TS転生幼女は伝説の超サイヤ人を救いたい。   作:こねこねこ

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16:とある青年の回顧

はじまりは、何だっただろうか。

 

赤子の頃の朧気なものを除けば、シロに関する記憶で一番古いものはまだ幼かった頃。

 

力を使い果たし、加えて空腹で動けなくなっていたオレの元へ突然現れたのが最初だ。

勝手に来て、隣で適当な話をし、さほど長くはない時間の後に立ち去っていった。

 

話の内容を全て正確には覚えていない。

 

・・・だがその時、生まれて初めて父親以外の他人から差し出された温かい食事。

 

その味は、生涯忘れ難いものとなった。

 

 

 

 

 

その次は数年後、親父と揉めて不貞腐れ独りで居たところにアイツは再び現れた。

その時も接したのはさほど長い時間ではなかったものの、その内容はどれも後の人生に影響を及ぼすものばかりだったように思う。

 

"リンゴ"を初めて食べたのもこの時だ。

それまで己が知っていた木の実というものは硬く、渋く、栄養はあっても好んで口にしたいと思うものではなかった。適当な草を食んでいたほうがまだマシだと思ったほど。

しかしアイツが差し出したソレは色こそ血のような毒々しい赤色をしていたがそれでも鮮やかで、大きく艶があり光を照り返すそれはまるで過去幾度か目にした宝玉のようだった。

口にすればさほど硬くもなく汁が溢れ、自分の知る木の実とのあまりの違いにも驚いたが何よりも印象に残ったのはその強烈な"甘味"。

以前与えられた菓子を食った際に初めて知った"あまい"という味の概念は、その後なかなか口にする機会はなかったもののずっと頭にこびり付いたままだった。

それを凝縮したような甘味の塊は、普段ろくに嗜好品の類を口に出来なかった子供にとってはそれまでに口にしたどの食い物よりも美味く衝撃的なものだったことは言うに及ばず。

直感的にとても貴重なものなのだろうと思ったが、ソイツは不思議な術で何もないところからそのリンゴをいくつも取り出して一切の躊躇いもなくオレに全て与えてくれた。

種のある部分は食うなと忠告されたものの、甘いソレを少しでも残したくなくて丸ごと全てを食ってしまったのを覚えている。

 

去り際、ずっと知らないままだった名前を尋ねるとアイツは名前がまだ無いと妙なことを言っていた。

オレに名付けをして欲しいと言い出したので、髪も肌も真っ白だったことからシロと呼んだ。

 

 

 

 

 

シロといると、"はじめて"のことがどんどん増えていく。

 

はじめて赤の他人から何かをもらった。

 

はじめて強さとは力だけなのではないと教えられた。

 

はじめて頭を撫でられ、他人の手の温かさを知った。

 

はじめて他者に名前を与えた。

 

―――はじめて、何かに対して"壊したくない"という感情を抱いた。

 

 

 

 

 

シロと出会って以降、日常的に"壊す"ばかりだったオレは何度か他人と交流を持ってみたいと興味を抱いたことがある。

 

似たような大きさの、異星人の子供やその親と接触を持つ機会があった。

最初の頃はまだ良かった。数回程度は特に何の諍いもなく言葉を交わしたり、何かよくわからない遊びに誘われたりと時を過ごすことが出来ていた。・・・しかし、結局どれも長くは続かなかった。

"宇宙の悪魔"と呼ばれているらしいサイヤ人だという素性が知れた途端、奴らは手の平を返して苛烈な対応しかしてこなくなったのだ。

笑顔や親しげな言葉の代わりに罵声や石を投げられて、自分でも悲しいという感情をきちんと理解しないまま全てが嫌になりその星ごと"なかったこと"にした。

 

 

 

そのことが尾を引いていたことに加え、次にシロが訪れたのは運悪くオレが暴れ散らしている最悪のタイミングだった。

 

