた。
「でも英雄...かぁ。
ちょっと実感が湧かないかも」
「なに、連合軍を倒したらすぐに実感も湧くだろうさ
だからさーーー
俺と一緒に英雄ってやつになってやろう!」
そう言ってトリビーに向かって手を伸ばす。
明るく陽気に前向きに、二人は手を取り合って進み始める。
その旅路の果てに、輝くような未来を求めて。
* * *
オクヘイマに向かう軍の準備は終わり、後は戦場に向かうだけだ。
ケリュドラは整列する精鋭を一瞥すると、トリビーたち姉妹に視線で合図を送る。
合図を受け取り、トリビーを始めとする姉妹たちは一斉に手を虚空へとむけて、門を開く為の言葉を発する。
「開け、『百界門』!」
その言葉と共に虚空に突如として《門と道》の権能である門が生成される。
ケリュドラの指示と共に、精鋭たちは迷うことなくその門の中へ足を進めていく。
俺もまた、彼らに続いて門の先へと進んで行く。
そして、門を通る直前にトリビーたちに顔を向け、ありふれた言葉を彼女たちに伝える。
「行ってくる!」
「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」
返される返事に背中を押されて俺は門を通り抜けた。
門を通り抜け、辺りを見回す。
そこで視界に入ってきたのは平原を埋め尽くすほどの大軍だった。
ケリュドラは一度息を吐き、吸う。
そして吸い込んだ息を平原に居る全ての者に届かせように声を張り上げる。
「我が精鋭たちよ!
今こそ聖都を踏み荒らさんとする逆賊を殲滅するときだ!
奴らが撒いた戦火を、奴らの屍で消し去れ!
栄光と平和を勝ち取れば、その偉業は未来永劫、歴史に刻まれることになる!」
ケリュドラの声が平原に響き渡り、連合軍すらも彼女の声に耳を取られる。
ケリュドラが率いる軍団の士気は、限りを知らないとばかりに上がり続ける。
その様子を一瞥したケリュドラは端的に開戦の言葉を口に出す。
「進め!!」
その言葉を聞いた瞬間に軍団は連合軍に向かって走り出す。
一足先に飛び出した俺は走り出した勢いをそのままに地面を思い切り踏み込み跳躍する。
着地地点は連合軍の兵士たちのど真ん中。
着地すると同時に手に持った両剣で周囲の兵士を薙ぎ払う。
両剣の薙ぎ払いに巻き込まれなかった兵士たちは俺を取り囲むように陣形を組む。
警戒するように武器を構えてこちらを見ている兵士たち。
彼らに向かって殺気を飛ばして怯んだ者から切り殺していく。
そうして大地に赤と黄金の血を染み込ませていると背後から馴染みの気配が近づいてくる。
その気配の方に振り返ると俺と同じように返り血に塗れたセイレンスが立っていた。
「よく俺の場所が分かったな。
何か用か?」
「それにキミの殺気は独特だからな、場所ぐらいすぐにわかる。
それとワタシがここに居る理由はカイザーからの命令だ、どうやらコリンスの王は戦場から撤退し始めたそうでな。
だからワタシとキミはそれぞれ北に陣取るルキアと南西に陣取るイカリアの王を捉えるようとの命令だ」
「成程ね、なら俺はイカリアの方に行ってくる。
ルキアの方は任せるわ」
「あぁ、それでは任せた....言い切る前に行ってしまったな。
...まぁ戦場ではいつもの事か」
セイレンスが最後に何か言っていたような気もするが、気にせず走り続ける。
その道中で、赤色と金色が飛び散るが、それも気にしない。
気にするだけの冷静さは殺した兵士の数が万を超えている時点でとうの昔に無くなっている。
いつものように切って殴って蹴って殺し続ける作業のような流れ。
そんなこんなで走り続けていると、何やら派手な場所が見えてきた。
そこにイカリアの王が居ると踏んで、その場所に突っ込んでいくと、何やら多くの兵士が逃げていくのを見つける。
その兵士たちの中心には一際豪奢な服を着た人物が紛れ込んでいた。
「見つけた」
目的の人物を見つけて近づくと、その人物を取り囲んでいた兵士たちがこちらに向かってくる。
しかしそのどれもがケリュドラの軍団に属する精鋭たちには遠く及ばないのだ、そんな者たちの特効は意味をなさないとばかりに両剣を振り、兵士たちを纏めて撫で斬る。
他に邪魔をするものが居なくなり、今度こそ腰を抜かして怯えた表情でその場にへたり込む人物の首に刃を突き立てる。
「お前がイカリアの王だな。
うちのカイザーがお呼びだ、否が応でも着いてきてもらうぞ」
「悪魔....悪魔め....っ!!!」
「オクヘイマを踏み荒らそうとした奴に言われたくねぇな、ソレ。
ま、少し寝てろや」
イカリアの王の腹を殴り気絶させる。
気絶させた王を肩に担いで、ケリュドラの所に連れて行こうと振り返ると、そこには平原を埋め尽くしていた兵士たちの、余りにも多くの亡骸が転がっておりその中に最早命は感じられない。
遠くには冠をかぶった少女が戦いぬいた精鋭とオクヘイマの住人に向かって何か語り掛けている。
「もう終わったのか、意外と早かったな。」
さて、カイザーにどやされる前にとっとと戻るとするかね」
充満する血と肉と死の匂いにどこか落ち着きを感じながら、血に染まった大地の上を駆け抜ける。
こうしてオクヘイマを嵐のように襲った連合軍は、より強い嵐に飲まれ消える結末を迎えた。
後に『第一次オクヘイマ包囲戦』、そう呼ばれる戦いとも呼べない蹂躙劇は多くの人の記憶に深く刻まれることになった。