クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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引き続きキャストリス回の29話目です。
ついにオンラインコンサートの日、オンパロスの曲が楽しみです!



感想、ここすき、お気に入り、誤字報告、どれも大変ありがたいです!

お気に入り数300人達成!本当にありがとうございます!


案内

 

 

 キャストリスがオクヘイマに訪れてから数日後、俺は彼女が住んでいる小屋の前に来ていた。

 その小屋も最初に来た時とは違い、職人の手も入り見違えるほど綺麗になっている。

 そうやって感慨深げに見ていると、小屋の扉がゆっくりと開かれた。

 扉から出てきたのは当然だがキャストリス、その顔には静かな決意が滲み出ている。

 

「ようキャストリス、覚悟は出来たか?」

 

「はい、少し時間はかかってしまいましたが。

 ポネウス様、本日はよろしくお願いします」

 

「応、俺も精一杯やるさ。

 今日の────オクヘイマ案内を」

 

 俺も目の前の少女と同じように覚悟を決めた顔を見せる。

 今日はオクヘイマに来たばかりのキャストリスに色々な場所を案内する日。

 普段から体質故に市街地から離れた場所で暮らす彼女であっても、生活を続けるためには市場などの場所を知って置く必要がある。

 そのため、俺が直近で休みを取れる日に合わせて実行したのだ。

 

「ですが、本当に私が大勢人が居る場所に行ってもいいのでしょうか。

 万が一の事があったら私は...」

 

「それなら気にする必要ねぇよ。

 というかそれ対策に俺が来たわけだし」

 

「?それはどういう────」

 

「俺オクヘイマの市民から怖がられてるから、市場とか行くと人が勝手にはけるんだよ。

 他の場所でも大体そんな感じだし誰かが近づいてきても俺ならすぐに対処できる────だからそんな不安そうな顔する必要はねぇよ」

 

 今言った通り、案内にわざわざ俺が抜擢されたのは以上の通りだ。

 それにトリビーたちは他にも用事があるわけだし────いや、今は関係のないこと。

 兎に角案内に集中するとしよう。

 そうして俺とキャストリスはまず市場に立ち寄ることになった。

 

「うん、案の定人が減ってきたな。

 これなら少しは安心できるんじゃないか?」

 

「えぇ、これぐらいなら私も安心して見て回れそうです。

 ですがどうしてここまで避けられているのですか?」

 

「クレムノス出身だからとか、大勢人を殺してるからとか...まぁ色々だな。

 ほら、旅してる時に殺戮者の名前とか聞かなかったか?」

 

「えっと....すいません、あまりそういった事は...」

 

「あー聞いたことがないなら良いんだよ。

 どうせ碌が話がないんだし」

 

 申し訳なさそうにするキャストリスだが、俺としてはそちらの方がありがたい。

 何故なら俺に関する噂には本っ当に碌なものがないからだ。

 戦場に関するものは勿論、オクヘイマにはあの忌々しい獅子の口が流した幼女趣味などという忌々しい噂も流れている。

 というかあの噂が流れてから二百年は経っているはずなのに一向に消える様子が無いのは一体どういう事だろうか。

 やはりもう一回獅子の口を脅してでも火消しに回るべきかもしれない。

 

「あの...険しい顔をなさっていましたが何かありましたか?」

 

「ん?あぁ何も無いから気にしなくても大丈夫だぞ。

 ....キャストリス、もし獅子の彫像から話しかけられても無視してもいいからな」

 

「?」

 

 俺の苦々しい言葉に首を傾げるキャストリス。

 そんな彼女を先導しながら市場を案内していく。

 行きつけの食材屋や工房、雑貨屋に料理店など生活に必要な店を紹介する。

 人が少なくなっていたこともあって順調に市場を見て回った俺たちは雲石の天宮へと向かった。

 

「バルネアに来たわけだけど...特に紹介することもないな、ここ」

 

「そうなのですか?