その姿を見た瞬間、"見られた"と自覚したあの瞬間。

脳裏の記憶と共に『またああなる』という思いに混じって初めて他人に対して『手を上げたくない』という強い感情が生じ、どうしようもなく頭がぐちゃぐちゃになったオレは自らを痛めつけることでそれを鎮めた。

 

シロはそれに対し驚きこそすれ、怯える様子は見せなかった。

 

どう見ても上物でしかない綺麗な布でオレの傷を拭い、あれからどれだけ探しても一切見つけることのできなかったリンゴを当たり前のように取り出して再びオレに与えてくれた。

 

内心はそれだけでも嬉しくて堪らなかったのだが、それ以上にまだ『本当は怖いのに無理をして接してくれているのではないか』という疑念を手放せずにいたオレはシロへ己が怖くはないかと恐々としながらも尋ねた。

 

シロは平然とそれを否定した。何度も何度も聞き直しても、怖くなどないと言い切ってオレの頭を撫でたのだ。

 

『わたしはキミがあばれんぼだって元々知ってたから、どんなブロリーを見てもびっくりしたりしないよ』

『ブロリーのこと、こわがったりしないから。だいじょうぶ』

 

・・・あの時の言葉がどれほど己の心を軽くしたか、どれほど嬉しかったのか、それはきっとシロにだって解りはしない。

間違いなく、それはひとつの転機となった筈だ。

 

次にいつシロが来るのか、待ち遠しく感じるようになった。

 

 

 

 

 

それからほどなくしてオレは肉体の成長期を迎え、その頃周りの環境を含め様々な変化があった。

身体の成長に伴い次第に抑えきれなくなった破壊衝動に蝕まれて暴走に陥る頻度が増えてしまい、親父が負傷したことを契機に制御装置が取り付けられたのもその頃のこと。

不快ではあるが、己自身も"余計なもの"を壊したくないという思いがあったため抵抗せず耐えることを選んだ。

 

制御装置によりオレの力はほぼ親父の思うままとなり、時折惑星の支配に利用されることもしばしばで親父は次第に配下を増やし最初は只の徒党だったそれを規模の大きな組織へと変革させていった。

 

放浪することをやめ、拠点を持つようになったオレ達の生活は若干楽にはなったものの・・・どこか満たされない日々を鬱々としながら過ごしていた、そんなとある日のこと。

 

シロが再びオレの元を訪れた。

 

身体が大きくなったオレを見て嬉しそうに笑うアイツの姿は、昔と全く変わらず小さな子供のままだった。一生このままなのだと自分で言っていたため、詳しくは知らないがそういう種族なのかもしれない。

・・・その時ふと、オレはシロ自身のことはよく知らないままだったと初めて気付いた。

 

シロはオレの頭の制御装置にもいち早く気付き、案じるような様子を見せた。これがどういうものなのかを話していないにも関わらず、悲し気な表情で。

共に過ごす時間をそんな表情のままにさせておくのは気が引けて、気にするなととにかく突っぱねた。

話を逸らすついでにシロが何度か自分の頬を弄っているのが目に付いたのでなんとなく掴んでみると、不思議な弾力を持つその感触が妙に手に馴染んで心地良い。

そのまましばらく遊んでいると親父が急に部屋へやってきてもの凄い顔をされた。

 

その時に聞いたが、どうやらシロはオレが赤子の頃にも共に過ごしていたことがあったらしい。

母星が崩壊する際に命を救われたとだけ親父は話したが、それよりも前に微かに残っていた朧気な記憶の中の"赤子の己をあやす誰か"の顔が目の前のシロと一致した。

これまでの人生の中、本当に最初の最初からシロはオレに付いていてくれたようだ。

 

おまけとばかりに余計な話を漏らしそうになった親父を部屋から追い出した後、シロはオレが大人になった祝いをしたいと言い出した。

 

欲しいものを訊かれたとき、己の脳裏に浮かんだものはひとつだけ。

シロといるときを除き、どこを探そうが取り寄せようとしようが結局一切手に入ることは無かった"リンゴ"。

 

