クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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マネーウォーズで遊んでたら時間がかかった15話目です。
爆速モーディスが面白かったです。



事件と夜食

 

 

 クレムノスとの初戦から早数年、何度もクレムノスとの小競り合いを繰り返した俺たちはオクヘイマに戻ってきていた。

 ここ最近はクレムノスとの戦争で消耗が激しく思うように敵対している都市国家への侵攻が出来ていないこともあり、ケリュドラはクレムノスとの決戦の準備を進めている。

 そんな状況の中、俺とトリビーはライアの屋敷の一室で二人してある一点を見つめていた。

 

「...なぁトリビー」

 

「...どうちたのポネウス」

 

「コレ、どうすんだ...」

 

「どうちようね...」

 

 二人の視線の先には赤く、巨大な、トリビーたちが日頃から使っているロケット大砲『ピラヴロス』が部屋の中に窮屈そうに置いてあった。

 どうしてそんな事になっているのか、答えは単純。

 調子に乗りすぎた、これに尽きる。

 どんどん追加されていく機能にトリビーたちを褒めちぎる俺、それに気分を良くしたトリビーたちがさらに機能を追加する、それを俺がさらに褒める、さらに気分を良くしたトリビーたちが....といった流れを繰り返した結果今目の前にある巨大ピラヴロスが出来上がった、というわけだ。

 それならば分解すればいいだろうと思うかもしれないが、ピラヴロスは戦闘能力の無いトリビーたちにとって数少ない自衛手段で爆撃を行うことのできる代物だ。

 ...そう、『爆撃』である。

 今のピラヴロスは大量に追加された機能も合わさって、いつ爆発してもおかしくないことになっているので下手に手が出せないのだ。

 だがなんとかしなければならない事に変わりはない、というかこのまま放置してたらライアに怒られる。

 なので、俺とトリビーたち一部の姉妹たちは巨大ピラヴロスの処理方法を考えて、残りの姉妹たちは処理するための道具を集めに出ているのだ。

 

「やっぱり、爆発ちないようにちょっとずつ分解するちかないと思うの。

 どこかに運ぶことも出来ないち、爆発なんてちたら大惨事だもの」

 

「もっと安全な方法があればよかったんだけど...それしかないかぁ。

 ...よし!じゃあまずは何から始める?」

 

「じゃあまずはもうちょっと広い場所に移動させよう。

 今のままだと分解も出来ないぐらい狭いから」

 

「応、じゃあゆっくりと...重っ」

 

 トリビーの指示通りに俺はゆっくりと慎重にピラヴロスを運び始める。

 ピラヴロスは膂力に自身のある俺でも若干重いと思うほどの重量をしていた、うっかり手でも滑ったらどうなるか...考えたくもない。

 そんな風に運搬していると、部屋の外から足音が聞こえてくる。

 その足音の主は走ってこの部屋に向かっているようで、間もなく扉が強く開かれた。

 

「戻ったぞ!

 色々道具持ってきたからどんな作業もできるからな..ポネウスは何やってるんだ?」

 

「お帰りトリアン、ポネウスには今ピラヴロスを移動ちてもらってるの。

 道具はそこの机に置いてね」

 

「はーい、よいしょっと...ってうわぁ!」

 

「ん?トリアンどうした..うぉっ!?」

 

 トリアンが机に道具を置こうと持ち上げた瞬間、バランスを崩してしまったようで道具が周囲に散乱してしまう。

 別にそれだけなら拾ってしまえばそれで片付く話しだ...俺がピラヴロスを運んでいる最中でなければ、だが。

 散乱した道具の一つがピラヴロスを抱え周囲が見えない状態の俺の足元に滑り込んでしまい、それを踏みつけ俺もバランスを崩してしまう。

 だが舐めてもらっては困る、一度バランスを崩してしまった程度で俺が転ぶと思うなよ!

