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とある都市国家の大通りでは普段各地から取り寄せられた品を買うために、多くの人が賑わいを見せていた。
だが、その日はいつもの賑わいとは違った喧騒が響いている。
大通りを駆ける大勢の人影。
一人は額に汗を浮かべながら走る金色の髪と目をした青年。
もう一人はその青年の脇に抱えられている赤色の髪と薄青色の瞳をした童女。
後の人影はその二人を追う大勢の都市国家の衛兵たちと大通りの隅に寄り、逃走撃を見物する市民たちだった。
「逃すな!
偽りの神託を吹聴する不届者を即刻捕縛せよ!
殺すことになっても構わん!」
「偽りじゃないっての!
いい加減追ってくるのやめろ!」
「ポネウス!
前見て走って!
転んじゃっても『あたちたち』は知らないからね!」
二人は声を張り上げながら都市国家の中を逃げ回る。
ヤヌサポリスから出発して、数多の都市国家を渡り歩き神託を告げてきたが殆どの都市国家では信じられることがなく、こうして追われることは二人にとって日常になっていた。
「トリビー!
もうそろそろ得物使ってもいいか!?」
「駄目だってば!
武器を使うのは本当にどうしようもなくなったらだからね!
何でもかんでも暴力で解決ちてたら後で痛い目見るんだから!」
トリスビアスから分裂した千人のうちの一人、トリビーは武器を使おうとするポネウスを嗜める。
この旅をしている目的は神託を人々に伝え、救世に力を貸してもらうため。
ゆく先々で武力で対処していては得られる信用も得られなくなってしまうだろうとトリビーたちは考えた。
その考えは理解できるのだ。
理解は出来るのだがーー。
「こういう状況だとキッツいなぁコレ!」
叫びながら背後から飛んでくる槍や矢をトリビーを抱えて避ける。
衛兵たちもただ何も考えずに二人を追っているわけではない。
二人の走る先を見て、先回りをして逃げ道を塞いでいた。
勤勉なことは結構だが、二人にとっては迷惑なことこの上ない。
今はまだ余裕があるが、これを何回も繰り返していたらその余裕も剥がれてしまうだろう。
流石にそろそろ行動を起こさないと捕まりかねない。
頭に最悪の想定が思い浮かんだその時、トリビーはある方向を見て声を上げる。
「ポネウス!
あの路地から上に行きまちょう!」
「ッ了解!」
ポネウスは急ブレーキをかけて、路地の方向に向き直る。
その路地は二、三人入れば動けなくなるほど狭い道だった。
だが、今はその狭さが二人にとって救いになる。
ポネウスは走りの勢いをそのままに路地の壁を足場にして上へ上へと登っていく。
衛兵たちもそれを追おうとしたが、ポネウスたちが登った建物の屋上はかなりの高さ、すぐに登れはしないだろう。
「じゃあな衛兵さん。
職務頑張ってくれよ?」
そんな様子を見て、ポネウスはできる限り朗らかに笑顔を浮かべるように声をかける。
悪印象を持たせない為に言ったのだが、逆効果だったようで衛兵たちの顔に青筋が走り、下から罵声が飛んでくる。
その反応に苦笑しつつ再び都市国家の外へ向けて走り出す。
ふとトリビーを見ると、彼女は呆れたような目をポネウスに向けていた。
「最後の挨拶する必要あったの?
