クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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ちょっと長くなりそうだったので分割した26話目です。

周年は流石に情報が盛り沢山でしたね。
新銀狼がすり抜けないよう今から徳を溜めておきます。


抜け道

 

 

 クレムノスとの戦いが終わり、俺たちはヤヌサポリスへと到着した。

 後は運命の三相殿にいるタレンタムの所へ向かうだけなのだが...その前に一つ問題が残っている。

 それは───

 

「師範、いつまで喧嘩を続けるつもりですか?

 もうすぐヤヌサポリスに着いてしまいますよ」

 

「分かってるよ。

 でもしょうがないだろ、まず話し合いに持ち込めないんだから」

 

「...話し合いにならないのは師匠だけではなく、師範の方にも問題があると思うのですが?」

 

「........」

 

 ライアの鋭い指摘に思わず黙り込んでしまう。

 彼女の言う通り、再び話し合おうとはしたのだが....互いに気まずを感じていたせいで上手くいかなかったのだ。

 お互いにどう話を切り出せばいいかが分からず、ただ時間だけが過ぎてしまう。

 そんな状況を何度か繰り返しながら、遂にはここまで来てしまったのだ。

 

「今まで師匠と師範の喧嘩なんて見たことがありませんでしたが...まさかこうも互いに話すことすら出来ないとは思いませんでしたよ」

 

「碌に喧嘩とかしてこなかったこなかったからなぁ俺ら。

 何から話せばいいのかがイマイチ分からないっていうか....」

 

「なんにせよ、出来る限り早く師匠と話してくださいね。

 私としてもあまりいい気分ではありませんから」

 

「...応」

 

 無慈悲、その言葉が頭に浮かぶ。

 いや悪いのは俺たちなのは間違っていない以上、ライアの対応も正しいものなのだが...もう少し手心を加えてほしかった。

 なんとも情けない心情を抱きながら、ふと視界の端に随分と焦っている様子で走る人物を見かける。 

 その人物はかなりの勢いを保ったままとある天幕の中へと入っていく。

 

「今のって...三相殿に送った使者だよな?」

 

「えぇ、どうやら返事を持ち帰ってきたようですね。

 ですがあの様子では、返事の内容は察せますが」

 

 帰ってきた使者を見るのも、ヤヌサポリスに着いてから三度目といったところか。

 一度目は端的な降伏勧告だったが、司祭たちはこれを拒否。

 二度目である今回は、ヤヌサポリスへと続く街道を封鎖し援軍を断った上での降伏勧告...これも失敗に終わっている。

 そして三度目である今回は、依然としてオクヘイマからヤヌサポリスの道中にいるクレムノス軍を使った脅迫だった。

 まぁ要は『クレムノスもヤヌサポリス狙ってるからこのままだと襲われますよ、でも降伏するんなら守りますよ』っていう話だ。

 その脅迫まがいの降伏勧告が機能したかどうかはライアの言う通り、恐らく上手くいってないだろう。

 

「またカイザーの機嫌が悪くなりそうだな」

 

「仕方ありません。

 ヤヌサポリスは運命の三タイタンを有する都市国家。

 古くからタイタンからの予言を受け、人々に伝え続けていた以上私たちが武力で火種を取りに行けば周囲の都市国家からの反発は免れませんから」

 

「ヤーヌスが居なくなってもヤヌサポリスの影響力は衰えてないってことか。

 カイザーはこれからどうするつもりかねぇ」

 

 そうやって俺とライアが話していると、先ほど天幕の中に入っていった使者が今度は俺たちの方へと向かってくる。

 一体何事かと思ったが、何でもケリュドラからの招集だったらしい。

 どうかケリュドラの機嫌が悪くないように、と祈りながら俺とライアは天幕の中へと向かった。

 

 

* * *

 

 

「三度目の降伏勧告も奴らは受け取らなかった...最早これ以上待つ必要もないだろう。

 僕は運命の三相殿へと向かうことを決めた、異論がある者はいるか?」

 

 案の定、ケリュドラの機嫌は悪かった。

 眉間に皺が寄り、声もいつもより重圧を纏っている。

 そんな状態の彼女に異論を言うのは心底嫌なのだが、言わなきゃ始まらないので口を開く。

 

「あ~カイザー、流石に無理矢理武力でってのはまずいんじゃないか?

 そりゃ三相殿自体は落とせるだろうけど、その後が面倒くさいだろ」

 

「巡剣卿、お前は僕がそこまで短絡的だと思っているのか?

