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平原での連合軍との合戦が終わってから俺たちはケリュドラの意向でオクヘイマに居座る事になった。
最初はオクヘイマの住人たちから反発を食らうと思っていたのだが、意外にもケリュドラの軍を好意的に受け入れるものは多かった。
「やっぱり自分たちを助けた相手ってのがでかいのかね?」
独り言を呟きながら一人オクヘイマの市場を歩き回る。
以前来た時と同じように活気に溢れ、人々の笑顔が何処に目を向けても映りこんでくる。
....俺が来るまでは、だが。
何故か俺が通った場所の人々は、先ほどまでの活気が失せて恐ろしいものを見たかのように距離をとり始める。
「前来たときはこんな事無かったんだけどな...」
別に見知らぬ相手にどんな反応をされようと大して興味はない。
だが興味はなくとも、ここまで露骨に距離を置かれると流石に心に来るものがある。
怖がられる理由も見当がつかず、思わずため息を吐いているとーーー。
「いつもの能天気さに似合わないため息ですね、師範」
「その生意気な物言いは...久しぶりだな、ライア」
突如背後から罵倒と共に声をかけられる。
振り返ってみればそこには自分よりも鮮やかな金髪に金と青緑色が同居する瞳、そして自分の腰にも届かない背丈をした幼い少女、アグライアがそこに立っていた
「えぇ久しぶりですね。
...ところで何やら余計な一言があった気がするのですが?」
「気のせいだろ。
俺は生意気な弟子に生意気って言っただけだしな」
「それです!私のどこが生意気なのですか!
少なくとも師範よりも教養があるだけでしょう!」
「そういう所だよ」
そう言って無意識なのか意識的なのか知らないが、サラッとこちらを罵倒するアグライア。
そういう所が生意気だと指摘しても俺に食って掛かる勢いは衰えない。
このままでは話が進まないので一旦ライアを宥めて話の続きを促す。
「話を戻すけどさ、何でここに居るんだ?」
「市場で戦場の悪魔が出た、なんて噂が立っていましたよ。
それに、その噂を調べてみれば件の悪魔の特徴が驚く事に私の師範と同じだったので見に来たのです」
「悪魔ぁ?
いやいや何でそんな風に呼ばれなきゃいけないんだよ」
「先日の、連合軍との合戦が原因らしいですよ。
なんでも戦場で笑いながら敵軍の兵士を殺して回ったとか」
「........」
思い当る節がないと思ったが、全然あった。
自分ではそこまで自覚は無いのだが、戦場で気分が高揚していると笑い声が出てしまっているらしい。
依然このことを教えてくれたトリビーの苦い表情は記憶に鮮明に残っている。
「ま、まぁそんなことは隅にでも放り投げておくとしてだな、わざわざ俺に会いに来たってことは何か用でもあったのか?」
「露骨に話を逸らしましたね...。
まぁ師範が居るということは師匠も居ると思ったのですが、予想が外れましたね」
「あぁ、トリビーたちが目当てだったか。
なら生憎だけどカイザーと一緒に元老院と話してるよ」
「元老院と、ですか」
元老院の名前を聞くとライアは眉をひそめる。
話に聞く限りでは今回のオクヘイマが窮地に立たされている間、元老院は対策を話し合っていたそうだが、何日も話続けても有効な策が出るわけでもなくただ市民の不安を煽っていただけだという。
それもあって今現在、オクヘイマの市民は元老院の印象は最悪だろう。
それは貴族出身のライアでも変わらないようで、元老院の悪い印象は今回の件に限ったことではなさそうだ。
「ま、気にしても仕方ないさ。
所で最近は見れてなかったけど、ちゃんと剣の鍛錬はしてるか?」
「勿論です。
気になるならこれから見せて差し上げましょうか?」
そう言って跳ねるように走っていくライアを速足で追いかける。
彼女の剣の上達速度は目を見張るものがあり前回見た時からどの程度成長したのか、見るのが楽しみだ。
「そういえば、師範が師匠から離れるなんて珍しいですね」
「カイザーにお前は絶対に同席するな、って言われてんだよ。
いつにも増して迫力が凄かったし、トリビーたちにも言われちまってな。
なんでも余計なことを口走りそうだとか」
「......なるほど。
そのカイザーという方は賢明ですね」
「んだと」
* * *
「フッ!」
「踏み込みがまだ甘いぞ!
