新銀狼は80連、餅は40連で出たので勝ちです。
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スターレイル三周年おめでとう!
ヤヌサポリスからオクヘイマに戻った俺たちはいつものような日常を過ごしていた。
教官としての役割をこなしたり、トリビーたちとゆっくり休んだりと久方ぶりの穏やかな日々だ。
だが、そんな日々の中で今後の火追いの旅を左右する問題が生じてしまった。
「創世の渦心への道が途絶えてから早一ヶ月...原因は分かったのか?」
「あぁ、原因は特定して今はカイザーがその対処に乗り出している。
近いうちに次の狙いを公表するだろう」
オクヘイマのとある飲食店、その一席で俺とセイレンスは今回の問題について話していた。
その問題とは火種を返還する場所であり、タイタン達が権能を宿したと言われる創世の渦心────そこへは普段霊水を通じて行き来をしていたのだが一ヶ月前に突如としてその道が閉ざされてしまったのだ。
この問題は今まで以上に深刻なものであり、道が途絶えたままでは火種を手に入れたとしても返還が出来なくなってしまう。
現にケリュドラが持つ《法》の火種も未だ彼女自身で保管しているのが現状だ。
「次の狙いってことはタイタンの仕業なのか?
となるとそれが出来そうなのは────」
「《海洋》のタイタン、ファジェイナ。
あの神以外考えられそうにないな」
「.....お前、大丈夫なのか?」
「?それはどういう意味だ?
何か気になることでもあったのか」
「確かセイレーンの一族だって昔言ってただろ?
それもファジェイナが生み出した眷属だって。
ファジェイナ討伐に乗り出すってことはお前が自分で創造主を殺すことになるかもしれないだろ」
俺が感じた懸念をセイレンスに伝えるが、彼女は依然として普段と変わらない表情を見せる。
その様子から俺が感じた懸念は的外れだったことを突き付けられた。
思わずため息を吐くと、セイレンスが小さく笑いながらこちらを見ている。
「そんなに俺が的外れな事言ったのが面白いかセイレンス?
だとしたら性格悪いぞー」
「すまないな金色のカジキ、だがキミの心配は杞憂というものだ。
既にワタシが乗る海流は定まっている、今更戻りはしない」
「ま、大丈夫なら良いんだけどさ。
それとは別に、もう一個聞きたいことがあるんだよ」
「ん?
まだ何か引っかかる事でも?」
「引っかかる事っていうか...。
なぁセイレンス、カイザーに何かあったのか?」
俺の質問にセイレンスは目を伏せる。
彼女自身俺の問い、ケリュドラの様子について思う事はあるのだろう。
なにせここ最近のケリュドラは荒っぽいというか────
「強引、最近のカイザーは兎に角強引だ。
今までにも暴君って言われるような部分はあったけど、最近は度を越してる。
巷じゃ《法》の権能を手に入れて本性が出たなんて言われるぐらいだ。
でも、カイザーは新しい力を手に入れたからってそれを振り回すような性格じゃないだろ」
「.......」
「お前なら何か知ってるんじゃないか?
カイザーの一番近くに居るのはお前だろ」
「....カイザー本人には聞かなかったのか?」
「聞いたに決まってんだろ。
答えは皮肉と暴言、後追加の仕事で返されたよ」
「...そうか」
あの時のカイザーの不機嫌具合は記憶に新しい。
いつもより三割増しの口の悪さに、五割増しの傍若無人っぷり。
抗議の声も何も聞いてすらもらえなかった程だ。
「悪いがワタシもカイザーの変化については何も知らない。
強いて言うなら、ヤヌサポリスから戻って数日経ってから突然というぐらいだ」
「お前でも分からないかぁ...。
じゃあ本人に聞く以外は知りようがないな。
ま、聞いたところで教えてはくれないだろうけど」
打つ手無し、その一文字が頭に浮かぶ。
ケリュドラの変調の原因が分からない以上俺たちに出来ることなど一つもない。
探ろうにも何処を探れば答えが見つかるかも定かじゃない上に、本人にその行為がバレた場合先日よりも痛い目に遭うのは目に見えていた。
そうやって悩んでいると、一つだけ俺が把握していない事を思い出す。
「そういえば神権を継いだ代償って何だったんだ?