 言われずとも三相殿に向かう者は少数精鋭、侵入の方法も真正面から入る気はない」

 

「...つまり忍び込むってことでいいか?」

 

「あぁ、その認識で構わない。

 だが三相殿に侵入する経路となると知っている者たちも限られる。

 故にお前たちを呼んだのだ、運命卿に巡剣卿。

 お前たちがヤーヌスの火種を手に入れた際、どんな抜け道を使った?」

 

 ケリュドラの問いに、思わずトリビーと顔を合わせる。

 互いに気まずさは残っているせいか、トリビーが視線を逸らして説明を始めた。

 

「あの時は軟禁されてた部屋から抜け出すのに抜け道を使っただけなの。

 だから運命の三相殿の外から中に通じる抜け道についてはあんまり知らないんだ」

 

「ふむ...巡剣卿もか?」

 

「俺も抜け道についてはよく知らないぞ。

 そもそもヤヌサポリスに居た期間もそんなに長くないし」

 

「そう上手くもいかないか....。

 仕方ない、そうなるとあの者を待つしかないな」

 

「あの者?

 援軍でも呼んでるのか?」

 

「あぁ、しかしその者がいつ来るかは僕にも定かでは「はいは~い、呼ばれたからわざわざ来てあげたよ~!」...来たようだな」

 

 ケリュドラの言う援軍、その者の声が天幕に響く。

 それと同時に俺、トリビー、ライアの表情が怪訝なものに変わる。

 その声を日頃から聞いていたというか、声の主の正体が誰なのかが分かったというか。

 どちらにせよそれ以上考える余裕を与えることなく、その人物は天幕の中に入ってきた。

 

「やっほ~裁縫女にトリビー姉さん、ポネウス兄さんも久しぶり!

 わざわざヤヌサポリスまで大急ぎで来たんだから感謝してよね」

 

「セファリア...どうして貴女がここにいるのですか?」

 

「そこの皇帝サマからお願いされたんだよ、運命の三相殿への抜け道を探してくれって。

 まぁ、報酬もたんまり貰えるらしいし?折角だから来てあげたってわけ」

 

 俺たち全員が驚いているのを見て機嫌を良くしたのか胸を張るサフェル。

 それにしてもケリュドラがサフェルに依頼をしていたなんて初耳だったのだが、一体いつの間に話を付けていたのだろうか。

 しかし、どれだけサフェルが凄腕の怪盗だろうと流石に三相殿への抜け道を見つけるのは至難の業のはず。

 やはり暫くの間はここで待機することになる「あ、抜け道ならもう見つけてあるからいつでも案内できるよ」──なんて?

 

「ちょ、ちょっと待て。

 サフェル、お前今なんて言った?」

 

「だからもう見つけてあるんだって。

 昔運命の三相殿に忍び込む時に見つけた抜け道、今でも使えるはずだよ」

 

「お前あそこにも盗みに行ってたのかよ...」

 

 今ここに来て初めて知った真実に言葉を失う。

 まさかサフェルがヤヌサポリスに、というか三相殿にも行ったことがあるとは微塵も知らなかった。

 まぁ彼女の行動が今助けになっている以上、特に言う事も無いのだが...それでこの驚きは消せないのだ。

 

「でも一個だけ問題があるんだよね」

 

「問題か、言ってみろ瞬足卿。

 それはどのようなものだ」

 

「そんな大したことじゃないんだけどね。

 ねぇ、ポネウス兄さん聞きたいことがあるんだけどさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穴掘りって得意?」

 

 

* * *

 

 

「成程ね、これは掘らなきゃ進めないな」

 

「でしょ?

 ってことで、ファイトだよポネウス兄さん!」

 

 サフェルに案内されて辿り着いたのは、人一人が通れるかというほどの小さい穴。

 その穴の中に入った俺の目の前には土壁が聳えていた。

 土壁には入口の穴よりもさらに小さい穴が一つ。

 恐らくそこがサフェルの言っていた抜け道なのだろう。

 確かに小さい穴ではあるが、サフェルの身体の柔らかさならば通り抜けるのは容易なのは察せる。

 ...だがそれでも小さい穴であることに変わりはなく、当然俺なんて入れる隙間もない。

 だからこそ、俺はツルハシ片手に土壁に臨んでいるのだ。

 

「なんだったらお前も手伝ってくれていいんだぞ、サフェル。

 流石にこれを一人で掘りきるのは骨が折れそうだ」

 

