明日は遂に二相楽園!
交換はアベンチュリンにするか花火にするか...悩みどころですね
オクヘイマのとある場所で乾いた音が響く。
普段は兵士たちが来たる戦いに向けて己の武を磨く場所。
だが今だけはその場所を俺とセイレンスが独占していた。
互いに手に持った模造剣を目の前の相手を仕留めるつもりで振り下ろす。
模造剣がぶつかり合う度に周囲には衝撃が響き、突風が巻き起こる。
その殺し合いにしか見えない剣戟をひたすらに繰り広げていた。
「フッ!!」
「ハァッ!!」
セイレンスが振るう剣を弾きながら、己が持つ武器に意識を集中させる。
持ち手に力を籠め続け、ある御業を頭に浮かべてイメージを固めていく。
そして俺の集中力が最高潮に達したとき、固めたイメージ通りに剣を振り抜いた。
轟、と空気を裂く一振りをセイレンスは剣を構えて受け流す構えを取るが衝撃に耐えられずに大きく後退する。
本来ならそのまま追撃を行う所なのだがーーー。
「...限界、か」
バキリと音を鳴らして手に持っていた剣が刀身からボロボロと崩れていく。
先ほどの一撃に耐えられなかったのだろう。
それはセイレンスが手にしていた剣も同じようで真っ二つに折れてしまっていた。
「相変わらずキミの剣は荒波を思わせるな。
それで、先ほどの一撃はキミが求めていたものだったか?」
「全然ダメだな。
さっきのはただ単に力強い一撃ってだけだ。
やっぱりそう上手くは行かねぇな」
互いの剣が折れたことで俺たちは構えを解き、戦意を消す。
先ほどまで訓練場に満ちていた物々しい空気が徐々に消えていくのを感じる。
だがそんな空気が消え始めても、俺の心の内は晴れなかった。
「悪いな、わざわざ模擬戦に付き合ってくれたってのに大した収穫もなくて」
「別に気にする必要はない、ワタシも暇を持て余していたからな。
だが金色のカジキ、キミは一体何を習得しようとしているんだ?
今回の模擬戦何かを試しているように見えたが」
「何を習得しようとしてるのかはまだ秘密だ。
完成したときにド肝抜いてやるから楽しみにしてな」
俺がセイレンスを模擬戦に誘った理由、奥の手の開発は難航を極めていた。
目指すモノは決まっているのだが、今の時点では目標に遠く及ばない。
籠める力は十分、イメージも出来ている。
だが、決定的に『何か』が欠けている。
その欠陥を埋めない限り完成する事はないだろう。
取り敢えずセイレンスには強がっておくが、本当に完成出来るのか分からないままだった。
「そうか、それならばワタシも楽しみにしておこう。
ところで、これから時間はあるか?」
「応、今日は用事もないし時間は十分あるけど...何かあったか?」
「なに、最近良い飲食店を見つけてな。
せっかくだから共に昼餉にしないかと思ってな」
「お!良いなそれ。
ちょうど昼時だし良い頃合いだな」
足取りは軽く、先ほどまでの殺伐とした空気から一変して談笑しあう。
模擬戦の衝撃でボロボロになった訓練場から目を逸らしたまま、俺たちは訓練場を後にする。
訓練場の使い方としては間違っていないのだし、きっとケリュドラも納得してくれることだろう。
* * *
俺はセイレンスの案内のもと、あまり目立たない場所にある飲食店に入った。
その店の料理はセイレンスが太鼓判を押すほどの事はあり確かに美味しいものだった。
今度はトリビーたちを連れてくるのもありだろう。
だが今、俺の目には幻覚でも見せられているかのような感覚に襲われていた。
「ん?
