スタレ×GIGOコラボで丹恒のアクリルボードゲットしました。
いつ見ても面がいい....ってなってます。
サフェルとキュレネはもう無くなっていました、ちくせう。
ケリュドラ率いる軍団がオレノス高原に到着してから間もなく、ジョーリア討伐戦は幕を開けた。
だが、ケリュドラの想定通りにジョーリア戦の前には障害が現れる。
ジョーリアを守るように立ちはだかるのはジオクロス率いる武勇名高き大地獣竜騎士団。
彼らの策は単純明快、ゴリ押しだ。
竜騎士団の戦力はクレムノスよりも数は少ない、個々人の練度も特別高いわけでもない。
だというのに俺たちはその策に苦戦を強いられている。
それは何故か、答えは生まれからくる性能差だ。
山の民や大地獣はデカい、固い、力強いの三つを生まれつき備えている。
そんな連中の突撃を皆、兎に角いなす事に注力していた。
ーーー俺を除いて。
「ウオォォォォォォォン!!!」
「ダーッ!鬱陶しい!!
いい加減突っ込んでくんのやめろや面倒くさい!!」
「ウオォォォォォォン!!?」
「....大地獣の突進を正面から受け止めるとはキミの怪力も大概だな。
その調子で頼むぞ、キミの働き次第で戦線が動きかねない」
「これ結構疲れるんだからお前も働けよ!?
受け止めるのは無理としても転ばすぐらいなら出来るだろ!」
正面から踏み潰さんと迫ってくる大地獣を俺は正面から受け止めてから他の大地獣に向かって放り投げるを繰り返す。
既に数十回はこの動作を繰り返しているのもあっていい加減面倒くさくなってきたところだ。
そして近くにいたセイレンスは、その様子を見て引き気味の視線を送ってくる。
その視線に声を荒げて返しながらちぎっては投げを繰り返す、俺の心境はもはや無心の領域に達していた。
「あー大地獣相手じゃ刃の通りも悪いしどんだけの間投げてればいいんだか」
「カイザーには策があるようだったしもう少しの辛抱だ。
それにキミもまだ余力はあるだろう?」
「そりゃ本命前に力使い切るわけにもいかないしな。
ㇷーーー.....よし、やってやるかぁ!!」
「その意気だ。
ワタシもキミの起こす波に乗らせてもらうとしよう」
そう言ってセイレンスは迫りくる大地獣の間をすり抜ける様に移動する。
その最中に水の魚を大地獣の足元、地面目掛けて撃ち込んでいく。
彼女が打ち出す水魚たちは地面を抉り、大地獣の踏みしめようとした足場を奪う。
力強く踏み抜こうとする足場を失った大地獣は仲間を巻き込みながら転倒していく。
俺は投げ、セイレンスは転ばせる。
そうしている間にラビエヌスやセネカたちが山の民を打ち取っていく。
このまま俺たちが大地獣を抑え続けていれば勝ちは見えてくる。
そう判断していると、突如としてセイレンスが声を張り上げた。
「金色のカジキ!!上だ!!」
「上?ってうおぉっ!?」
セイレンスの言う通りに上に視線を向ける。
そこには大剣を振り上げながら俺目掛けて落ちてくる人影が見えた。
俺は咄嗟にその大剣を避けようとその場から跳び退く。
その人影が振り下ろした大剣が地面に激突すると、大地に亀裂が走り土や石が弾丸のように飛び散る。
それに直撃していれば、俺の身体は原型を留めはしなかっただろう。
「危ねぇな...指揮官がこんな前線に出てきていいのか?
なぁ、ジオクロス」
「金髪金眼、背に背負った両剣、そして我らの同胞を投げ飛ばすほどの膂力...貴様が噂に聞く殺戮者か。
貴様に、私の名を教えた覚えは無いのだがな」
「なに俺が一方的に知ってるだけさ」
俺に奇襲を仕掛けてきた人物は竜騎士団の長、ジオクロスだった。
彼は己の背丈ほどもある大剣を構えてながら注意深く俺の様子を観察している。
その視線には露骨なまでの敵意が含まれていて俺を突きさしていた。
俺は視線に応えるように、背負っていた両剣を手に持つ。
ジオクロスの動向に対して意識を集中させる。
ーーーそれが失敗だった。
「!?しまった!!」
ジオクロスの動きに集中しすぎたせいか、彼の後ろから突撃してくる大地獣に気づけなかった。
他の大地獣の相手をしていたセイレンスも咄嗟には反応できずに通過を許してしまう。
俺はその大地獣を追おうとするが、その隙をジオクロスは見逃さない。
彼が俺目掛けて振り抜く大剣を、こちらも両剣を振る事で相殺を図る。
鋼同士がぶつかり合う瞬間、甲高い音が戦場に響く。
鍔迫り合いをしながら相手を押し飛ばそうとするがジオクロスは微動だにしない。
彼の膂力は俺と同等...もしくは俺以上だと判断する。
俺は均衡が崩れないうちに後ろへと移動した。
「金色のカジキ、大地獣の相手はワタシがする。
キミは目の前の相手に集中しろ!」
「応、任せるわ。
俺もよそ事考えながら戦える相手じゃないみたいだしな」
「ふん、彼らの突進をあの魚一匹で止められるものか。
貴様が私と戦っているうちに貴様ら全てを踏みつぶしてやろう」
「生憎セイレンスはアンタが思うほど大人しい奴じゃないんでね。
カイザーの剣旗、あんまり舐めるなよ?」
俺は両剣を構えると真っ直ぐにジオクロスへと突っ込む。
彼も突っ込んで来る俺に合わせて大剣を振り抜く。
だが、動きは緩慢だ。
俺は振られる大剣を最小限の動きで交わすとジオクロスの懐へと潜り込む。
狙いは脇腹、俺は力を籠めて両剣を振る。
その一撃は確かにジオクロスへと直撃し、深手を負わせる...筈だった。
「硬すぎんだろ...!」
確かに切り裂いた筈の脇腹には想定していたよりも浅い傷跡しか残さなかった。
ジョーリアの創造物たる山の民。
彼らは大地獣と同じよう力が強く、頑丈だ。
特に目の前の戦士はその特徴がより強いらしい。
傷を付けられたジオクロスは剣を振り抜いたままの俺を蹴り飛ばす。
その蹴りをいなし、距離を取るが下手に距離を詰めるのは命取りだと判断する。
だがーー。
(別に勝てないほどじゃない。
力と硬さには要注意だが、攻撃事態は簡単に避けられる。
ただ倒すまでに時間はかかりすぎるな)
そう問題は俺たちの陣へと突っ込む大地獣たちだ。
先ほどまでは俺とセイレンスで対処していたが、俺がジオクロスの相手に集中している今どうしても対処は難しくなる。
セイレンスならば長いこと持たせることも可能だろうが、それにも限度はあるだろう。
ーーならばジオクロスに俺の奥の手を使ってみるか?