 軽く見ただけでもかなりの広さだと思うのですが」

 

「どれだけ広くてもあくまでバルネアだからな。

 普通のピュエロスに低温ピュエロス、高温ピュエロスとかのピュエロスの種類はかなりの数だな。

 ピュエロス以外で紹介する所となると....図書館と生命の花園ぐらいかね」

 

「図書館、ですか。

 いえ、そちらも気にはなるのですが生命の花園とはどのような場所なのですか?」

 

「昔サーシスが送った種が芽吹いて出来た花園だよ。

 今はキメラとか色んな動物がそこに住み着いて生活してるな。

 ....もしかして、動物とか好きだったりする?」

 

「はい、触れ合う機会こそありませんが見ているだけでも心が落ち着くので」

 

「成程....そう言えばここら辺にも気に入りそうな動物が居たような....あ、見つけた」

 

 思いがけずキャストリスの好きなものを知った俺は、よくピュエロス近くで見かける生き物を思い出して探してみる。

 そして、視界に映ったのは丸い身体に包帯を巻いた小さな生き物だった。

 その生き物、アザラシもこちらに気づいたのかジッと俺たちを見てくる。

 

「あの、この子怪我をしているようなのですが大丈夫なのでしょうか?」

 

「包帯も巻いてあるから大丈夫だと思うけどな。

 おーいそこのアザラシ、その怪我大丈夫か?

 何だったら生命の花園まで連れてくけど」

 

o((・ω‡=)o「アザラシの身...この痛み、永遠に続く...。

       ...アザラシは五匹、代価は...」ヨ

 

「うん駄目そうだな、何言ってるか分からん。

 とっとと生命の花園に連れて行こう。

 キャストリスも一緒に来てくれ、一回逸れたら見つけるのに時間がかかる」

 

「分かりました、その子の為にも急いで向かうとしましょう」

 

o((・ω‡=)o「ふん...余計な」ヨ

 

 怪我のせいかよく分からないことを口走るアザラシ。

 俺たちはそのアザラシを抱えて生命の花園のへと向かう。

 そして、花園へと足を踏み入れた途端暖かい空気が一気に広がった。

 

「ここが生命の花園...確かにこの暖かい空気なら多くの生き物が過ごすのも納得ですね」

 

「流石、サーシスの加護を受けた場所なだけはある。

 ここならコイツの怪我も早く治るだろ」

 

o((・ω‡=)o「機は成した、アザラシを招こう」ヨ

 

「...手遅れだったりしないよな、コイツ。

 まぁいいや、誰かに引き渡してくるからちょっと待っててくれ」

 

 俺が怪我をしたアザラシを花園の人間に渡している間にも、キャストリスは少し離れた場所から花園を見ていた。

 走り回ったり眠ったりと自由に過ごしているキメラに彼らと触れ合う人々。

 それらを見る目には羨望の色が色濃く見られた。

 

「よう、お待たせ。

 それじゃ案内を続けるとしようか、それとももうちょっとここに残るか?」

 

「...いえ、他にも見るべき場所は多くありそうですし今日はここまでにしておきます」

 

「そっか...んじゃ別の場所に向かうとするか。

 図書館とかどうだ?

 さっき気になるって言ってただろ」

 

「えぇ普段から読書はよくしていたので楽しみです。

 どのような蔵書があるのかポネウス様はご存知ですか?」

 

「全く知らないな。

 本は滅多に読まないし、まず図書館に近寄ることも殆ど無いからなぁ。

 だから何かオススメの本でもあったら教えてくれ、もしかしたらハマるかもしれないし」

 

「はい、私もポネウス様がお好きそうな本なら幾つか覚えがありますので是非読んでみてください。

 きっと気に入ってくださる筈です」

 

 花園を見ていた時の羨望の眼差しは引っ込んで、今は図書館へと興味が移っている。

 それだけ本が好きなのだろうという事が一目で分かるほどの反応に思わず笑みを溢してしまう。

 そのまま図書館でキャストリスの勧める本を休憩がてら読みながら、俺たちはゆっくりと過ごした。

 

 

* * *

 

 

 図書館で本を読むのにかなりの時間を使った俺たちは雲石の天宮の周囲を周っていた。

 傍から見て手持ち無沙汰に歩き回っているだけに見えるだろうが、その間にも軽く案内を続ける。

 しかし、俺の頭の中は案内とは別の考え事で満たされていた。

 

(案内を始めてから結構経ったよな...もうそろそろ頃合いか?)