 床から離れた足を無理やり地面につけて、転ばないように何とか踏ん張る。

 バランスを取りながら、慎重に体制を戻しなんとか転ばずにすんだ。

 だが、その一瞬の油断が致命的だったのかピラヴロスが抱えていた手からずり落ちてしまう。

 

ガツン

 

「「「ーーーあ」」」

 

 ピラヴロスが手から落ち、床にぶつかる。

 大した衝撃ではないがピラヴロスにとってはそうでもなかったようで、落ちたピラヴロスを見つめ固まる俺たちを他所にピラヴロスは振動を始めた。

 その振動は徐々に強まり、俺はトリビーたちを一か所に集めて盾になる。

 振動がどんどん強くなり、最早限界か..と思われた瞬間ーーー。

 

ドンッッ!!!

 

 轟音を発してピラヴロスは天井を突き破って飛んでいってしまった。

 

 

「「「ーーーーーーー」」」

 

 俺たちはそれを見て言葉を失う。

 そして徐々に停止した頭が回り始める。

 

「やばい!!」

「たいへん(だ)!!」

 

 回り始めた頭が出した答えは、全員同じようだ。

 

「トリビー!着いてきてくれ!!

 アレとめなきゃ絶対マズイことになる!!」

 

「う、うん!急ごう!

 トリアンたちは部屋の片づけをお願い!」

 

 俺とトリビーはピラヴロスが空けた穴を通り、屋敷の屋根に立つ。

 周囲を見回しピラヴロスを探すと、遠方で制御を失い滅茶苦茶に飛び回る姿が目に入った。

 俺は屋根伝いに、トリビーは飛びながらピラヴロスに向かう。

 

「トリビー!アレどうやって止める!?」

 

「何処かにぶつかる前に、安全な場所に落とすちかないと思う!」

 

「それじゃあとっとと適当な場所探して...ん?

 ピラヴロスの様子が...落ち始めたぁ!?」

 

「え!?」

 

 なんとかピラヴロスに追いつき被害を出す前に安全そうな川に叩き落そうとした瞬間、ピラヴロスの重量に推進力が足りなくなったのかピラヴロスが落下を始める。

 ピラヴロスの落下地点は市場のど真ん中、あんな場所に落ちてしまえば大惨事は免れないだろう。

 

「トリビー!落とせそうな場所は!?」

 

「東の方に崖があるからそこを狙って!」

 

「応!」

 

 その事実を確認した瞬間俺はピラヴロスの落下軌道に割り込み対処の準備を進める。

 トリビーは俺とピラヴロスから離れて落としても安全な場所を見つける。

 狙いの場所はトリビーが示した、後は俺が軌道を変えるだけだ!

 

「オォラァッ!」

 

 落ちるピラヴロスを崖目掛けて蹴り上げる。

 ピラヴロスは何とか軌道を変え、放物線を描きながら落ちていく。

 そのままピラヴロスが崖に落ちていき姿が見えなくなってから少しあと、崖から爆発音が響いてきた。

 

「...は~、何とかなったかぁ」

 

 爆発音が聞こえて一息をつく。

 周囲は何があったかとこちらを見るが、俺の姿を見つけると踵を返して帰っていく。

 そんな中、トリビーが俺を見つけて近寄ってくる。

 

「お疲れ様ポネウス。

 ピラヴロスはどうなったの?」

 

「崖下で爆発したっぽい。

 取り敢えずひと段落って感じだよ」

 

「よかったぁ。

 じゃあ落ち着いたら急いで帰らないとね、トリアンたちに掃除まかせちゃってるち」

 

「そうだな。

 ただトリビー、一ついいか?」

 

「?うん、どうちたの?」

 

「今度から、機能の追加は程々にしような...」

 

「そうだね...」

 

 俺とトリビーはそんな教訓を得て、帰路についたのだった。

 それから少しだけ後、急いで屋敷まで帰ってきた俺たちは待ち構えていたライアに全員纏めて説教を食らうのだった。

 

 

* * *

 

 

 巨大ピラヴロス事件から数日後、俺はケリュドラの執務室に呼び出されていた。

 呼び出された時はピラヴロス事件について詰問されるのかと思ったが、ケリュドラの様子から見てそうではないようだ。

 

