クレムノスの殺戮者   作:同乗者

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戦闘描写の難しさを感じた8話目です。


剣旗

 

 

 戦場を駆ける。

 両剣を振り回し敵を切り裂く。

 

 戦場を駆ける。

 殺した敵の血を浴びる。

 

 戦場を駆ける。

 気分が高揚し口の端が吊り上がる。

 

 悲鳴が上がり、断末魔が響き渡り、笑い声がこだまする。

 血肉が飛び散り、亡骸が積み重なり、大地を埋めていく。

 そんな地獄絵図に懐かしさを感じながら体に染みついた動作を繰り返す。

 より多くの死を積み重ねていく。

 その場に命あるものが居なくなるまで惨劇を続けていく。

 

* * *

 

 

「...こんなもんか」

 

 周囲に気配が感じられなくなり、血に染まった得物を背負いなおす。

 高揚している気分を落ち着ける為に大きく息を吸い、ゆっくり吐く。

 血の匂いが肺いっぱいに充満すると同時に、先ほどまで感じていた高揚は徐々に消えていく。

 だが、紛争によって鋭敏になった感覚は、明瞭になった思考に情報を無理やり押しつける。

 現在自分がいる場所から少し離れた場所からは鋼同士がぶつかり合う音や火薬の匂い、雄叫びが響いて、いまだ紛争が続いている場所があることを知らせていた。

 普段ならばこのまま向かうところなのだがーーー。

 

「カイザーのやつ、俺の担当が大隊だけって何考えてんだ?」

 

 カイザーは自分に対して、潜伏している大隊の対処を一任してきた。

 それ自体は構わないのだが、問題はその後にしてきた命令だ。

 

「大隊を倒し終えたら本陣に帰還せよ...って俺が行った方が早く終わるだろ」

 

 カイザーは任務が終われば戻るように言っていたが、どうにも納得できない。

 依然として余力は十分残っているし、なんなら戦争が始まる前よりも調子はいい。

 だというのにこのまま戻れ、とはケリュドラの意図が全く分からない。

 そうして不満を感じていると、戦争の音とはまた違った音が耳に入る。

 

「おーい!ポネウス!

 大丈夫だったか..ってどうしたんだその血!?

 もしかして怪我しちゃったのか!?」

 

 その音の方向を見てみれば、トリアンがこっちに向かって飛んできていた。

 彼女はこちらを見て何か驚いているようだが、そんなに酷い姿はしていないはずと思って自分の格好を見てみると思っていたよりも返り血が身体全体にかかっているではないか。

 そりゃ驚くわけだ、と納得し自分の周りを心配そうに飛び回るトリアンを宥める。

 

「落ち着けトリアン、 俺は傷一つついてないから。

 これ全部返り血だから」

 

「ほ、本当か?

 嘘はダメだぞ!」

 

「噓じゃないって。

 この通りピンピンしてるよ」

 

 そういってドンと強く自分の胸を叩く。

 その様子を見てトリアンも納得したのか、ようやく落ち着いて胸を撫でおろす。

 

「無理だけは絶対しちゃダメだからな!

 ...ってそう言えばカイザーが呼んでたぞ、『任務が終わったのなら早急に戻ってこい』だってさ」

 

「あーその為に来たのか...。

 なぁあっちの戦場はどんな状況だ?」

 

 どうしても気になってトリアンに戦場の状況を聞いてみる。

 悪い状況になっているのならカイザーの命令を無視してでも...ともしもの可能性を考えていたがトリアンの表情は明るいまま、心配していたような状況ではなさそうだ。

 

「カイザーの指揮凄かったんだぞ!

 敵の動きをどんどん言い当てて、ドンドン敵を倒してたんだ!」

 

「そうなのか...いや、大丈夫なら良いんだけどな」

 

「そうか?

