砂の匂いが鼻をくすぐる昼下がり。
今日もまた、腹が減った。
この街は風がうるさいし、時々遠くで爆発音がするし、
どう考えても“猫向けの静かな環境”とは言いがたい。
だが、ここにはひとつだけ、
わたしがこの土地を離れずにいる理由がある。
小柄で、ツンとしてて、目つきがちょっと鋭い少女。
名前は――カヨコ、と聞いた。
彼女は、わたしに餌をくれる。
今日もいつもの角を曲がると、そこにいた。
壁にもたれて座り込んだカヨコ。
軽く眉を寄せ、薄い溜息をこぼす姿。
……おや? この表情は、餌が期待できるやつだ。
わたしは慎重を装いながら、足取りは若干速めで近づく。
「……また来たの?なんだか懐かれちゃったかな」
●本日の献立:事務所の余り物
カヨコが袋をがさりと開く。
やぁ、今日の音は良い。乾燥した穀物と、小さな肉片の匂い。
香りだけで分かる。これは間違いなく“当たり”の日だ。
差し出された手――少し震えている。
いや、緊張ではなく、ただ空腹か疲労か。
近頃の生徒というのは、どうもいろいろ大変らしい。
わたしはゆっくり鼻を近づける。
匂いの構成を分析すると――
•乾燥鶏肉の香り(風でちょっと飛んでる)
•栄養バーっぽい甘さ(多分人間用)
•カヨコ自身の、少し焦げっぽい火薬の匂い(これはこれで良いスパイス)
うむ。悪くない。
まず一口。ぽり。
……ふむ。
予想より柔らかい。噛むと肉の風味が広がる。
乾いてはいるが、素材の旨味は残っている。
ここで評価をしよう。
■食感:★★★☆☆
乾いているが、猫の歯でも問題なし。
■香り:★★★★☆
火薬風味が独特。個人的にはわりと好み。
■味:★★★★☆
人間用の甘味がほのかに混ざっているのが良。
■総合:★★★★☆(また食べたい)
「……そんなに急いで食べなくてもいいのに」
いやいや、これは急ぎたくもなるだろう。
あなたの選定した餌、なかなかの品なのだ。
●食後のサービス:頭撫で付き
食べ終え、満足して尻尾を立ててみせる。
するとカヨコは、わずかに目を丸くする。
「……な、なによ。甘えたいわけ?」
別に甘えてるわけじゃない。
ただ、あなたの手の動きを観察しに来ただけだ。
その手がそっとわたしの頭に触れる。
くしゅ、くしゅ、と不器用な撫で方。
……ふむ。
わたしはこの瞬間が、嫌いじゃない。
撫でながら、カヨコがぽつりと呟く。
「……アンタはいいわよね。悩みとか、なさそうで」
悩みならある。
砂が肉球に挟まることとか、
最近スカートがひらひらして目に入ることとか、
夜は風が強すぎて眠れないこととか。
だがそんなものを言っても、彼女は困るだけだろう。
だからわたしはただ喉を鳴らす。
ゴロゴロ……これは猫の“まあ悪くない”の音だ。
カヨコは驚きつつも、少し笑ったようだった。
「……明日も来てもいいけど。餌があるかどうかはわからないよ」
そう言いながら、指先がほんの少しだけ名残惜しそうに離れていく。
明日のメニューは何だろう?
乾燥肉? パンの欠片?
もしかしたら、彼女が自分の昼食を分けてくれるかもしれない。
……いや、さすがに悪い気もする。
だが、くれるというなら、遠慮なくもらう。
風の強いアビドス裏路地でも、
カヨコがいるだけで、少しだけ暖かい。
明日も、来よう。
もちろん、餌目当てではない。
――いや、半分くらいは餌目当てだが。
なんていうか…もういっそ開き直って食レポに振ってしまおうと思いましてね…それで出て来たのがカヨコの餌やりだったのですよ。
なんかさ、カヨコに餌もらってる猫にしっかり理性あって欲しいんですよね、私。癖みたいなもんです。