原因、それの可能性もあるだろ」
「代償か、確か......未来と言っていたな」
「未来?
それってどういう──」
ケリュドラが神権の代わりに支払ったであろう代償。
それについてセイレンスに聞いてみたものの、イマイチ要領を得ない答えで返された。
思わず首を傾げていると、それに気づいたセイレンスからの補足が入る。
「つまりカイザーは今以上に身体が成長しない。
そういう意味で未来を捧げたのだろうな」
「...まさかだけどカイザーの不機嫌の原因、本当にそれだったりしないよな...」
「.......」
俺の呟きにセイレンスは何も言わずに目線を逸らす。
彼女もどこか思うところでもあったのか気まずい空気が流れる。
今の思い付きがケリュドラの、あの人一倍背丈を気にしている彼女の不機嫌と無関係であることを願っておくことにした。
* * *
セイレンスとの話し合いの末、碌な答えが出なかった俺たちはそれぞれ帰路についていた。
次の話し合いではトリビーたちやライアも巻き込んで本格的に話し合うべきかと悩んでいると、ふと背筋が寒くなる。
気のせいかとも思ったが、屋敷に向かって歩くにつれて背筋だけでなく周囲の空気すら冷たくなってることに気付く。
それも、独特な気配を発しながら。
「この感じ────誰か死んだのか。
だけどそれにしてはやけに────」
俺は空気が冷たくなった原因を口にする。
それは生き物が命を終える際に蔓延し、周囲を暗く冷やしていく。
散々戦場で感じてきたものだった。
だからこそ、近くで人が死んだのかとも思ったのだが違和感を覚える。
今感じている死の気配、それは戦場で大勢が死んだ時に感じたものに近い。
決して今いる市街地のような場所で感じるようなものではないのだ。
「.....」
ふと、背筋に冷や汗が垂れるのを感じる。
今も屋敷に向かっているのだが、近づくにつれて徐々に死の気配が強くなっていく。
嫌な想像が頭の中に浮かんでくる。
そういえば、今日はトリビーたちとライアは屋敷に居るんだったか。
自然と駆り立てられるように速足になっていく。
屋敷に着く頃には全力疾走と変わりはなかった。
「っ!!これは────」
屋敷に勢い良く飛び込んだ俺は辺りを見渡す。
血の匂いは無く、争ったような跡もない。
だというのに、屋敷の中には死の気配が充満している。
俺は逸る心のまま、特に気配が強い部屋の扉を開け放つ。
「皆!大丈夫か!!」
「「「────」」」
部屋に押し入った俺に三つの人影が目に入る。
その内の二つは俺も見慣れた姿、トリビーとライアだった。
問題があるとしたら最後の人影だろう。
薄紫色の髪に濃い紫色の瞳、全体的に静かで大人しい印象を持つ少女。
だが、その印象に反して先ほどから感じていた濃密な死の気配の出所が彼女だと理解する。
きっと俺はトリビーたちに危害が及ぶ前に得物を構えるべきなのだろう────その少女が手に持っているものが剣でも槍でもなく茶器である以上、その必要も無さそうだが。
俺とその少女の視線がかち合ってどちらも何も言えずにいると、呆れた視線を俺に向けていたライアが口を開く。
「折角のお茶会の最中にそのように飛び込んでくるとは、礼儀がなっていませんよ師範」
「え?あ、あぁそれは悪かった。
それで、えっとこの娘は?」
「あぁ、焦っていた理由は彼女でしたか。
ではもう一度自己紹介をお願いできますか?」
ライアが俺の焦りの理由を察したのか少女に自己紹介を促す。
それに頷きながら少女は持っていた茶器を下ろし、立ち上がる。
そして優雅に一礼をすると、こちらを見ながら言葉を紡ぎ始めた。
「始めまして、私はキャストリスと申します。
長らく旅をしていたのですが、オクヘイマに身を寄せられればと思い参りました」
「キャストリスね、んじゃ今度はこっちの番か。
俺はポネウス、そこに居るトリビーと姉妹たちの従者でオクヘイマでは教官を務めてる。
なんか困った事があったら言ってくれ、力仕事とか特にな」
「はい、よろしくお願いします」
キャストリス、そう名乗った少女は感情の起伏を見せることなく淡々と自己紹介を終えた。
俺としても彼女が嘘を言うようには見えないし、ライアが何も言わない以上警戒する必要もない。
だが、依然として気になることはある。
「所でトリビーたちは何でこの娘と茶会を?
