「何故呼ばれたか、理由はわかるな?」
開口一番に飛んでくるパラガスの詰問。
まるで先生に叱られる悪ガキみたいだ。
流石にふざける場ではないとわかってはいるので、俺は上になど乗らずブロリーのすぐ隣で普通に立っている。
片手で彼の白いサルエルをぎゅっと握った。
「・・・かってなこと、しすぎって?」
「そうだ。計画に支障が出るような真似はやめてもらおう」
パラガスは苛立ちを隠そうともしていない。
すると、それまで黙っていたブロリーが俺の前に出た。
「丁度良い。オレも親父に言いたいことがあった」
「どうした?」
「オレは降りる」
「・・・は?」
簡潔なその一言にパラガスが目を見開いて固まる。
「以前から言っていた筈だ。もう付き合い切れん」
「い、今更何を・・・!ここまで来て、」
「ベジータは既に来ている。彗星も予定通りここへ向かっているんだろう。後は親父だけで勝手にすればいい」
「いや、ならん!確実に奴をここへ足止めしておかなければ!その為にはお前にも控えておいてもらわなければ困る。余計な連中も付いてきておるし、万全を期しておかなければ何があるかわからないのだぞ」
「それはオレの知ったことじゃない」
「あと少しだ・・・!あと少しで、我々親子の悲願は達成されるのだ!それには、」
「・・・そこだ」
続く言い合いの中、ブロリーはうんざりしたように溜息を吐いた。
「"オレ達親子"じゃない。"親父だけ"だ、いつまでも拘っているのは。オレはあのベジータとかいう奴に対しては大して恨みも無い」
「・・・!?何を言う!俺達がこんな生活を続けざるを得なくなったのも、全てを奪ったあの王のせいで、」
「ならば恨むべきはその王だけだろう。惑星が無くなった以上はどちらにせよオレ達の生活が今と違うものになっていたとは思えんし、あの王子とやらはその時既に別の場所に出ていてオレ達の件に一切関わりはなかったと聞いたが。親の因果が子に報いるなどという戯言はやめてくれ。仮に親父がやらかした何らかの責をオレに問われたとしてもそんなものは知ったことではないし、奴等にしてもそれは同じことだ」
ひ、ひぇぇ・・・!ブロリーがぐうの音も出ねえくらいに正論吐いてる。
冷静な彼とは逆に言い詰められたパラガスはこまでにないくらいに表情を歪め、まるで血でも吐くかのようにして内へ溜め込んでいた感情を声を荒らげながらぶつけていた。
「ならば!!この積年の恨みは、これまで辛酸を嘗めさせられたこの屈辱は、この矛はどこへ向けるべきだというのだ!!」
「知らん。それは親父の"内"の問題だ。ここまで30年もの時間があったんだぞ、整理して消化するでもなく勝手に募らせていったのは親父の勝手だろう」
「勝手だ、などと・・・!私はお前の為にも、必死でやってきたというのに」
頭を抱えるパラガスの言葉にも、ブロリーは「それとこれとは別の話だ」と切り捨てる。
そして一拍置いて彼は続けた。あくまで落ち着いた声で、まるで言い聞かせるように。
「親父。・・・オレを、言い訳に使うな」
その言葉に、パラガスはがっくりと膝をつく。
「計画にここまで力を貸してきたのは、曲がりなりにもこれまで長年面倒を見られてきたことへの義理立てだ。・・・それももう十分だろう」
「・・・私から、離れるというのか・・・?これまで全てを頼り切りで生きてきたお前が、一人でこれからどうするというのだ」
「・・・・・恐らく、独りにはならない」
ブロリーはそう言うと同時に俺のほうを見た。
信用してくれている。頼りにされている。その事実に、胸が詰まるような思いがする。
もちろん、俺だってブロリーをひとりぼっちにする気などさらさら無い。その顔をじっと見返して頷いた。
すると俺達のその様子を見たパラガスが、それまで呆然としていたその表情を再び歪ませて歯をギリリと鳴らす。
「・・・やはり、その娘に余計な影響を受け過ぎたようだな・・・!!もういい、ブロリー。お前は思考を捨てろ」
そう言い放ち右手を構えようとするパラガス。やはり真っ先にブロリーを抑えにかかるか。
想定よりもだいぶ展開が早くなるが、こうなってしまえばもうやるしかない!
パラガスの様子が変わった瞬間に準備していた俺は即座に転移して回り込み、パラガスがその右手を持ち上げ切る前に手を伸ばしてコントローラーに触れた。
すると右手に装着されていたそれはパッと消え、俺の手の中に移る。
よっしゃ間に合った!!とったどー!!
「何!?」
「へへん、これがなきゃもうどうしようもないでしょ!」
ドヤっている俺に、驚愕の表情を浮かべていたパラガスだったがコントローラーを奪い返しに来るでもなくすぐに不敵な笑みを浮かべた。
そしてすぐに"左手"をブロリーのほうへ翳したかと思うと、途端にブロリーが膝をついて苦悶の声を上げる。
・・・え?逆!?・・・・・まさか予備!?
「ふはは!ブロリーは俺の切り札なのだぞ、お前のように敵に装置を奪われる事態を想定していないとでも思ったか!」
チクショウ仰る通りだくそったれー!!!
いや、だったらそっちも奪ってしまえば!
・・・あれ?左手何も着けてねえじゃん!!どこだよ!!!
「分かりやすく同じ形をしているとでも?」
「ぐぬぬぬぬ・・・!!!」
完全にしてやられた。
どこの何が本物の予備コントローラーなのか判らん・・・!!