 まぁいいや、早く戻るぞ!」

 

 そう言って飛んでいくトリアンに置いて行かれないように追いかける。

 カイザーの指揮は自分が予想していたよりも何倍も優れているらしい。

 それでも、カイザーの命令に対する不審は消えなかったが。

 

* * *

 

「戻ったぞ!」

 

「同じく戻ったぞ」

 

 トリアンを追って本陣につくとカイザーがいる天幕の中に入る。

 その中には地図を見ながら兵たちに支持を出しているケリュドラとそケリュドラに戦況を伝えているトリビーがいた。

 

「お帰りなさい、二人とも。

 怪我はちてない?」

 

「戻ったか巡剣卿。

 任務はやり遂げたようだな」

 

 トリビーは心配そうに気遣い、ケリュドラは満足気に笑みを浮かべる。

 

「ただいまトリビー。

 見ての通り傷一つつかなかったさ。

 それとカイザー、こっちが優勢って聞いたんだけどどんな調子だ?」

 

「一切問題は無い。

 このまま何も指揮せずとも一刻も経たずに終わるだろうな」

 

 ケリュドラは腕を組みながらこちらの質問に答える。

 ケリュドラが言った通りの状況ならば、自分の出番も無いだろう。

 そう思い、張りつめていた気を緩める。

 

「巡剣卿、お前には戻ってくる兵士たちを纏めてもらう。

 将校たちと連携しながら事に当たれ。

 何か分からないことがあれば牽石卿に聞けばいい」

 

「俺が?

 まぁ別にいいけどさ」

 

「わかったのならすぐに取り掛かれ。

 時間を無駄にしないようにな」

 

 そう言って再び地図に目をやるカイザー。

 今回の命令のことを聞こうかと思ったがあの様子では答えてはくれないだろうと判断して天幕を出る。

 牽石卿、アポロ二ウスと共に兵士たちを纏める準備を進めていると、戦争も終わったようで兵士たちが続々と戻ってくる。

 そうしてケリュドラに任された仕事を終えるころには、辺りは既に日が落ち暗くなっていた。

 仕事が終わったことを報告するついでに今回の自分への命令、その意図を尋ねるためにケリュドラがいた天幕へと向かう。

 だが、天幕の中を見てもケリュドラの姿は見えなかった。

 それどころか何処を探しても影も形もありはしない。

 徐々に嫌な予感が胸の内に漂い始めると、背後から声をかけられる。

 

「そんなに焦ってどうしたんだい、巡剣卿」

 

「!ってアポロ二ウスかよ。

 驚かせないでくれ」

 

「すまないね。

 でも君が随分と焦っているように見えたからついね。

 それで何かあったのかい?」

 

「カイザーが何処に行ったか知ってるか?

 何処を探しても見当たらないんだよ」

 

「カイザーかい?

 カイザーなら数刻前に近くで戦争が起きていた場所に少数の護衛を連れて向かったよ」

 

「は?」

 

 思わず耳を疑う。

 普通そういうことは伝えてから行くものではないのだろうか。

 散々心配したのが一気に馬鹿らしくなってきた。

 取り合えず今は、一つだけ確信したことがある。

 

「絶対いつか痛い目見るぞ。

 あのカイザー」

 

 それを聞いたアポロ二ウスは思わず苦笑するしかなかったようだ。

 

 

* * *

 

「早速だが、これから僕の軍に剣旗として加わる者を連れてきた」

 

「セイレンスだ。

 以後よろしく頼む」

 

「ちょっと待て」

 

 思わず呼び止める。

 ケリュドラと隣にいる人物は不思議そうにこちらを見ているがその顔はこちらにする権利がある筈だ。

 

「なんだ巡剣卿、僕の決定に何か異議でもあるのか?」

 

「異議しかないっての。

 急に出てって急に戻ってきたかと思ったら知らねぇ奴連れてきてんだから」

 

 ケリュドラが連れてきた人物、セイレンスと名乗った者に目を向ける。

 美醜に疎い自分でも美しいと感じる顔に、夜を思わせる様な黒髪、そして何やら水のようになっている腹。

 容姿だけでも只人じゃないのは分かるというのにその上、彼女から漂ってくる濃厚な血の匂いと痺れるような尋常ではない剣気。

 そんな相手を警戒するなって方が無理な話だ。

 

「素性なぞ大した問題ではない、元々この軍も各地から戦士たちを集めて出来たもの、その中に自身の素性をひけらかしている者がどれだけ居る?