もっと勢いをつけろ!」
ある建物の中庭で乾いた音が鳴る。
アグライアは片手で持っている木刀を構えて目の前の人物に切り掛かる。
その剣には勢いも重さもあるがやはりまだまだ子供の振るう剣、やはりまだまだ足りないものが多くある。
それをポネウスはその場から動かずに木刀で弾いていく。
(前よりも剣の振るい方が様になってきたな。
けど...)
振るわれる木刀を弾きながらポネウスはその太刀筋を観察する。
今はまだ力も技術も足りていないがそれも子供のうち、このまま成長していけば有望な剣士になり得るだろうと考えながら、他にも気掛かりな事があった。
(いい加減ちゃんとした師を見つけないとな)
アグライアにポネウスが剣を教えたのはアグライア本人の希望からだった。
教えられた事をすぐに吸収し、自分の糧にする。
そうしてアグライアは力を付けたきたが、だからこそポネウスには懸念があった。
それは自分とアグライアの剣の相性の悪さだ。
ポネウスの剣技は持ち前の身体能力を持って長尺の両剣を振り回して戦う所謂パワータイプといった具合だ。
それに対してアグライアの剣技は繊細で技術を重視している面がある。
攻撃に異常特化したパワータイプとまだまだ発展途上の技術重視。
もしこのまま自分が彼女に剣を教えていけば、アグライアの剣技は中途半端になってしまうという確信があった。
だからこそ、アグライアの剣に合った師を見つけようと思っているのだが、中々好条件な相手が見当たらない。
確かな実力があり、アグライアの剣に近いものを持った上で信用できる、そんな人物は居ないものかと頭を悩ませるているとーーー。
「あ、居たわ」
思い当たる人物を一人一人上げていると、一人の人物がポネウスの頭に浮かんでくる。
彼女ならば条件を全て満たしている、ならば頼みに行こうと決めていると先ほどまでポネウスに向かって木刀を振っていたアグライアは木刀を降ろして怪訝そうに目の前のポネウスを見ていた。
「師範、居たとは誰かを探していたのですか?」
「あぁ、結構前から探してた相手がついさっき思い当たってな。
ライアにも今度会ってもらうから楽しみにしててくれ」
「私も?
...どんな方を探していたのですか?」
「聞いて驚け、お前の新しい師範だ!」
「....は?」
瞬間、中庭の空気は一人の少女の声によって凍てついた。
アグライアの視線は鋭くポネウスを貫き、ポネウスは突如変わった空気に動揺を隠せない。
そうして生まれた膠着状態は暫くの間続きーーー。
「.....そうですか」
そう一言だけ残して中庭からアグライアが去ることで膠着状態は終わりを告げた。
後に残るは疑問符をまき散らすポネウス一人。
こうして不穏な空気を残したまま久方ぶりの剣の稽古は終わったのだった。
* * *
「っていうわけでお前に協力してほしいんだよ」
「なるほど、突然現れて何事かと思ったがそういう理由だったか」
ライアとの稽古が突然終わってから俺は先ほど思い当たった人物、セイレンスに会いに来ていた。
彼女はどうやらカイザーの護衛からは外れているようで、とある飲食店に立ち寄っており運よく見つけられたのだ。
「だが、その少女は納得しているのか?」
「いや、それは聞いてないけど...強くなるってんなら否は無いんじゃないか?」
それを聞くとセイレンスは少し考える様子を見せてから口を開いた。
「その少女に剣を教える、これは構わないが二つ条件がある」
「条件?」
「そんなに難しいことではない。
一つはその少女に本当に剣を教えるのが私でいいのかを聞くことだ」
セイレンスが出した条件は、確かに難しいことではなかった。
先ほどの様子のライアに尋ねるのは若干憚られるがそこは頑張るとしよう。
「一つ目は分かった。
じゃあ二つ目はなんだ?」
「二つ目もそう難しくはない。
ただ、今度の宴会でメーレを飲み明かそうという誘いだ。
キミは初めて飲んだ時以来メーレの量を抑えていただろう?」
思わず顔が引きつる。
セイレンスは尋常ではない程の酒豪、彼女を酔わせるのなら樽をいくつも持ってこなければならないだろう。
