クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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ようやくジョーリア関係にひと段落つく23話目です。
火花のキャラPV、アレ中毒性やばいですね


伝言

 

 

 ジョーリア戦の後、気を失った俺は丸一日眠る羽目になっていた。

 まぁ別にそれ自体は大した問題ではないのだが、困り果てる事になるのは目を覚ました後だ。

 目を覚ました途端トリビーとトリアン、トリノンが跳びついてきて首を折られかける上に、その騒ぎを聞きつけたライアが血相を変えて来たかと思えば言葉を捲し立てる。

 何とかそれを凌いだと思えばトリビーたちは離れないしその状態のままラビエヌスやセネカ、アポロニウスやヴァージニアの相手をすることになった。

 

「...随分と苦労したようだな、巡剣卿。

 相当疲れが溜まってる顔をしているぞ」

 

「流石にあそこまで長い事戦った事は今までなかったからな。

 まぁ、さっきまでのゴタゴタでも十分疲れたけど」

 

 起きてから暫くしてからケリュドラがセイレンスを伴って訪れた。

 その際に、トリビーたちはセイレンスに引っ剥がされて何処かへ連行されてしまったようだ。 

 

「ジョーリア戦の疲労は兎も角、皆の心配は大人しく受け取っておけ。

 お前たちが地下に潜ってから数時間、その後に剣旗卿たちが戻ってきたかと思えば巡剣卿はまだ残って戦っているときた。

 その上、お前が戻ってくるまで三日も経てばあのような反応にもなるだろうよ

 その時の運命卿の取り乱しようときたら...見ているこちらが不憫になる程だったぞ?」

 

「三日!?

 あ〜そりゃあんな反応にもなるか」

 

 確かに長いこと戦っていた自覚はあったが、まさか三日もやり合っていたとは思わなかった。

 その期間を考えればトリビーたちの反応にも合点がいくというものだ。

 だが、一つだけまだ解せない部分もある。

 

「で、カイザーは何の用だ?

 ただ見舞いの為、とかそんなんじゃないだろ」

 

「...お前が僕のことをどう思っているのかよく分かる反応だな。

 確かに見舞い以外の件もある、だが僕にもタイタン相手に奮戦した相手を労う考えぐらいある。

 その認識は改めておけ」

 

「はぁ....」

 

 いや、見舞だけってわけではないのなら俺の認識は間違ってはいないのでは?

 何て風に思うが、毎度の如く胸の内にしまっておく。

 目に見えている罠にかかる獣などいないのだ。

 

「そうだな...まずは次に狙うタイタンについて話すとしよう。

 まだこれは剣旗卿と運命卿、金織卿の三人にしか話していないことだ。

 くれぐれも僕が皆に伝える前に口を滑らせるなよ」

 

「応、了解。

 ていうかもう次の狙い決めてんのかよ、ジョーリアを倒したばっかだってのに」

 

「倒したばかりだからこそ、だ。

 目標を悩むような姿、カイザーの姿とは言えないからな」

 

「ん~...俺にはイマイチ分からないな」

 

「お前が運命卿の前で格好つけるようなものだ。

 見せなければいけない姿、というものもあるだろう」

 

「成程、理解した」

 

 ケリュドラの説明に一気に理解が進む。

 流石天下のカイザー、軍略や政治だけでなく説明もお手のものだったのか。

 そうして尊敬の念を籠めた視線をケリュドラに向けていると、彼女は微妙そうな顔をしながら口を開く。

 

「...その視線は止めろ、お前からその類を向けられのはどうにも慣れん」

 

「えぇぇ...酷くね?」

 

「お前が今まで僕に尊敬を籠めた視線を向けた回数を数えてみろ、その数が答えだ。

 はぁ、いい加減話を本筋に戻すとしよう。

 単刀直入に言うが、次の狙いは《法》のタイタン...公正の秤であるタレンタムだ」

 

「!ってことは遂にカイザーの番か!」

 

「あぁ、ようやく旧法を焼き尽くし僕が新たな法を示す時が来たというわけだ。

 ...だが、次の遠征も楽なものではないだろうな」

 

「ん~そうか?

 正直言って俺たちの相手を出来る相手なんて今のオンパロスにいるかね」

 

 以前から言っていたように《法》の火種を継ごうとするケリュドラ。

 その様子はいつもよりも若干興奮の色が見える...が、その顔にもすぐに皺が寄ることになった。

 彼女が言うように、次の遠征も立ちはだかる相手がいるのだろうが...今の所俺たちの敵になりえる相手は居ないように思える。

 

「なんだ、もう忘れたのか?