「やけに安心しているようだが何か心配事でもあったか?」

 

「いやいやそんな事微塵もねぇよ、ハハハハハ」

 

「......まぁいい、今日巡剣卿を呼び出したのはクレムノスとの決戦について話があったからだ」

 

 俺の反応を見て眉尻を下げたケリュドラだったが、今は俺を呼び出した要件を片づける事に決めたらしく詳細を話し始めた。

 

「決戦の場所はトレートス平原、奴らにとってはクレムノス成立の地だ。

 そこで勝利を譲ってしまえば奴らの士気は上がり、その勢いのままオクヘイマまでの進行に繋がりかねん。

 故に次の戦争は必ず勝たなければならない」

 

「それは分かってるさ、でもそれ俺だけを呼び出す理由にはなって無くないか?

 全員が集まった時に言えばいいだろ」

 

「そう焦るな、話はまだ終わっていない。

 先ほども言ったが戦争に勝利するのは大前提、戦争の後巡剣卿には一度クレムノスへ行きニカドリーと謁見してもらう」

 

「は?」

 

 ケリュドラの発言に思わず耳を疑う。

 俺がニカドリーに謁見だと?

 話の内容についてもだが、それ以上に意図が分からない。

 

「あ~イマイチよく分からないんだけど...何で俺?

 もっと適任の奴はいるだろ。

 ていうか出来んの?」

 

「ニカドリーの謁見においてお前以上の適任はいない筈だ。

 その上クレムノスは戦場での栄光を重視する、巡剣卿が戦場で貢献すれば奴らも無視はできなかろう。

 それと巡剣卿、お前は以前にニカドリーを見たことがあるな?」

 

「確かにあるけど..ガキだった時とクレムノス軍にいた頃に何回か程度だぞ?」

 

「それで十分、お前に確認してもらうのは暗黒の潮がもたらすタイタンへの影響だ。

 巡剣卿が最後にニカドリーを見たのは百年ほど前、それから今までニカドリーが暗黒の潮の進行を防いでいたのならどの程度の影響を受けているか確認しておく必要がある。」

 

 あぁ成程、確かにそれなら俺が適任だろう。

 以前のニカドリーの姿を憶えているのは俺たちの中では恐らく俺だけ、その上ニカドリーに謁見できる人材となるとかなり数を減らしてしまう。

 だが、まだ少しだけ違和感がある。

 

「なぁ、本当にそれだけか?

 そりゃあ前にニカドリーを見てる奴なんて少ないだろうけど、探せば数人ぐらいはいるだろ。

 まだ何か言ってないことあるんじゃないか」

 

「ふん、正解だ。

 お前には自身の加護について確認してきてもらう」

 

「俺の加護について..って今更確認する必要あるかぁ?」

 

「ある。

 というのも巡剣卿の加護は未だ不明な部分が多い、現状分かっているのは戦場で高揚感を齎すことと異常な回復能力だけだ。

 以前のような醜態を晒す可能性がある以上、調べる必要はあるだろう。

 まぁ巡剣卿が自身の加護について正確に覚えていれば、その必要はなかったのだがな」

 

「........」

 

 思わず言葉が詰まる。

 自身の加護について忘れてしまっている以上、俺がこれ以上言えることはないのだが、最後に一つだけ聞くべきことが残っている。

 

「なぁカイザー、もしも暗黒の潮の影響が思ってたよりも大きかったらどうするつもりだ?」

 

「その時は倒すタイタンの順番が入れ替わるだけだ。

 その時はお前にも大いに動いてもらうぞ」

 

 ケリュドラの不敵な笑みと共に話は打ち切られる。

 ならばまずはクレムノスとの決戦の準備を進めようと執務室から出ようとする。

 

「待て巡剣卿。

 まだ話は終わっていないぞ」

 

「えぇ、まだあるのか?