皆凄い顔ちてたわよ」
「いや〜俺なりに悪い印象を持たせないようにした筈なんだけど、中々上手くいかないもんだな」
「ポネウスには、挨拶は任せない方がいいかもちれないわね」
側から見れば、年端もいかない子供に青年が呆れられてるという、立場が逆なのではないかと疑う光景が広げられていた。
だがこの光景もまた、旅を始めた頃からの馴染みのものになっていた。
* * *
ポネウスとトリビーが旅を始めてから早くも数十年が経っていた。
どうやらトリビーはトリスビアスから分裂した千人のうちのリーダーのような立場にあるらしくポネウスは彼女に同行していた。
二人は都市国家を回って創世の神託を人々に伝え回っていた。
時には捕まってしまった他のトリスビアスの分身を助けに行ったり、
またある時は他の分身と合流して神託を告げにいくこともあった。
....時には、間に合わなかった分身が苦しまないように介錯したりと、色々な事を体験した。
数えきれないほどの苦痛があった、後悔なんて数えきれないほどした、それでも火を追う旅を続ける覚悟は依然ある。
そうしてポネウスはトリビーと共に長い間歩んできた。
今回訪れた都市国家でも上手くいかなかったが、諦める気は欠片もなかった。
「それにしても、今回の都市国家はいつにも増して警戒されてたな。
やっぱりアレが原因かね?」
「うん、『あたちたち』もそう思う。
最近だと黄金戦争って呼ばれるぐらい広まってるらちいし、あの人たちも巻き込まれたくはないだろうちね」
黄金戦争。
それはトリビーたちのお告げを聞いた権力者が悪意によって神託を捻じ曲げ引き起こした戦争だ。
今となってはオンパロスの各地がその戦火に巻き込まれている。
「暗黒の潮も広がってるってのに、人同士で争ってる場合かよ」
「....うん、でも『あたちたち』はこれからも神託を告げ続けないと」
トリビーの表情が陰る。
黄金戦争は元を辿れば自分たちが神託を伝えた事が発端だ。
それに多くの人が巻き込まれ、命を落としている。
その事に対する罪悪感は中々拭えない。
それに、黄金戦争に巻き込まれることで、急速に分身たちの数が減っていることもある。
身を犠牲にする覚悟はしていた、それでも仲間が居なくなってしまうのは苦しいのだ。
それにーー、ふとトリビーが横目でポネウスを見る。
この青年は自分たちの分身がいなくなってしまう度に、自分たち以上に苦しそうな顔を見せる。
彼にそんな顔をさせてしまう事に申し訳なさを感じる。
「ま、うだうだ言っててもどうしようもないな。
次は何処の都市国家に行くんだ?
それとも一回オクヘイマに戻るか?
最近はライアにも会えてないし、息抜きにちょうどいいんじゃないか?」
「うぅん、次はこのまま北の方に向かおうかなって思うんだ。
そっちの方に何人か分身の子たちが居るみたいだから合流しようと思うの」
「応、じゃあ準備しなきゃな。
北の方はかなり冷えるし...防寒具ってなに持ってけばいいんだ?」
そうして二人は北に向かう為の準備を進める。
トリビー主導で必要なものを北に向かう道中で調達していき、二人は北境の都市国家にたどり着いた。
「なぁトリビー、別に俺は防寒具着なくても大丈夫だぞ?
というか動きにくくなるからあんまり着たくない。
そっちがもっと着るべきじゃないか?」
「ダメ!
ただでさえ薄着なのに風邪引いたらどうするの?。
ちゃんと体は温めなきゃなんだから!」
「本当に大丈夫なんだけどな...。
にしても、やけに人が多いな」
「...うん、ここでも戦争の準備をちてるみたい」
「刺激するかもしれないし、ここで神託を告げるのは辞めておくか?」
周囲には、多くの剣や槍といった武器や食料が多くみられた。
ここでも神託を利用して戦争で私欲を満たそうとするものがいる、その事実に自然と目つきが鋭くなる。
周囲を睨みつけながら、トリビーの判断を待つ。
トリビーは少しの間考えてから首を横にふった。
「確かに危ないかもちれないけど『あたちたち』はより多くの人に神託を聞いて貰わなきゃいけないもの。
ポネウスには危ない目に付き合わせちゃうけど...」
「旅に出てから危ない目になんて数えきれないぐらいあってるんだぞ?
今更どうってことねぇよ。
最悪、全員ぶっ飛ばせばいいんだからな!」
そういってトリビーの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
トリビーは最初驚いたような声を上げるが、徐々に顔を綻ばす。
そして二人は人の目につく場所に移動し、この数十年でやってきたように神託を告げ始めた。
ポネウスは少し離れた場所で、そのお告げを聞くものがトリビーに危害を加えないか注意深く見張る。
徐々に人が増え始め、その中には武装した衛兵も見え始める。
ポネウスはすぐに行動できるように構えるが、突如違和感を感じた。
「敵意が...ない?」
今までの都市国家では、神託を告げている最中でも衛兵たちはそれを止めようとしてきた。
だが、この都市国家ではそういった行動を起こさずにただ、何かを見極めているかのようにトリビーを見ているだけだった。
ポネウスが首をかしげていると神託のお告げが終わり、衛兵たちはトリビーの方へと近づいていく。
衛兵たちが近づくのを見たポネウスは即座にトリビーと衛兵の間に割って入る。
衛兵はポネウスとトリビーを見ると口を開く。
「ヤヌサポリスの聖女とその従者だな?