どうした金色のカジキ、食べる手が止まっているぞ。
それとももう限界だったか」
「いやまだまだ食べれるけどよ....。
相変わらず尋常じゃない食べっぷりだな」
「ふむ、そうだろうか。
ワタシはいつも通り食事を楽しんでいるだけなのだが...む、無くなってしまったか。
すまない、これと同じものを後五つ頼む。
それとーーー」
テーブルを挟んで対面に座るセイレンス。
その傍らには完食済みの皿が積み上げられており、まだまだ料理を注文し続けている。
大量の料理をセイレンスは瞬きの間に食い尽くしていく。
だというのに食べ方自体は綺麗なのが本当に分からない。
これはオンパロス七不思議に入れてもいいのではなかろうか。
「そういえばキミやトリビーたちが旅をしていた時は食事は一体どうしていたんだ?
キミたちが料理をしている印象が浮かばないんだが...」
「ご明察、俺もトリビーたちもちゃんとした料理はできねぇよ。
基本路銀を稼いで食べ物を買ったり、最悪の場合は俺が狩ってきた獣を食べてたな。
味付けも何も無い丸焼きにして食べてたよ...今思うと結構キツかったな」
記憶の片隅にある旅の食事事情。
旅の中でも苦しい方の記憶を無理矢理頭の奥底に押し込める。
ひたすら無味で固く獣臭い肉の塊を黙々と食べる..俺もトリビーも顔が死んでいた。
そんな苦行、出来れば思い出したくはないのだ。
「セイレンスの方こそどうなんだ?
カイザーに会うまでは放浪生活だったんだろ」
「そうだな...確かワタシはーーー」
嫌な記憶を掘り返された腹いせに昔の食事事情を尋ねる。
それを聞いたセイレンスは記憶を掘り起こすように少しだけ間を置いて話し出す。
ーーその瞬間、突如として強い振動が俺たちを襲った。
机に積み重ねられた皿はグラグラと揺れ、慌ただしく動き回っていた店員たちは近くにあるものを掴み揺れに耐えている。
俺とセイレンスは特に慌てることもなく揺れが終わるのをただ待っていた。
そう時間がかかる前に、徐々に揺れが弱くなっていき振動は収まっていく。
振動が収まると、店員たちは慣れた様子で仕事に戻っていった。
「....最近やけに多いな、今みたいな地響き。
今月に入って何回目だよコレ」
「細かい数字は分からないが十は軽く超えているだろうな」
「...やっぱジョーリアが原因なのかね」
先ほど店を、オクヘイマを襲った地響きはここ最近になって発生し始めたものだ。
その地響きは数えるのが億劫になるほど発生しており、今となっては誰も大きな反応を示さなくなっていた。
巷では、地響きが起きるのは俺たちが火種を狙うことに怒ったジョーリアによるものだと囁かれている。
真偽はどうあれ、地響き自体はジョーリアが関わっているのは間違いない。
問題があるとすれば、依然としてジョーリアの居場所が分からないことだ。
「なぁセイレンス、カイザーは誰に《大地》の火種を継がせるつもりなんだ?
うちの軍で継げそうな奴なんて大して居ないだろ。
ラビエヌスとかセネカとか...思い当たるのはその程度だぞ」
「その件か...どうやらカイザーはワタシたちの中から選ぶつもりはないようだ。
トリビーたちの神託なのかはワタシも分からないがな」
「俺たち以外...か。
う~ん、オクヘイマの外で《大地》の火種を継げそうな奴.......。
...大地獣竜騎士団の『山を拓いた者』とかか?」
オクヘイマ外の実力者頭の中でを片っ端から上げていく。
そうしていると一人、思い当たる人物が居た。
多くの大地獣を引きつれ、巧みな戦術で黄金戦争を蹂躙した山の民。
『山を拓いた者』、確か名前はーーー。
「ジオクロス、か」
「そうそうジオクロスだ。
俺は会ったことないけどセイレンスはあるんだっけか」
「あぁ以前オクヘイマの国境周辺の関所と揉め事を起こしたらしくてな。
ワタシが向かったころには、その関所は既に跡形もなく崩されていたよ。
その際に少しだけ交戦したが...あの頑丈さと膂力は凄まじいものだった」
「お前でもそう思うのか...。
じゃあ火種を継ぐのはジオクロスで間違いなさそうだな」
「...いや、そうでもないかもしれない」
突如として俺の推測を否定するセイレンス。
その表情を見る限り、ジオクロスの他に印象に残っていた相手が居たのだろう。
あのセイレンスの印象に残るとは一体どんな人物だったのかと興味が湧くのを感じる。
「ジオクロスの傍らに、一際大きな大地獣が居てな。
大きさ、力強さ、存在感、その全てが一般的な大地獣とは比べ物にならないほど強大だった。
確か名前は..荒笛だったか」
「大地獣?