「やだよ、疲れちゃうじゃん。

 それにあたしがあのちびっ子皇帝に頼まれたのは抜け道の捜索だけだし」

 

「ま、そりゃそうだな。

 よし!とっととやるか!」

 

 土壁を前にして気合を入れなおしツルハシを振るう。

 最初のうちは使い勝手が分からず苦戦したが、暫く使っていればコツも覚える。

 そこから先は只管無心で掘り進むだけだった。

 掘って進んで掘って進んで、偶にサフェルに掘る方向を聞いて掘って進んで掘って進んでの繰り返し。

 それを暫くの間続けていると、背後からサフェルが声をかけてきた。

 

「ポネウス兄さんってさ、三百年ぐらい前にヤヌサポリスに居たんだよね?」

 

「応、そうだぞ。

 それがどうかしたか?」

 

「その時もさ、今のヤヌサポリスと変わらなかったの?」

 

「...まさか、全くの別物だよ」

 

 自分でも声が重くなるのを感じる。 

 クレムノスとの戦いを終えて、ヤヌサポリスに到着した時は目の前の光景に目を疑ったものだ。

 かつてこの目で見た活気はなく、どこか沈んだ空気が漂い都市国家全体を暗くする。

 その変貌ぶりには、思わず声を失ってしまったほどだ。

 

「まぁあれから黄金戦争もあったし、昔のままなんて都合のいい話はないのは分かってる。

 ──けど、あそこまで暗くなるのは流石にな...」

「そんなに今と昔で違うんだ...あたしも一回見てみたかったなぁ。

 昔だったら今と違ってお宝もありそうだし」

 

「盗む気満々だな...」

 

 言葉の節々から宝物への興味を覗かせるサフェル。

 その様子に苦笑を漏らしながら、昔の事を思い出す。

 森で迷った時に出会った司祭にヤヌサポリスまで連れてきてもらったこと。

 そこでトリスビアスと出会い、互いの話を通して親交を深めたこと。

 そしてヤーヌスの火種を盗み、二人で火を追う旅を始めたこと。

 思い返せば、この都市国家だけでも色々なことがあった。

 その全ての思い出が眩しくて、俺には勿体ないほどに大切なものだということを痛感する。

 

「あ、後もう一個だけ聞きたいことがあったんだ」

 

「ん?何だ?」

 

「トリビー姉さんとポネウス兄さんの知り合い、運命の三相殿には居ないのかなぁって思ってさ。

 もし居るんだったら三相殿の中に入った後に色々助けてくれないかなって思ったんだけど────ま、ダメもとで聞いただけだからあんまり気にしないで──」

 

「居る...助けてくれそうな人なら一人だけ思いつく」

 

「居るんだ!?」

 

「って言っても俺たちがいた頃から三百年、その人が生きてるかは分からないんだよ。

 あの時点でもうそこそこの歳だったし、俺たちが出て行ってから連絡も取ってなかったしな」

 

「そっか...そう上手くもいかないかぁ」

 

 そう言ってサフェルは苦い顔をするが、俺としては思い浮かんだ人物...コデクスさんは恐らく既に亡くなっていると考えている。

 そもそもあの人が生きているのなら、俺たちがヤヌサポリスに着いた時点で何かしら接触があるはずだ。

 トリスビアスが幽閉されてた時でさえ、自分の身を顧みず彼女を助けようと動いていた彼を知る身としては今の段階で何の動きもない時点で彼の現状を察してしまう。

 

「...出来ればまた会いたいんだけどな」

 

 自然と、言葉が口から漏れ出ていた。

 それは大切な人に出会うきっかけになった恩人、その人に対する願いだ。

 彼にはしっかりと礼も言えていないし、今まで旅をしてきて話したいことも出来た。

 それらが叶いそうにないのはとても...とても残念だ。

 そう考えながらツルハシを振っていると、今までとは違う感触が手に伝わってくる。

 土壁の硬さとは違ったような...というか何にも当たっていないような感覚。

 その感覚を不思議に思い土壁を見てみると、ひび割れた先に開けた空間が見える。

 それを確認した俺はツルハシを大きく振りかぶって、力いっぱい振り下ろす。

 すると行く手を阻んでいた土壁は完全に崩壊し、俺の目の前に広い空間が姿を現した。

 そこは周りは土ではなく石で壁が作られており、特に目を引くのは上へと続く梯子とそれの上に設置された扉だった。

 

「梯子か...あそこを登ったら何処に繋がってるんだ?」

 

「お宝も何にもない地味~で陰気臭い部屋だよ。

 って何で扉開けようとしてるのさ」

 

「ここ昔に使った抜け道なんだろ?