我らの主が貴殿らとの会談を求めている」
二人は驚き顔を見合わせる。
今までこの神託を聞いてまともに取り合った人間は少ない。
二人にもしかしたらという希望が生まれるが、油断はできないと気を引き締める。
以前はポネウスを殺してトリビーを監禁しようとしてきた者までいた始末だ。
だが好機であることは事実。
トリビーとポネウスは頷きあってから衛兵に返事をする。
「えぇ、わかったわ。
貴方たちの主君に合わせてちょうだい」
先導する衛兵の後に続いて軍の駐屯地の中に入っていく。
駐屯地の中には多くの戦士がおり、鍛錬や武器の手入れを行っていた。
その誰もが鍛えられており、逃げる事態になった時は苦労しそうだと嘆息する。
衛兵のあとに続いていると一際大きい天幕まで案内された。
「少し待っていろ」
そういって衛兵は天幕の中に入っていった。
何やら中で話し声が聞こえてくるが、それもすぐに終わりーー。
「入れ」
天幕の中から尊大な声が聞こえてきた。
その声の指示した通りに二人は天幕の中に入る。
天幕の中には、やけに座高が高い椅子に座った少女がこちらを見定めるような視線を向けていた。
その少女を見て、トリビーは声をかける
「『あたちたち』はヤヌサポリスのトリビー、彼は従者のポネウスよ。
貴女がこの軍の指導者かちら?」
「....あぁ、そうだ。
僕はカイザー、ケリュドラ。
お前たちはカイザーと呼ぶがいい」
椅子に座った少女は尊大な態度を崩さずに名乗る。
その声には『圧』のようなものが感じられ、天幕の中の空気を重くする。
「今日お前たちを呼んだのは他でもない『創世の神託』についてだ。
お前たちが各地の都市国家で告げていた神託、それを発端にして多くの地で戦火をまき散らしている。
そして奴らが主張している神託に正しいものは一つもない。
そうだな?」
「...うん、その通りだよ」
ケリュドラは声を鋭くしてトリビーに問いかける。
その声に含まれる重圧には一切の誤魔化しや方便を許さないという意思が感じられた。
トリビーはその重圧のなか、返事を返す。
その返事を聞いたケリュドラは口を歪めると、小さく笑う。
その反応を見たポネウスとトリビーは訝しげにケリュドラを見る。
「カイザー、だったか?
アンタは何のために俺らを呼んだんだ?
もし俺らを利用するためだってんなら、こっちも容赦はしねぇぞ」
「では、お前たちが疑心暗鬼に飲まれる前に本題を言おうか。
僕と僕が率いる精鋭たちが、お前たちの火追いの旅に協力しようではないか」
ケリュドラが発した言葉は二人の顔を驚愕に染めるには十分だった。
火を追う旅に権力を持った協力者が出来る。
それはこの数十年、停滞を続けていた状況を変えられる一手だった。
今すぐにでもその提案に飛びつきたくもなるがそうもいかない。
「カイザー、そう言ってくれるのは本当に嬉ちいんだけど、どうして協力ちてくれるのか教えてくれないかちら?」
「単純な事だ。
旧き法を崩し新たな法の礎にする。
それを為せるのは僕しかいない。
それ以上の理由が必要か?」
ケリュドラが発した理由、それは不遜にして傲慢。
だがその言葉には、為せるのは彼女しかいないと思わせるほどの確固たる重みが感じられた。
ポネウスとトリビーは顔を見合わせ、頷く。
二人の選択は既に決まっていた。
「わかったわ、『あたちたち』は貴女に協力する」
「俺も最大限力を貸すつもりだ。
ただ裏切るような真似はしてくれんなよ」
「お前たちが僕に従う限り、僕がお前たちを排する事もない。
聖女の従者、お前もその言葉を違えるなよ」
こうして停滞していた火を追う旅は野心を抱く女皇の登場により動き始める。
女皇の覇道の先には何があり、どのような景色が広がっているのか。
それはタイタンですら予想出来ないだろう。