お前の印象に残るってことはソイツも強いんだろうけど...。
大地獣って...火種継げるのか?」
俺の疑問に答える者は居ない。
半神になったのはトリビーたちとアグライアの二人だけ、大地獣がなれるのかどうかは全く分からないのだ。
兎に角、《大地》の火種を継げそうな人物が二人もいることに安堵する。
だがーーー。
「ソイツらが継ぐかどうかは別だよなぁ。
山の民も大地獣もジョーリアの創造物だし...自分たちの創造主を殺すのには反対するだろうし」
「そこは今考えても仕方のないことだ。
今は一際大きな波が訪れるのを待つとしよう」
「...それもそうだな。
所でセイレンス」
「どうした金色のカジキ、まだ聞きたいことでもあるのか?」
「そうじゃなくてな。
お前、いつまで食べるつもりだ?
いい加減店員たちの顔青ざめてきてるぞ」
「もう少しだけ食べていくつもりだ。
この後はカイザーの護衛があるからな、腹は満たしておきたい」
セイレンスの無尽蔵の胃袋の前に店員たちの顔色は悪化の一途を辿る。
俺はセイレンスが満足するまで、哀れな店員たちの奮闘を観戦することになった。
* * *
セイレンスとの昼食を終えた後、俺は雲石の天宮を一人歩いていた。
今日は教官としての業務もなく完全な休日なので、バルネアでの休養を目的に訪れていた。
出来ればトリビーたちも休日だったのなら良かったのだがそう上手くは行かないものだ、と自分に言い聞かせる。
そうして一人寂しくバルネアに浸かっていると、背後から見知った人物が声をかけてきた。
「やあポネウス、君が一人でバルネアに居るのは珍しいね」
「こ、こんにちは。
この出会いも、風の導きでしょうか」
声をかけてきた人物、それはアポロニウスとヴァージニアの二人組だった。
二人ともバルネアに入りにきたようだ。
「よう二人とも。
今日は俺だけ休日なんでね、一人寂しく浸かってたところだよ」
「それなら俺たちも一緒に入ってもいいかな?
君とバルネアに浸かる機会は滅多にないからね」
「俺はいいけど...ヴァージニアはそれでいいのか?」
「え!?
わ、私は別にいいも悪いも特には...」
あからさまに動揺するヴァージニア。
彼女からすればアポロニウスと二人っきりだったところに俺が加わることになったのだ。
その表情からは隠しきれてない落胆の色が見える。
彼女が気落ちする気分も分かるので、機会を見てここから退散するとしよう。
人の恋路の邪魔をする輩は大地獣に轢かれてなんとやら、だ。
「そういえばポネウス、君がニカドリーから受け取った加護は一体どんなものだったんだい?
今まで中々機会が無かったからね、こんな風に共にバルネアに浸かる機会も滅多にないし教えてくれないか?」
「あ、それは私も気になります。
詩も詳しく書いてあった方が後の世の人々も共感しやすいでしょうし」
「あ〜そういや話してなかったっけ。
まぁ割と単純なモノだったよ、何か隠されたモノとかそういうの無かったし」
「単純?