 何より、この者を剣旗にする、これは僕が直々に決めた事だ。

 異議があるのなら僕が納得するような理由を持ってくるのだな」

 

 無理に決まってるだろ。

 口から出かけた言葉を飲み込む

 自分がケリュドラ相手に口で勝てる筈もない、何か言っても反論されるのがオチだろう。

 しかも、ボコボコに。

 そんな負けが明らかな状況に歯噛みしているとセイレンスが口を開く。

 

「金色のカジキよ、キミの懸念はもっともだ。

 だから今すぐに信用してくれとは頼まない。

 ただ、ワタシはカイザーに心を捧げた、それだけは憶えておいてくれ」

 

 こちらの目を真っ直ぐ見ながら告げるセイレンス。

 その様子を見ても嘘をついているようには見えないし、少なくとも即座に裏切るような真似はしないだろう。

 

「...わかった。

 俺からはこれ以上は何も言わない」

 

 これ以上自分がうだうだ言ったところでケリュドラが判断を覆すようなことはしないだろうし、話も進まない。

 警戒はしておくとして、ここは自分が折れるべきだろう。

 

「なんだ、聞き分けがいいじゃないか。

 もっと意地を張ると思ったんだがな?」

 

「カイザーに言葉でボコボコにされるのは嫌なんだよ。

 ただでさえトリビーたちに叱られることが多いってのに、これ以上は御免だね」

 

「ふん、他に異議のあるものは居るか?」

 

 ケリュドラは周囲にいる臣下たちに目を向けるが、誰も意義は無いことを態度で示している。

 それを見たケリュドラは満足そうに頷く。

 

「異議がないのであれば、次の話に移るとしよう。

 巡剣卿、お前には今からーーー

 

 

 

 

 

 

 剣旗卿と戦ってもらう」

 

 

* * *

 

「どうちてそんなことになってるの!?」

 

 トリビーの声が響き渡る。

 周囲の姉妹たちも一様に驚いている様子や心配している様子を見せている。

 何人かは興奮しているようだが。

 

「兵たちにセイレンスの実力を見せるんだとよ。

 俺もセイレンスがどんぐらい強いのか知りたかったし、ちょうどいいさ」

 

 両剣の手入れをしながら、トリビーの質問に答える。

 仕合が始まるまで猶予はないが、あの剣士を相手にするのならば万全を期して臨むべきだと判断した。

 

「...無理はダメだよ?

 セイレンスお姉ちゃんは戦争を一人で終わらせたんだから。

 ポネウスでも簡単には勝てないよ」

 

「それは分かってる。

 あの剣気からして尋常な相手じゃない、なんなら今まで戦ってきた相手で一番手強いかもしれないしな」

 

 出会ったときにセイレンスから感じた剣気を思い出す。

 あれから時間は立っているというのに、まだ身体が痺れるような感覚がする。

 だが、その痺れと同時に沸々と心の底から熱が湧き上がってくるのも感じる。

 こんな風に感じる相手との仕合は滅多にない、故に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「まぁ、怪我しないように頑張るさ。

 俺の戦い振り、よく見といてくれ」

 

「...うん、頑張って!」

 

 両剣の手入れが終わり、仕合の場に向かう。

 そこには既にセイレンスが立っていた。

 その手には楽器のようにも見える双剣が握られている。

 

「時間前に来たと思ったんだが、待たせちまったか?」

 

「ワタシにはさして準備は必要ないからな。

 金色のカジキ、キミが気にすることではない」

 

「なら良いんだけど...さっきからその金色のカジキってなんだ?」

 

「キミは真っ直ぐに素早く、その剣で戦ってきたのだろう?

 最もキミに適した呼び方だと思っただけだ」

 

「...成程ね」

 

 イマイチわからん。

 カジキってのに似てるって言われてもどんな反応をすればいいのかさっぱり分からない。

 カジキなんて見たことないし。

 取り敢えず呼び方に関しては隅に置いておく。

 もうすぐで仕合の時間でもあるし、ここから先は余分な情報をあまり取り入れたくはない。

 目の前の相手に集中する。

 どんな動きを、攻撃をしてきてもいいように神経を尖らせる。

 セイレンスもまた同じように、こちらの様子を伺っている。

 時間が来るまで、自分もセイレンスもその状態を保つ。

 

「....時間だ。

 皆の者、よく見ておけ!

 これより僕の剣旗と、聖女の従者の仕合を始める!