 もうすぐクレムノスとの五十年に及ぶ和平条約が終わるぞ」

 

「あ~...クレムノスね」

 

 ケリュドラの返事を聞いて今度は俺の顔に皺が寄せられる。

 和平条約ですっかり忘れていたが、クレムノスなら依然として俺たちの脅威になりえるだろう。

 というか俺たちがタレンタムに挑む前にクレムノスが攻め込んでくる可能性もある...というかそっちの可能性の方が高いと思う、だってクレムノスだし。

 

「次もニカドリーの神体が出てくるとか勘弁してほしいんだけどな。

 まぁ、出てくるんなら全力で相手をしてやるけど」

 

「好戦的なのは結構だ、だが一度僕の手を握って力を入れてみろ。

 勿論全力でな」

 

「え?

 いやいや全力って...怪我するだろ。

 俺がカイザーに怪我させたとかバレたらセイレンスとかラビエヌスが怖いんだけど」

 

「いいから握ってみろ。

 もし僕が怪我をしても責には問わん」

 

 ケリュドラが言うように、俺は渋々こちらに差し出してくる手を握る。

 そして彼女が言うように力を入れようとして、ふと違和感を覚えた。

 

「あれ、力が...」

 

「やはり気づいていなかったか。

 今のお前の身体はお前が思っている以上に疲労が溜まっている。

 その上ーーー」

 

 そう言いながらケリュドラは俺の頬に手を伸ばす。

 一体何かと思うと、彼女が触れた場所がピリと少しだけ痛んだ。

 ケリュドラが爪を立てたり、抓ったわけではない。

 その痛みは、元々俺の頬にあったものに触られたのが原因だった。

 

「普段ならばお前の身体についた傷は時間もかからずに癒える。

 だというのに、頬についた傷は一日たった今でも治っていない。

 その意味が分かるな?」

 

「...身体だけじゃなくって加護の方も不調ってことか」

 

「そうだ、ジョーリアとの一戦はお前の想像以上に負担を背負わせた。

 今のままお前が戦場にたっても碌な戦力になりえないだろう。

 今は療養に専念しろ、でなければクレムノスとの戦いに参加は許可出来ないぞ」

 

「...応、分かったよ」

 

 自分の身体の不調具合に思わず息を吐く。

 今までは加護で奪った治癒力などですぐに体調が戻っていたから知る由も無かったが、一度自覚するとズッシリと身体に重さがのしかかる感覚を憶える。

 まるで、今まで誤魔化してきたものの揺り戻しが来たようだ。

 

「それに問題は巡剣卿の体調以外にもある。

 まずは、お前の武器だ」

 

「武器?

 ...あれ、そういえば俺の両剣ってーー」

 

「一応、地上に戻ってきたお前の手に握られていた。

 握られてはいたのだがな...とてもではないが最早使い物にならないだろうな。

 新しく武器を作るにしても、お前の膂力や戦い方にあった特注品を作らなければならない。

 そうなると、どうしても時間がかかるだろう」

 

「そう、か。

 ...なぁ俺の得物って今何処にある?」

 

「剣旗卿が持ち帰ってきたまま保管してある。

 用があるのなら後で持ってこさせよう」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる」

 

 今まで共に戦い抜いてきた愛用の武器との別れ。

 それがただでさえ重い身体に更に重しを乗せてくる。

 ...だが、別れは済ませておきたい。

 今まで無茶に付き合ってくれたことに、感謝を伝えなければいけないと思ったのだ。

 

「...それで、問題の二つ目は?」

 

「二つ目はタレンタムが居る場所だ。

 あのタイタンが根ざす場所を考え無しで攻めれば、僕たちが被害を被ることになる。

 物理的な損害ではなく、周囲の都市国家の反発が..だがな」

 

「タレンタムの場所...それって確かーーー」

 

「ヤヌサポリス。

 《門と道》のタイタンを信仰していた都市国家であり、お前と運命卿の二人が火を追う旅を始めた場所だ」

 

「......」

 

 ...遂に、あそこに戻ることになるのか。

 最早二百年も前に、俺とトリスビアスが出会って旅立ったあの都市国家。

 感傷はあるし、思う所もある。

 だが今一番気になっているのはーーー。

 

「トリビーたちは大丈夫かね...」

 

 先ほどの彼女たちの様子では、イマイチトリビーたちの気持ちを図れなかった。

 ...いや、彼女たちが勢いよく飛び込んできた理由の中にヤヌサポリスの件も含まれていたのかもしれない。

 もしもトリビーたちが不安を感じているのなら、俺に出来ることは彼女たちを支えることだけだろう。

 

「...よし!いつまでも俺が落ち込んでるわけにもいかないな!」

 

「何か勘違いしているようだが、運命卿は特段ヤヌサポリスについて思い込んでいる様子は無かったぞ?