そうしているうちに、背後からものすごい衝撃が駆け抜けた。
・・・・・え?
思わず振り返ると、てっきり無力化されているのかと思っていたブロリーが超化してもの凄い気を吹き荒らしている。
その目は焦点が合っておらず、見るからに正気ではない。
パラガスの命令で沈静化させたのかと思っていたが、まさか逆か・・・!?
「この星はいずれにせよ明日には消えてなくなる運命だ!もはや手段が変わろうと同じこと!!・・・ブロリー!!サイヤ人共々、この星に生きる全ての者を皆殺しにしてしまえ!!」
なんつー命令出しとんじゃぼけぇぇぇぇ!!!???
いくらなんでもヤケクソすぎるだろ!!!
くそ、奪ったコントローラーでどうにか出来ないか!?
「無駄だ、奪われることを想定していると言っただろう。設計上私以外には命令は出せん」
コントローラーを手にあたふたしている俺にパラガスが高笑いを上げつつそう言い放つ。
ちくしょうどんだけ用心深いんだ・・・!!映画本編でブロリーに装着されている本体側が破損したのは本当に想定外だったのか。
となれば完全に役立たずだ。いらなくなったそれを投げ捨て、どうにかしなければとブロリーのほうを再度振り向く。
・・・その瞬間。
弾丸のような速度で、俺のすぐ傍を掠めたブロリーの蹴りがパラガスに突き刺さっていた。
「・・・え、」
そのまま吹き飛んで壁に激突したパラガスが血を吐いて頽れる。
そうだ、あの命令。本当にヤケになったのかは知らないが、対象は"全ての者"。
もちろんパラガスも、そして俺も恐らく―――――
その考えが過ったその直後、緑色のエネルギー波に飲み込まれて何も見えなくなった。
どれだけの間意識を飛ばしていたのかわからない。
気が付くと、辺りは瓦礫の山ばかりだった。
立派だった宮殿は見る影もない。
「・・・は!!ブロリー!!」
朧気だった意識が覚醒すると同時にすぐ起き上がって見回したが、ブロリーの姿は見えない。
その代わりに、遠くから爆発音が聞こえた。
恐らくはもう悟空たちとの戦いになってしまっているのだろう。
あああああやばいどうしよう!!とにかく止めなきゃ!!
すぐにブロリーの元へと転移する。
・・・すると案の定そこは鉄火場のど真ん中だった。
ブロリーの至近距離に現れたせいなのか、転移直後に殴られたか蹴られたかわからないが衝撃と共に吹っ飛ばされる。
わー!!
「お、おい!?大丈夫か!!?」
誰かに抱きとめられた。
見上げると超サイヤ人になった悟空だ。
「あ、あんがと・・・」
「いきなりあぶねぇぞ!瞬間移動か?」
「にたようなもんだよ・・・、それよりブロリーは・・・」
「ああ、暴走しちまってる。おめえの言った通りオラたちが束になっても勝てるかどうかわかんねえ」
所々傷だらけになっている悟空の視線の先ではトランクスとベジータが二人がかりでブロリーに向かっていた。
どうやらベジータは戦意喪失していないらしい。
「と、とめないと・・・・・」
「アテはあんのか?」
「とりあえず、あの制御装置・・・アレはずしてみたい・・・」
相変わらずの博打にはなるが、そもそも今の時点で暴走してしまっているんだからやってみたほうがいい。
どうにかブロリーの至近距離に寄って、頭の制御装置に触りさえすればどっかに飛ばせる。
「あの頭に嵌ってる輪っかだっけか?・・・難しそうだけど、やるしかねえか」
「うん・・・ごめんね、やっぱりみんな巻き込んじゃった」
「気にすんな、オラたちは戦うためにここに来たんだからどっちみちこうなるってわかってたさ」
それでも、やっぱり出来ることなら止めたかったよ。
俺を地面へ降ろした悟空は再びブロリーのほうへ向かって行った。
どうにかして、近づかないと。
俺も再び転移でブロリーの元へ移動するが、超化して最大限に気を放出しているのか至近距離に出てもすぐに吹き飛ばされてしまう。
「ブロリー!!目ぇさましてー!!」
叫びながら何回も何回も近づこうとするがうまくいかない。
すると何度目かの転移で出たとき、タイミングが悪かったのか狙われていたのかブロリーの大きな手に捕まってしまった。
「ぅぐぇ!!!」
首を掴まれ締め上げられながら、手を伸ばす。
・・・でも届かない。ブロリーと俺とじゃ腕の長さも倍以上の差だ。
ものすごい力でギリギリと首が締まるが、ダメージが通らない俺に苦しさはない。
だけど一方で気道が潰されてて空気が通らないから、声が出ないし呼びかけることも出来なかった。
どうしよう、今までで一番近いけどこれ以上寄れない。手を離されたらまた吹っ飛んでしまう。
いつまでも経ってもダメージが加えられないとわかればブロリーも俺を投げ捨てるなりするだろうから、その瞬間にどうにか・・・、
―――後から思えば、俺は過信していた。
自分の持つチートの力、ダメージ無効というその能力を。
いくら攻撃されても無事で済む、その前提で全てを考えていた。
だからこそ、状況判断が著しく遅れてしまったんだと思う。
・・・・・あれ、おかしいな。
俺、死なないはずだよな?
だったら、なんでこんな、
だんだん、気が、遠く、なって――――――――――?
―――――やがて小さな手が力なく落ちたのと、
ずっと内から抵抗していたブロリーの意識が表層に戻ったのは、
ほぼ同時のことだった。
幼女「そんなすぐにフラグ回収するだなんて思わないじゃん」