どっかで縁でもあったのか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが....「ポネウス、その話はまた後でさせて。今は他に大事なことがあるから」」
俺の質問に答えづらそうに言葉を詰まらせるキャストリス。
そこにトリビーが余りにも露骨に話を逸らそうとする。
彼女自身も今の止め方に無理があるのを自覚しているのか顔に冷や汗が浮かんでいるが、トリビーなりの意図があると判断して彼女の話に合わせようと口を開く。
「....トリビー、大事なことって何だ?」
「!えっとね、キャスちゃんが住む場所がまだ見つかってないの。
出来れば早いうちに見つけてあげたくって...だからポネウスにも協力ちてほちいの!」
「住む場所か、確かにそれは大事だな。
でも今から空き家を探すってなると難しいかもな。
最近は市街地にも移民とかが住み始めてるし」
「あの、我儘を言うようで申し訳ないのですが。
出来れば近くに人が住んでいない場所が好ましいのです。
市街地のような人が多い場所は...その、少し苦手で」
「周囲に人が住んでない場所かぁ。
ん~そんな場所あったかねぇ」
俺が市街地で空いている家があったか思い出そうとしていると、キャストリスから要望を言い渡される。
人が住んでいない場所、彼女自身で言ったように人が多い場所は苦手というのも本当なのだろう。
しかし、根拠は無いがそれ以外にも含みがあるように思えてしまう。
それについて気にはなるが、今は一旦キャストリスが言った条件に合った場所を思い出そうと頭を回す。
「────そう言えばあそこなら丁度いいか?」
「その様子ですと良い場所があったようですね」
「あーでも...あそこは流石に....。
いや、条件は合ってるんだけどな...」
「うーんポネウスが迷うんなら実際に行って見てみたらどうかな?
キャスちゃんが住んでみようって思ったらそこにすればいいち」
「はい、私も折角なら見てみたいです」
「それじゃあ気乗りはしないけど案内しようか。
────実際に見ても文句は言わないでくれよ?」
そう言って俺がトリビーやライア、キャストリスを案内して件の場所へと向かう。
その間にもトリビーが積極的にキャストリスに話しかけているが、あまり反応は芳しくない。
...いや、話自体は盛り上がってこそいる。
だが、キャストリスの方が壁を作っているというか距離を取っているというか。
「やはり彼女の事が気になりますか?」
「そりゃな、ただの旅人が屋敷に招かれて茶会とか滅多にないだろ。
何よりあの死の気配、どう考えても只者じゃない。
ライア、あの娘まさかだけど《死》の縁者か?」
「えぇ、師範の言う通り彼女は《死》のタイタンの加護を受けています。
それも、とても強力なものを」
俺とライアは後ろを歩く二人に聞こえないように話し合う。
その話しの中でキャストリスが発する死の気配の原因がハッキリする。
《死》のタイタン、タナトスの加護...確かにそれならば納得がいくとうものだ。
「どうやら彼女はその加護を呪いと受け取っているようでして、今までの旅もその呪いを解く為にタナトスを探し回っていたようです」
「呪いねぇ....。
強力ってどんな効果なんだ?」
「彼女に触れたものの命を奪う。
どんな生命であっても等しく刈り取る死の手、だと言っていました」
「それはまた、随分と....」
ライアが教えてくれたキャストリスに宿る加護の効果。
強力、確かにその評価に相応しいものだ。
触れたものの命を奪う、それならば人が多い場所は苦手だろうし今もトリビーと距離を取っている事にも頷ける。
「彼女がオクヘイマに辿り着いた際に私の金糸が死の気配を捉えました。
ですので人間性を測る意図で屋敷に招待したのです。
善良な人間なら擁し、悪辣な人間であれば排すつもりで」
「擁し、ね.....もしかしてあの娘に《死》の権能を継がせようとしてんのか?」
「今はまだそこまで考えていませんよ。
将来的には────まだ分かりませんが」
そう言うライアの表情からは特に読み取れるものはない。
年々感情を隠すのが上手くなってきたというか、神権の代償を払い続けている結果なのか。
どこか物悲しさを覚えながらを歩いているとようやく目的地が見えてくる。
そして、そこに立っている家とも言えないボロ小屋を見て言葉を失う三人が目に入った。
「えっと...ポネウス、本当にここで合ってるの?」
「...まぁ言いたいことは分かる。
俺も流石にコレはどうかと思うし」
「師範、他に思い当たる場所は無いのですか?