 何か扉も錆びてるように見えるしちゃんと使えるのか確かめたくてな。

 ...ちょっと硬いな、それなら...よっ!」

 

 バキン、と軽い金属音を鳴らして固まっていた扉を無理矢理開ける。

 それに対して渋い表所を見せるサフェルに謝りつつ、扉を開けていく。

 どうやら扉の上には絨毯が敷かれているようで開けるのに少しだけ苦戦したが、目立った問題なく扉を開けきれた。

 そのまま開けた扉から上半身だけ乗り出して周囲を見渡してみると、サフェルが言っていたことに納得する。

 簡素な机に椅子、小さな本棚、暗く淀んだ空気が流れる室内。

 息が詰まる感覚に襲われるのと同時に、原因もハッキリする。

 

「この部屋..窓が無いのか」

 

 辺りを見渡しても窓の一つも見当たらない。 

 置いてある机や椅子、本棚からして倉庫などではなく人が過ごす場所のようだが外へと繋がるものは俺が入ってきた抜け道か神殿内へと続くであろう扉だけ。

 その部屋の作られ方に、何故か既視感を覚えるが中々思い出せそうにない。

 俺がそうやって考えに耽っていると、梯子下に居たサフェルが声をかけてきた。

 

「お~いポネウス兄さん?

 観察は結構だけどさ、もうそろそろ戻って皆に合流するよ」

 

「応、じゃあとっとと戻るとす...ん?

 人の気配...こっちに来てるな」

 

「はぁ!?

 ちょっと落ち着いてないで急いでこっち戻って!

 ちゃんと絨毯も戻してよね!」

 

「分かってるよ。

 え~と、ここをこうして...これでよしと」

 

 サフェルの指示通りに、絨毯を直してから抜け道に通じる扉を閉じる。

 それにしてもこのタイミングで人が来るとは、随分と間の悪いことだ。

 そう思っていると、上の方から音が聞こえてくる。

 先ほど感じた気配の持ち主が部屋に入ってきたのだろう。

 しかも気配の数からして複数人は居ると見た。

 これは皆で侵入する機会を見定める必要があるな、と考えると微かに声が聞こえてくる。

 石造りの壁や扉に阻まれて聞こえにくいが、集中すれば聞き取れないほどではない。

 もしかすれば何かしら益になることが聞けるかもしれない、と少しばかりの期待を抱きながら俺とサフェルは互いに声を抑えて聞き耳を立てる。

 

「────様、何度も───ているように不審な──はなさらぬように」

 

「そう───仰らずとも、────いますよ」

 

「それならば───ですが...では、我々はこれで失礼─────」

 

「う~ん、あんまり役に立ちそうな情報は無さそうだね。

 部屋に入ってきてた数人もどっか行ったみたいだし、あたしたちも戻ろ────ポネウス兄さん?」

 

 微かに聞こえる声に耳を傾けていたサフェルは、特に目立った情報はないと判断して俺の方を見る。

 すると、彼女の顔に疑問の色が浮かぶ。

 それはきっと俺の顔が驚愕に染まっていたからだろう。

 

「サフェル...悪いんだけど。

 戻るのはもうちょっと後にしてくれ」

 

「え?

 いや、それはいいんだけどどうして...って何で扉開けようとしてるの!?

 まだ部屋の中には人居るんだよ!?」

 

 俺の行動に目を見開いて静止するサフェル。

 だが、俺はその声に従うことはなく部屋へと続く扉を躊躇いなく開け放つ。

 扉を開けるのと同時に上に敷かれていた絨毯もまくれ上がるので、当然元々部屋の中に居た人物は俺が入ってきたことに気づく。

 その人物は目を見開き、俺を凝視するが一切の声を漏らすことはない。

 声を出さないのは単に驚いているだけなのだろうが、辛うじて彼は声を絞り出す。

 

「ポネウス殿...ですか?」

 

「あぁ...あぁ!

 久しぶりだな、コデクスさん!」

  

 俺の目に映るのは、既に亡くなっていると思っていた人物。

 トリビーたちの母親の助祭を務め、俺と彼女を引き合わせた張本人。

 ヤヌサポリスの司祭、コデクスさんがそこに立っていた。

 

 

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