未だ俺の奥の手は使えるのかどうか分からない、それにジョーリア戦のことを考えるとここで消耗しすぎるのも避けたい。
どうするかと悩んでいると、ふと小さな揺れを感じる。
その揺れは少しづつ、確かにに大きくなっていく。
ジョーリアがまた地響きを起こしたのかと思いもしたが、それにしては違和感があった。
この揺れは巨大なものが徐々に近づいてきているような感覚を思わせる。
一体何事かと思った次の瞬間、遙か後方から山のような気配が現れた。
その気配はつい最近、俺も感じたことのあるものだ。
「まさか...荒笛か!?」
まずい、と焦りが顔に出る。
今荒笛が居るであろう場所は俺たちの陣よりも後方だ。
そのまま荒笛が直進するだけでトリビーたちやケリュドラが居る本陣は壊滅するだろう。
最悪の状況が頭に浮かんだその瞬間、俺のためらいは消し飛んだ。
後の消耗なんて考えていられない。
今すぐにでもジオクロスを倒して荒笛の対処に急ごうと意識を切り替える。
ーーだが、俺の目に映るジオクロスの顔には先ほどまでの怒りや敵意といったものは無くなりたった一つの感情だけを示していた。
「荒笛...何故そこに居る..?」
ジオクロスの口から漏れ出た言葉を聞き取り、疑問が頭に浮かぶ。
荒笛が俺たちの陣の後方に現れたのはジオクロスの指示ではなかったのか?
思わず首を傾げると、突如として身体の奥底まで響く音が戦場に響いた。
「ーーーーーー!!!!」
その音の正体は荒笛が発した鳴き声だった。
他の大地獣の鳴き声とは比較にもならない重低音。
荒笛はそんな鳴き声と共に歩き始めた。
一歩ずつ、地響きを伴いながら歩いていく。
その鳴き声は聞く者の動きを止める。
その揺れは大地に立つものを跪かせる。
まさしく大地のタイタンの子、大地の化身に相応しい御業だ。
そして荒笛はそのまま俺たちの陣を踏み抜くことなく素通りする、目的はそれではないと言わんばかりに。
ふと、荒笛の登場により静寂が支配した戦場で気づくことがあった。
それは陣に向かっていった大地獣たちの動きが軒並み止まっていることだ。
彼らは荒笛に恐れをなしているのか、一向に動くことはない。
だがそうなると、荒笛がやっていることはただただ俺たちに有利になっている。
味方の大地獣の動きを止め、自身は攻撃を加えることなくただ歩み続ける。
それは『裏切り』とさえ捉えられるものでーーー。
「まさかカイザー...あの密会はそういうことか!?」
『裏切り』その言葉が頭に浮かんだ瞬間、ケリュドラと荒笛の密会が思い当たった。
ケリュドラはそれの内容を教えてくれなかったが、今起きている荒笛の所業はそれが原因としか考えられない。
彼女のやり口に驚愕を隠せないでいたが、それも困惑から立ち直ったジオクロスの反応でかき消えた。
「何故..何故だ!荒笛!!
何故奴らの味方をしている!?