そんなものでいいのかとシロは言ったが、それ以上のものなど全く浮かばなかったのだ。

 

本当にどこから出てくるのか謎めいた術でこれまでにない数のリンゴをオレに与えた上、もっと何かしたいと突然部屋を出て行ったシロは何をするのかと思えば少しの間を置いた後ひとつの料理を持って戻ってきた。

 

聞けば、リンゴを使った菓子なのだという。

ただでさえ美味かったあの実が見違えるように姿を変え、甘味もさらに増していたそれは言うまでも無くあっという間にオレの腹の中に消えた。

シロはそんなオレを見て嬉しそうに笑っている。

 

・・・実を言うと幼少の頃に体験して以来、己は甘味の類に目がなくなっていた。

拠点を持ち物資に余裕が出て以降も、『砂糖は希少なのだから控えろ』と親父に苦言を呈されたほどに。

 

それを知ってか知らずか祝いのためにと菓子を手ずから拵えてくれたシロの行いは、己にとって忘れることのない記憶のひとつとなった。

 

 

 

 

 

そしてその5年後。

再び訪れたシロは、次第にすれ違い始めていたオレと親父の仲をしきりに気にしていた。

親父とも何かを話したのか、難しい顔をしながら唸っている。

赤の他人だというのに明らかにオレ達のために気を揉んでいる様子のシロに気にするなとは言ったがやめる気配もなく、せめて後にしろと話題を逸らし何とかとりとめのない話で時間を潰した。

 

そしてその去り際。

今回もいつものやりとりで消えるものかと思っていたが、シロは『次に来たときはもう帰らない』と妙なことを言い出した。

寝床が欲しいというささやかな頼み事を了承すれば笑って帰って行ったが、『ブロリーといられるだけいっしょにいたい』という言葉の真意は結局測りかねたまま。

 

 

 

そしてまた、5年の月日が過ぎていった。

シロはこの年いつもとは違うタイミングで訪問すると予告はしていたが、いざ来たのはよりによって親父が長年準備していた計画を実行しようとしている間際のことだった。

そのことを口にすると、敢えて今来たのだとシロは言う。・・まるで予め全てを知っていたかのように。

実際、計画の具体的な内容までシロは把握していた。そしてオレのことを助けたいと言い、その日はどこかを駆けずり回っていたようだ。

夜になりオレの元へ戻ってきたシロは『奴隷に手を出さないで欲しい』という妙なことを頼んできた。元々微塵もそんな気は無かったが、シロは何か考えがあってのことらしい。

 

そしてそのすぐ後のこと。

どういう流れだったか、シロが口にした"カカロット"という名称にオレが聞き覚えがないと言った途端様子が一変した。

驚き、慌て、奇声を上げて転がり回ったと思えば次の瞬間には突然泣き出してオレに対し謝り出す。

訳が解らなかったが、いい機会だと思いシロへ自分のこと、抱え込んでいることを全て話せと詰め寄った。

その後時間をかけ、涙を零しながらもシロが吐露した内容は俄かには信じ難い内容ではあったが・・・ここまでの関りを考えればオレに疑う余地は無い。

何よりも、別の世界の人間であったシロはオレに会う為だけにこの世界へと訪れたのだと。そこまで言われては、否定する気になど到底なれなかった。

それ故に、オレも自分の考えをそのまま伝えてやった。シロの知っていたらしい、抱え込んでいたらしいかつての己の姿など忘れてしまえと。

 

まだ何かを思い悩んでいる様子ではあったが、笑顔の戻ったシロはオレのことを"優しい"と言った。

正直他の誰かに対してはここまで気を割くつもりなど到底ない。シロはここまでオレに対して与えすぎているくらいなのだ、その一部が返って行ったに過ぎない。

 

 

 

本当に、何の誇張もなくオレの人生はシロに多大な影響を受けてここまで来た。

今のこの関係は、ひとつひとつの積み重ねの結果だ。

 

