クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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2話目になります
変わらず感想のほどよろしくお願いします。


本当の意味での初対面

「トリスビアス、ヤヌサポリスの聖女....ね」

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

 トリスビアスの姿を見てから、どうにも様子がおかしいポネウス。

 コデクスはその事を尋ねてみると、ポネウスはどこか険しい顔のまま答える。

 

「.....なぁ、コデクスさん。一つ聞きたいんだが」

 

「ふむ、何でしょう」

 

 

 

 

 

 

「この都市国家、何かあったのか?」

 

 ポネウスの質問は曖昧で要領を得ないものだった。だが、コデクスにとっては少しばかり聞き流しにくい質問だった。

 

「何か、とは曖昧ですね。気になることでも?」

 

「あぁ、聖女様の護衛がちょっとな」

 

「護衛が?」

 

 コデクスはポネウスの返事を聴くとトリスビアスの周囲に居る護衛たちを見た。しかし、特に何かおかしい部分は見当たらず首を傾げる。

 

「具体的にはどのような事でしょうか?」

 

「護衛の意識の向き先だよ」

 

「意識の.....向き先ですか」

 

「あぁ、護衛ってのは外敵から守る事が目的だろ?だって言うのに意識の向き先が聖女様に偏りすぎてんだよ。

 まぁ、全員が全員って訳でもないけど、そこが気になってな」

 

「何ですって?」

 

 コデクスは護衛たちの視線や意識を注視してみると、確かに護衛の内の数人はトリスビアスの周囲では無く、トリスビアス本人に対して意識を割いているように見えた。

 護衛において、対象の動向を見ることも重要だろう。だが、それにしてもあの意識の割きようには違和感を覚えた。

 まるで、トリスビアスが何かしようとすれば、すぐにでも抑えられるように準備しているかのように見えた。

 その嫌な予想が頭に浮かんだ時、一つ疑念が生まれた。

 

「あの兵士達、何者だ?」

 

 様子がおかしい兵士たちは皆、コデクスの記憶に無い者ばかりだった。

 聖女の護衛は選び抜かれた戦士がなるもの、そう易々と取って変われるようなものではない。

 となれば、司祭の内の何者かが配備させた筈。

 ならばそれは誰なのかを考えようとした時、コデクスは以前にも似た事が起きたのを思い出す。

 同時に、それを行った者の存在も。

 

「奴の仕業か.....!」

 

 コデクスは見知らぬ護衛を誰が配備したのかに勘づいた。

 その人物は、コデクスにとって大切な人物を死に追いやったと思われる、憎き人物だった。

 今気づいたことを放置していては、再び以前と同じ後悔を繰り返すことになる。

 それだけは絶対に回避しなければならない。

 

「....おーい、コデクスさん?急に黙ってどうかしたのか?」

 

 コデクスが思考の海に沈もうとしたところで声をかけられる。

 目の前には、急に黙り込んだこちらを心配そうに見ている青年の姿があった。

 コデクスはその青年の姿を見て、ある案を思いつく。

 その案は危険かもしれないし、不安要素も強い。

 それに失敗すれば、命を落とす可能性も大いにある。

 だが、何もしなければ託された子が危険に晒されてしまう事になる。

 コデクスは、覚悟を決めてこちらを見ている青年の金色の瞳をまっすぐ見つめる。

 

 

「....ポネウス殿、少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 コデクスは大きな賭けに出ることにした。

 

* * *

 

 ポネウスは現在、コデクスが所有する屋敷に案内されコデクスと机を挟んで対面していた。

 

「コデクスさん、話ってのはあの聖女様に関わる事か?」

 

「えぇ、話が早くて助かります」

 

 ポネウスは対面に座っているコデクスの様子を見る。

 先ほどまでの温和で親しみやすい雰囲気は鳴りをひそめ、長年ヤヌサポリスの司祭を務めていた貫禄が滲み出ていた。

 今まで感じていた気配から一変したコデクスを見て、ポネウスも驚愕と共に気が引き締まっていくのを感じる。

 それと同時に、非常に嫌な予感も感じていた。ヤヌサポリスの聖女に様子のおかしい聖女の護衛たち、それを指摘してからのコデクスの変貌ぶり。そんな折に自分に話があるという時点で碌でもない話に違いない。