まぁ、セイレンスはメーレを作った《海洋》のタイタン、ファジェイナの眷属だという、ならばあの酒の強さにも納得は出来るのだが、それを知らなかったときは本当に酷い目にあった。
セイレンスの飲むペースに合わせて飲んでいれば記憶はなくなり暫くの間二日酔いに悩まされる。
あの時の苦しさは身に染みているからこそ今までセイレンスと飲む時はメーレの量を減らしていたのだ。
そう、決して飲んでも飲んでも顔色を変えずにこちらに飲むように促してくる剣旗に怯えているわけではない、クレムノスの辞書に『怯え』の文字はないのだ。
そんな体験がセイレンスが出した条件に頷くことを躊躇させる、させるがライアの今後の成長を考え重々しく頷く。
「....分かった、その条件も呑む。
ただ加減はしてくれよ?」
「それはその時のワタシ次第だな」
二日酔いになることが実質確定し、思わず肩を落とす。
とにかくこの選択が最善だったと信じるばかりだった。
そうしてセイレンスと別れ、彼女から出された条件を達成するためにもう一度ライアの住む屋敷に訪れた。
屋敷の扉を叩くと、扉の向こうで誰かが走ってくる音が聞こえる。
聞こえてくる足音からして恐らく背丈の小さい子供、まさかいきなりライアが来るのかと身構えると扉が開く。
そこにはーーー。
「あれ、ポネウス?
ライアちゃんに何か用だったの?」
「...トリビー?」
トリビーが驚いた様子でこちらを見ていた。
まさかトリビーが居るとは思わず一瞬面を食らったが気を持ち直し、トリビーに先ほどの事を全て説明する。
その話を聞き終わったトリビーは呆れたような目でこちらを見ていた。
「ライアちゃんの様子がおかしかったのはポネウスのせいだったのね」
「いやまぁ確かに急な話だけどさ、ライアにとって悪くない話だし一回話し合えば分かってくれるんじゃ「そういうことじゃない!」...ないかぁ」
「あのねポネウス、ライアちゃんはずっとあなたに剣を教わってたんだよ?
なのに急に新しい師範が見つかったなんて言ったら不安になっちゃうでしょ。
自分が何かやっちゃったのか、嫌われちゃったかもって。
それに、ライアちゃんは強くなろうとちてポネウスに教わってるけど、ポネウスを師範に選んだ理由はただ強いからだけじゃないと思うよ」
...トリビーの言う通りだった。
俺はライアの強くなりたいって部分だけに目を向けてそれ以外を気にしていないどころか気づきもしていなかった。
師範という立場でありながら弟子の事も碌に見れてなかった自分に怒りと呆れを感じる。
だが、自責の念を感じる前にやるべき事がある。
「ありがとうトリビー、今更だけど大事なことに気づけた。
所で、ライアが今何処に居るか知ってるか?」
「ライアちゃんなら自分の部屋に居たよ。
ちゃんとお話しちてきてね」
「あぁ、行ってくる」
屋敷の中を速足で進み、ライアの部屋の前に到着する。
覚悟を決めて扉を軽く叩いて声をかける。
「ライア居るか?
さっきの事で話がしたいんだがーーー」
「『元』師範が何か御用でも?
生憎ですが手が離せないのでまた今度来て頂けますか」
ーーー取り付く島もない。
想像以上に分厚い壁を置かれ思わず少し動揺する。
だが、ここで彼女の言う通りに帰ってはいけないと話しかけ続ける。
「手が離せないならそのままでいいから聞いてくれ。
さっきは俺が悪かった。
お前の気持ちも考えも、全部無視して勝手に話を進めちまって。
本当にすまなかった」
「ーーー」
「正直師範として失格だと思うし、罵倒も受け入れる。
でも出来れば話をしてくれないか、今度は間違えない為に」
「ーーー」
伝えるべき事は伝えた。
そうして暫くライアからの返答を待つが帰ってくるのは無言のみ。
一度出直すか、と考え始めたタイミングでキィと音を立てながら部屋の扉が開き、その先には不安そうにこちらの反応を伺っているライアの姿が見えた。
彼女は何か言いたげに口を動かすが肝心の言葉が出てこないようだった。
その様子を見てライアの近くによりしゃがみ込んで視線を合わせる。
「ライア、さっきも言ったけどすまなかった。
どれだけ時間がかかっても俺は待ってるから、言いたいことをいってくれ」
「ーーーー師範は、師範はどうして私の新しい剣の師を探していたのですか?