それはどういうーーー」
「要は『殺した相手から奪う』。
たったそれだけの加護だよ」
ニカドリーが俺の身体に宿した『略奪の加護』は文字通り奪うことに重きを置いているものだ。
ならば一体何から何を奪うのか、答えは単純だった。
『何から』は『俺が殺した相手から』
『何を』は『回復力や生命力などを』
俺の身体に備わっていた異常な回復力の正体は今まで殺してきた相手のものだった、というわけだ。
「俺の加護は大体そんなものだよ。
殆どトリビーたちとカイザーの受け売りだけど」
「殺した相手から回復力などを奪う加護か...単純だが強力なものだね。
特に君のような戦士にはピッタリの加護だ」
「アポロニウスの言う通り、凄い加護だと思います。
ですが他人にまつわるモノを奪い取って身体に変調は現れないのですか?」
「そこは俺も分かってない。
今の所それっぽいのは幻聴だけだし、それも加護の影響か分かってないし。
何かある気はするんだけどな」
加護が齎す身体への影響は今の所目立ったものはない。
そもそも奪っていると分かるのが回復力といったものだけだ。
もしかしたらそれ以外に何か奪っているのかもしれないし、不調も俺が気づいてないだけで進行しているのかもしれない。
最悪の場合、朝起きたらぽっくりなんてことも否定できないのが現状だ。
「そこまで警戒しなくても良いんじゃないかい。
ニカドリーだって加護を与えた相手が不幸になるのを望みはしないだろう?」
「い~や望むね、あのタイタンは。
ニカドリーは不幸を乗り越えるべき壁みたいに思ってる節あるし。
俺にどんな不調が起こっても『試練を乗り越えろ』だの言うだろうさ」
「詩に書かれているニカドリーは流石にそこまで横暴ではなかったと思うのですが...。
そうですね...例えばニカドリーがモネータの信者に恋をしたという物語ではーーー」
俺の偏見混じりのニカドリー評にヴァージニアは苦笑する。
そのまま彼女は詩に書かれているニカドリーについて語り始める。
澱みのないその語り口は、彼女の詩に対する確かな想いが伝わってくるものだった。
ーーその時、ふととある事を思いつく。
ヴァージニアならば、俺の奥の手を完成させるのに必要なモノを知っているのではないかという考えが。
「....ヴァージニア、ニカドリーについて聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「え?
え、えぇ私に答えられることならば何でも」
「君が詩に興味を持つなんて珍しいこともあるものだね。
それもニカドリーについてなんて、一体何を聞くつもりなんだい?」
「俺が聞きたいのは一個だけ、『天罰の矛』についてだ」
* * *
「随分と満足そうな顔をしているな巡剣卿。
何か良いことでもあったか?」
「応、やっと奥の手に足りないものが分かったんでな。
後はソレをどうやって扱うかってだけだ」
アポロニウスとヴァージニアとバルネアに浸かってから数時間後、俺はケリュドラの仕事部屋に通されていた。
どうやらセイレンスは席を外しているようで、この部屋に居るのは俺とケリュドラだけだ。
狭い仕事部屋にはケリュドラと二人だけ、しかも彼女から如何にもな雰囲気が漏れ出ている。
俺にとってそんな状況は、心底胃と心臓に悪いものだった。
今は奥の手に足りないものが分かった喜びが勝っているが、いつ不安と緊張に塗りつぶされるか分かったものではない。
出来れば早く終わってくれと願いながら、俺はケリュドラが口を開くのを待つ。
「.....巡剣卿、そこの椅子に座れ。
久しぶりにチェスでも打とうではないか」
「チェス?
.....一体何企んでやがる」
「そう警戒するな、ただ話ついでに誘っただけだ。
それに駒を動かしながらの方が、巡剣卿も少しは話しやすいのではないか?」
「...分かったよ。
先行と後攻はどうやって決める?」
「僕が後攻で構わない。
それとも、まだハンデが欲しいか?」
「要らねぇよ!!
覚悟しとけよ、前やったときよりも強くなってるんだからな。
絶対吠え面かかせてやる」
「ほう?