 俺も得物の調子を整えたいんだけど」

 

「なに、お前が正直に話せばすぐに終わることだ。

 ....先日の市場で巡剣卿と運命卿が起こした騒ぎについての件だ」

 

「........」

 

 死刑宣告のような発言に、俺の背筋に冷や汗が伝う。

 どうやら俺たちのやらかしはしっかりと、ケリュドラの耳に届いていたらしい。

 

 

* * *

 

 

「♪〜」

 

 ケリュドラの詰問を何とか耐え切った俺はライアの屋敷に戻り鼻歌混じりに両剣の手入れを行っていた。

 刃の汚れや古い油を拭き取り、新しい油を丹念に塗り直す。

 刃の状態を確認して持ち手部分に違和感が無いかを握りながら確かめると、少し歪んでいる部分を見つける。

 

「♪〜...また歪んじまったか。

 結構遅い時間だし工房はまた明日だな」

 

 両剣の持ち手を直そうと工房に持って行こうとするが時間を確認すると最早夜中といって差し支えない時間になっていた。

 オクヘイマにはケファレが背負う『黎明のミハニ』の効果で夜の闇がない故に昼夜の区別がないように見えるが住人たちはそれに適応して生活をしている、今行ったところで工房に人は大して残っていないだろうと両剣を丁寧に置き手入れを中止する。

 

「思えば、お前とも百年近い付き合いになるのか。

 けっこう長い付き合いになったな」

 

 両剣を眺めながら一人呟く。

 刃も、持ち手も、留め具に至る全てのパーツが最初に手に持った時とは別物ではあるものの俺にとっては百年共に戦い続けた愛剣に違いはない。

 

「...なんて、俺も同じようなもんか」

 

 目の前の両剣は外身が、俺は内面が昔とは大きく変わっている。 

 そんな俺を見て、あの神は何を思うのだろうか。

 怒りか、喜びか、罵倒か、称賛か、はたまた無関心か。

 どんな感情であってもあの神と直接会うことは、俺にとって重要な事であるのは確かだ。

 

「今考えてもしょうがない、か。

 ....少し散歩でもするかな」

 

 一度区切りをつけて、部屋から出る。

 目的地も決めずに屋敷の中を歩いていると、厨房の方に人の気配を感じた。

 普段ならこの時間に厨房を使う人間はこの屋敷にはいないのだが、今日は誰かが居るようだ。

 

「.....まさか盗人じゃないよな」 

 

 ふと嫌な可能性が頭に浮かぶ、もしも俺の予想が合っているとしたらとっとと捕まえるべきだろう。

 無いとは思うが、万が一ということもある、俺は足音と気配を出さずに厨房へと向かう。

 厨房につくと、俺は中にいる人物にバレないように慎重に覗き込む。

 そこに居たのは盗人ではなく、良く見慣れた人物だった。

 

「...こんな時間に何食べてるんだ、ライア」

 

「っ!?し、師範!?

 いつの間にそこに!?」

 

 厨房に居たライアは器とスプーンを手に持ったまま焦り始める。

 その様子からまた夜食をこっそり食べていたのが丸わかりだ。

 

「ついさっきだよ。

 夜食はまたトリビーに怒られるぞ」

 

「.....師範、こちらに来てくれませんか?

 話したいことがあるんです」

 

「話したい事..急だけど何かあったのか?」

 

 先ほどの焦った様子から一変してライアは暗く沈んだ声を出し、俯いてしまう。

 その上話があると言われては断る理由もない。

 俺はライアの傍によって、いつものように目線を合わせる。

 もしや今回の夜食も何かあったが故のモノなのかと思ったその瞬間。

 

「フッ!!」

 

「は?って危なっ!?」

 

 俺の口めがけてライアが手に持つスプーンを突き出してきた。

 その成長した身体から繰り出される刺突は日頃の鍛錬の成果を感じさせるものだ、こんな所で成長を感じたくはなかったが。

 その刺突を紙一重で避けるとライアは悔しそうに顔を歪める。

 

「くっ、後もう少しだったのに....。

 どうして避けるのですか!」

 

「避けるに決まってんだろ!