 それよりも巡剣卿が寝込んだことの方に意識が持っていかれているようだったな」

 

「あ、そうなのね...。

 肩透かし食らったような...ちょっと嬉しいような...。

 ..いや!トリビーたちが不安そうじゃないなら良いんだ。

 所で、他に問題とか用件はないのか?」

 

「取り敢えず次の目的は話したからな、今話すことは無い。

 強いて言うなら捕虜にした竜騎士団についてだが...お前には関係のない話だ」

 

「!それ、聞かせてくれないか」

 

 俺がケリュドラに別の用は無いのかと問うと、彼女は思い出したように竜騎士団について話題を出す。 

 彼女は早々に話を終わらせようとしたが、今の俺には関係は大いにある。

 荒笛から頼まれた伝言を伝えなければならないからだ。

 

「ふむ、巡剣卿が捕虜に気を向けるとは珍しいこともあるものだな。

 ...だが特に話すこともないぞ?

 ジオクロスを始めとした者たちが降伏勧告を受け入れずにいるだけだ」

 

「降伏してないのか...じゃあアイツらは今何してるんだ?」

 

「何も、何もしていない。

 奴らは差し出される食事にも手を出さずにただ黙したままだ。

 情けをかけられるぐらいなら生より死を選ぶ、といった辺りか」

 

「そうか...カイザー、今からジオクロスたちの所に行ってもいいよな?

 いや、無理にでも行かせてもらうからな」

 

「先ほど療養に努めろと言ったのだがな...まぁいい、奴らの場所は運命卿に聞け。

 僕はそろそろ他の業務に戻る」

 

「応、悪いな。

 でも、アイツらには伝えなきゃいけないことがあるんでね」

 

「...もし奴らが考えを変えたのなら速めに報告しろ。

 色々と、手配が増えるからな」

 

 ケリュドラはそう言って去っていく。

 俺も急いでジオクロスたちの所へ向かおうと、寝台から飛び降りる。

 ...その際、完全に自身の体調のことを失念していたのが駄目だった。

 

「!?ちょ、あ、ヤバッ!?」

 

 寝台から地面に足を着いた途端にバランスを崩してしまう。

 そういえば身体に力が入らない事を思い出しながら俺は勢いよく近くの荷物目掛けて倒れ込む。

 そのまま盛大に突っ込んだ俺は、荷物を散らばらせて騒音をたてる。

 その音を聞きつけて、ドタドタと足音を鳴らしながら近づいてくる人物が居た。

 

「すごい音ちたけど大丈夫!?

 

「もしかして身体が痛むのか!?」

 

「まさか、カイザーが何か...!?」

 

「「「ーーーって...何やってる(の)(んだ)(んですか)?」」」

 

「...悪いんだけど、何か身体支える物持ってきてくれないか?

 ちょっと、一人じゃ立ち上がれそうにない」

 

 俺は羞恥心を噛み殺しながら、トリビーたちに頼み込む。

 最後まで格好つけられないな、なんて思いながらトリビーたちの手を借りて立ち上がる。

 本当に、ままならないなぁ。

 

 

* * *

 

 

 トリビーたちと共に、俺はジオクロスたちの場所まで向かう。

 彼らが捉えられてる天幕についた俺たちは一度入口の前で立ち止まる。

 すると、トリアンが心配そうに尋ねてきた。

 

「なぁポネウス、本当に行くのか?

 ジオクロスたち話聞いてくれないと思うけど」

 

「勿論、アイツが聞こうとしなくても無理矢理聞かせてやるさ」

 

「それでは逆効果なのでは...」

 

「まぁ俺が頼まれたのは伝言を伝えることだけだからさ。

 それを聞いて考えを変えるかどうかはアイツら次第だよ。

 ...出来れば変えてほしいけどな」

 

「あんまり無理ちないでね。

 今だって立ってるのも苦ちいでちょ?」

 

「無理そうなら言うさ。

 その時はよろしく頼む」

 

 俺がトリアン、トリノン、トリビーに順々に応えてから天幕に向き直る。

 そのまま意を決して、天幕を潜り中に入った。

 ーーその中は、暗かった。

 物理的に灯りが無い、というのもあるが捕虜になっている者たちの精神状態もあるのだろう。

 しかもそれに加えて、薄い死臭が鼻に刺さる。

 まだ、死んだ者はいない。

 だがこのままではここにいる全員が衰弱しながら死んでいく事をその臭いは示していた。

 俺は死臭を無視して、拘束されて座り込む山の民の中で一際大きい者の傍に近寄る。

 その者、ジオクロスは衰弱していながらも力強く俺を睨みつけてきた。

 

「幼子を何人も侍らせて私たちの元に来るとは何の用だ、殺戮者。

 まさか貴様も私たちに降伏を勧めに来たのか?