このカイザーに吠え面ときたか。
ならば巡剣卿は僕が勝った時、一体どんな顔をするのだろうな?」
敵対心を露にしながら睨みつける俺と、悪魔のような笑みを浮かべるケリュドラ。
互いにぶつける言葉の強さとは裏腹に俺もケリュドラも静かに駒を動かす。
「それで、今日はどんな用だ?」
「お前を呼び出した理由は幾つかあるのだが...まずはアレから聞くとしよう。
悲惨な有様に成り果てた訓練場について、な?」
「..........」
やっべ、訓練場のこと完全に忘れてた。
頭からすっぽ抜けていたやらかしを今になって思い出す。
駒を動かしていた手は空中で固まり、微動だにしない。
いや、動かないのは手だけではなかった。
脚、胴体、頭といった身体の部位が己の役割を放棄している。
そんな状態の俺に取れる手段といえば口を閉ざすことだけだ。
「黙ったところで意味はないぞ、既に剣旗卿が口を割っている。
まったく、どういう戦い方をすればあそこまでボロボロに出来るんだ」
「...別に俺たちも壊したくて壊したわけじゃないぞ。
ちょっと本気でやり合ったら勝手に壊れただけだし」
「わざと壊したわけではないのは分かっている。
だが訓練場は僕の軍の皆が使う場所、次からは注意して扱え。
それか緊急時に対応出来る距離なら郊外に出ても構わん」
「...すまん、以後気を付ける」
「今回の失態は戦場での働きで挽回しろ。
特に《大地》の火種を巡る戦いではお前や剣旗卿の働きが要だ」
ケリュドラは一度話を区切り駒を動かす。
彼女が動かした駒は俺の駒を押しのけ、盤上から除外する。
そのままケリュドラは盤面を見ながら話を続けるため、口を開いた。
「そして恐らくジョーリア戦の前に幾つかの勢力と相対することになるだろう。
その中で、一際厄介な相手がいる」
「厄介な相手って、大地獣竜騎士団か?」
「知っていたか、ならば話は速い。
奴らの脅威は大量の大地獣による力押しと、将である山を拓いた者の指揮能力の合わせ技。
特に荒笛と呼ばれる大地獣は他の個体とは比べ物にならん。
そこで巡剣卿には荒笛の使者として奴らの陣に潜り込んでもらう」
「俺が使者?何で?」
頭が疑問符で埋め尽くされる。
相手の陣に潜り込んでやることが何らかの仕込みではなく、荒笛への使者とは目の前のカイザーは一体何を言っているのだろうか。
「以前運命卿たちに聞いたがお前は警備がある場所でも忍び込めるのだろう?
敵陣地に潜み、万が一見つかったとしても無事に戻ってこれるのは巡剣卿ぐらいだからな。
何よりお前は嘘が下手だ、あの大地獣を信用させるにはお前が適任だと判断した」
「ちょっと馬鹿にしてないか?
