別に先に読んでも問題は無いと思うので、飛ばすかどうかはお好きにどうぞ~
げほん、ごほん。
ずびびびびー。
咳き込む音や鼻を啜る音が、薄暗い室内に時折響き渡る。
自分から発されるそれを耳障りに思いつつ、くるまった布団をギュッと握ってカタカタ震えながらひたすらに耐え忍んでいた。
「あぅぅぅぅ・・・ちゅらいぃぃ・・・・・」
風邪ひいたのなんて何年ぶりだ・・・?
前世からの通年で見ると、もう10年近くにもなるんじゃなかろうか。
たかが風邪。されど風邪。
そんなに体力もない幼女の身体には少々キツ過ぎる。
再度げほげほと咳き込んでいると、ふいにドアが開いて明かりと共にブロリーが顔を覗かせた。
「どうだ、調子は」
「・・・ぜんぜんダメダメで~す・・・・・」
へろへろになりながら正直にそう答える。
ブロリーは眉尻を下げて困ったような表情を浮かべ、俺のデコに貼っつけていた冷え冷えシート(だったもの)をぺろりと剥がし手の甲を当てた。
「・・・・・まだ熱いな」
「あんまり下がってなさそう・・・たぶん・・・・・」
「多分じゃなくて、測れ」
ベッドサイドのテーブルに置いてあった体温計を渡され、脇に挟んで測ってみると出た数値はやっぱりまだ微熱より上の域。
ショボショボした顔でそれを渡すと、代わりにおでこへ新しく取り換えたシートを貼ってくれた。ひんやり。
「ありあと~・・・ごめんね、ずっとひとりでベッド占領しちゃって・・・・・」
元々普段は同じ部屋の同じベッドで二人一緒に寝ていたんだが、発症して以降は俺一人で使わせて貰ってしまっている。
最初は身体も小さいしリビングのソファで寝ようとしたんだがブロリーが固辞して逆になってしまった。申し訳ねぇ。
ブロリーは「気にするな」と首を緩く振ったあと、ふと気付いたように再び口を開いた。
「・・・飯は、どうする」
「あー・・・」
まだぼんやりしてうまく働かない頭で夕飯のことを考える。
・・・やっぱり今のこの状態じゃそこそこ重労働になる料理はキツいし、病身が作ったものを食べさせるのも気が引けるよなぁ・・・・・。
「ごめん、今日は作れそうにないからさ・・・外食とかで適当に済ませてくれる?お金あっちに・・・」
「違う。オレじゃなくお前のだ。・・・食えそうなのか」
ため息混じりにそう遮られ、一瞬きょとんとしてしまった。
・・・とことん気遣ってくれている事実に嬉しくなってしまい、照れ臭くて思わずちょっぴり顔を布団の中に隠してしまう。
「えっと・・・うーん・・・微妙・・・・・。喉やられちゃってるから、あんまり固形物とかは飲み込めないかもしんない・・・・・」
「・・・そうか。何か要るものはあるか?」
顔の下半分を覆ったままゴニョゴニョと答える俺に、ブロリーは嫌な顔ひとつせずにそう訊いてくる。
するとふと、頭に過ったものがあって俺は布団から顔を出した。
「・・・あ、そうだ・・・・・りんご、ほしいかも」
「リンゴ?あれも固形物じゃないのか」
「あのね、もしめんどくさくなかったらでいいんだけどさ・・・流しの下開けて包丁とかしまってある所の近くにね、トゲトゲがいっぱいついた板があるんだ。それに皮剥いたりんごを押し付けてグリグリ擦ったら『すりおろし』っていうのが出来るの。それが食べたいなって」
「流しの下・・・わかった」
待っていろ、とそれだけ言い残しブロリーが部屋を出る。
りんご自体はパントリーにまだ結構な数が残ってた筈だ。
手順も多くはないし簡単なほうだとは思うけど、見たことないものだろうから上手く出来るかなあ。
しかしブロリーはあれで結構器用なほうだ。
ささやかな心配も杞憂に終わり、戻ってきた彼の手にした器には少し黄味掛かった白いふんわりとした小山が出来上がっていた。
「・・・これでいいのか?」
「わ~、ありがと~!うん、これこれ・・・うひゃあ~・・・やさしい甘さが身に沁みるぅ・・・・・」
一緒に渡されたスプーンで掬って口に入れると、甘いふわふわがほろほろと崩れてとけていく。
うんめぇ~・・・・・。
「・・・この食い方は初めて見るな」
「あんまりコレ単体で食べることってそうそうないからね~、それこそこういうときの病人食くらい。あっ、でもそのままじゃなくてお料理に隠し味として使うことはあるんだよ。カレーとか・・・」