 だとしたら随分とおめでたい頭のようだな」

 

「好き勝手言ってくれるな、お前。

 まず侍らせてるとか言うな、口に野草詰めるぞ。

 後、別に降伏しろなんて言いに来たわけじゃねぇよ」

 

「は、では何だ。

 貴様のような野蛮人が言うことなど私は聞く気は無いぞ」

 

「お前に聞く気がなくても聞いてもらう。

 俺が来たのは荒笛からの伝言があるからだ、お前も無視は出来ないだろ」

 

 俺が来た目的を明かすと周囲の捕虜に動揺が走る。

 やはり彼らからしてみれば、荒笛の話題は禁句のような扱いになっているのだろう。

 その証拠にジオクロスの顔には明確な怒りが浮かんでいた。

 

「伝言、伝言だと?

 それもお前たちが捏造したものだろう?

 荒笛を脅し、我らを敵対させて挙句の果てにジョーリアを殺させる!

 どこまで私の友を侮辱するつもりだ!?」

 

「捏造?

 おい、お前何言ってーー」

 

「荒笛は私たちのように父祖から世代を経て産まれ落ちた存在ではない、奴にとってジョーリアは正真正銘の父だ。

 だからこそ、荒笛が貴様らに協力する理由がない!

 大方卑怯な手でも使ったのだろう!?

 意思を捻じ曲げ、命を差し出させ、その死後すら侮辱するなど巫山戯るな!!」

 

「ーーー」

 

 言葉が出ない。

 ジオクロスは言っている事は完全に彼の想像の域を出ないものだ。

 だというのに彼は半狂乱になって俺たちに捲し立ててくる。

 最早、彼に荒笛の伝言を伝えようとしても本当の意味で聞く事はないのだろう。

 だが、今の俺の頭の大半を占めているのは伝言を伝えられない焦りではない別なものだった。

 

「...トリビー、トリアン、トリノン...ちょっと離れててもらえるか?」

 

「...ポネウスにとって必要なことなんだよね。

 ならあたちたちは止めないよ」

 

「応、ありがとうな」

 

 俺の頼み通り離れてくれるトリビーたちに礼を言ってこちらを睨み続けるジオクロスを見据える。

 その間も支えてくれていたトリビーたちが居なくなった事で碌に力が入らない身体が崩れ落ちそうになってしまう。

 そんな身体に鞭を打って、ゆっくりとジオクロスに近づいていく。

 突如俺が自分に近づいてきた事で、ジオクロスの怒りの中に少しの困惑が顔を見せる。

 俺はそれを意に介さずによりジオクロスに近づく。

 そして、十分な距離になったと判断した俺はーーー

 

 

ペチン、と軽い音を発しながらジオクロスの頬を殴りつけた。

 

「?貴様...何を...?」

 

 殴られたジオクロスの表情から怒りが消えて、完全に困惑の色が占拠する。

 それもそのはずだ、今の俺は全くと言っていいほど力が入らない。

 碌な踏ん張りも、力も入っていない拳などジオクロスにとって虫に刺されるようなものだろう。

 本当なら全力で殴りつけてやりたかった所だが、今はこれが俺の精一杯だ。

 そんな拳を喰らったジオクロスは疑念を瞳に宿している。

 俺はその状況を理解できていない顔を見ながら、準備を進める。

 目の前の阿保に文句をぶつける準備を、だ。

 

「...いい加減にしとけよお前」

 

「何だと?