奴らは...我らが父を...!!」
いや、ジオクロスは困惑から立ち直ってはいなかった。
ただ困惑の中に俺たちへの怒りが混ざっただけだ。
その意識は最早俺を追い出しており荒笛にしか向いていない。
誰からどう見ても、隙だらけだった。
「フッーー!!」
俺はその隙を突いて、一気に接近する。
流石に正面からでは防がれるので、背後に回って一撃で仕留めるつもりで両剣を振るう。
その刃はジオクロスの硬い肌を通り抜け、肉を裂き、血を噴き出させる。
深手を与えた感触だった、だというのに彼はまだ倒れない。
ジオクロスは意識を背後にいる俺に向けなおし手に持つ大剣を振るう。
だが、深手を負わされ大した力も込められていない一撃なんて恐れるに足りない。
俺は横なぎに振るわれる大剣の腹に足を乗せて跳躍する。
そのまま肩口から斜めに一気に刃を振り下ろす。
「ぐっーーーあら...ふ.....」
胸と背中、一気に身体に深手を二つも作られたジオクロスは前のめりに倒れる。
大地獣竜騎士団の長、山を拓いた者ジオクロスは地面に倒れたままそれ以上動かなかった。
「...クソッ、気分悪いな」
確かな強敵を想定よりも早く容易く倒せた。
本来なら喜ぶべきなのだろうが、俺の胸中は複雑だ。
今の戦いはジオクロスが見せた隙につけ込むことで手にした勝利。
戦場で隙を晒す方が悪いのだが、その隙の原因が友の裏切り。
それもその友を裏切らせたのはこっちの首魁と来た。
どうしても、胸の内に複雑なものを感じずにはいられなかった。
「.....ぐ.......ぉ.....」
「!!まだ息あったのか。
頑丈とは聞いてたけど予想以上だな」
地面に倒れながら呻き声を発するジオクロス。
大量の血を流していながら、彼にはまだ息があった。
流石にもう戦えないだろうと判断した俺は彼の衣服を使い軽い止血を行う。
そのまま手足もきつく縛って動けない事を確認してからジオクロスを抱え上げる。
「悪いけど捕虜として扱わせてもらうぞ。
...まぁ聞こえてないだろうけど」
俺の背後を見れば、荒笛の鳴き声によって動けなくなった大地獣を無視して山の民とラビエヌスやセネカが戦っているのが見える。
山の民も善戦こそしているが、ラビエヌスたちの勢いには敵わない。
大地獣竜騎士団との戦いは俺たちの勝利に間違いはないだろう。
「....何だかなぁ」
俺たちの勝ちは確かで、ジョーリアまでの道は開けた。
だというのに俺の気分は晴れないままだった。
* * *
ジオクロス率いる竜騎士団との衝突の後、ジオクロスを始めとする山の民数十名を捕虜として捕らえた俺たちはジョーリアの下へ向っていた。
周囲の面々の士気は上々。
なにせこれから始まるのは正真正銘の神殺し。
今までのヤーヌスやモネータとは違う、本格的な戦いになるのだから。
「なのに浮かない顔ちてるね。
何かあったの?」
「ん?あ~まぁ色々な。
所でトリビー、今荒笛が何処にいるか知ってるか?」
「荒笛ならカイザーとお話ちてるよ。
ポネウスも話ちたいならカイザーの後にちた方が良いと思うな」
皆の士気は上々、だというのにトリビーの心配通り俺の気分は浮かないままだった。
その原因である荒笛と一度話をしたかったのだが、その機会も訪れそうにない。
出来ればジョーリア戦の前にこの気分を解消しておきたかったのだが...それは難しそうだ。
「..ポネウスはやっぱり荒笛の裏切りが気になるの?」
「そりゃあな。
荒笛にとってジオクロスたちは長年連れ立ってきた友人だろ?
しかも俺たちは自分たちの創造主を殺そうとしてるわけだし...正直荒笛が俺たちに味方する理由がさっぱり分からないんだよ」
「荒笛があたちたちに味方してくれた理由...う~ん」
俺が抱えていた疑問にトリビーは頭を悩ませる。
荒笛は何故友を裏切って敵である俺たちの側に来たのか、それがどうしても分からない。
荒笛にとって何か得することでもあったのか、元々ジオクロスたちとは仲が悪かったのか、それとも荒笛がジオクロスと友人だと俺が勘違いしていただけだったのか。
先ほどのジオクロスの動揺振りを見ていると、そういった疑問が頭から離れなかった。
「荒笛にとって..ジオクロスたちは大切な友人じゃなかったのかね...」
「...多分だけど、そんな事はないんじゃないかな」
「..トリビーは何でそう思うんだ?」
「荒笛にとって、ジオクロスたちは大切な友達だと思うの。
ただ、どれだけ大切な友達でも譲れないことってあるち...荒笛はそれを選んだだけなんじゃないかな」
「譲れないこと...ねぇ」
「うん、その選択がどれだけ苦ちくてもやらなきゃいけない事もある。
火を追う旅だってそうだち...ポネウスだって今までそうちてきたでしょ?」
「!確かに...そうだな」
トリビーの話に俺は言葉を詰まらせた。
今まで、どれだけ嫌なことでもやってきた自覚はある。
その最たるものとしては、死に瀕したトリビーたちの姉妹に引導を渡すこと。
それをすると決めたのは俺自身だが、実行する度に耐えがたい苦痛に苛まれる。
荒笛にとって、今回の裏切りはそういったモノなのだろうか。
「だとしたら、俺はこれ以上何も言えないな。
元々裏切り云々については俺も他人事じゃないし」
「そうそう、これからが本番なのにこれ以上悩んでたら危ないよ。
普段のポネウスだって言ってるでちょ、『これ以上考えてもしょうがないから後回し』って。
それでも気になるなら全部終わった後に荒笛に聞きに行こ?」
「...それ俺のモノマネのつもりか?
でも...そうだな、そうするとしよう」
俺はトリビーの下手なモノマネに思わず笑ってしまう。
先ほどの良くない気分は置いておいて、今は目の前の大事に集中だ。
心機一転、俺たちはそのまま山々の奥深くへと進んでいく。
道中では、周囲の大地が揺れている。
その揺れは決して大きくはないが、俺たちを拒絶しているように感じた。
俺たちはその拒絶を無視して進み続ける。
暫くして、一際大きく広けている場所に出た。
周囲は山々に囲まれており、特段目立つものはない。
その広場にある尋常ではないほどの大きさの裂け目を除いて。
そして裂け目から漏れ出ている禍々しい神気が俺たちを飲み込もうとする。
先ほどまでの士気は何処へ行ったのか、周りの戦士たちは気圧されているようだ。
俺やセイレンスといった精鋭たちは神気に影響されることはないが、戦える人数はこれだけで一気に減らされてしまった。
神気に気圧され、徐々に怯えが伝播する。
それが軍全体に広まってしまう前に、軍団の先頭にいたケリュドラは声を張り上げた。
「これより僕たちは《大地》のタイタン、ジョーリアの討伐を始める!!
