今まで以上に気合を入れて書くので、引き続き当小説を応援していただけると幸いです。
ということで愉悦運命実装確定記念の13話目です。
オクヘイマに暫くの間停留していた俺たちは再び遠征に出立していた。
以前のオクヘイマ包囲戦から偽りの神託を宣い戦争を行う都市国家の数は減っていたがそれでも依然として戦争を続ける都市国家は存在する。
その都市国家を陥落させ、服従させるための遠征は大した障害も試練も無くケリュドラの軍に勝利の栄光を与えるだけのものになっていた。
そんな遠征の最中、ある平原でケリュドラは勝利を祝う宴を開いていた。
宴に参加する誰もがメーレを飲みかわし、笑い声を響かせあう。
俺はそうにもいかなかったが。
「ちょっと...待って...セイレンス...休憩を....いい加減...限界....」
「そんな事はないだろう、以前はまだまだ飲めていただろう?
それにワタシはキミの願いを聞いたのだから、キミにも約束は守ってもらわなければ」
「そりゃそうだけど...もう結構飲んだぞ...。
ていうか何でお前は素面のままなんだよ?
もう結構な数の樽空にしてるんだから少しぐらい酔えよ...」
以前セイレンスと交わした約束を守るため、今俺はある種の地獄を見ていた。
どれだけ飲んでも差し出されるメーレ。
どれだけ飲んでも顔色を変えないセイレンス。
どれだけ飲んでも心配するどころかはやし立てるだけの周りの連中。
掠れた声で静止を促しても一切セイレンスは容赦はしてくれない。
だが、今日のセイレンスは何やら考えるようなそぶりを見せる。
「だが、本気で飲みたくないのならこれ以上は付き合う必要はない。
苦しみながら飲んでも楽しくはないからな」
「マジか!!
いや本当に助かる、これ以上は流石に無理で「だが、そうだな」ん?」
「金色のカジキがこうも簡単に負けを認めるとは意外だった。
いつもならばまだまだ奮闘していたが、今日は不調だったか?
なら仕方ないな、なに誰もキミがどれだけ酒に弱くとも馬鹿にすることなどない」
「.....」
安っぽい挑発だ。
普段から彼女はこういった煽りをしていないのだから当たり前だが、こんな挑発に引っかかるものなどそうそう居ないだろう。
だが、いくら安い挑発であろうとも俺に向けられたものならば乗ってやるべきだろう。
そう酒が回って碌に働いていない頭で考え、ジョッキにメーレを並々注ぐ。
「おや、大丈夫なのか?
別に無理をする必要はないぞ」
「...なめんなよ。
さっきのは冗談に決まってんだろ。
まだまだ余裕だっての」
そうして俺とセイレンスはメーレを飲み続ける。
セイレンスは友人と共に飲むのを楽しみながら、俺は楽しそうにメーレをを飲み続ける友人に負けないため。
「覚悟はいいか、セイレンス。
今日こそお前を酔いつぶしてやる!」
堂々と俺は啖呵を切ったのだった。
* * *
「もう.........無理.........」
ダメだった。
勝てるはずもなかった。
ただの負けず嫌いとやせ我慢でどうにかなる相手ではなかった。
そんな事は分かっていたというのに何故挑んでしまったのだろうか。
「矜持ってやつかね....オェッ」
なんて吐き気を抑えながら水を求めて宴会の中をさまよい歩く。
尚セイレンスは途中でケリュドラに呼ばれて行ってしまった、あの時ほどケリュドラに感謝したことはないと声を大にして言える。
そんな事を考えていると背後に気配を感じて振り返る、そこにはーーー。
「大丈夫ですか、巡剣卿
お水を持ってきたのでよろしければどうぞ」
「..ヴァージニアか」
吟風卿、ヴァージニアが笑顔を浮かべて立っていた。
「取り敢えず水はもらっとく、ありがとな」
「いえ、別にこれぐらいはなんてことありませんよ。
巡剣卿も剣旗卿もどちらも凄い飲み方をしていたので少し不安になっただけですから」
そう言って恥ずかしそうに笑うヴァージニア。
だが、わざわざ宴会から抜けて酔っ払いに水を持ってきたのは親切心だけではないことは予想がつく。
普段ならこのまま理由をつけてこの場から離れるのだが...きっといつかは向き合わなければいけない事だと覚悟を決める。
「ヴァージニア、何が聞きたいんだ?」
「え?
