クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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評価バーに赤色が付いたことに驚き、ビビりながらの4話目です。
今回も感想をいただけると大変励みになりますのでよろしくお願いします。


神託

 

 

 トリスビアスとの密会を続けて数週間が経った。

 昼はトリスビアスの周囲で護衛の任務をこなしながら、周囲をうろちょろする護衛にむけて殺気を飛ばす。

 夜は監視が少なくなる時間帯を狙って部屋に忍び込み、監視が戻ってくる頃合いを見計らって部屋から抜け出す。

 時には、監視を気絶させて静かな環境を整える。

 そんな日々を過ごしていくうちに気づくこともあった。

 時折、ほんの一瞬トリスビアスの顔つきが覚悟を決めているような、怯えているような、そんな表情に変わっていることに気付いた。

 それについて聞いてみても、言葉を濁らせて話を逸らされてしまう。

 本人がどうしても隠したいのなら無理に詮索するつもりもないので、いつでも聞く旨だけ伝えはしたがあれほど隠していたこともあって、彼女が言ってくれるとは少し考えにくかった。

 なんて事を考えながら、夜更けになると気配を殺して衛兵の隙間を掻い潜りトリスビアスの部屋に入る。

 

「よう、今日も話をしに来たぞ」

 

「えぇ、待ってたわ」

 

 最初にあった、バレるかもしれないという危惧も今となってはかなり薄くなっている。

 ポネウスにとって、トリスビアスと他愛のない話をするこの時間はとても貴重なものになっていた。

 

* * *

 

 

「それにしても貴方って不思議よね」

 

「どうした急に」

 

「だって貴方が話したクレムノス人の特徴が貴方とあまりかみ合わないものだから。

 あ、でも数学が苦手なのは一緒よね」

 

「あ~そういえばその話はしてなかったな。

 あと数学が苦手なのは本当だけど他のクレムノス人よりはマシだからな?」

 

 などとほんの少し数学に関して弁明をしてから話し始める。

 

「なんでも俺が生まれるときにニカドリーからお告げがあったらしくてな。

 確か『紛争の月、我の祝福を受けた子が首に胸に傷をうけて産まれおちるだろう』だったかな。

 もうちょっと何か言ってたような気もするけど....よく覚えてないしまぁいいか」

 

「....適当過ぎないかしら」

 

 トリスビアスはそう言って呆れた目を向けてくるが実際に憶えていないのだから気にしない。

 予言を聴いたのは数年前に一度だけなのだ、憶えていなくても誰も自分を責める者は居ないはずだ。

 

「まぁ、予言のことは一旦置いといてだな。

 ニカドリーが神託を出すなんてこと滅多にないから神官たちは大慌てでその赤子を探したんだよ。

 そんなこんなで、紛争の月に生まれて胸に傷があった赤子が俺だったみたいで、ニカドリーの祝福を受けてるって他のクレムノス人と比べても色々教えられたんだよ。

 武術だけじゃなくって、礼儀やら教養やらってな。

 ま、そのほとんどは身に付かなかったけど」

 

 そう言って、笑いながら身の上を話す。

 話し終わってトリスビアスの方を見ると真面目な顔でポネウスを見つめていた。

 そして彼女は意を決したような顔を見せると、話を切り出してきた。

 

「その環境はきっと良いものだったのだと思うわ。

 ならどうして貴方はクレムノスを出て、ここにいるの?」

 

 ...少し意表をつかれた。

 今まで何回も密会をして色々な話をしてきたが、自分がクレムノスから出奔した理由は話したことはなかった。

 無意識的に避けてきた話題を振られて一瞬動揺する。

 今までその理由は誰にも話したことが無い話だ。

 話をすることに抵抗はあるが、目の前の彼女ならば話してもいいと思えた。

 

「....元々クレムノス人が重んじてる『戦場での栄光』だったり、『栄誉ある死』だとか、そういうモノには憧れなかったんだよ。

 俺はそれよりも、クレムノスの戦士が大切な誰かを守る話に憧れたんだよ。

 その為に武術を習得して、礼儀を覚えて、教養を少しだけ学んで俺はクレムノスの戦士になったんだよ。

 それでも初めて戦場に立った時は酷いものだったよ。

 ただ無我夢中に剣を振って、誰かを守ることなんて頭に無くて、気が付いたら周りには数えきれないほどの死体だけができてた。

 次の戦場では少しだけ慣れたけど、やったことは変わらなかった。

 結局、いつの間にか《殺戮者》なんて呼ばれるようになっててな。

 クレムノスでは称えられもしたけど、別に嬉しくはなかったよ。」

 