かの神は暗黒の潮に飲まれ正気は失い、民たちの暮らしを崩しかねない存在に成り果てた。
だからこそ、僕たちはここで《大地》を打ち砕く!!
そして宣言するのだ、最早《大地》を支えることは出来なくなったタイタンに!!
今こそ我々は決別を果たすと!!」
ケリュドラの声が軍全体に広がっていく。
その声はタイタンの神気からくる怯えを塗りつぶし、再び火を灯させた。
「僕の精鋭たちよ、深き裂け目に潜り《大地》を砕け!
地上に残る者たちは潜る者たちへの援護をしろ!
この一戦に、お前たちの全てを使え!!」
ケリュドラの指示の通り、軍団は動き始める。
セイレンスやラビエヌス、セネカといった戦士たちは裂け目まで近づいていく。
それ以外の者たちは大砲などの準備を始める。
俺もセイレンスたちに遅れないように、裂け目の方へと足を進めた。
「じゃあ行ってくるよトリビー。
俺の勇姿、ちゃんと見といてくれよ?」
「うん、行ってらっしゃいポネウス。
無理せずに頑張ってきてね!」
「応!」
トリビーに別れの挨拶を済ませてから、急いで裂け目の淵に向かう。
そこには既に俺以外の戦士たちが準備を済ませて、地底に居るであろうジョーリアに視線を向けていた。
「金色のカジキ、運命卿との挨拶は済んだのか?」
「勿論、ちゃんと済ませてきたさ。
で?この裂け目の奥にジョーリアが居るんだな?」
「あぁ、奥底から届いてくるこの神気。
ジョーリアの神体こそ見えないが、確かに居るだろうな」
「よし、じゃあ気張っていくか!
...あ~でもその前に、荒笛の奴どこ行った?
何か見当たらないんだけど」
「彼なら先ほど地面に潜っていったぞ。
何をする気なのか分からないが、加勢する気は無いのかもしれないな」
「ふ~ん...ま、今気にしてもしょうがないか」
「巡剣卿に剣旗卿!
私語は謹んでくれ、もうそろそろカイザーの号令が出る頃合いだろう」
「はぁ~、タイタンと戦う前だっていうのにあなたは全く変わらないわね。
その能天気っぷり、羨ましいことね」
「ふん、何だ冬霖卿。
まさか怯えているのか?」
「そんなわけないでしょう。
その忠義が詰まった頭だとそんな事しか考えられないのかしら」
「何だと貴様!!」
「お前ら二人は本当にブレないな」
俺たちの傍に居たラビエヌスとセネカはいつものように喧嘩を始める。
最早ここまで来ると安心感が来てしまうほどだ。
その様子を呆れた目で見ていると、ケリュドラからの号令が届く。
「さぁ、準備は整った。
火を追う旅...その叙事詩に新たな一節を刻もうではないか。
全軍...攻撃を開始せよ!!」
ケリュドラの号令が戦場全体に響き渡る。
裂け目の淵に用意された大砲は地底に向かって弾を発射していく。
その轟音に合わせて俺たちも裂け目へと飛び込んでいった。
* * *
裂け目の壁面をずり落ちながら、どんどん大地の奥深くへと潜っていく。
周囲には当然ながら灯りは無く、相当深くへと潜ったはずだがジョーリアの姿は見えてこない。
だが、確かにそこに居るという確信はあった。
地上でも感じられた神気が深くへ潜っていくにつれてより強くなっていく。
それの影響か自然と息が浅くなり、額に冷や汗が浮かぶ。
身体を押し潰すような巨大な神気に飲み込まれないよう意識を保っていると、上の方から何かが落ちてくる音が聞こえてくる。
その音を発生させているモノは俺たちを追い抜き、一足先にジョーリアに衝突した。
それと同時に暗闇に包まれていた裂け目が轟音と共に一気に明るくなる。
どうやら音の正体は地上から放たれた砲弾だったようだが...俺たちにはその正体は既にどうでもいいものになっていた。
大地獣に似た十数倍はあるであろう巨体。
神体に無数に点在する山のような大きさの棘。
《大地》のタイタン、ジョーリアの神体が爆発の光で浮かびあがった。
「予想はしてたけど...流石にデカいな。
ーーけど傷も多い...ん?」
次々に打ち込まれる砲弾によって生じる光で、ジョーリアの姿がよく見える。
その神体には目で見てわかる程の大きさの傷が数多く見られた。
恐らく暗黒の潮によって付けられた傷なのだろう。
俺は狙いをその傷に定めるが、ふと違和感を感じる。
傷が付いていない場所に反して、何かが居るように見えたのだ。
「おいおい...まさか傷の所に居るのって暗黒の潮の造物か!?」
「■■■■!!■■、■■!」
「■■、■■■■!!」
俺の目に映ったのは暗黒の潮の造物だった。
だが、それは普段見かけるような姿ではなく別の姿を模している。
普段見かける人型のモノも混ざっているがやけに大きい、中には四足歩行のモノも見られた。
その姿は、山の民や大地獣を模しているような気がする。
「ジョーリアの神体を飲み込んで母体にしてんのかよ...趣味悪いな」
ジョーリアを苗床にして増え続けている暗黒の潮の造物を見て、口から感想が漏れ出る。
奴らは上から降り注ぐ砲弾に巻き込まれて吹き飛ばされているが、依然として数は減っていないようだ。
俺たちは次々とジョーリアの神体に飛び移るが、それに反応して造物も俺たちに向かってくる。
俺は近くに来ていた造物を薙ぎ払おうと両剣を振るう。
だがーー。
「ーーっ!