 勝敗は先に効果的な一撃を加えた者の勝利とする」

 

 歓声が上がる。

 周囲には軍の人間が集まり、彼らで出来た円の囲いの中が今回の仕合の場だった。

 

「剣旗卿、巡剣卿。

 準備はいいな?」

 

「もちろんだ、カイザー」

 

「応、さっさと始めよう」

 

「では開始の合図は僕が出そう」

 

 場の空気が軋み、二人の戦意がその場を占拠する。

 仕合を見に来た者たちも、自然と静かになっていく。

 その場の空気は、開始の合図を今か今かと待ちわびている。

 そして場の緊張が頂点に達しその時ーーー。

 

「始め!!」

 

 ケリュドラの合図とともに空気が炸裂した。

 

「「ッ!!」」

 

 二人は一瞬で距離を詰め、互いの攻撃を受け止める。

 武器の押し合いは一瞬の拮抗を見せたが、膂力に関してはこちらに軍配が上がった。

 勢いよくセイレンスの武器を弾き、がら空きになった胴体に向けて刃を振るう。

 しかしセイレンスは弾かれた勢いのまま滑るように刃を避け、そのまま貫かんと剣の切っ先が向く。

 その刺突を何とか柄で受け止め、そのままの勢いで後ろに下がりセイレンスの様子を見る。

 

(掴みどころのな戦い方。

 やっぱり...強いな)

 

 滑るような歩法に自分に拮抗し得る膂力、さらには見たことのない剣術、ほんの一瞬の攻防であっても目の前の相手は今まで戦ってきた相手の誰よりも格上だと確信する。

 

「まぁ、その方が楽しいけどな」

 

 得難い強者との本気の仕合い。

 トリビーたちと旅に出てから...というよりクレムノスにいた頃からここまでの相手は居なかった。

 戦意が高まり、殺意が溢れて、笑みを浮かべる。

 セイレンスは先程の攻防から警戒して構えを微塵も崩さない。

 だが、それがどうしたと言うのか。

 得物の調子も、身体の状態も良好であるのなら選ぶ手段はーーー。

 

「正面突破!」

 

 小細工なしの真っ向勝負。

 最も自分が得意な戦い方に徹底することを選ぶ。

 一息でセイレンスに近づくと、彼女に向かって斬撃を放ち続ける。

 その一振り一振りは容易く人体を両断できるほどの威力を備えている。

 だがセイレンスも冷静に刃の嵐をいなし、弾き、反撃する。

 片や荒々しく無骨に攻め続ける者、片や流麗で舞のように隙間をぬって攻める者。

 そんなひとつのミスがそのまま命を落とすことに繋がる程の攻防を何度も何度も繰り返す。

 並みの戦士ではこの戦いに割って入るどころか近づくことすら出来ないのだが、セイレンスはそんな状況にあって一つの違和感に気付いていた。

 

(渦潮の如き剣戟、荒波を思わせる殺意、この魚の剣には一切の『防御』がない)

 

 セイレンスが気づいた違和感。

 それはポネウスが一切の防御手段をとっていない事だ。

 ポネウスは何かを守る際、身体に重圧がかかるかのように身体が思うように動かせなくなる。

 それは他者を守るときだけではなく、自分が相手の攻撃から身を守るときですら同じだった。

 だからこそ、ポネウスは一切の防御を捨てている。

 ポネウスが行う防御手段はその全てが攻撃を行った際の副産物だ。

 剣を振るう余波で敵の剣を弾き、自らに振るわれる剣を壊す目的でこちらも剣を振るう。

 だが、そんな防御未満のものでセイレンスの攻撃を防げる道理はない。

 連撃をかいくぐって振るわれる剣閃によってポネウスの身体には徐々に傷が増え、黄金の血を流していく。

 それでも、ポネウスの勢いは衰えることはない、寧ろ剣戟の速度がさらに上昇する。

 

「オオオオオォォォォッッッッ!!!」

 