...まぁいいけど、荒笛に会って何を伝えりゃいいんだよ」
「僕があの大地獣との面会を求めているということを伝えろ。
その際奴を面会の場に引きずり出す手段は巡剣卿に一任する、ただし武力を用いたものは禁止だ」
「武力以外ねぇ....ま、何とかなるだろ。
ていうかそんな話するって事はジョーリアの居場所見つかったのか?」
突如としてジョーリア戦の事を語り出すケリュドラに俺は期待を込めて問いかける。
ジョーリアの居場所を探し始めてから数年が経過している現状、いい加減見つけなければ軍の者から不満が出始めるのも時間の問題だろう。
俺は駒を動かしながらケリュドラの返答を待っていると、ケリュドラは分かりやすく眉間に皺を寄せていた。
「残念なことに未だ発見には至っていない。
目ぼしい場所は探しているが流石に地中に潜られると探しようがない、捜索は難航したままだ。
ーーだが、ここ最近兆候が見られる。
巡剣卿も知っての通り、地響きだ」
「やっぱりアレはジョーリア関係で間違いないのか」
「ここまで頻繁に地響きを発生しているというのに、今までのオクヘイマではこういった地響きは滅多に起きるものではなかった。
ならばジョーリア由来のものだと考えるのが妥当だろうな。
僕はこれをジョーリア出現の兆候だと捉えている。
そして、その時もすぐ近くまで迫っているだろう」
「ハハッ、ようやくか。
さてーーー」
ケリュドラが話したのは彼女の推論だ。
明確な証拠はないが、彼女の言うことだからきっと大きく間違えてはいないのだろう。
俺はその返答を聞いて思わず笑みを浮かべる。
ようやく、火を追う旅を再開できる目処が立ってきた。
ならば奥の手の完成も急がなければと決意を固める。
俺は気分が上がったまま盤上の駒を動かして、ふと一度盤面全てを見直す。
一箇所に固まった複数の駒を取り囲むようにケリュドラの駒が配置されていた。
その状況は誰がどう見てもこれ以上打つ手がないようでーーー。
「.....参り...ました」
「また、僕の勝ちだな。
確かに成長はしていたが、まだまだ犠牲にする駒を選ぶのが下手だな巡剣卿は」
「い、いや待ってくれ。
今のは話しながら打ってたわけだし?
まだ全力ではなかったってことでもう一回、もう一回やらないか!?」
「...お前の負けず嫌いも大概だな。
だが、挑まれたのならそれを迎え撃つのも王としての責務か
いいだろうもう一度、完膚なきまでに完全な敗北をくれてやろう」
尊大な態度で俺の再戦を認めるケリュドラ。
俺はそんな邪知暴虐、冷酷無比なカイザーの駒目掛けて自身の駒を動かすのだった。
ちなみに今日の戦績は四戦四敗、一回も勝てなかったよちくしょう。
* * *
ケリュドラからの呼び出しの後、俺は彼女の言う通りオクヘイマから少しだけ離れた場所に来ていた。
周囲は岩肌に囲まれており動き回っても問題が無い程度には広い。
人の気配も無いため、鍛錬にはもってこいの場所だった。
まぁここを見つけるのに時間がかかったせいで周囲は既に真っ暗なのだが。
「ㇷーーー」
長く静かに息を吐く。
自分が目指すものを頭に浮かべ正面を見据える。
目の前の巨岩に意識を集中させて手に持った模造剣を構えた。
ここまでは今までと同じ動作、既に慣れた動きを繰り返すだけ。
肝心なのはここから、先ほどまで外に向けていた意識を己の内側へと向ける。
徐々に意識は深い所に潜っていく。
このまま意識を張り巡らせて、とあるモノを探し当てる。
しかし今探しているモノがどういったものかを、俺は知らない。
形も、色も、匂いも、俺は何も知らない。
だがソレがある事だけは分かっている。
だからこそ俺は意識をより走らせ続けた。
そして、走らせていた意識が何かを見つける。
その見つけたモノに触れようと手を伸ばす。
それに触れた瞬間、意識を一気に外側へと引き戻す。
触れた感覚を失う前に思い切り、構えていた模造剣を目の前の振り抜いた。
「オオォッ!!」
轟音を立てて巨岩は粉々に砕け散る。
同時に模造剣も音を立てて壊れてしまう。
その結果を見ながら俺は思わず頭を抱える。
「ん~何か違うな。
あの感覚は間違ってない筈なんだけど...」
先ほどの感覚を振り返る。
確かに俺はあの時目当てのモノを見つけたのだ。
だが、それを使うことは出来なかった。
一体何が駄目だったのか、原因が分からず唸っていると何処からか微かな音が聞こえてくる。
暗黒の潮か何かかと警戒を強めるが、その正体に気づくと一気に警戒心が消えうせた。
「あ!こんな所にいた!
もーポネウスったら探ちたんだからね!」
「ようトリビー、何か用か?」
「いつまでたっても帰ってこないから探ちに来たの!