 てかお前何のつもりで...スプーンに掬ってるのオートミールか?」

 

 ライアが刺突に使ったスプーンを見てみるとオートミールがそのまま掬ってあるではないか。

 あのまま口に突っ込まれていればオートミールも俺の口に入っていた訳で...と一つの考えが頭に浮かぶ。

 

「ライア....お前まさか俺を夜食の共犯にしようとしたのか?」

 

「この光景を見られてしまった以上他に選択肢はありません。

 さぁ大人しく師範も食べてください。

 そして師匠に一緒に怒られてください」

 

「嫌だけど!?」

 

 ライアはスプーンを持ったままジリジリと俺に近づく。

 当然俺も後退りながらライアを宥めようと声をかける。

 

「落ち着けライア、別に俺はトリビーに告げ口をしようなんて考えてない。

 だから一旦そのスプーンを下ろして話し合おう、な?」

 

「特に話すことはありません。

 それに師範は隠し事が苦手ですから信用できません、特に師匠が相手なら師範はうっかり口を滑らせるでしょう」

 

「ちくしょうよく分かってやがる...!」

 

 どうやら下手な説得は意味がないようでライアはジリジリと距離を詰め、狙いを定めている。

 説得が通じない以上は俺もとれる手段は一つだけ、突き出されるスプーンを避けて少し前にでて伸びたままのライアの腕をそれ以上動かせないように固定する。

 

「痛い!痛いです師範!

 離してください!」

 

「お前が落ち着いたら俺も離すよ。

 だから落ち着「こんな事をするから何年たっても噂が消えないのでしょう!?被虐趣味から加虐趣味に鞍替えしたのですか!?ってち、力が強くなってますよ!?」........」

 

 俺はそのまま騒ぐライアを尻目に落ち着くまで腕を固定し続けた。

 その際に少しだけ固定する力を強めたのは決してわざとではない、わざとではないのだ。

 この状況は結局、暫くの間続くことになった。

 

「うぅまだ腕が痛みます。

 もう少し加減出来なかったのですか」

 

「お前がもっと早く落ち着いてたら痛みもマシになってただろうな。

 で、ライアが夜食なんて大分久しぶりだけどなんかあったのか?」

 

「...いえ、別に理由なんてな「トリビーに言うぞ」くっ...!

...話します、話しますから師匠には言わないでください」

 

 この状況になっても何かを隠そうとするライアに伝家の宝刀、『トリビーに言う』を抜く。

 これはライアに対して特に効くので対ライア用の俺の切り札だ。

 ちなみにこの切り札はライアも習得しているので俺にも効いてしまうのが難点だ。

 

「...私は『金織』の職務を先代のモネータの司祭から引き継ぎ多くの衣服を編んできました。

 その中には戦場に出る兵士たちの装束もあります。

 ...ですがその多くは死装束となり、切れ端だけが私の元に戻ってくるのです。

 そんな惨状が起きているにも関わらず、貴族たちは私が作った服を着て得意げに街を歩いている。

 私はモネータを信仰する家系の一員として最も美しい作品を作ろうとしてきましたが、私が作っている服はただ腐敗と堕落に満ちた貴族たちの虚栄心を満たすだけのものになってしまっているのです」

 

「......」

 

 ライアは少し間を置いてから話始める。

 彼女の言葉には確かな怒りが込められていて、先ほどまでの騒がしさとは様子が一変していた。

 

「今はカイザーが権力を握り、そういった貴族たちは数を減らしましたがそれでも現状は変わっていない。

 ならば私は金織としての職務意外に為すべきことがあるのではないか、と思っているのです。

 最も美しい作品を作り出すためにも、今オクヘイマに満ちている不条理を正すためにも」

 

「..お前何をするつもりだ」

 

 俺は熱が入っている様子のライアの話を聞いて彼女に問いかける。

 話始めてからの彼女の姿は節々で尋常ではない決意を感じさせていた。

 ライアは俺の問いかけに対して間を空けることなく答える。

 

「私は..火を追う旅に協力して《浪漫》の火種を受け継ぐつもりです」

 

「っ!!