 そのような予想をしていると、コデクスが口を開き

 

「単刀直入に言いますと、貴方にはトリスビアス様の護衛について頂きたいのです」

 

 予想した通りに、ポネウスにとって最も難しい頼み事をしてきたのだった。

 

「護衛.....ねぇ」

 

「えぇ、先ほどポネウス殿が見た様子のおかしい護衛たち。

 彼らを配備した司祭が居るのですが、その司祭は恐らく、先代のヤヌサポリスの聖女、メルテス様の殺害に関与した疑いがある者なのです」

 

「司祭が聖女の殺害って.....随分と穏やかじゃないな」

 

「おっしゃる通り。

 そして、以前メルテス様が殺害される前にも見知らぬ者が護衛の中に居る事があったのです」

 

 ポネウスはコデクスの話を眉を顰めながら聞いていた。

 コデクスの話の通りならば、勘違いという線も薄いだろう。

 だが、疑問に思う部分もある。

 

「だけどさ、どうして司祭が聖女様を殺すのさ?

 司祭にとっちゃ聖女様が神託を貰わなきゃ都市国家を運営できないんじゃないか?」

 

「.....メルテス様は、奴らの傀儡となってしまっていたのです。

 奴らはメルテス様の親しいものや官僚を遠ざけ、神託を自分たちにとって都合の良いように捻じ曲げ、他者を陥れ、暴利を貪っていた。

 そんな中、メルテス様が本来の神託を公表したために、奴ら儀式に乗じてメルテス様を谷底に落としたのです。

 この件も奴らに揉み消され、『事故死』として片付けられてしまいました」

 

「.......」

 

 ポネウスは言葉が出なかった。

 今まで、こういった謀略や陰謀に触れてこなかったのもそうだが、今日ヤヌサポリスで見た光景とコデクスが話した内容の乖離が激しく驚きが隠せなかった。

 

「.....逃げたりはしなかったのか?」

 

「メルテス様とトリスビアス様は神殿の一室で幽閉生活を強いられていられるのです。

 あそこは警備も厳重で易々と抜け出せるような場所ではございません。」

 

 思いついた提案は、あっさりと切り捨てられる。

 今までなら、力が強ければどうにかなる環境なのも相まって良い手が思いつきそうにもない。

 そのように、考えているとコデクスは話を続ける。

 

「ですから、貴方にはトリスビアス様の護衛について欲しいのです。

 トリスビアス様の近くで、あの方を守って頂きたいのです。

 勿論報酬はお渡しいたします」

 

「.......」

 

 ポネウスは言葉を詰まらせる。

 手伝いたい気持ちはある。

 だが、護衛という役目がポネウスに気後れをさせる。

 

「......俺が何処の出身なのか分かってるのか?」

 

「えぇ、貴方はクレムノスの出身でしょう。

 そして、私の勘が正しければ貴方は『殺戮者』と呼ばれた戦士でしょう?」

 

「....そこまで知ってるならどうして俺に頼むんだ?

 クレムノス人の悪評は知ってるだろう。

 野蛮人。血に飢えた猛獣。《紛争》に従い戦争を引き起こす災厄。

 ましてや《殺戮者》の名前を聞いた事があるなら尚更だ。

 そんな人間に、どうして聖女様なんて守らせようとする?」

 

 ポネウスは捲し立てるように疑問を投げかける。

 まるで何かに追われているように。

 

「確かに《殺戮者》の話は聞いています。

 曰く幾つもの軍をたった一人で皆殺しにしてきたと」

 

「知ってるんなら....!!」

 

「ですが、私は貴方に助けられました。

 《殺戮者》と呼ばれるものであっても、貴方は人を善意で助けられる人物だと私は思っているのですよ」

 