私は別に...」
「隠す必要ねぇよ。
前から俺に何か聞こうとしてるのは分かってるし、今もそれが目的だったんだろ?」
「...では少し離れた場所に行きましょう。
巡剣卿も、話しにくいことでしょうし」
そうして俺とヴァージニアは宴会が開かれている場所から少し離れた、人気のない静かな場所まで移動した。
その間俺と彼女は互いに何も喋ることは無く、この後の話すことの予想だけをしていた。
「ここら辺でいいだろ。
で、お前は何が聞きたいんだ」
「私は、カイザーの偉大な功績を詩編にしたためるのが私の役割です。
だからこそカイザーの覇道に付き従う方々についても記してきました。
ですが、巡剣卿の事については運命卿の従者である以外のことは書けていません。
貴方が自分の過去を意図して話さないのは分かっていました、そして話さない理由も。
巡剣卿...いえクレムノスの殺戮者である貴方は何故過去を隠しているのですか」
予想はしていた通り、ヴァージニアは俺の過去について当てがついていたようだ。
彼女の出身は俺と同じクレムノス、別にそれだけなら俺が避ける理由もないのだが彼女はクレムノス人にしては珍しく詩を謳っており多くの物語を知っている。
その上度々俺の過去を探るような言動をしていれば察しはつく。
「...お前の質問に答える前に一つ聞くけど、俺の出自について他に知ってるやつは居るか?」
「恐らくクレムノス出身であることは軍の何人かには気づかれていると思います。
ですが殺戮者であることを知っているのはカイザーだけの筈です」
「そっか、まぁカイザーにはバレてる気はしてたからいいけどさ。
それで俺が昔のことを話さない理由だけど...殺戮者の名前には悪評しかないからだよ」
「悪評...ですか」
「あぁ、俺が殺戮者って呼ばれるようになった原因は、戦争を仕掛けた都市国家の兵士を皆殺しにしたからだ。
そんな俺を、殺戮者を恨んでる奴は大勢いるだろうし、なら余計な争いに巻き込まれないためにも隠したほうがいいだろ」
「...ではクレムノス出身である事を隠していたのは何故ですか?
殺戮者の名前には悪評が付いてまわるのは私も知っています、ですがクレムノス人である事を隠す理由にはならない筈です」
「いや悪評って意味ならクレムノス人からの方が悪いだろ、俺は《紛争》から逃げてるんだから」
俺の答えを聞いてヴァージニアは思い当る節があったのか目を見開く。
彼女の反応の通り、クレムノス人の殺戮者への評判はかなり悪い。
当時の俺は『大切な人を守る』という夢を諦めて軍から出奔したが、軍の連中からしてみればそんな事は知ったこっちゃないだろう。
どんな理由があろうと、俺が《紛争》から逃げたという事実は揺らぐことはないのだから。
「ヴァージニアもクレムノスに居た頃『臆病者』とか『軟弱者』とか聞いたことあるんじゃないか?」
「それは...」
「まぁ俺がクレムノス人である事を隠してんのはただでさえ血の気の多いクレムノス人に絡まれたくないから、それだけだよ。
これで理由は全部だけど納得はできたか?」
「はい、十分納得できました。
ですがそうなると巡剣卿の事は変わらず書けそうにありませんね」
「そこは他の奴らを多く書けばいいさ。
この軍、そういう話は尽きないだろ?」
「ふふ、確かにそうですね。
皆さん個性豊かですから書く話題には事欠きませんし、巡剣卿の過去を書かなくても以前の騒動だけで十分でしょうね」
「以前の騒動ってあのクソ獅子が流した噂の件じゃないだろうな。
アレを書こうってんなら俺も全力で抵抗するぞ」
俺の反応にヴァージニアは小さく顔を綻ばせる。
冗談だと思われたのなら心外だが、どこか重くなっていた空気を晴らすことに成功したので良しとする。
「さ、結構な時間話してたしいい加減戻った方がいいだろうな。
...ていうかずっと騒がしいな、いつまで騒いでんだ?」
「え?そ、そうですね」
話を切り上げ未だ騒がしさが残る宴会場へと戻りながら先程の会話を思い返す。
その会話の中ではわざと話さなかった部分もあったのだが、ヴァージニアがそこを追求しなかった事に安堵する。
だって、格好がつかないだろう?