 ポネウスは自分の経歴を思い返しながら話をする。

 トリスビアスは真剣な面持ちでこちらを見る。

 そんな彼女に応えるために話を続ける。

 

「そんなことを繰り返してる内に、ある戦争に参加することになってな。

 その時は、他の戦士たちと共同で動くことになってな。

 今までは一人で動くのが大半だったから新鮮だったよ。

 でも、敵に奇襲を受けてな。

 俺は殺されていく味方を守ろうとしたんだけど、その瞬間身体が異常に重くなったんだよ。

 今まで思い通りに動いていた手足がろくに動かなくなってな、守ろうとした相手が目の前で死んでいくのを見る羽目になっちっまた。

 まぁそんな動きの鈍いやつが居たら誰だって狙うだろ?

 俺を殺そうとしてきたやつに向かって剣を振るったら、手足の重圧が消えたんだよ。

 俺はそのまま襲ってくる敵を殺しつくしたけど、周りの味方は誰一人守れなかった。

 結局、俺は『守ること』をできないってわかってな、これ以上戦争に参加する意味が分からなくなったんだよ。

 ま、その結果旅に出ようってことで軍を出奔して今に至るって感じだ。

 クレムノスじゃ今頃、臆病者って言われてるんだろうな」

 

 そう言って、自嘲するように口を歪める。

 改めて見返してみても、何もなせなかった人生だったことを再確認する。

 ふとトリスビアスの反応を見ると、少し間が空いてから口を開いた。

 

「守れないってわかってたのに、どうして護衛についたの?」

 

「....コデクスさんに必死に頼まれたってのもあるけど....。

 結局のところ、俺もまだ夢を諦められなかったんだろうよ」

 

「ごめんなさい。

 答えにくい話だったのに」

 

「別にいいさ、俺も自分を見直すいい機会になったし」

 

 なるべくトリスビアスが重荷に感じないように言葉を選んで口から出す。

 それでも、トリスビアスの表情は晴れない。

 なんとかして彼女の表情を明るくできないか考えていると部屋の外に人の気配がする。

 

「長話しすぎたか。

 俺はもう行くよ」

 

「...えぇ、わかったわ」

 

 そういって、急いで護衛に見つからないように部屋の外へ向かう。

 部屋を出て廊下を歩いていると先ほどのトリスビアスの顔を思い出す。

 どうにかして彼女の表情を明るくできないかと考えていると、ふとあることを思いついた。

 成功するかは分からないが、何もしないよりはマシだろうとポネウスは歩く足を速めて目的の場所に向かった。

 

 

* * *

 

 

 ポネウスが自身の経歴を話してから、数日後ポネウスはいつも通りにトリスビアスの部屋を訪れていた。

 ポネウスの手には何やら箱が抱えられており。

 トリスビアスはその箱を怪訝そうに見つめる。

 

「その箱...何かコデクス様から渡すように頼まれたの?」

 

「そういうんじゃないさ。

 まぁ気に入るかは分からないけど、一回見てくれ」

 

 そういってポネウスは箱の蓋を開ける。

 その箱の中から取り出したのは....。

 

「これって...花冠?」

 

「あぁ、この部屋にはこういう花も何もないだろ?

 だからヤヌサポリスも郊外にある花畑から積んできたんだよ。

 まぁ、花冠なのは花畑の場所を聴いた人に、こうした方が良いって言われてな。 

 なんでかは分からなかったけど、どうせならってことでやってみたんだ。

 不格好なのは...見逃してもらえると助かる」

 

「それは分かったけど...どうして私に?」

 

「花の装飾がついてるものをよく着てるから好きなのかと思ってな。

 あとは、たまに元気がなさそうだったってのもあるけど、この前俺の話で落ち込ませちまっただろ?