 

 これから後の事を考えて案内を切り上げようかと考える。

 すると、その考えを察したかのように周囲に突風が巻き起こった。

 前触れなく起こった風にキャストリスは少し驚きを見せるが、俺にとっては慣れ親しんだもの。

 俺は視線を後ろに向けるとそこには何処か焦った様子のサフェルが佇んでいた。

 ....いや待て、サフェルにはトリビーたちと準備をしていたはずなのに何故ここに居る?

 彼女の様子は準備が終わったから呼びに来た、という風でもない。

 寧ろ何か問題でも起こったような────

 

「サフェル....何かあったのか?」

 

「ポネウス兄さん!ちょっとこっち来て!」

 

「は?っておいあんまり引っ張るなって」

 

 嫌な予感を感じつつサフェルに声をかけると、彼女に腕を掴まれ少しだけキャストリスから離される。

 頭に疑問符を浮かべているキャストリスを他所に、俺たちは彼女に聞こえないように小声で話し始めた。

 

「わざわざキャストリスに聞こえないようにするって事はトリビーたちの方で何かあったのか?」

 

「それが料理の完成に思ったより時間食っちゃってさ、まだ飾り付けとかが済んでないんだよね。

 だからもうちょっと時間を稼いでほしくってさ、勿論あたしも協力するよ!」

 

「まぁそういうことなら否はないけど...なぁサフェル、一つ聞いていいか?」

 

「ん?何か気になる事でもあった?」

 

「料理って腕の良い料理人に任せてたはずだよな?

 なのにそんなに時間がかかるもんか?」

 

「あ~それは味見役が食べ過ぎたっていうか....。

 選ぶ人を間違えたっていうか...」

 

「成程、誰のせいかはよく分かった。

 はぁ...何やってるんだアイツ」

 

 脳裏にいやに笑顔な剣旗がよぎる。

 取り敢えずその人物には後で文句を言うとして、今やるべき事は理解した。

 もう暫くの間キャストリスのオクヘイマ案内を続ける...それは簡単だ。

 だが、問題は既に案内するべき場所を殆ど見て回ってしまったことだろう。

 今から見てない場所に連れていくにしろキャストリスが楽しめるのかは怪しい上に、恐らく大して時間も稼げない。

 ならばどうするか、そう考えているとサフェルが先ほどまでの小声を止めて笑顔を見せながらキャストリスの方に歩いて行った。

 

「やっほー引きこもり姫、ごめんね?急にポネウス兄さんを借りちゃってさ」

 

「いえ、私は気にしてはいないのですが...何か急ぎの要件があるのなら────」

 

「違う違う、さっきのはそういうのじゃないよ。

 ただポネウス兄さんの隠し事が裁縫女にバレたから怒られるよ~って教えに来ただけ。

 いや~あの裁縫女の様子じゃ後が怖いね!」

 

 何で吐く嘘がよりにもよって俺がライアに怒られる事なんだよ。

 サフェルに物申したいところだがキャストリスを誤魔化す以上、俺が今口出しすべきではないだろう。

 それはそれとして後で詰める気ではあるが。

 ん?そういえば────

 

「キャストリス、サフェルにと会った事あるのか?」

 

「あ~そういえば言ってなかったけ。

 ほら、引きこもり姫が来てから皆話してたでしょ?

 それで気になって見に行ったんだよ。

 ね、引きこもり姫~?」

 

「サフェル様の仰られている通りです。

 私がオクヘイマに来てから色々と気にかけてくださって...本当に感謝しているんです」

 

「何となく放っとけなかったんだよね~。

 どこか危なっかしいっていうか...眼を放したら何かやらかしそうっていうか────」

 

 そう言って微妙な顔をしながら頬をかくサフェル。

 彼女の意外な面倒見の良さに俺も思わず面を食らうと同時に目頭が熱くなる。

 あのサフェルがこうして他人を素直に気遣えているのを見て、彼女の成長を感じられずにはいられない。

 

「ポネウス兄さん、何で目抑えてるの?」

 

「いや、サフェルも成長したんだなぁって思うとついな。

 時間が過ぎるのは早いもんだなぁ」

 

「あーもう!ポネウス兄さんも程々にしてよね!

 恥ずかしいったらありゃしない!

 引きこもり姫も!何で笑ってるのさ!」

 

「すみません、ただお二人のやり取りが微笑ましくて...」

 

「二人して本っっ当に....!

 もういいからとっとと行くよ!」

 

「ごめんごめん。

 でも何処行くつもりなんだ?