 獅子の如き雄たけびを上げてさらに突進する。

 斬って、弾いて、刺して、斬って、受けて、斬られて、斬って、蹴って、刺して、斬られて、斬って、斬って、斬って、斬り続ける。

 速くなり続ける剣戟に、セイレンスの顔にも焦りが浮かぶ。

 セイレンスは一度背後へ飛び、魚の形をした無数の水弾を飛ばす。

 それをポネウスは両剣の一振りで薙ぎ払い、セイレンスに急接近し刃を振るう。

 セイレンスは振るわれる剣をなんとか防ぐが、ポネウスの膂力によって剣が手から弾かれてしまう。

 ポネウスは弾かれた剣を見て、返す刃でセイレンスの首を狙う。

 セイレンスのもう一本の剣だけでは、その剣を防ぐ術はない。

 そのままポネウスの両剣がセイレンスの首に届きーーー。

 

「そこまで!」

 

 命を奪う前に、ケリュドラの声を聞き武器を止める。

 ポネウスの剣はセイレンスの首の寸前で止められており、もう少し止めるのが遅かったらそのまま首を斬り落としていただろう。

 だがそれは、ポネウスも同じことだった。

 セイレンスが持つもう一本の剣。

 その切っ先がポネウスの心臓に向かって突き出されているのだから。

 

「...クソッ、焦っちまったか」

 

「勝負は引き分けなのだからそう悔しがることもないだろう。

 ワタシもここまで追いつめられるとは思ってもいなかった。

 強いな、キミは」

 

「アンタ程の相手にそう言われるのは嬉しいもんだな。

 戦えてよかったけど...今回の勝負は俺の負けだろ。

 アンタと俺、傷の差がありすぎる」

 

 ポネウスとセイレンス、二人が負っている傷は断然ポネウスの方が多い。

 傷の量から見ても、仕合いの勝者はセイレンスだろうとポネウスは思ったがセイレンスは首を横に振る。

 

「確かに傷の量で言えばキミの方が多い。

 だが、それも命に関わるほどの傷ではないうえに、結果としては互いにあと一歩だったんだ。

 ワタシは引き分けだと思っている」

 

「はぁ..これ以上は野暮ってもんか。

 ただし、次は俺の完全勝利って形にしてやるよ」

 

 強き戦士に対する賞賛として、再戦を望む意思表示としてポネウスはセイレンスに手を差し出す。

 セイレンスは一瞬その手を不思議そうに見つめたが、理解したように差し出された手を握る。

 

「ワタシもこのまま引き分けで終わらせるつもりはない。

 次はワタシが勝たせてもらおう」

 

 周囲から歓声が上がる。

 急に上げられる歓声に思わず心臓を跳ねさせるが、周囲の者たちは熱に浮かされたように賞賛の声を上げ続ける。

 その歓声の中、ケリュドラが声を上げる。

 

「素晴らしい仕合いだった剣旗卿、巡剣卿。

 故に二人の健闘と先の戦争の快勝を称え、今宵宴を開く!

 皆の者、好きに楽しむといい!」

 

 ケリュドラの宣言によって更に歓声が大きくなる。

 その気前の良さに感心していると、セイレンスの反応が目に入った。

 そこには、何かを懐かしむような、恋焦がれるようなそんな表情があった。

 

「宴...か」

 

「どうした、その反応。

 もしかして宴が苦手だったりするのか?」

 

「いいや、寧ろ逆だ。

 ただ随分と久しぶりでな....少し感慨深いだけだ。

 キミも宴には参加するだろう?

 是非、共にメーレを飲み交わしたいのだが」

 

「応、勿論。

 ただ....」

 

「ただ?」

 

 セイレンスの誘いを喜んで承諾する。

 だが、ポネウスはこの後に待っていることを思うと気が重くなる。

 その反応にセイレンスが首をかしげて、ポネウスの視線の先を辿る。

 そこには、トリビーたちを始めとする大勢の姉妹たちがこちらを見ていた。

 

「宴に行くのはいいけど、まずその怪我を治ちてからでしょう!

 まったくもう、無理はちないでって言ったじゃない!」

 

「いや~、仕合が思って以上に楽しかったんで...つい、な?」

 

「な?じゃない!」

 

 トリビーを主にして、ポネウスに対するお説教が始まった。

 先程まで、荒波の如き様相で自らと剣を交えていた戦士が何倍も小さい童女たちに囲まれて説教をされている。

 セイレンスがその光景に目を丸くするが、徐々に笑いがこみあげてくる。

 その場は、一足先に宴が開かれているかのように笑い声が響き渡っていた。

 

 

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