コイツらも硬いのかよ面倒くさいな!!」
歪な形とはいえジョーリアから生じた存在、造物もまた荒笛やジオクロスのような加護を受けているようだ。
俺はそいつらに何回も剣撃を打ち込んでその身体を打ち崩す。
だが造物の数は視界に映る範囲だけでもかなり多い。
これからジョーリアを攻撃しながら奴らの対処をしなくてはならないと思うと何とも億劫になってくる。
「ま、うだうだ言ったところで変わらないけどーーなぁ!!」
俺は造物を打ち払った勢いのままジョーリアの神体に向けて全力で両剣を振るう。
その一撃には確かな手ごたえを感じて切り込んだ場所に目を向ける。
だが、そこに見えるのは微かに裂けた神体から漏れ出る黄金の血液だけだった。
俺の全力の一撃もジョーリアを傷つけるには威力が足りていないのは明白だ。
明らかになった事実に思わず歯噛みをすると、突如としてジョーリアが神体を揺らす。
その揺れはそこまで大きいものではない、だが揺れの衝撃は裂け目全体に響く。
揺れの衝撃によって裂け目の岩壁が崩れ、岩塊が俺たち目掛けて落ちてくる。
別にそれ自体は避けるのは簡単だ、問題があるとすれば周囲にいる造物共に隙を晒しかねない事だ。
つまり俺たちはこれからジョーリアを攻撃しながら落石や造物の対処を進めなけらばいけなかった。
「これは...時間かかりそうだな」
長期戦を覚悟して、両剣を強く握りなおす。
俺は目の前に立ちはだかる造物目掛けて走り出した。
......一体どれだけの時間戦っているのだろうか。
ジョーリアを攻撃して、落石を避けて、造物を倒して...その繰り返しをしている中で最早時間の感覚は無くなっていた。
依然として体力は残っているが、ジョーリアの命に届いている気は一向にしない。
そうして戦っていると、視界の端に見知った姿を見つける。
その姿はいつものような立ち姿とはかけ離れた姿を見せていた。
嫌な予感が背筋を走り、咄嗟にその人物に駆け寄る。
「おいセイレンス!!大丈夫か!?」
「ハァ...ハァ....金色のカジキか...。
大丈夫...とは言い難いな..。
ここまで地下深くだと...ワタシも本調子は出せないようだ」
「...っ!
セイレンス、お前は一回地上に戻れ。
多分ラビエヌスとかセネカとかはまだ生きてるだろうしそいつらも連れてってくれ」
「何だと...?
キミはまさか一人で戦うつもりか?」
「そのまさかだよ。
お前がそんなに満身創痍なら他の奴らも限界が近いだろ、体力を使い果たす前に地上に戻った方が良い。
このままじゃ全員死ぬぞ」
俺の頭には先ほど見た光景が浮かんでくる。
落石を避け切れず潰される者、体力を使い果たし造物に飲み込まれる者。
彼らは助けられなかったが、セイレンスたちはまだ生きている。
まだ命があるうちに退くべきだ。
「俺はまだまだ戦えるから、その間にカイザーと何か良い策でも考えてくれ」
「...分かった、断鋒卿や冬霖卿の他の生き残っている者たちは地上に戻そう。
だがワタシは残るぞ」
「はぁ?
いやお前だって結構限界だろ。
倒れないうちに戻っとけって」
「ワタシたちが退けば、ここに残るのはキミだけだ。
...ワタシは友を一人残すつもりはない。
それに話しているうちに少しは体力も戻った、まだワタシも戦えるさ」
「そうは言ってもなぁ...」
セイレンスは突如として意地を張り始める。
その理由は俺も理解は出来るのだが、今は何とか説得して戻ってもらう他ない。
俺はセイレンスを説得出来るだけの理由を探そうとすると、裂け目全体に轟音が走る。
もしやジョーリアが何かしてきているのかと身構えると、岩壁を砕きながら何かが現れた。
岩壁から現れた巨大な影は真っ直ぐにジョーリアの頭部目掛けて落下していき、凄まじい衝撃を発しながら衝突する。
その衝撃はジョーリアにも効いたようで、今までにないほど強く神体をゆすり始める。
それを一瞥すると、ジョーリアにも匹敵するその巨体の持ち主は再度突撃を開始した。
「あれは荒笛か?
何故、今になって姿を現した」
「それは分からないけど...アイツもジョーリアを攻撃してる。
...要はお前たちが地上に戻っても俺は一人じゃないってわけだ。
セイレンス...いいよな?」
「...っ!
..絶対に生きて帰ってきてくれ。
ワタシも含めて...皆それを望んでいる」
「言われなくてもそうするさ。
俺もまだ死ぬつもりなんか毛頭ないっての」
セイレンスは一瞬だけ躊躇った後に、ラビエヌスたちを探しに向かう。
これで少なくとも地下に残るのは俺と荒笛だけだ。
俺はそれを確認すると、一度荒笛の下へと移動する。
味方だとは思うが、一応確認だけはしておきたかった。
「...ポネウスか、《海洋》の娘たちは地上に戻ったようだがお前は戻らなくていいのか?」
「まだまだ余力はあるんでね、最後まで戦うさ。
で、お前は何で今になって出てきた?