 もう案内するような場所は特に無いぞ」

 

「残念ながら案内はここで終わり、後の時間は買い物と洒落こもっか」

 

 俺の疑問にキメ顔をしながら答えるサフェル。

 そのまま軽快な動きで歩いていくサフェルの後を首を傾げながら俺とキャストリスも着いていく。

 そうして着いて行った先の場所は特別な場所という事もなく、今日既に訪れていた市場だった。

 

「サフェル、何で市場に来たんだ?

 ここはもう案内してるぞ」

 

「案内は終わってても買い物はしてないでしょ?

 折角オクヘイマの市場に来て何も買わないなんて勿体ないよ!」

 

「ですが今日はそれほど多くの貨幣を持ち合わせてはいません。

 お気持ちはありがたいのですが、買い物をするには足りないかと」

 

「大丈夫大丈夫!お金のことなら気にする必要無いって!

 代金は全部ポネウス兄さんが払ってくれるから!」

 

「おいサフェル、聞いてないぞソレ」

 

 勝手に俺の財布の用途を決めているサフェルに思わずツッコミを入れてしまう。

 だがツッコミを入れられた当人は気にした風もなく、変わらず飄々としている。

 

「だってポネウス兄さんってば武器の手入れとかあたしたちへのお土産とかぐらいでしかお金使わないじゃん。

 こういう時だからこそパーッと使うべきだって!」

 

「お前なぁ...まぁいいけど」

 

「あの...もし私を気にしているのなら無理をなさる必要はありません。

 貴重な金銭を私のせいで浪費するには...申し訳ないです」

 

「そんなに気にする必要はねぇよ。

 確かにサフェルが言ったことにも一理あるし、折角の機会だ。

 是非記念として何か買わせてくれ。

 あ、サフェルは何も買わないからな」

 

「何でさ!?

 新入りの引きこもり姫だけ贔屓するっていうならあたしは全力で抗議するよ!」

 

「ライアからあんまりサフェルに物を買い与えるなって言われてるんだよ。

 ただでさえ俺がお前を甘やかしてるって思われてるし、我慢してくれ」

 

「ぐっ....裁縫女め、余計なことを...!」

 

 悔しがるサフェルを横目にキャストリスも俺の言い分に納得したのか近くの露店を見て回り始める。

 俺がサフェルを宥めている間にも彼女は幾つもの露店を通過していく。

 黙々と集中しながら歩くキャストリスに視線を向けていると、突然彼女が立ち止まる。

 それを見た俺も彼女に近寄り、彼女が見ている物を視界に入れた。

 

「これは、裁縫箱か」

 

「...ポネウス様、これを頂いてもよろしいでしょうか」

 

「勿論。

 店主、この裁縫箱の代金は幾らだ?」

 

 俺が代金を払い、裁縫箱がキャストリスの手の上に乗せられる。

 彼女はそれを大事そうに抱えながら、小さく笑みを顔に浮かばせた。

 

「ありがとうございます。

 買っていただいた裁縫箱、必ず大事にします」

 

「応、そうしてくれ。

 ....所で、何でソレにしたんだ?」

 

「私が身に着けているアクセサリーは自分で作ったものなのです。

 先日、アグライア様にそれを褒めていただいて...折角ならもっと上手に作ってみたくなって...。

 なのでこの裁縫箱を選びました」

 

「成程、ね。

 それならアクセサリーが完成したら俺にも見せてくれ。

 良し悪しはよく分からないけど、気になるからさ」

 

「はい、その時は私からお伺いしますね」

 

 俺とキャストリスが一つの約束を結んでいると、視界の端でサフェルが手を動かしているのが見える。

 その動きから見て、準備が終わったと判断して良いだろう。

 

「キャストリス、もう少し付き合ってもらってもいいか?

 最後に連れていきたい場所があるんだよ」

 

「?はい、分かりました」

 

「ほらほら、早く行こ!

 じゃないと日が暮れちゃうよ!」

 

「黎明のミハニがあるんだから暮れないだろ。

 ま、サフェルの言う通りとっとと行くとしようか」

 

 そうして俺とサフェル主導でキャストリスをある場所へと連れていく。

 目的の場所はオクヘイマに来てから日が浅いキャストリスでも特に見慣れた場所。

 そこは、俺たちが住んでいる屋敷だった。

 不思議そうな顔をしているキャストリスを連れたまま屋敷の中に入り、食堂へと向かう。

 そして食堂の扉を開いたその先には────

 

「いらっしゃい、キャスちゃん!