何かひとつでも変わっていたら、ここまでの間柄にはならなかったかもしれない。

例えば幼少のとき、オレが力を使い果たしているときではなく暴れているときに会っていたなら躊躇いなくシロにも手を上げていたことだろう。素直に話を聞くことすらなかっただろう。

 

シロの齎した変化のうち、結果的に最も影響が大きかったのは恐らく強さの定義について説かれたときだ。

その時は意味がよくわからない話だと思ったが、後々に理解が及んだことに加えて"疑問を持ち、自らの頭で考えようとする"という行動は俺の人生を大きく左右する要因となったのは間違いない。

 

あらゆることに目を瞑り、全てを流れのままに任せて生きていくのは楽だ。

しかし思考を停止せず、自分の頭で出来るだけ考えようとしてみた。

 

他者と関わることを試みようと思ったのもそのひとつ。

 

・・・そして結果、日々繰り返し繰り返し説かれる親父の恨み嫉みの内容にも疑問を持った。

 

 

 

 

 

シロは今もなおオレに与え続けている。

この先も、ずっと一緒に居たいと言ってくれた。

オレが破壊するだけの存在に身をやつすのではなく人として生きようとするならば、それに寄り添い手を伸ばし助けると。

 

『たとえ世界中の人間がブロリーのことを嫌いになってもずっと味方でいるよ』

 

・・・この言葉が決定的だった。

 

差し伸べられた小さな手をとり、共に歩んでいくと、そう決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親父の計画は進んでいく。

地球からベジータをはじめとするサイヤ人の一味を連れてきて、あとは彗星の衝突を待つばかりとなった。

 

もはやここまで来ればオレの力が無くとも復讐を遂げることは出来るだろう。

そう思っていたさなか、当の親父からシロ共々呼び出しを食らった。

 

苦言を呈されたものの、この機会にとオレも自分の考えをぶつけさせて貰った。

己とてもはや小さな子供ではないのだ。自らの考えは持っているしいつまでも流されるばかりの人生ではいられない。

隣には、シロが付いている。

 

半ば予想はしていたが、やはり親父と意見が相容れることは無さそうだった。

 

制御装置を用いて強硬手段に出るのをシロが止めようとしたが、結局叶わずオレの意識はそこで霧散し何もわからなくなる。

 

シロと事前に話した際、歯向かおうとすれば親父は恐らくは制御装置で己のことを真っ先に抑えにかかるだろうと予想はしていたが・・・結局その通りになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が、戻った。

 

状況がどうなったのかと誰かに聞くよりも先に、眼前の光景が目に焼き付く。

 

シロの小さな身体が、オレの手の中からぶら下がっていた。

 

思わず力を抜くと軽い音を立てて落ちた、その手も足も投げ出されたまま微動だにしない。

 

目も開かない。細い首は己が握り潰していたせいか少し歪に窪んだまま。

 

 

 

 

 

―――――息を、して、いない。

 

 

 

 

 

「・・・シロ?」

 

僅かに震える声が漏れた。

 

応えは無い。

 

 

 

 

 

否が応にも自覚する。

 

これだけは壊すまいと心に決めていた、ただひとつを。

 

自らの手で、壊したのだと。

 

 

 

 

 

雫が落ちた。

 

自分の目から流れ出たそれに気付く間もなく、己の脳裏には小さな少女のこれまでの姿が、齎された全てが、走馬灯のように駆け巡っていた。

 

 

 

まるで水に落とした墨のように、ぽつりとひとつ澱みが生まれる。

 

それは瞬く間に拡がって、爆発的に膨張したその"黒"は己の意識を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

―――――そして喉が張り裂けそうなほどに叫びを上げたその瞬間。

 

額に掛けられていた金の輪が、砕け散った音を聞いた。

 

 

 

 

 





悪獣のときも一度やったんですけど、こういう裏側の話を後からつらつら書くのが好きなんですよ。
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