 貴様、今何と言っ「いい加減にしろっつったんだよ阿呆が!!」な...」

 

「さっきから聞いてればテメェの勝手な妄想ベラベラ喋りやがって...。

 もう真面目に聞くのもバカらしくなったんだよ」

 

「...そうか、自分たちの悪業を突きつけられるのがそれほど嫌だったか。

 清廉潔白を謳うお前たちにとって、汚い部分を見せられるのが最も効くとは滑稽なことだな」

 

「違うっての、俺はお前が荒笛を侮辱し続けてんのが許せないだけだ」

 

 ジオクロスのは俺の言葉に呆気にとられた表情を見せる。

 だがそれも一瞬の間だけ、俺が言ったことを理解すれば再び顔に怒りの色が戻ってきた。

 そのまま彼が怒鳴り出す前に俺の方から話を切り出す。

 

「ジオクロス、お前は荒笛が裏切った理由を知ってるか?」

 

「..っ!だから先ほどから言っているだろうが、荒笛は私たちを裏切ってなどいない!」

 

「まだ目を逸らすつもりかよ。

 お前自身、荒笛が裏切った理由を知らなかったとしても察しぐらいはついてるだろうに」

 

 俺の指摘にジオクロスは顔を歪める。

 何となくそんな気はしていたが、予想は当たっていたようだ。

 荒笛の裏切りから既に四日は過ぎている、ならばジオクロスもそれについて考える時間は十分に合ったはず。

 しかも裏切ったのは長年連れ立った友人だ、ジオクロスが答えを出すのにそう時間は必要ないだろう。

 だというのにジオクロスがここまで俺たちに強い拒絶を示すのは、恐らく荒笛が自分たちを裏切ったことを受け入れたくなかったからだろうか。

 

「お前が俺たちを馬鹿にする分には別に構わねぇよ、正直否定できない部分も無いわけじゃないし。

 でもな、荒笛は自分の意思で自分の道を選んでた。

 その道を歩めば苦しい事も、辛い事だってあるってわかってたのにな。

 ....なのにその覚悟を、よりにもよってお前が否定するのか?」

 

「.....」

 

「荒笛の友人なんだろ?今まで一緒に戦い続けてきたんだろ?

 それならたった数日、碌に話すことなく戦った俺よりもアイツのことを知ってるはずだろ!?

 だってのにお前は口を開けば裏切ってないだの俺らが脅しただの目を逸らしてばっかりだし。

 ーーーなぁジオクロス、お前は...お前だけは荒笛が選んだ道から目を逸らしちゃいけないんじゃねぇの?」

 

「...ならば、貴様はどうなんだ。

 貴様は自らの友が裏切ったとしても、揺らぐことなく直視出来るのか?」

 

「...揺らぎはするだろうし、迷いもすると思う。

 でも、それで目を逸らして立ち止まることだけは絶対にしない...してたまるかよ」

 

 火を追う旅の為に数えきれないほどの命を奪ってきた俺には、既に歩みを辞める権利なんて存在しない。

 どれだけ苦しくても逃げることだけは許されない。

 ーーもしもアイツらに裏切られでもしたら、まず間違いなく俺は動揺するだろう。

 それでも、目を逸らしてうずくまるだけなんて死んでも御免だ。

 そんな俺の答えを聞いたジオクロスは押し黙って俯いてしまう。 

 これ以上は彼に対して言いたいことは無い、後は伝えることを伝えるだけだ。

 

「もういい加減立ってるのもキツイからとっとと伝言伝えるぞ、ちゃんと聞いとけよ?

 ーーまずは裏切ったことへの謝罪、もう一つはこれからも大地に生きる命を守ってくれ..だとよ」

 

「...それだけか?」

 

「あぁ、荒笛が俺に頼んだ伝言はこれだけだ。

 正直、アイツがどういう気持ちで頼んできたのかは知らない。

 知らないけど...最後まで荒笛はお前を気にしてたよ」

 

「......」

 

「これを聞いてどうするかは、お前が選べよ。

 このまま死んでいくのか、友人の言葉通りに生きるのか。

 ジオクロス、お前の選択だ」

 

 今の状況を見ていた周囲の山の民たちは、ジオクロスの決断を待っているようだ。

 最早俺がここに居ても意味は無いと判断して、ジオクロスに背を向ける。

 ふらつく足で天幕を出ようとしたその時、背後から声がかけられた。

 

「...殺戮者、友の最後の言葉を伝えた事ーー。

 それだけは、感謝しておく」

 

「.....どういたしまして」

 

 言葉の節々から感じられる憎悪に苦笑しつつ、待っていてくれたトリビーたちに歩いていく。

 割と限界が近い俺を見て、トリビーたちは駆け足で近寄ってきて身体を支えてくれる。

 そんな彼女たちに礼を言いつつ、ゆっくりと天幕を離れていく。

 その最中、ジオクロスとの対面でなけなしの体力を使いすぎたのか徐々に意識が朦朧としていく。

 そのまま完全に意識が落ちてしまう前に、一つだけ心の内で願う。

 ジオクロスの決断がどんなものであれ、荒笛の意思を受け止めた結果であることを。

 

 

 

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