 今日は思いっきり楽ちんでね!」

 

「よく来てくれましたね、キャス。

 師範とセファリアもよく彼女を連れてきてくれました」

 

「え?

 あ、あの...皆様これは────」

 

「応、ライアもトリビーも準備お疲れさん。

 予定通り、ちゃんと料理も飾りつけも出来てるな!」

 

「もしかしたら予定通りにいかなかったかもしれなかったんだけどね~。

 ホント、心臓に悪いよ」

 

 食堂には様々な料理が並べられ、周囲の飾りが部屋を煌びやかにしている。

 その光景を目にしたキャストリスは目をグルグルと回しながら混乱の真っ最中だ。

 彼女の様子に苦笑しながら、ネタ晴らしを始める事にした。

 

「驚かせて悪いな、キャストリス。

 目の前のこれは歓迎会だと思ってくれ」

 

「歓迎会...ですか?

 それは誰の────」

 

「いやアンタ以外居ないでしょ。

 これの為に今日一日メチャクチャ頑張ったんだから感謝してよね!」

 

「それは────」

 

 俺たちの説明にキャストリスは言葉を失う。

 先ほどまでの動揺は鳴りを潜めたが、それ以外の感情が彼女の瞳に映る。

 その感情はキャストリスらしいものだった。

 

「そんなに申し訳なさそうにしないでくれ。

 この歓迎会自体、サフェルがここに来た時から始めたものだし俺たちも慣れてるからな」

 

「そうだよキャスちゃん。

 これはあたちたちがやりたくてやった事なんだから、キャスちゃんが気にすることなんか一つも無いよ」

 

「...皆様、ありがとうございます。

 今日は私も、楽しんでみます」

 

「では始めるとしましょうか。

 剣旗卿、始まりの曲をお願いできますか?」

 

「あぁ、任せてくれ。

 この宴に相応しい曲を奏でるとしよう」

 

 ライアがそう言うと、どこからともなくセイレンスが現れる。

 俺がそれに驚いていると、彼女は手に持ったバイオリンで曲を奏で始めた。

 場を盛り上げ、そこに居る者たち全員がその曲を合図にして食事や団欒に明け暮れる。

 こうして、歓迎会は幕を開けたのだった。

 

 

* * *

 

 

 歓迎会が始まって暫く経った後、俺はセイレンスと二人でメーレを飲んでいた。

 いつもの飲み比べとは違い、ゆっくりと少しづつ時間をかけて飲んでいく。

 そうする理由は、単に話すことがあるからだった。

 

「サフェルから聞いたぞ、お前が味見役で食べ過ぎたせいで一回料理が無くなったらしいな」

 

「あぁ、どの料理もとても美味だった。

 キミが食べられなかったのは申し訳ないと思っている」

 

「謝罪の方向性が思ってたのと違う....まぁいいけどさ。 

 こうしてちゃんと皆で過ごせてるわけだし」

 

 視界に映るのはトリビーたちやライア、サフェルにキャストリス。

 ラビエヌスやセネカ、アポロ二ウスにヴァージニアなど親しい者たちが集合している。

 ────だが、ここに一人だけ足りない者がいた。

 

「カイザーは、来なかったんだな」

 

「彼女は次の遠征の出征名簿を仕上げている。

 発表には恐らくそう時間もかからないだろう」

 

「《海洋》討伐、か。

 ファジェイナはもう暗黒の潮に飲まれてるんだよな?」

 

「あぁ、ワタシの記憶の通りなら間違いなくな。

 それだけでなくスティコシアも、既に飲まれているだろう」

 

「はぁ...次の遠征も大変そうだな」

 

「そう悲嘆することもない。

 カイザーの指揮にワタシたちが従うのだ、きっと勝利は揺るがないだろう」

 

「ま、それもそうだな。

 それじゃ遠征までに英気を養っておくか!」

 

「それにはワタシも同じ意見だが、今はこの宴を楽しむだけでいいのではないか?

 折角、こうして集まっているのだから」

 

 時間は溶けるように過ぎていく。

 それでも俺たちの記憶に、今日の宴は記憶に残り続けた。

 

 

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