 ...ライア、本気なのか?

火種を継ぐってことはトリビーたちみたいに代償を払う必要があるんだぞ」

 

「承知の上です。

 私はオクヘイマの仕立て屋として、モネータの司祭として師匠や師範と同じ道を歩みます。

 例えどれだけの苦難が待っていようと、それを乗り越えるためなら私はどのような代償でも払いましょう。

 ....ですが、まだ少しだけ私の心の弱い部分が『止めてしまえ』と囁くのです。

 そのせいか中々寝付けなかったので気を紛らわすために少し食事をしていたんです」

 

「成程な....」

 

 ライアの覚悟と不安を聞いた俺は苦い顔を浮かべてしまう。

 正直に言うなら火追いの旅に彼女を加えるのは反対だ。

 別にちゃんとした理由なんてない、ただ子供の頃から知っている人が苦難の道に自ら飛び込もうとしていることがどうしようもなく心配なだけ。

 だがライアはもう出会ったばかりの頃とは違う、既に子供から大人に成長しているのだから彼女が決めた道を俺がどうこう言う権利はないだろう。

 ならば俺が言うべきことも決まっている。

 

「ライア、俺はお前が決めた道だって言うんなら止めはしないし、止めようとしても別に責めたりはしない。

 剣の師を決めるときも、金織を引き継ぐときも、今だってそうだ。

 お前はいつでも自分の意思で決めてきたんだから、お前は自分が決めた道を信じて進めばいい。

 どんな道でも俺はライアを応援してるし力になるし、もしも間違った道に進んじまったら引き戻すぐらいの事はしてやるよ」

 

「......師範はズルいですね。

 昔から、本当に」

 

「ズルいって...そんなところあったか?」

 

「えぇ、だって応援も力になるのも師匠の次にでしょう?」

 

「ぐっ、いやまぁ確かにそうなんだけど....。

 別に力を抜くつもりとか全くないからな!?」

 

「分かってますよ。

 ...十分、分かってます」

 

 ライアは肩から力が抜けたようで、先ほど見せた怒気は鳴りを潜める。

 ズルいと言われたことは引っかかるがライアの気が晴れたのなら良しとしよう。

 

「気分は晴れたみたいだな。

 まだ寝るにしても時間はあるけどどうするんだ?」

 

「この後は就寝するつもりです、今度はすぐに寝付けそうなので。

 ...まぁ先ほど作ったオートミールがまだ残っていますから食べてからになりますが...少し多く作ってしまったので食べ終わるのに時間がかかってしまいそうですね。

 もしよければ師範も一緒に食べてくださいませんか?」

 

「...しょうがないな。

 よーしトリビーたちにバレる前に食べきっちきまうぞ」

 

 そのまま俺とライアは大して多くもないオートミールを分け合って食べ進める。

 その間俺たちは仕立て屋の仕事についてやオクヘイマの警備中に起きた出来事について話し合う。

 結局ライアが部屋に戻ったのは食べ始めたころよりもかなり遅くなってしまった。

 

 

* * *

 

 

 ライアとの夜食の後、俺は屋敷から出て一人工房に向かっていた。

 時間は早朝に差し掛かり、徐々に表に出る人の数も増えている。

 工房ももう少しで開くころ合いだろう。

 だから工房が開くタイミングに合わせてゆっくりと、ゆっくりと足を進める。

 

「あの生意気なちびっ子があんな風に言えるようになるとはな、成長ってのは早いもんだ」

 

 歩いている最中、先ほどのライアの決意を思い返しながら一人彼女の成長を噛みしめる。

 彼女があそこまでの成長を見せたのならば俺も負けてはいられない。

 クレムノスとの決戦も、ニカドリーとの謁見も俺の全霊で挑むのみ。

 だからこそ今の俺の頭にあるのは一つだけだ。

 

「ーーー火種、か」

 

 誰に聞こえることもなく呟きは風に攫われる。

 その呟きの意味はきっと近いうちに答えをだすだろう。

 

 

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