過去を隠してた理由が俺自身の罪から目を逸らすため、なんて。
そうやって自分を自嘲していたからだろうか、それとも耳に響く音が邪魔をしていたからか俺はヴァージニアの呟きには気づけなかった。
「騒ぎ声...そんなに騒がしいでしょうか。
ここはーーー
宴会場からかなり離れているのに」
俺とヴァージニアは宴会場に戻ると、それぞれの場所へと別れていく。
ヴァージニアはアポロ二ウスたちが居る場所へ、俺は引き続き宴で騒がしい中を歩き続ける。
そうして周りの連中を見ながら依然として残っていた酔いを醒まそうとしていると突如肩を掴まれる。
その瞬間、冷や汗がブワっと溢れ出す。
今すぐこの場から逃げ出さないと命が危険に晒されると本能が警鐘を鳴らすが身体は蛇に睨まれた蛙のように、いや巨大な魚に睨まれた小魚のように一向に動かない。
ギギっと錆びた鉄のような動きを出しながら辛うじて首を回して振りかえるとそこにはーーー。
「やっと見つけたぞ、金色のカジキ。
先程はカイザーに呼ばれて中断してしまったが、宴はこれからだ。
キミもまだ飲めるだろう?」
「ーーー」
言葉も出ずに俺は突如現れた剣旗に引きずられていく。
きっと今の俺の顔は死人より酷いことになっていることだろう。
* * *
「...頭痛い、気持ち悪い、今すぐ寝たい」
「もう...無理ちて飲むからだよ。
反省ちてね?」
昨夜の命の危機を乗り越えて、俺は無事に二日酔いに陥ってトリビーたちに介抱を受けていた。
周りから視線を感じるが今は意識を返す余裕もなく呻き声を出し続ける。
というか俺はこんなになってるのにセイレンスはいつものように平然している、心の底から納得できない。
そんな醜態を晒している俺を差し置いて軍団は目的地へと進み続ける、確か次の目的地はーーー。
「ケンパー...だったけか」
ケンパーはケンパー山脈という天然の要塞に囲まれている都市国家で、以前オクヘイマ連邦から離脱しこれに続いて周辺の都市国家も連邦からの離脱を宣言している。
今回の遠征でそれの歯止めをかけなければ後々面倒なことになるだろう。
「おーいカイザー、ケンパーの攻略は上手くいきそうか?」
「酔っ払いは体調を取り戻すことに専念しろ。
戦場でそれ以上の醜態を晒す前にな」
バッサリ正論という刃で切られてしまった。
だがまぁケリュドラの事だ、何かしら策を考えていることだろうと思考を放棄する。
というか頭痛が酷くてこれ以上考えたくない。
...コレ次の戦場までに治るのだろうか?
そうして静かに体調を治すことに努めていると、額に汗を浮かべ焦った様子の伝令兵が走ってくる。
「カイザー、緊急の報告があります!」
「なんだ、疾く報告せよ」
「ハッ!
クレムノスの軍が我が軍に向かって進軍中とのこと!」
「...んだと?」
頭痛が響いていた頭が伝令兵の言葉で一気に明瞭になる。
もしこの調子でクレムノスが進軍を続ければケンパー山脈を攻略中に背後から襲撃を受けるだろう。
クレムノスの軍は精強にしてオクヘイマに名高き《紛争》の兵の集い。
襲撃をかけられれば一たまりもないだろう。
この窮地を伝える伝令を聞いたケリュドラは少しも悩む暇なく軍全体に指示を出す。
「我が軍はこれより目的地をケンパーから変更する!
急ぎクレムノスの軍への対処を進めよ!
伝令兵、急ぎ冬霖卿を呼べ、火急の用だ」
ケリュドラの指示を聞き、軍団はいつも通りの統率を見せて進行方向を変える。
変わらず指示を出し続けるケリュドラ、そんな忙しい中彼女はこちらに視線を向けた。
「巡剣卿、先ほども言ったが早急に体調を治せ。
クレムノスの対処、その主力はお前に一任する」
俺が、クレムノスの軍の対処を担う。
そのケリュドラの命令を受けて、意外にも俺は冷静に状況を受け入れていた。
思いのほか俺が過去に向き合うのは早くなりそうだ。