 それのお詫びも兼ねてってことで作ってきたんだよ」

 

 理由を聞いたトリスビアスの顔は徐々にほころんでいく。

 その顔を見て、慣れないことをした甲斐があったと胸が暖かくなる。

 そして、花冠を渡そうとするとトリスビアスの反応が変わる。

 

「貴方...手を怪我してるわよ」

 

「え?うわ、花の葉で切っちまったか

 まぁ大したことないだろ」

 

「だめよ、傷口からは何が入るか分からないんだから。

 ちゃんと手当てしないと」

 

「別にこれくらいの傷でどうこうは無いと思うけど」

 

 トリスビアスがポネウスの手をとって、傷口をよく見ようとすると彼女の顔が驚愕に染まる。

 ポネウスはどうしたのかと彼女の視線を辿るとその理由がはっきりする。

 傷口から、黄金の血が流れていたからだ。

 

「....貴方も、身体に黄金の血が流れていたのね」

 

「『も』ってことは...」

 

「えぇ、私の身体にも黄金の血が流れているわ」

 

 トリスビアスに自分と同じように黄金の血が流れていたことに驚きもしたが、それ以上にトリスビアスの様子がおかしいことに気がいく。

 自分の傷口を眺めながら、何かを考えこむ様子を見せるトリスビアス。

 何か話そうとしたが、彼女の様子を見ているとその考えも引っ込んでしまう。

 そして暫くの間、この状態が続くとトリスビアスが口を開いた。

 

「....貴方は私のことをこんなに心配して、守ってくれてるのに私の方は肝心なことは何も話さないままだったわね」

 

「気にするようなことじゃないだろ。

 誰だって話したくない事の一つや二つあるもんだろ。

 それにこの前発明品について教えてくれたろ?

 あのオルゴールとかさ」

 

「そうね、でも私はこのまま貴方に与えれてばかりは嫌なの。

 貴方とは対等でありたいの。

 でもこの話を聞いたら、貴方も悲惨な運命を辿ることになるかもしれない。

 だからよく考えて決めてほしいの」

 

 トリスビアスはそう言って覚悟を決めたようにこちらを見る。

 彼女は今まで隠してきたことを話そうとしている。

 それがどれほど勇気のいるものかは自分にもわかっている。

 ならば自分はその覚悟に向き合うべきだとポネウスも覚悟を決める。

 

「教えてくれ。

 それを聞くことでアンタの力になれるんなら、迷う理由なんかねぇよ」

 

「...わかったわ。

 私は十年前、ママが居なくなってしまった日に神託を聴いたの。

 その時ママはヤーヌスに前途を示してくれるよう祈る儀式をしていたの。

 でも、その祈りに答えたのはヤーヌスではなく、ケファレだったわ」

 

「ケファレが!?」

 

 ケファレと言えば世を背負うタイタン。

 人間を生み出したとされ、タイタンの中でもかなり特別視されている存在だ。

 そんな存在が彼女に下した神託とは何なのか、ポネウスは続く話に耳を傾ける。

 

「その信託は、身体に黄金の血を流す十二人の英雄が自我を失ったタイタンを破り、火種を回収してオンパロスを救う。

 そういうモノだったの」

 

 ポネウスは声が出なかった。

 トリスビアスが言った予言は今ある常識をひっくり返すものだった。

 

「アンタは、その神託をどう受け取ったんだ?」

 

「私は神託を真実だと信じているわ。

 実際に暗黒の潮の被害は増え続けているし、クレムノスも無関係ではないでしょう?」

 

「あぁ、ニカドリーでも暗黒の潮に対処できなくなってる。

 ただでさえ今でも、そこら中の都市国家に戦争を仕掛けてんのに完全に狂ったらそれこそ手の付けようがない」

 

 ポネウスはトリスビアスの質問を肯定で返す。

 旅に出てコデクスと知り合うことになった原因は暗黒の潮だったこともあり、トリスビアスの話には確かな信憑性があった。

 

「じゃあアンタはどうする気なんだ」

 

「...私はヤーヌスの火種を盗んで、ヤヌサポリスから逃げるつもりよ。

 逃げた後はケファレの神託を他の都市国家に伝えに行くわ。

 危険な旅路なのはわかってる。

 けれど、ただ黙って滅びを眺めるのは嫌なの。

 私は神権をついで『門と道』の約束を必ず果たすわ」

 

 そう宣言するトリスビアスの目には確かな燃えるような覚悟があった。

 その目をこちらにむけたまま、トリスビアスは話し続ける。

 

「私の目的は途方もないもの。

 その途中で倒れてしまってもなんらおかしくない。

 それが分かっているのに貴方にこんなお願いをするのは心苦しいわ。

 けど、貴方は私を守ってくれた、私の事を知りたいと言ってくれた、私の事を思って花冠を作ってくれた。

 そのどれもが真っすぐで嘘のないものだったから、貴方を信じたくなったの。

 だから....

 

 

 

 

 

 

 

 私と一緒に火を追う旅に同行してほしいの」

  

 

 

 

 

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