 「......」

 

 ポネウスは今度こそ言葉を失った。

 確かに、自分は彼を助けはした。

 だが、自分が殺した人間は、自分が助けた人間よりも何人も、何十人も、何百人も、何千人も多い。

 そんな人間が預けられて良いような信頼ではなかったからだ。

 

「ポネウス殿、貴方は何に怯えているのですか?」

 

「怯えてるって、何を....」

 

「私には、貴方が何かに怯えているように見える。

 私は貴方を人を助ける事に躊躇いがないように見えます。

 なのにそこまで、自分を下げるような発言をなさるには、何か理由があるのですか?」

 

「.......」

 

 コデクスの指摘は的を射ていた。

 確かにポネウスは怯えている。

 普段なら『クレムノス辞書に怯えなんて言葉は無い』なんて冗談を言うところだが、今は状況が違った。

 それは、陰謀に巻き込まれることでも、コデクスの過分な信頼にでもない。

 ポネウスは目の前のコデクスの目を見る。

 その目は揺れる事なく、まっすぐ自分を見ている。

 その目を見ていると、自然と言葉が口から出ていた。

 

「.....守る事だ」

 

「守る事...ですか?」

 

「俺は、誰かを守れた事が一度も無い。

 たったの一度もだ。

 俺は、誰かを殺すことは出来ても守ることだけは.....出来ないんだよ。

 仲間も、戦友も、家族も、何も....守れなかったんだよ。

 そんな俺が、護衛なんてできる筈もない。

 今からでも、適任者を探すべきだ」

 

 一度話し出すと言葉は止まらなかった。

 ポネウスにとって、守るということは自身の無力を証明するものだ。

 それを言葉にする事に怯え、動揺している様を見ながらも、コデクスは目線を外す事なく語りかける。

 

「....貴方が守れた事がないということはわかりました。

 ですが、私にとって貴方は頼みの綱なのです。

 暗黒の潮に一人で対処出来るだけの武力があり、護衛たちの異変に即座に気づけることが出来、人間性が信頼できる。

 そのような人間は、貴方の他にも探せば居るのかもしれません。

 ですが、そのような人物を探している間にトリスビアス様に何かあれば、私は私を許せない。

 どうか、どうか私の頼みを聞いて頂きたい」

 

 コデクスは深く深く頭を下げる。

 司祭の立場にある者が旅人に頭を下げるなど前代未聞だ。

 ポネウスはその姿を見て、この人物が折れることは無いことを悟る。

 守る事に恐怖はある。

 自分に出来るとは到底思えない。

 それでも、ここまで頼まれてしまったのなら自分も腹を括るしかあるまい。

 

「.......わかった、俺に出来る限り、護衛をやってみる」

 

「!ありがとうございます!」

 

 コデクスは顔を上げたかと思えば再び頭を下げる。

 ここまで信頼してくれているのだ、自分も全力を尽くさなければならないと覚悟を決めながらポネウスは拳を固く握った。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、俺がクレムノス出身だったっていつから知ってたんだ?

 結構上手く隠せてたと思ったんだけど」

 

 「最初に会った時からわかっていましたよ?」

 

 「嘘だろ......」

 

 そんな一幕を挟んで、二日がたった。

 

 

* * *

 

 ポネウスは警備で固められた部屋に入る。

 その部屋の奥に居る人物に会うためだ。

 未だ不安は残っているが、覚悟は出来ている。

 

 コデクスは部屋の奥に座っていた人物の前につくと礼の姿勢をとる。

 

「これより、聖女様の護衛につくことになりました、ポネウスと申します。

 必ず、この任務を務めてみせます」

 

 己の覚悟を言葉にして口から出す。

 そして、ポネウスの前に座る赤い髪の女性は柔らかい笑みを浮かべながら挨拶する。

 

「えぇ、よろしくお願いするわね、ポネウスさん」

 

 ヤーヌスの聖女トリスビアスとクレムノスの殺戮者ポネウスの本当の意味での、初めての対面だった。

 

 

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