世界がゾンビまみれだが、それはそうと記憶がない   作:九条空

6 / 6
Let sleeping dogs lie.

 ゾンビに打ったら人間に戻るワクチンを、ゾンビ全員に打つのは非常に骨の折れる作業だった。

 

 ちょっと体が腐敗していたり、ちょっと手足が欠けたりしている程度ならば、ゾンビから人間に戻る過程で修復されるのでそこは問題ない。そういうワクチンを開発した。

 

 問題なのは、ゾンビの隣でゾンビを人間に戻すと、人間に戻ったばかりの人はゾンビに食われて死ぬという話である。

 実はこの世界でゾンビになれるのは運の良いことだったらしい。

 ゾンビに完食される前にゾンビになれたのだから。

 

 隔離して1人ずつ丁寧に対処するには、ゾンビの数が多すぎた。

 この街、ヘルサレムズ・ロットというらしい都市には、万をくだらない市民がおり、その8割がゾンビと化していたからである。

 しかしライブラの面々は優秀で、戦闘能力に優れたため、そこは彼らが()()()()()()()()()なんとかしたらしい。

 

 あいにく、私はワクチンを無限かと思うほどの数量産するのに追われていたため、その現場を見ることは叶わなかった。

 死傷者ゼロとはいかなかったが、過去に起きたらしい様々な悲劇や世界の危機と比べると、さほど大したことのない程度の事件だった、とまとめられた。

 

 そして私だが、未だに記憶を取り戻せていない。

 ゾンビがいなくなって落ち着いた病院で精密検査を受け、わかったことがある。

 

「私の脳にかかっているプロテクトは世界秘密レベルらしい」

 

 改めて、安全な方法で私の脳みそにある記憶を探った結果、()()()()ということが判明した。

 人間の記憶を探る方法は科学、魔術に及び多種多様に存在するらしいが、そのどれを用いても、私の生存を前提にすると不可能、という結論に至った。

 

「そしてあの製薬会社に潜んで行っていた内容を鑑みれば、私の素性はおそらく、あなたがたの()()()()だ」

 

 パーシヴァル・マーコリーという科学者の身分は、偽造されたものだった。

 調べればそれなりに信憑性のある人生が出てきたが、ライブラの優秀な面々によると、良くできた嘘らしい。

 

 つまりよくよく調べた結果、私は自分の名前だと思っていたものさえ失ったのであった。

 こういう状況を表すことわざがありそうだが、出てこない。

 二兎を追うものは……いや、記憶という兎しか追っていないのだよな。……泣きっ面に蜂か?

 

「そのうち誰か同僚でも来て回収されるのではないかな。私がソロ活動をしていた場合、プロテクトはかかっていないような気がするし」

 

 私の行動理念から言うと、あまり他人を頼ることを知らなさそうだ。

 ワクチンの製法を誰かに託すためにメモをとっておくという考えがなかった。

 自分の秘密が誰かに割れることを気にする性分でもなさそう。

 

 だとすればプロテクトをかける理由は、そうしろと言われたから、とかなのではないだろうか。

 自分の秘密でなく、()()()秘密ならば、流石の私も漏洩を気にする。

 つまり私は、なんらかの組織に所属していたと考えられる。

 ゾンビから無事に人間に戻ったザップが鼻をほじりながら言った。

 

「回収じゃなくて暗殺されんじゃねえの?」

「その場合、情報破棄の観点からいって破壊されるのは私の脳だろう。苦しまずに死ねそうだ」

「カーッ。キッショイ自己犠牲だぜ」

「これがそうなのか? 楽に死にたいだけだが……」

「記憶を失っても尚、人類のために立ち向かったあなたに敬意を表します」

 

 クラウスは私に言った。

 随分聖人みたいに言われたので笑って否定しようと思ったのに、クラウスの目を見たら何も言えなくなってしまった。あまりに本気だったので。

 

「我々があなたを死なせません、パーシヴァル殿」

「パーシーでいいよ。本名じゃないけど」

 

 私もつい最近、レオナルドにレオでいいと言われたばかりだ。

 その時嬉しく思ったので、私も言ってみた。

 記憶喪失も悪いことばかりではない。嬉しい初めてをたくさん経験できるのなら。

 

「私もできる限りのことをやろう。記憶がないのであんまりわからないが、たぶん、世界って平和なほうが良いんじゃないかな」

 

 私のあいまいな意見に、彼らは皆、しっかりと頷いた。

 しばらくは、このライブラに厄介になりそうだ。




おしまい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

俺に世界の命運がかかってるってマジ?(作者:九条空)(原作:血界戦線)

マジらしい。▼血界戦線既知転生だか憑依だか(曖昧)。性癖に従いTSロリ主人公にて推して参る。最近気づいたけど記憶喪失が好きです。


総合評価:21759/評価:8.94/完結:13話/更新日時:2025年03月15日(土) 12:00 小説情報

邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!(作者:九条空)(原作:血界戦線)

人外既知転生。人間のフリをしてレオナルド・ウォッチやチェイン・皇と友達になろう。


総合評価:26543/評価:8.91/完結:12話/更新日時:2025年09月21日(日) 12:00 小説情報

TS転生お姉ちゃん♂は神威くんから逃げたいようです(作者:B型)(原作:銀魂)

TSですが女→男で女装オリ主です。男→女じゃないです。▼誰得?というツッコミはノーセンキューだ。でも誰得?▼転生したら夜兎で神楽神威の兄弟で性別変わってたが両親の配慮で男の娘として育った主人公が、どたばた家族戦争に巻き込まれたり巻き込まれなかったりする。▼ぼんやり原作沿い▼


総合評価:5023/評価:8.99/連載:5話/更新日時:2021年07月24日(土) 20:49 小説情報

侍の国においたわしい兄上殿を突っ込んだ話(作者:あんまん太郎)(原作:銀魂)

銀魂履修したら、鬼とか不老不死とか侍とかのワード見てなんとなく兄上を入れたくなりました。


総合評価:5088/評価:8.81/完結:15話/更新日時:2026年03月07日(土) 20:08 小説情報

銀魂:白銀ノ魂録実況プレイ 虚ルート(作者:一億年間ソロプレイ)(原作:銀魂)

銀魂の架空アクションRPG(エディットキャラ投入型)の虚ルート開拓実況プレイ(生首饅頭風味)という体の小説です。▼淫夢要素はないです。▼妄想を多量に含んでいます。▼現在番外編更新中です。


総合評価:2428/評価:8.8/連載:22話/更新日時:2026年03月23日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>