ほらライアちゃんもフェルちゃんも待ってるから帰ろ?」
「あー悪いんだけどもう少しここに居ていいか?
もう少しで何か掴める気がするんだよ。
ライアとサフェルには後で謝るからさ」
「...そっか、ん~~。
ーーーうん!そうちよう!」
俺の提案にトリビーは腕を組んでうんうんと唸る。
一体どうしたのかと首を傾げていると突如としてトリビーは何かを決めたように声を上げた。
「ポネウスの用事が終わるまで、あたちたちもここに残るね。
こんな暗い場所にポネウス一人残して帰るのは何か嫌だち。
邪魔にならないようにするから安心ちて」
「えっと...別に無理に残らなくてもいいぞ?」
「無理とかじゃないよ。
あたちたちがそうちたいだけ」
「...分かった、じゃあ待っててくれ。
ㇷーー...良し!やる気出てきた!」
先ほどより俄然やる気が湧いてきた。
折角トリビーがここに居るのだ、格好悪い所は見せられない。
俺は気合を入れなおして予備の模造剣を手にとり、もう一度先ほどの動作を反復し始めた。
それから何度も模造剣を振り、壊しながらも少しずつ感覚を掴み始めていた。
「触れるだけじゃあ駄目か。
だとしたら...もっと荒っぽくしてみるか?
ただ触れるんじゃなくて、思いっきり掴むみたいに...」
考えを言葉に出しながら俺は頭を悩ませる。
恐らく土台は出来ているはず、後はソレの扱い方を手に入れるだけ。
そうやって唸り続ける俺をトリビーは周囲に転がっている岩の上に座ってジーっと見つめている。
そのままドンドン時間が過ぎていく。
俺は同じように模造剣を手に取ろうとすると、突如として嫌な予感が胸の内に湧いた。
「ん?...今のって...」
「?どうかちたのポネウス。
何かあった?」
「ん~嫌な予感がした気がしたんだけどーーーっ!?」
嫌な予感に従い集中を解いて周囲を見渡す。
俺の様子を不思議に思ったのかトリビーが問いかけてくる。
彼女の質問に答えようとした瞬間、世界が揺れるような感覚を俺とトリビーを襲った。
「きゃあっ!!」
「っトリビー!!」
その揺れに耐え切れずに倒れそうになるトリビーの下に走り庇うように抱きしめる。
異常なまでの激しい揺れ、それは周囲の岩々すら動かしてしまうほどだ。
これほどの揺れ、オクヘイマも無事かどうかも分からない。
そんな不安を抱えたまま、俺たちは何とか耐え忍ぶ。
暫くすると、揺れは収まっていく。
完全に揺れが収まり、ようやく一息を吐く。
「何だったんだ今の揺れ、今までのとは比較にならねぇぞ...。
ってトリビー!大丈夫だったか?怪我とかしてないか?」
「.........」
「トリビー?もしかしてどこか痛むのか!?」
「!?だ、大丈夫!大丈夫だよ!!
怪我なんてちてないから!」
先ほどの揺れのせいか、呆気に取られたような表情を見せるトリビー。
もしや怪我でもしたのかと一気に不安が湧き上がるがトリビーは大丈夫だと言い張っている。
暗がりでよく見えないが顔が赤い気がしたのだが...彼女も怪我はしてないと言っているし恐らく大丈夫だろう。
抱きしめていたトリビーを離し、俺は周囲を見渡す。
一度オクヘイマに戻ろうかと考えていると、何処からか凄まじい神気が感じられた。
「!!?今のは!!」
「ポ、ポネウス...今の気配って...」
「あぁ間違いない。
ーーージョーリアだ」
尋常ではないほど巨大な神気。
先ほどの今までとは比較にならないほどの地響き。
ケリュドラの言っていた通り、あの地響きは予兆だったのだろう。
ジョーリアはその神体を地上に現したのだろう。
長いこと待たされたが遂にその時が来たのだ。
《大地》の火種を狩る、その時が。