ぱくぱく食べながらそんなことを喋っていると、ふいにブロリーがじっとこっちを見ているのに気が付いた。
なんか、どことなくちょっぴり嬉しそうな表情で。
「・・・どったの?」
「いや・・・少しは活力が戻ったらしいな」
「ん、ブロリーのおかげです」
へにゃりと笑ってそう言うと、「早く治せ」と大きな手のひらでわしゃわしゃと撫でられた。
・・・不思議なことに、なんだかそれだけで安心してしまう自分がいる。
「・・・あんまりさわると、風邪うつっちゃうよ?」
「オレはお前と違ってそんなにヤワじゃない」
照れ隠しでそんなことを言うと、少しドヤっぽい顔でそう言われた。
・・・・・そう、言ってたのに。
「ほら~、言わんこっちゃない~・・・」
俺が復調するのとほぼ入れ替わりで、今度はブロリーがベッドに沈む羽目になった。
明らかに俺がうつした風邪だろう。症状も似ている。
ただ、流石に基礎体力が段違いなせいか俺と比べて幾分軽く済んではいるようだ。
「・・・・・初めてだ」
どうやら人生初体験の風邪らしい。
ブロリーにとっては長時間病人の近くに居たこと自体がこれまでにない経験だっただろうから、やっぱりサイヤ人でも罹るときは罹るってコトなんだろうな。
憂鬱そうな顔をして大人しく寝ているブロリーのおでこには俺の時に使い残した熱冷まし用のシート。
だいじょぶ?とこないだとは逆にちぃちゃい手のひらで頭をナデナデしてみると、ふいに視線がこちらへ向けられた。
熱で上気した顔、少し潤んだような眼で弱った表情の均整取れたイケメンがこっちみてる。
うわえろい。
・・・・・いやいやいやそんなこと考えちゃいかん。
ブロリー今しんどい思いしてんだぞ!ばか!
頭をぶぶぶぶぶんと振って雑念もとい煩悩を追っ払う。
こないだのお返しも兼ねて、今度は俺が精一杯お世話させて頂かねば!
「わたしの風邪だから、たぶん症状いっしょだよね。喉だいじょぶ?ごはん食べられそうかな?」
「・・・・・微妙、だな」
少し掠れた声で、俺の時と似た返答。どんな感じなのかはなんとなくわかる。
「荒れてはいるが・・・食欲自体は無くはない気がする」
「ふむー・・・うん、わかった!何か食べやすそうなもの作ってみるよ」
まってて~と言い残して部屋を出た。
弱ってる時こそおいしいもの食べさせてあげたいよな。
サイヤ人みたいなのだと猶更、ちゃんと食べて栄養とったほうが復活するの早そうだし。
候補はいくつか浮かんだけど、その中のひとつをとりあえずお鍋いっぱいに作ってみて夕飯時にブロリーのところへ一皿持っていった。
「じゃーん!チーズリゾットです!」
湯気の立つお皿をお盆に乗っけたまま差し出す。
風邪といえばやっぱお粥の類かなあと思って。
「お米やわらかめにしてあるから、喉の通り良いとおもう」
なおかつ味はしっかり目につけた。
刺激の強くなりそうな胡椒や香辛料は避け、塩やコンソメベースで整えてある。
そして、上に掛かったチーズのこんがり焼けたいい匂い。
心なしか目が輝いてる気がするブロリーは、早速大きなスプーンでひと掬いしてぱくり。
「・・・・・・・美味い・・・・・」
眼を閉じて沁み沁みと、といった様子で呟いた。
「よかった。ちゃんとたべられそ?」
「いくらでも入りそうだ」
「おっけーおっけー。お鍋いっぱいに用意しといた!・・・あとね、これも」
横っちょに控えておいた別の深皿を取り出す。
中身は白いふわふわ。
ブロリーが俺に作ってくれたのと同じ、すりおろしりんご。
それを見たブロリーは嬉しそうに口角を上げた。
用意したリゾットを綺麗に平らげたあと、同じく多めにつくっておいたりんごのほうにも手を付ける。
「・・・・・なるほどな。確かに沁みる」
一瞬喉の腫れに良くなかったかと思ったが、違う。
俺がりんご食べたときの感想だ。
「んへへ・・・たまにはいいもんでしょ、こういうのも」
ふにゃりとそう笑うと、目を細めたブロリーは静かに頷いた。
比較的安らかな表情で食べ進めていくのをにこにこしながら見守る。
・・・そんなこんなでしっかり栄養とりつつ丸一日ほど臥せったあと、俺に再度うつし返されることもなく無事にブロリーも復調。
二人ともバッチリ元気になりましたとさ。
めでたしめでたし。
謎風邪ぜんぜん治らなくてしんどいから二人にもひいてもらった。
え?サイヤ人は風邪なんてひかない??しーらね。