こうやってジョーリアを攻撃するんならもっと早く参戦してくれて良かったんじゃねぇの」
「......父が苦しんでいたからだ」
俺の問いに荒笛は重々しく口を開く。
ジョーリアが苦しんでいる、その事実は荒笛も既に知っているはずだ。
彼が発した言葉が今まで戦わなかった理由に繋がらず、首を傾げる。
その俺の様子を見たのか、荒笛は再度話し始めた。
「..私は父を守りたかった、それは事実だ。
だが、父は既に狂い果ててしまい今のままでは大地に生きる命全てを傷つけてしまう。
私は父の守護と多くの命の守護を天秤にかけ悩んでいた折にポネウス、お前が私の前に現れた。
お前の説得に従ってカイザーとの密会に向かい、そこで一つの約定を結んだ。
『一度だけ、火を追う旅に協力する』...私はその約定を果たすためジオクロスたちを裏切ったのだ。
私はその後の我が父の討伐に協力するつもりはなかった。
『一度だけ』その言葉の通りに干渉する気はなかった...父と多くの命、この選択から逃げたのだ。
ーーー先ほどまでは、だが。
父は苦しみ傷ついていた、だがお前たちに敵意を向けなかった。
ただ苦しみから逃れようと、必死に耐えようとしていただけだった」
荒笛の言葉に徐々に熱が籠っていく。
その言葉の内容を聞くと、確かに彼の言う通りジョーリアが俺たちに対して攻撃を仕掛けたことは無かった。
ジョーリアがしてきたことと言えば、ただその巨体を揺らしただけ。
本気で俺たちを殺す気なら全力で動き回るだけでも、致命的な被害を与えることは出来た筈なのに。
「父は正気を失っても、大地に住む命を守ろうとしていた...!
ならば私も、いつまでも悩んだままでは創造主に顔向けが出来ん!」
「...それがアンタの選択なんだな。
よし!それなら俺もとことん付き合おう、その選択を後悔しないように!」
「あぁ共に戦ってくれ、殺戮者よ。
私が父の大地の如き外皮を砕きーー」
「俺が露になった中身を叩く、と。
...覚悟はいいか、荒笛。
こっから先は神殺しの時間だ」
俺たちは同時にジョーリア目掛けて突っ込む。
荒笛がジョーリアの胸や頭を砕き、俺がそこに刃を走らせる。
その最中にも造物は俺たちを飲み込まんと暴れまわり、ジョーリアは苦しみから強く身体を揺らして落石を起こす。
幾度も幾度も、それを繰り返す。
途中で落石が頭に当たったり、造物に吹っ飛ばされたりもしながらジョーリアへの攻撃を繰り返し続けていく。
数分、数時間、数日...かなりの時間が経った気がする。
その頃には造物は底を尽き、俺と荒笛は傷だらけになっていた。
ーーそしてジョーリアもまた、限界を迎えようとしている。
「ハァーーーーー.....ハァーーーーー.....。
荒笛...後どんだけ攻撃できる」
「よくて後数発といったところだ。
その後は...体力の前に私の身体が崩れてしまう」
「身体は兎も角、体力は有り余ってんのかよ...」
「お前も同じような状態ではないのか。
身体は依然として保っているが体力が限界なのだろう」
「まぁな。
それじゃあ後数発のうちでジョーリアを倒すってなるとーー。
...出し惜しみなしの全力の一撃しかないか」
「全力、か。
ならば私も残りの力を全て使って「ちょっと待ってくれ」む?」
「今までアンタが硬い所を、俺が柔らかい場所を攻撃してきたわけだけどさ。
単純な火力ならアンタの方が強い
だから俺がジョーリアの胸にデカい傷を作るから、そこに突っ込んでくれないか?」
「それは構わないのだが....お前に我が父の殻を破れるのか?
既に砕けているとはいえ、今までのお前の膂力を見るに火力が足りないように思うのだが」
「なに、今まで温存してた奥の手があるんだよ。
火力はまだよくわからないけど...砕けかけの殻を壊す程度はある筈だ。
だからまぁ...俺を信じて任せてくれ」
「...分かった、お前の案に頼るとしよう。
ーー任せたぞ」
「応、期待しといてくれ。
さぁ、やってみようか!!」
俺は荒笛から距離を取り、両剣を構える。
今までに何度も繰り返してきた動作を、寸分たがうことなく行う。
狙いはジョーリアの胸部、そこに意識を集中させる。
最初の工程は一切の問題なく完了した。
(後、必要なものは二つ)
ふと、思考の片隅で先日の事を思い返す。
それは雲石の天宮で、ヴァージニアから聞いた話だ。
『かの神は戦場で死した英霊の魂、マシュケーを用いることであの鉾を振るうとされています。
そしてその鉾が齎すものはーーー私よりも巡剣卿の方がよくご存じでしょうね』
俺が模倣しようとしているものに必要なモノ、それは『魂』だ。
だが、俺には戦場に点在する魂を集める手段なんて持っていない。
だからこそ、俺が使える魂は俺自身のものしか存在しないのだ。
俺は意識を己の内側へと向け、以前感じた魂があるであろう場所まで潜る。
そして問題はここからだ。
以前の俺はここまでは来れた、だというのにその際放った一撃はタイタンの御業とは程遠いものだった。
その原因は恐らく、魂に触れた『だけ』だったからだろう。
魂に触れただけでは、魂は使えない。
ならば、今度は触れるのではなく掴んでみる。
荒っぽく、力強く鷲掴む。
(ーーーーっ!)