私に教えるのが嫌になってしまったからでしょうか...」
ライアはか細い声で話し出す。
その声は震えており不安を隠すことなく問いかけてくる。
「嫌になったとかそんなことはねぇよ。
ただその方がお前の為になるって思ってたんだ」
「何故、新しい師範を探すことが私の為になるんですか...」
「ライアの剣と俺の剣の相性が悪いからだ。
お前はまだまだ成長途中だ、これから先も俺が教えるならライアはどんどん俺の剣を取り込んでいくと思う。
でもライアの剣技の良さは俺のそれと相性がかなり悪い、下手したらお前の良さを食いつぶすことになっちまう。
強くなることが目的なら俺はこれ以上教えない方がいいって思ってな、だから俺の代わりに剣を教えてやれる奴を探してたんだよ」
「理由は...分かりました。
では私の事を嫌いになったり、教えるのが面倒になったといった理由ではないのですね?」
「当たり前だろ。
ていうか俺、結構お前に剣を教えるの楽しみにしてたんだぜ?」
俺の返事を聞いてライアは安心したのか大きく息を吐き強張っていた全身の緊張が解ける。
それほど俺に嫌われていたかもしれない事に不安に感じていたのかと気づくと同時に再び申し訳なさが押し寄せてくる。
自分の不甲斐なさに情けなく思っている間にライアは何かを決めたのか、先ほどまでの不安そうな様子から一変して確固たる意志を持ってこちらを見ていた。
「師範、もう既に新しい師範の方とは話を終わらせているのですか?」
「ん?あぁ、もう話は終わらせてるし同意も貰ってきてる。
でもお前が嫌なら嫌って言ってくれ、相手には俺から謝っておく」
「一度も会わずに断るなんて失礼でしょう。
その方に剣を教わるかは別として一度会ってみて話をしようと思います。
....それと師範、最後に聞きたい事があるのですが...」
「ん、何だ?」
ライアは先程までの様子から一変して言い淀む。
だがそれは不安から来るものでは無いような気がする、どちらかと言うと気恥ずかしさ由来の者に見えるが...。
「もし、もしも私が師範でない方に剣を教わることになったとしても....。
師範は、私の師範でいてくれますか?」
...不意を突かれるとはこのことだろう。
罵倒を受け入れる覚悟はできていたが、ライアから向けられたのはそれとは真逆のものだった。
侮蔑ではなく敬意、嫌悪ではなく親愛、そんな予想していなかった感情を言葉と共に向けられて俺の頭に空白が生まれる。
そうして思考が停止している間も、ライアは俺の顔を見ながら返事を待っているようだが待てども待てども返事は帰ってこない。
そうしているうちに先ほどの自分の発言を振り返ったのか、徐々に顔を紅潮させていき合わせていた顔を背けてしまう。
「い、いえ何でもありません。
忘れてください、師範はそういったことは得意でしょう。
私は師匠の所に行ってきます」
そう言って顔を背けたまま速足でこの場から去ろうとする、そんな彼女の反応が微笑ましくてつい口角があがるのを感じる。
そのまま速足で去っていくライアの横に並び立って彼女に質問の返答を返す。
「お前が望むんなら俺もライアの師で居続けるさ。
それに、生意気な弟子を放って置くのも気が引けるしな」
「弟子の気持ちも測れなかった師範に言われたくありません!
...でも、ありがとうございます」
二人は共に歩きながら互いに軽口を叩きあう。
ポネウスは弟子の弟子の気持ちを見過ごすことがないように。
アグライアは自分の師範の期待に応えるために。
それぞれの目標を抱えながら、二人は進んでいく。
「ーーーー」
「ん?
ライア、今何か言ったか?」
「私は何も言っていませんよ?
風の音か何かではないですか」
「...まぁ俺の気のせいか」