※本編25話目までのネタバレが軽く含まれていますので出来ればそちらを先に読むことをお勧めします。
ふと気がつくと、知らない場所にブロリーはひとり立ち尽くしていた。
「無様なものだな」
どこか聞き覚えのある声に振り返る。
そこには、自分と瓜二つの姿をした男が立っていた。
しかし、自分とは違う存在だと半ば本能的に察知する。
目の前のそいつは、ひどく昏い眼をしていたから。
「あんな小娘一匹に執着し、馴れ合いやぬるま湯のような安穏に溺れるばかりとは」
見下すようなその眼差しと同じく、底冷えのするような感情の乗っていない冷たい声。
自分を、そして大切な相方である少女を貶すような物言いにブロリーは察した。
かつて聞いたことのある、今は亡き世界線の"本来の自分"。
それに気付いたブロリーは口角を上げて笑う。
ただの亡霊になど、恐れることはない。
「・・・羨ましいか」
「何?」
「お前にはどれ程欲したところで手に入ることのないものだ。・・・何もかもを"諦めた"お前には」
「戯言をほざくな。虫酸が走る」
苛立ったように眉根を寄せ、それまで棒立ちだったそれが唐突にブロリーへと食って掛かる。
「お前のその肉体を寄越せ。まずは手始めにあの小娘を捻り潰してやる。お前が大層入れ込んでいるらしいアレを、お前のその手で」
「・・・アイツは、お前なんぞに殺されるほどヤワではない」
首に手を掛けられても、それでもブロリーは冷静だった。
脅すような言葉に淡々と返し、ふとその表情に陰りが差す。
「・・・・・それに、その光景なら・・・もう、見た」
かつて我を失い暴走に陥ったあの時のことを、ブロリーはまるで昨日のことのように鮮明に覚えていた。一生涯忘れることなど出来はしないだろう。
結果的には未遂となったが・・・あんな思いはもう、二度としたくはない。
そんなブロリーの様子に、首を掴んだままのそいつは怪訝な表情をして見せた。
どうやら断片的に覗かれただけで、ブロリーのこれまでの歩みのその全てを把握されているわけではないらしい。
「アイツの言った通りだな」
ブロリーは先程とは逆に、嘲るようにして笑った。
「かつてのオレは相当に性格が悪かったと。お前を見ているとよくわかる」
「・・・何だと」
苛立ちを増したそいつの気が膨れ上がり、かつて"伝説"と謳われたその姿へと変わる。
このまま縊り殺してやろうかと凄まれても、ブロリーは怯みもしない。
「やれるものならやってみるがいい」
そう淡々と告げたブロリーも、その姿を変えた。
しかしそれは目の前の巨大な黄金とは違い、体格は変わらないまま。
体表を赤い毛に覆われ、髪はその色を変えぬままに長く伸び、金色に輝く眼の周りには色付いた縁取りが現れる。
見たことのないその姿に、相手も僅かにたじろぐ様子を見せた。
「・・・何なんだ、それは」
「お前には到底手の届かない領域だ」
ブロリー独りだけだったならば決して掴みとることなど出来なかったであろう、大切な存在が居たからこそ"戻ってくることが出来た"先の絆の力。
獣の姿を取り込んだそれは体格は増さずとも、秘めた力は眼前に相対する過去の姿よりも格段に大きい。
ブロリーは掴まれていたその手を打ち払い、困惑している"かつての自分"の亡霊へと容赦ない一撃を見舞った。
苦悶の声を上げ膝をついたその姿が少しずつ崩れ、足元から次第に消えていく。
「そう悪くはないものだぞ、誰かと共に生きるというのは」
ブロリーのその言葉に、相手が顔を上げたとき。
その姿は先程とはまた違うものへと変わっていた。
幼き日の襤褸を着た、かつて道を違えた"あの頃"のままだ。
そして消え行くその間際、たった一言。
「・・・・・オレには、誰もいなかった」
"それ"は消え入りそうな声で、そう呟いた。
まるで最初から誰もいなかったかのように、跡形もなく消えてしまったその場所へ。
ひとり残されたブロリーはただ、憐れみの眼差しを向けていた。
「・・・ブロリー?お~い、ブロリーってば~」
ブロリーが瞼を開くと、少し心配したような表情で少女がこちらを覗き込んでいる。
「・・・・・シロ」
「もうおひるちかくだよ?・・・だいじょぶ?調子わるい?」
「・・・いや、何でもない」
身を起こして辺りを見た。
いつもの家。いつもの部屋。いつものベッドの上だ。何もおかしいことはない。
ほんとに大丈夫?と問うてくる少女の頭を撫で、ブロリーは安心させるように緩く口角を上げて笑った。
「・・・・・ただ、悪い夢を見ただけだ」
八つ当りしようとしたら返り討ちにあったでござる程度の話なんで別にフラグとかじゃないです。
(実はこれ年明けすぐくらいには書き終わってたやつなんですけどうっかり4出しちゃったんでしばらくほっといてました)