その時、本能が警鐘を鳴らす。
それは己の魂が自らに知らせるものだろう。
『それ以上進めば、戻れないぞ』と。
ーー魂に傷を付ける...魂に詳しくない俺でもそれがどれほどの蛮行かは理解している。
方法は違えど、トリスビアスも魂を千に分けた結果あの姿になったのだから。
自分で魂を裂いたとき、自身の身にどんなことが起きるかは分からない。
だがーーー。
「そんなもん...とっくのとうに覚悟してるっての!」
俺は勢いのままに、掴んだ魂を無造作に引きちぎる。
ーーその代価は即座に支払われた。
今までに感じたことの無い類の痛み、尋常ではないほどの喪失感、そして何も無い虚無を垣間見る。
研ぎ澄ました意識がその虚無に堕ちようとしているのか、俺の身体から力が抜けていく。
だが、それでは意味がない。
俺は力が抜けかけた足を再度地面に思いっきり打ち付ける。
その衝撃は全身を伝い、何とか意識を保たせた。
(魂は掴んだ...こっから先は賭けだな)
掴んだ魂を構える両剣に注ぎ込む。
実際に注ぎ込めたのかは分からないが、感覚としては成功してるので気にしない。
ーーだからこそ、後必要なモノは一つだけ。
俺が放たんとするものはタイタンの権能、何百もの都市国家を焼き払ってきた《紛争》の鉾。
そんなものをただの人間が放てる筈がない...だが、己なら放てるという感覚があったのだ。
これを感じたのは、自身に刻まれた加護を知った後だった。
『略奪の加護』、それは俺が殺した相手から回復力や生命力を奪うもの。
加護の仕組みを知った時、ふと思ったのだーーー
ニカドリーの神体を殺した時、俺は一体何を奪ったのだろうかと。
幾つも存在する神体の一つであろうと、それはタイタンの身体の一つ。
それを俺は殺している。
ならば、俺の身体には多かれ少なかれ『神性』が宿っているのではないだろうか。
半神には届かない、タイタンなんて夢のまた夢。
だが、少しでも宿っているのならば使えるはずだ。
「不完全もいいところだ...けど、条件は揃ってんだろ!!」
たった一人の人間の魂。
半神にすら届かない僅かな神性。
手に持つ得物は、特別な一品というわけでもない。
なんて欠陥、なんて不完全。
本物の足元にも及ぶことの無い一撃だ。
ーーだが、それは確かに《紛争》の権能だった。
悲鳴を上げる両剣から、赤黒い稲妻が走り始める。
人の目の届かぬ地底の戦場、《大地》のタイタンがその苦しみを耐えようとした場所。
ここに、偽物であったとしても『天罰の鉾』はその姿を見せた。
「フッ!!」
ドン!と音を立て、俺は一気にジョーリアへ走る。
最早立ちはだかるものは無く、遮るものは何もない。
ジョーリアの胸部に到達した俺は、『天罰の鉾』を振り抜いた。
瞬間、凄まじい轟音が響き渡り裂け目全体が強く揺れる。
「オォォォォォォォォッッッッ!!!!」
崩れかけのジョーリアの胸部。
偽物の『天罰の鉾』。
両者は生じる衝撃と音の中、拮抗を見せていた。
胸部が壊れるのが先か、偽物が壊れるのが先か。
その拮抗は、間もなく終わる。
バキリ
音は周囲に発生する轟音と比べたら静かに鳴り響いた。
その音は確かに、ジョーリアから鳴ったものだ。
バキリ。
音は再び鳴る。
バキリ!
音の感覚は徐々に短くなっていく。
バキリ!!
音は徐々に大きくなっていく。
バキリ!!!
もう、音が止まることはない。
バキン!!!!
そして最後に一際大きい音を立て、大地の殻は破られた。
「荒笛!!
来い!!!」
確かな手ごたえを感じた俺は打ち込んだ反動を利用して一気に後ろへ跳ぶ。
その跳んでいく俺の下を荒笛は真っ直ぐに突っ込んでいった。
「父よ、その苦しみを今終わらせよう!!」
鈍い音だった。
先ほどの音とは違った意味を持つ音だった。
それは決別、それは救済、それは決意。
俺はその音を聞いて、確信した。
ジョーリアは今、その命を終わらせたと。
山の如き巨体から光が浮かんでいく。
その光は地下の暗闇をあたたかく照らす、自らの子を祝福しているかのように。
「...終わったかぁ」
俺はそれを見ていると身体から力が抜けていく。
長いこと張っていた緊張の糸が切れたのもあるが、恐らく魂を荒っぽく扱った代償だろう。
身体だけではなく意識も徐々に朦朧としてくる始末だ。
何とか意識を保とうとしていると、荒笛が近寄ってくる。
「よう荒笛、お疲れさん。
身体の方は大丈夫か?」
「何とかな、そういうお前も最早限界か。
地上へどうやって戻るつもりだ」
「ん〜暫くの間休んでからにしとく。
今戻ろうとしたら途中で意識無くして落ちそうだし。
何だったらお前が戻るの手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「ふむ、私としてはそれでも構わないのだが....どうやらその時間は無いようだ」
「いや冗談のつもりだったんだけど....って時間?
何かあるのかーーー」
突如、今までに無い揺れが俺たちを襲う。
その揺れはジョーリアが引き起こしたものすら凌駕する勢いで周囲を脅かす。
雪崩のように岩壁が崩れて、落ちてくる。
急いで逃げなければ生き埋め待ったなしだろう。
「何っだこれ!?
ジョーリアはもう倒しただろ!?」
「あぁ、お前の言うとおり父はもう眠りについた。
これは大地の背骨がいなくなった事による弊害だ。
間も無く、オンパロス全土が崩れ落ちるだろう」
「はぁ!?