私には人が住むような場所には見えませんよ」
「後人気が少ない場所って言ったら裏路地ぐらいだぞ?
アソコは治安が良いとは言えないし、それならこっちの方がマシだろ。
まぁ、掃除は必要だけど────」
そう口にしながら木材で出来たボロ小屋の壁を軽く小突くとバキッ!と音を立てながら穴が空く。
俺を含めた全員が壁に空いた穴を見ても何も言わない。
というか何かを言えるような空気ですらない。
そんな中、場の空気を変える為にも言葉を続ける。
「.....後は壁の張替えも必要だな」
「キャスちゃん、やっぱりあたちたちと一緒に住まない?
あなたが自分の体質で困ってるのは分かってるけど、あたちたち皆気にちないよ。
ね!ライアちゃん!」
「えぇ、私も師匠と同じ意見ですよ。
無理にこのような場所に住む必要はありません」
どうやらトリビーとライアはキャストリスをこのボロ小屋に住まわせる気は無いようで説得を試みる。
まぁここに連れて来た俺が言うのもなんだがトリビーたちと同意見だ。
確かに触れたら死ぬ以上、注意は必要だがそれだけの事。
決して共に住めないというわけではない。
しかし、説得を受けるキャストリスの表情は優れない様子だ。
「いえ、私はここに住もうと思います。
折角ポネウス様が見つけてくださった場所ですし、旅の中でこういった小屋での寝泊まりも経験しています。
ですので余りお気になさらないでください」
「そうは言うけどなぁ....」
キャストリスが声に遠慮を含ませながらトリビーたちの誘いを断る。
俺は何とか説得出来ないかと声をかけようとするが、彼女が言ったことに嘘や誤魔化しは感じられない。
本気でこのボロ小屋でも良いと思っている以上、説得を続けたとしても彼女の意思に反することになるだろう。
それをトリビーたちも察したようで、不安そうな顔を浮かべている。
だからこそ、説得の方向を変えてみることにした。
「まぁキャストリス本人がここで良いって言うんならこれ以上口出しはしねぇよ。
...しないけど、せめて補修ぐらいはさせてくれ。
流石にあの小屋にずっと寝泊まりはキツイだろ」
「補修、ですか。
大変ありがたいのですが、皆様のご負担になってしまうのでは────」
「そんなことないよ、キャスちゃん!
あたちたち皆、キャスちゃんの助けになりたいから言ってるんだよ」
「それは.....ありがとう、ございます。
...でしたらお願いできますでしょうか?」
「応!と言っても今から業者を呼ぶのは無理があるからなぁ。
取り敢えず今出来るのは穴を塞いで、金糸で小屋全体を補強するぐらいかね。
ライアもこれで構わないか?」
「えぇ、勿論です。
それと業者の手配も私がやっておきましょう。
師範はこれからどうしますか?」
「俺はトリビーと一緒に壁を塞ぐための材料とか、後は家具でも取ってくるよ。
工具の類ならトリビーたちの部屋にあるし、家具は一旦簡素な物だけど屋敷にあった筈だ」
「あの...私にも何か手伝える事はありますか?」
「そうだな...なら小屋の掃除を頼めるか?
結構な間使われてないしホコリも溜まってるだろうから」
「分かりました、精一杯努めます」
「...そんなに意気込む必要はないんじゃないか?」
それぞれが自分のやるべき事を定めて動き出す。
ほんの少しの共同作業、大した時間をかけることなくやる事は終わっていく。
それでもやるべき事が終わった後、《死》の加護を受ける少女との間にある壁は少しだけ薄くなった気がした。