荒笛、何とか止める方法無いのか!?」
凄まじい揺れが来たかと思えば、この揺れを放っておくとオンパロス全体が崩れてしまうと言う。
まさかの事態に慌てて荒笛を頼るが、彼の様子にふと違和感を覚える。
何か、覚悟を決めたようなーーそんな表情をしていたのだ。
「私が父の役割を引き継ぎ、大地を支える。
これ以外に方法は無いだろうな」
「待て、それをしたら荒笛はーー」
「あぁ、私が地上に戻る事は不可能だ。
私は大地と同化する...それが試練というものだろう」
あぁそうだ、荒笛がやろうとしていることは後戻りの出来ない行為だ。
それをしてしまえば今までのように自分の足で歩く事も、多くの命と語り合う事もなくなる。
ーー友と共に過ごす事も、出来なくなるだろう。
ただオンパロスに生きる全ての命を背負い続ける事になる、荒笛がやろうとしている事はそう言う事だ。
その事実を認識して碌に力が入らない拳を握りしめる。
そんな結末が、ここまで戦った者に対する報酬だと思いたくなかった。
だが、そうしなければ全てが崩れ落ちる事は避けられない事も理解している。
荒笛自身がそれを受け入れようとしている時点で、俺は胸の内にある激情を飲み込むしか無かった。
「安心しろ、お前は私が地上まで送り届けよう。
故に、一つだけ頼みたいことがある」
「....分かった、何でも言ってくれ。
俺に出来ることなら何だってやってやる」
「そう気負う必要はない。
ただ、ジオクロスに伝えて欲しいことがある。
彼を裏切った事への謝罪と...どうかこれからも大地に生きる命を守ってくれと伝えてくれ。
彼らを裏切った私が言えたことではないが...頼んだ」
「応、全部...絶対に伝えるさ。
本人が聞こうとしなくても無理矢理聞かせてやる」
「あぁそれなら安心だな。
...では行くとしよう、さらばだポネウス」
荒笛は最後に小さく笑うとジョーリアが消えた場所へと進んで行く。
俺がそこに視線を向けると、そこには淡く輝く《大地》の火種があった。
荒笛が火種の前に立つと、火種は新たな宿主を求めるように強く輝いていく。
荒笛はそれを見ながら、今までの歩みを思い返す。
父の胸に抱えられながら己の存在を自覚したこと。
父の揺籠から抜け出し、初めて地上に出たこと。
地上を歩み続けタイタンを、多くの人々の営みを見てきたこと。
その中で同じ創造主から生まれた友が出来たこと。
過去から今までの記憶が光のように流れていく。
その記憶のどれもが自分に確かに刻まれていることを確信する。
...これからは新しい思い出を作れないことに一抹の寂しさを感じながら、荒笛は火種を受け入れた。
「我が創造主よ、貴方のように私は大地に生きる全ての命を支え続けよう。
...父よ、どうか彼らに祝福をーーー」
荒笛の身体が光の粒子となって大地に溶け込んで行く。
その光景を見逃さないように見ていると、徐々に先ほどのような揺れは収まっていく。
暫くの間、座り込んでいると俺の足元の地面が少しだけ揺れる。
その揺れに違和感を感じて首を傾げると、突如として俺がいる場所だけ地面が競り上がり始めた。
驚いて声が出ずにいる間にも、地面は俺を乗せて上へ上へと上昇していく。
急な上昇による重圧に耐えていると、視界に光が差し込む。
暗闇に慣れた瞳が、急な光に耐え切れずに閉じてしまう。
その一瞬の間に、身体にかかっていた重圧は消え去る。
ーー代わりに次に身体にかかったのは浮遊感だったが。
俺の身体は地上に着いた途端に止まった地面により高く高く打ち上げられていた。
元々の疲労と、魂を荒っぽく扱った代償...ついでに最後の急な環境の変化に俺の身体は対応が出来ない。
このまま受け身も出来ずに地面に叩きつけられるのがオチだろうと腹を括る。
あんまり痛くないといいな、なんて呑気に衝撃を待っていると思っていたものとは違った感触が身体を包む。
それを不思議に思って、光に慣れた目を開けると見慣れた顔が映り込んだ。
「なんだ、セイレンスか」
「その反応には物申したいところだがーー今はやめておこう。
よく、戻ってきてくれた」
「あの時も言ったろ、元々死ぬつもりなんかないっての。
ま、ありがとな。
お前が居なかったら地面に叩きつけられてただろうし」
どうやら落ちてくる俺をセイレンスが抱き止めてくれたお陰で、予想していた痛みは感じずに済んだようだ。
不幸中の幸い、なんて言葉が頭に浮かんで思わず笑ってしまう。
「ところで、さっきの揺れ大丈夫だったか?
アレ、今まで以上に強かっただろ」
「何とかな、取り敢えず皆無事だ。
幸いそれほど長くは続かなかったからな」
「そっかぁ、それなら良かった。
それとセイレンス、俺いい加減限界だからちょっと寝るわ」
「トリビーたちもこちらに向かってきているが...いいのか?」
「よくはないんだけどな、もう耐えられそうにない。
トリビーたちには....謝っといてくれ....」
俺の意識は遂に迫り来る倦怠感に耐え切れずに暗闇に落ちる。
なんだかセイレンスが呼びかける声とか聞こえる気がするけど、流石に勘弁して欲しい。
説教でもなんでも起きてから聞くから今は寝させてくれ。
そんな誰にも伝わっていないことを思いながら完全に意識を手放す。
神殺しの達成感と戦友を失った喪失感、諸々を抱え込んだままジョーリア討伐戦は何とも閉まらない形で幕を閉じる事になった。